αアンバサダープログラム Inside of α Vol.1 技術担当者が語るαのテクノロジー|センサー、レンズ、プロセッサー αを創造するソニーの総合力

誰もが成し得なかった圧倒的な性能を、これまでにないコンパクトなサイズで実現――それは、イメージセンサー、レンズ、プロセッサーという基幹デバイスをすべて自社で開発するソニーだからこそできることです。αアンバサダー向けにご用意したこのページでは、αに結実したさまざまな技術について担当エンジニアがご紹介します。(5月30日、東京・港区のソニー本社で行われた「αアンバサダーキックオフミーティング」の内容を採録したものです)

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イメージセンサー【Image Sensor】商品設計部門 システム設計部 冨田 芳紀

イメージセンサー開発担当 冨田 芳紀
イメージセンサー開発担当
冨田 芳紀

自社製センサーだからできる傑出したカメラ自社製センサーだからできる傑出したカメラ

 αというカメラの大きなアドバンテージは、イメージセンサーを自社で内製していることにあります。ソニーは大規模な投資により国内の3箇所の生産拠点に最先端の技術を結集させ、イメージセンサーを自社のみならず他社に対しても供給しています。自社で開発・生産するイメージセンサーを使うメリットは、カメラ事業部と、イメージセンサーを作っている半導体事業部が、一体となってカメラを開発できるという点です。たとえば「3年後にこういう商品を作りたい」という目標をカメラ事業部が示し、これに対応するためにイメージセンサーの技術は今どういった段階にあるのか、どうすれば目標が達成できるのか、包み隠さず話し合うことができます。そのメリットを最大限に生かして非常に特長のあるイメージセンサーを開発し、それを導入することで独創的な商品が開発できるのです。

ギャップレスオンチップレンズの模型(左)
ギャップレスオンチップレンズの模型(左)

 イメージセンサーは、光を集めて電気信号に変換することが主な機能です。高画質化・高感度化のためには効率良く光を集める必要がありますが、このために我々がやっているのはまず画素の大きさを確保すること。画素の周辺の回路や配線をコンパクトに設計して、光をイメージに変える画素の面積をいかに広くするかということがポイントです。
 二つ目は、低背化です。センサーを正面から見ると井戸の底に画素があるような作りになっていますが、その井戸をなるべく浅くすることによって、広範囲の光を集めることができます。これは配線の効率化などで実現できます。
 三つ目はオンチップレンズのギャップレス化です。センサーの表面に光を集めるための非常に小さなレンズが多数ありますが、普通のイメージセンサーではこのレンズとレンズの間にギャップがあります。弊社では、そのギャップをなくした構造を採用し、そのため光を効率良く集めて画素に届けることができます。

 この技術の集大成のひとつといえるのが、昨年発売したα7Sに搭載したイメージセンサーです。最高感度ISO409600、常用最大ISO102400という、際立った性能を持っています。たとえば夜のサファリの暗闇でも動物の撮影が可能。屋内でのスポーツシーンなど、暗い場所でも動きの速い被写体を撮影できます。α7Sは、半導体部門との徹底した連携があってこそ生まれたカメラなのです。

 

レンズ部門と連携しAFを最適化レンズ部門と連携しAFを最適化

 オートフォーカス(AF)も、イメージセンサーが関わる領域です。NEX-6以降、追随性と高速性に優れた位相差AFと高精度なコントラストAFを併用する「ファストハイブリッドAF」を導入しています。特にα6000では画面のほぼ全域で位相差AFが可能なのですが、実はこれは、非常に難しい技術の上に成り立っています。

 光は、イメージセンサーの中心部へは真っすぐ入りますが、端には角度を持って入ってきます。これをコントロールするために、画素ごとにあるオンチップレンズの配置を、効率良く光が集められるように調整します。ところが、レンズは焦点距離が長かったり短かったりで、それにより入射角が変わってきます。そのため、レンズと本体で通信をして入射角に合わせた信号処理を最適に行うという処理をやっていて、それによって、全面の位相差AFを実現しているのです。これにはセンサー部門とレンズ部門との緻密な連携が必要で、これができるのもイメージセンサーを内製しているからこそです。

