SANAA、ヘルツォーク&ド・ムーロン建築事務所を経て、2004年に菊地宏建築設計事務所を開設。様々なプロジェクトにて世界的な評価を得る。武蔵野美術大学准教授。
建築家として、さまざまな建物や空間に携わっています。
建築という行為は、自然を相手にすることでもあります。たとえば天候によってもその建物のあり方は相当に変わる。単純に、晴れの日と雨の日とでも、その建物や空間の印象はだいぶ違ってきますよね。建築家の仕事は、完成イメージのだいたい6割くらいを建築として作り、残りの4割は環境を考慮に入れるというものだと思っています。そしてその環境というものこそが、いつも難しくていつも面白い。
音楽は、環境に対してとても大きな役割を果たすものだと思っています。たとえば音楽の有無によっても、空間の感じ方や見え方はずいぶんと変わってくるのではないでしょうか。空間をコントロールする建築家の立場から言わせていただくと、その点、音楽は、とてもずるい(笑)。
そこから考えてみると、このノイズキャンセリングという機能にはとても興味深いものがあると思います。というのは、環境のノイズをなくすということは、その対象を純粋に自分の意識で見直すことでもある。たとえば電車に乗ったときのいつもの光景であっても、環境音のあるなしでは全くその見え方が変わってくると思う。ノイズから離れて、自分ひとりの視点や感覚で、その光景を見直すことができるようになるのではないでしょうか。
しかもこのXBA-NC85Dは、とても小さいですね。ここまで小さくて着け心地に違和感がないヘッドホンになると、それをつけていることを忘れ、自分の頭の中で音が鳴っているようにその音楽を聞くことができる。まるで「自分の音楽」のような感じと言えばいいでしょうか。自分の気持ちと音楽とリンクさせることができるんですね。これはヘッドホンとして、大きな飛躍の第一歩だと思う。単純に外から音楽を受け取っているというだけではなく、気分がいいときに口笛を吹いたり、思わず好きなメロディを口ずさんでしまうときと同じような感覚があります。
今までのように、周りがうるさいからノイズキャンセリングを使うというのは、このXBA-NC85Dには少しもったいないような気がしますね。これだけの音質があるわけだし、このヘッドホンは、周囲のノイズを遮断するためではなくて、自分の中から流れる音楽を聴くためにこそ使われるべきなんじゃないかとも思います。
だって、メロディを口ずさみたくなる時の自分の内面には、環境音は聞こえていませんよね(笑)。自分の気持ちの中で流れてほしい音楽を聴くことのできるヘッドホンだなと思いました。