湘南大磯は相模湾に面した海沿いの町なので、朝は山からオフショアが吹いて爽やかだが、午後はオンショアになり夏の海の濃密な空気が入り込んでくる。特に湿度の高い日はまるでバリ島にいるみたいだな、と思うこともあり、高気圧が来て湿度が低いとまるでハワイにいるような気分になり、いや、気分だけではなくそういう空気感はやっぱり写真に写るので、そう言ったことを逃さないで写真にしたい。
大磯に住んで七年。週に何度かは浜辺に出るが、ひとつとして同じ海に出会ったことはない。いつもその日の天候、湿度、風や波の様子で、違った表情の海に出会える。もちろん旅が好きで、旅先では一期一会の写真を大切にしているが、住んでいるところでは同じものをいろんな日に撮って、よく味わうように、よく確かめるように写真にしていく。朝も昼も、夕方も夜も海に出る。海だけではなく気に入った場所には何度も通って写真しているが、一方でいろんなものが毎日違う変化を見せるだけでなく、自分の見方が変わっていくのにも気づく。先月も書いたが、自分の変化を正直に写真にしていけるのが地元写真の良さだと思います。
大磯の海は漁港を境にして平塚寄りは海水浴場になるが、それより西は小田原に至るまで遊泳禁止のショアブレイク。しかし住民たちはよく波よせぎわに出かけて遊んでいます。よく晴れて爽やかな夏の日、若い夫婦が子供を連れて波寄せ側にやってきました。いいね、いいね。こういう写真は後ろ姿で撮ると、その人たちの個性は薄まり、普遍化されて、写真を見る人に自分のことを思い出させたり、世界のどこにでも通用する海辺での楽しみや家族のことなどを思わせたりすることができる。これもワイドのローアングル。空を大きくして、思わず笑顔になる、明るい気持ちを表したかったわけです。
台風のうねりが入っているが、磯っこたちは平気で波寄際で遊ぶ。お父さんと一緒で笑顔が絶えない子供たちがいた。「あーっ、ちっちゃい虫がー。(大笑)」こっちに見せてー。と言うと、真顔になって見せてくれた。ジャーンプ!というと一生懸命飛び上がった。ここには今年の夏がある。こんな写真を撮るときはやっぱりワイドのローアングル。せっかくの大ジャンプをできるだけ広い空に飛び出させてあげたいからね。元気だね。海とたくさん遊びなさい。それはかけがえのない思い出になる。
夕方になって、五時半のチャイムが鳴り、三人は帰っていった。家がすぐそばだそうなので、このままお風呂だろう。さよなら、面白かったね。おじさんは日暮れまでいて、もうちょっと写真を撮ります。
上の写真の二時間後、もう箱根の山に沈んだ夕陽の残光が雲の下側を照らし出し、美しい夕焼けになった。小澤は撮影時に夕焼けモードとか、彩度を上げるとかをしない。まずはレンズの持つ色合いのままを見たいと思うからだ。それから自分の記憶した色や、見たと思った色にレタッチで近づけていく。ということは、場合によってはレタッチで彩度を落とすこともあるということです。それが自分の色ならね。
「日が暮れて 丘の向こうの 遠花火」 できるだけ近づいての迫力もいいけれど、人混みを離れて遠くから見る花火もいいものです。気が焦らずのんびりと花火の宵がすぎていく。 今日は大磯漁港の花火大会。今から海に出てみるのもいいが、たぶんここからの眺めが一番気分にあっている。真っ暗で小澤の回りには誰もいません。立てばもう少しよく花火が見えるが、長時間露光のためしゃがんで石の上において撮った。真ん中に柱を置いて、左右のドラマを対比するという作戦の構図ですね。
兜岩は大磯北浜の沖に浮かぶ岩。土地の人は「兜岩は昔はもっと沖にあって、もっと大きかった。あそこまで泳げたら一人前だったわねー。」などと話してくれます。そんなに位置が動くわけもないと思うが、子供の頃は泳いでいくのにも随分遠く感じたのだろう。この写真は夜十時ごろ、月の明かりに雲がレリーフされ、岩のあたりの水面は青く輝いている。緩やかな波が静かに打ち寄せ、海面は穏やかにうねっていた。雲が風で動いていくので、遠くの海面のハイライトも移動する。波の形と合わせて、光がいい感じになるタイミングを計って写真にしました。誰もいない海辺でのんびり写真を撮っているように見えるかもしれないけれど、これでも決定的瞬間を狙って撮っているのです。
今月はこれで終わり。また来月お会いしましょう。それまでお互い楽しく写真しましょう。
αUniverseの公式Facebookページに「いいね!」をすると
最新記事の情報を随時お知らせします。