 最後にひとつ、手ブレ補正ユニットの消費電力のお話をご紹介します。α7Ⅱでボディ内の5軸手ブレ補正を導入しました。普通は軸が増えることでユニットは重くなって消費電力は多くなり、最大撮影枚数は少なくなってしまいますが、α7Ⅱは最大撮影枚数が逆に増えています。駆動エンジンの小型化とトルクの増大によりエンジンの数を減らしたこと、ユニットの真ん中にイメージセンサーを固定するためにバネではなく磁石を使うこと、これらによって低消費電力を実現し、撮影枚数を減らすことなく進化した手ブレ補正を実現しています。この方式もソニー独自のものです。

レンズ【Lens】コア技術部門 光学設計部 大竹 基之

レンズ開発担当 大竹 基之
レンズ開発担当
大竹 基之

広角レンズの性能アップを可能にしたEマウント広角レンズの性能アップを可能にしたEマウント

 ソニーのマウントにはAマウントとEマウントがありますが、この二つの大きな違いはマウント面からイメージセンサーまでの長さ、つまりフランジバックです。フランジバックの長さが、Aマウントの44.5mmに対してEマウントは18mmととても短くなっています。Aマウントはミラーボックスを配置するためフランジバックが長くなっています。
 フランジバックが違うとレンズにどういう影響があるかということは、いままであまりお客さまに対してご案内してきませんでしたが、実は、フランジバックが短いと広角レンズが性能アップできる特徴があります。昨年発売した16-35mm F4のレンズの広角側16mmのときのMTFカーブを見ると、中心から周辺まで高いMTFが実現できていることがわかります。これに対して、Aマウントの広角レンズは焦点距離よりもフランジバックが長くなるために採用するレンズの形式が限られ、そのため収差が残りやすく、周辺部でMTFが下がるというケースが多かったのですが、Eマウントではそうした部分がありません。

SEL1635Z MTF曲線

35mmフルサイズセンサーの性能を最大限に引き出す「FEレンズ」
35mmフルサイズセンサーの性能を最大限に引き出す「FEレンズ」

 それからもう一つ、フランジバックが短いことで射出瞳が短いという特徴があります。イメージセンサーの前についているオンチップレンズは光を効率良く集めますが、射出瞳距離が短いためにレンズから出る光の角度に制約を持っています。それを合わせないと、光が蹴られてしまいます。最初のEマウント機であったNEXを始めるとき、イメージセンサー部門とレンズ部門とで、どういったバランスにすれば一番性能が良くなって、かつAマウントとの兼用化ができるかを徹底的に議論しました。これも、イメージセンサーとレンズを同じ社内で開発しているからこそできる技だといえます。

 オートフォーカスも違います。AマウントのAFは位相差式AF。これは一眼レフカメラ一般に多く使われています。もう一つがコントラストAFです。こちちらはミラーレスカメラやコンパクトデジタルカメラ、動画用のカムコーダーなどで使われています。
 位相差式AFは、レンズを通る光の一部を瞳分割レンズと呼ばれる場所に引っぱり、これをラインセンサー上に持っていきます。このときピントの位置が前後に動くと、像のできる位置がずれます。これを検出することによりピントが合っているかどうかを検出する形式です。瞬時に被写体位置が検出できますが、レンズの種類やF値によってやや精度が低くなるという特徴があります。
 コントラストAFは、ピントを動かしながら、明暗差が大きく(被写体の輪郭がクリアーに)なるようにフォーカス位置を探す方式です。レンズを徐々に動かしていくとピントが合う方向で評価値が上がっていきます。一番高くなってからちょっと下がると、また戻るという仕組みになっています。ですから、一番高くなったところを見つけるために、いったん戻るというステップがあるので、やや検出が遅いということになりますが、精度は高いのが特徴です。α7やα6000では位相差式AFとコントラストAFを両方搭載し、速さと精度の両方を徹底的に追求しています。

 

生かされるハンディカムやブルーレイの技術生かされるハンディカムやブルーレイの技術

 レンズにはAF用のモーターが搭載されますが、位相差AFのモーターとコントラストAFのモーターは、少し違います。位相差AFは速く移動させることを目的にするので、一気に動かす必要があります。現時点では、リングSSMや、弊社ではSAMと呼ぶDCモーター、ステッピングモーターなどを使っています。これに対してコントラストAFのモーターは往復移動をしますので、ステッピングモーターやリニアモーター、ダイレクトドライブSSMといったものを多く使っています。
 SEL35F14Zに搭載しているDDSSM(Direct Drive SSM)は、静かに速く、重い球を動かせるという特長があります。この技術自体はDSC-RX10で初めて導入しました。そのときはコンパクトなデジタルスチルカメラ用だったので軽いレンズを動かすことがメインでしたが、SEL35F14Zに合わせて、技術にさらに磨きをかけるために新しい駆動装置を開発しました。これは電圧によって伸び縮みする圧電素子を使ってレンズを駆動する仕組みなのですが、お客さまが求める絵づくりはこのモーターがないとできない、ということを基に、一から社内で技術開発を行ったものです。
 リニアモーターも、ソニーが非常に得意としている駆動モーターです。コイルとマグネットの電磁誘導を使ってレンズを動かすもので、接触が少なく、非常に静かに動かせることが特長です。これには、ソニーがハンディカムで長年培った蓄積が活かされています。
 こういったいろいろなレンズの駆動モーターを、そのとき求められる仕様によって最適なものをチョイスし、あるいは一から自社で開発を行い、組み込んでいます。

 現在、ソニーのレンズには多数の非球面レンズが使われています。普通の球面レンズはガラスを磨いて作りますが、非球面レンズはガラスを金型で成形することが多く、だいたい400度から600度くらいに熱した状態で成形します。ガラスは急激に温度が変われば割れてしまい、成形時と仕上がりでは形状に微小な変化が生じます。どこまで狙い通りに作ることができるかが課題で、高度な生産技術が要求されます。
 いま、そのなかでも特に高いレベルを要求されるものをAAレンズと呼び、AAレンズの多くは社内で製造しています。AAレンズは0.1ミクロンに近い極めて高い面精度が要求されます。しかもこれはガラスを600度まで熱したところから通常の温度まで下げたあとで求められる精度であり、特にサイズが50mmという大きなレンズではこの精度の維持が難しくなります。これを実現する技術があるからこそ、高画質化や小型化が可能になっているのです。

 もうひとつ、レンズに関係するソニー独自の技術にナノARコーティングがあります。これは2012年のSAL500F40G以来、望遠系のレンズを中心に導入しています。ガラスは通常、必ず表面で光が反射してしまいます。これを取り除くためにマルチコーティグという処理が行われています。マルチコーティングはガラスと空気の間にクッションようなの役割をさせるコーティングを何層にも施すことで、反射率を抑えるものです。ナノARコーティングはそれとは全く違うやり方で、ガラスと空気の間に非常に小さい突起があるコーティングを施します。この突起は、光の波長と同じくらいの1ミクロン以下の高さです。突起に光が入ると、突起の外側は屈折率が高く内側は屈折率1。光はその平均値という形になり、内側から外側に徐々に屈折率が変化するため、屈折率の段差がなくなり、反射率が極めて低くなります。この技術は完全にソニー独自のもので、実は、ソニーのブルーレイの技術を応用したもの。ブルーレイの技術を基に、それをレンズという曲面に施すために様々な技術開発を行ったものなのです。特性を非常に安定して出すことができるのが特長で、また反射率も他社のものよりも確実に抑えることができています。

プロセッサー【Processor】商品設計部門 システム設計部 小坂井 良太

プロセッサー開発担当 小坂井 良太
プロセッサー開発担当
小坂井 良太

センサーからの膨大なデータを高精度処理センサーからの膨大なデータを高精度処理

 プロセッサーは、レンズを通りイメージセンサーで露光された信号を処理する部分です。カメラユーザーの皆さまは、普段、あまりプロセッサーのことは意識しないと思いますが、われわれは非常に重要な基幹デバイスだと考えています。いま、イメージセンサーが非常に膨大なデータを吐き出す時代になり、そのデータを高速かつ高精度に処理することが、画像処理エンジンに求められる役割です。

 十数年前までは画像処理エンジンという言葉すらありませんでしたが、昨今、処理量が増え、とても高度な処理を入れられるようになったことで画像処理エンジンという名前が使われるようになりました。弊社の画像処理エンジンは名前は変わらずともその中身は大きな進化を続けています。世代ごとに塗り替えられる最新の技術がここに凝縮し、現在のα7や6000に搭載されているのです。
 画像処理エンジンは,一般的にはLSI(大規模集積回路)と呼ばれるデバイスです。7〜8年前と比較すると、大きさがほぼ同じLSIに、20倍から30倍の素子が集積されるようになりました。つまり20倍から30倍の処理がこの中でできるようになったわけです。我々は、そうした能力を得た画像処理エンジンで何ができるのかを常に考えています。
 α7に搭載したBIONZ Xを分解モックで見るととても小さいものですが、そこに多くのエンジニアが関わってこのチップを作り上げています。BIONZ Xは、高度な画像処理や、カメラのコントロール系の機能であるAFなどさまざまな機能の一旦を担っています。

画像処理の心臓部BIONZX
画像処理の心臓部BIONZX

 BIONZ Xにおいて、画像処理という点で主に注力した点は3点。「ディテールリプロダクション」と「回折低減処理」、そして「エリア分割ノイズリダクション」です。  デジタル信号で輪郭強調処理をすると、ときに輪郭がジャリジャリの汚い絵になってしまいます。これに対し我々は数年来開発研究を重ね、自然なディテール感を再構成することができました。これがディテールリプロダクションです。再構成というのは、もともと画像内にある信号をきちんと持ち上げてあげるということです。α7以降にはこのディテールリプロダクション技術を導入しています。

 二つ目は、小絞りボケの解消です。LSIで20〜30倍の処理が可能になったために、物理現象にまで踏み込んだ処理をかけることができるようになってきました。小絞りボケは光の回折現象で、絞り込むとどうしても映像がボケてしまいます。その現象を、レンズの特性を鑑みながらBIONZ Xで瞬時に計算し、映像の復元能力を上げる処理をしています。パソコンを使ったRAW現像ではこういったことを再現するソフトがあるのですが、これはBIONZ X内部で処理を実現してしまうというものです。

 高度な画像処理の三つ目はエリア分割ノイズリダイレクションという技術です。イメージセンサーに光が入り,光電変換されて,最終的にはデジタル信号として入ってくるという流れのなかで、どうしてもノイズと呼ばれる信号が発生してしまいます。われわれはずっとノイズの解析を重ね、この現象と闘ってきました。  たとえば被写体の全体にノイズリダイレクションをかけると、どうしても解像感がなくぬるい絵になります。反対に解像感が残ったとしてもノイズのザラザラが残ってしまいます。そこのバランスをどうやって取っていくかが課題なのですが、被写体のテクスチャ、ザラザラ感などを見ながら局所的にノイズリダクションの効果を変える技術が、エリア分割ノイズリダイレクションです。

 

時間軸を加えて演算、被写体を追従するAF時間軸を加えて演算、被写体を追従するAF

 AFは、レンズを駆動してイメージセンサーにピントが合った画像信号を送る機能ですが、どういう距離でどのようにフォーカスを合わせるかという処理をやっているのは、BIONZ Xです。α7やα6000には、像面位相差センサーという測距センサーがイメージセンサーの中に埋め込まれていて、画像信号と測距データが同時に入ってきます。たとえば、いま画面のx軸y軸のどこに被写体がいるのか、z軸上のどれだけ離れたところにいるのか、さら高速にフォーカスを追従させるために時間軸まで加えて処理を行います。一瞬前にいた場所から、次の瞬間にはこのあたりまで来ているだろうという動体予測演算を入れることによって、移動する被写体を瞬時に追従するのです。  被写体があって、計算が完了、それからレンズに信号を送ってレンズを動かす、という一連の処理が遅いと、フォーカスが合う前に被写体が動いてしまいます。プロセッサーは、情報が入った瞬間から被写体が動いていることを前提に、なるべく早く計算を終え、レンズ側に駆動信号を送らなければなりません。高速AFには、信号処理の高速化が不可欠なのです。

 プロセッサーの開発は、信号を取り込むイメージセンサー、そして光を取り込んでAFを駆動させるレンズの開発との徹底した連携のうえで行なわれます。我々プロセッサー開発部門は、イメージセンサー開発部門、そしてレンズ開発部門と、階段を上り下りすればいつでも担当者同士が会話できるという互いに非常に近い環境で開発しています。次にこういうセンサーができる、こういうレンズが動かせるという情報を常に話し合ったうえで、プロセッサーではこういう処理をするというように開発段階から綿密に連携しているのです。その連携をより強化して、これからも卓越した解像感やAFのさらなる進歩に向け努力していきたいと考えています。