ハイレゾ・オーディオとは、 CD(44.1kHz/16bit)を超える高音質オーディオのこと。その格段にきめ細かなサウンドにより、今まで聴こえなかった曲のディテールやニュアンスまでを肌で感じることができます。まるでレコーディングスタジオやコンサートホールで聴いているかのような、よりオリジナル(原音)に近い音をお届けします。
ソニーが培ってきた高音質デジタルアンプ技術「S-Master」が、ハイレゾ・オーディオフォーマットに対応。ハイレゾ音源の再生帯域におけるノイズ除去性能の改善により音質の向上をおこないます。
CD音源(44.1kHz/16bit)や圧縮音源のサンプリング周波数とビットレートを本来の数値より高めることで、ハイレゾ相当の高解像度音源(最大192kHz/24bit相当)に変換します。
ハイレゾ音源の再生に対応したウォークマン®「NW-ZX1」と「NW-F880」シリーズは、音の中核であるアンプに新開発の「S-Master HX」を搭載しています。開発に携わった入江に「S-Master HX」による音の進化点を聞きました。
──「S-Master」はさまざまなタイプのウォークマンに搭載されて、高音質なウォークマンを象徴する機能のひとつとなっています。ウォークマンのファンにとっては耳にする機会の多い「S-Master」の音ですが、そもそも「S-Master」とはどんなアンプなのでしょうか。
入江:「S-Master」はすべての信号処理をデジタルでおこなうフルデジタルアンプです。「S-Master」はデジタル-アナログ変換が必要なフィードバック(帰還)回路をなくすことで、アナログ→デジタル/デジタル→アナログ変換にともなう音質劣化を最小限にしました。デジタル信号からアナログ信号へ変換する回路は驚くほどシンプルで、基本的にはコイルとコンデンサーがあるだけなんです。
私が初めて「S-Master」に触れたとき、あまりにもシンプルな構造なため、音が出る理屈が一瞬理解できなかったくらいです(笑)。シンプルだからこそ原音に含まれるかすかな音も、ほかの音に埋もれることなく正確に増幅することができ、原音に忠実な再生ができるのです。
──かすかな音も増幅できるということは、ノイズを増幅してしまう場合もあるのですか?
入江:そうですね。「S-Master」はとても素直に信号に反応するため、音声信号だけでなく、信号や増幅のパワーの源となる電力に含まれるノイズもそのまま再現、増幅してしまいます。
解決策はノイズそのものを徹底的に取り除くことです。ノイズの少ないクリーンな電源とそれを生み出す回路を作ることは、ウォークマンに搭載している「S-Master」アンプの設計の要(かなめ)であると同時に音質向上に直結します。「S-Master」が作り出す音を料理にたとえるなら、“いい水(クリーンな電源)”と“シンプルな調理(「S-Master」)”で素材(楽曲)の魅力を引き出した料理、というところでしょうか。
──「S-Master」はウォークマンの小型化・軽量化にもひと役買っていると聞きました。
入江:音質を追求するうえでは、無駄が出ることを承知で電力をどんどん使うほうが近道で設計も容易です。しかし、本体サイズやバッテリー駆動時間はウォークマンにとって非常に重要な要素です。技術の力でアンプの電力効率を高めて電力の無駄を減らすことができれば、そのぶんバッテリーを小さくすることができ、ウォークマン全体の小型化・軽量化にも役立ちます。技術とアイデアで乗り越えられる壁なら、苦労があっても積極的に挑戦するのが技術者の心意気だと思いますね。
──ハイレゾ時代のウォークマンのデジタルアンプ、「S-Master HX」が誕生したきっかけとは?
入江:ウォークマンの歴史のなかで、デジタルアンプはMD(ミニディスク)の時代から使われてきました。当時は“HDデジタルアンプ”という名称でした。「MZ-RH1」に搭載されたHDデジタルアンプはとても完成度が高く、原音に忠実で繊細な表現は、その後に続くウォークマンの音質の基礎となりました。ただ、多くの改良を経てさらなる音質追求の可能性が少なくなり始めていること、電源制御をはじめとする技術が飛躍的に進歩したこと、そしてハイレゾ音源が登場したことが重なり、ウォークマン向けの新しい「S-Master」、「S-Master HX」の開発がスタートしました。
──さまざまな要因が重なって、新時代の「S-Master」の開発がスタートしたんですね。
入江:以前の開発者の方にも助言をいただき、過去のレポートを参考にしながら、「S-Master」が目指した“原音の忠実な再現”に磨きをかけました。もともと「S-Master」のアンプ回路はシンプルで美しく、アンプの理想型のひとつとも言えるものです。「「S-Master」の音が好きだからウォークマンが好き」という人も多くいらっしゃいます。ですから音の中核となるアンプ回路はほぼそのままに、電源回路を改良することで「S-Master」が持つ音の表現力をさらに向上させました。今回の「S-Master HX」の開発ではアンプ部分よりも、電源回路の開発のほうが印象に残っていますね(笑)。
──「S-Master HX」に追加されたマイナス電源回路とはどのようなものですか?
入江:据え置き型のオーディオは、ステレオアンプと左右のスピーカーがそれぞれプラスとマイナスのケーブルで接続されています。つまりスピーカーとアンプは合計4本のケーブルで回路を構成しているんです。かたやヘッドホンケーブルは、見た目こそ1本のケーブルですが、内部は複数のラインが収められています。ウォークマン(アンプ)と接続する金属のヘッドホンプラグを見ると、黒い線で3つに分割されています(*)。
* 一部のヘッドホンをのぞく
──3本の線で構成されているんですね。
入江:そう、4本あるはずが1本足りませんよね。これは左右のマイナスを1本のグランドに合成してアンプと接続しているからなんです。ウォークマンが搭載する「S-Master HX」は新たにマイナスの電源回路を作ることで3本線のヘッドホンでプラスとマイナスが存在するバランスのいい駆動を再現し、クリアーで力強い音を追求しました。プラスの電源と同じクオリティーが求められるマイナス電源の制作はとても困難で、最新の電源技術があったからこそ完成した回路です。この技術はスマートフォンの駆動時間を伸ばす電源制御技術がベースになっており、まさに今のタイミングだからこそ実現できた回路だと言えますね。
──「S-Master HX」を搭載したウォークマン「NW-ZX1」は、高性能コンデンサー「OS-CON」やチャージポンプ電源「POSCAP」、直径3.5mmの大型ヘッドホンジャックを採用するなど、音にこだわったパーツ構成に驚かされます。
入江:そうですね、「NW-ZX1」の突き抜けた音へのこだわりは「S-Master HX」の実力を最大限に引き出していると感じます。1979年から始まったウォークマンの歴史の中には多くの技術革新があり、ウォークマンはその時代ごとにふさわしい音を生み出してきました。
「S-Master HX」は今までのウォークマンの音を継承しつつ、ハイレゾ時代にふさわしい繊細でキレのある音を追求しています。「S-Master HX」の開発にあたっては、過去のウォークマン向け「S-Master」の回路図や設計資料はもちろん、開発に携わった技術者の方々へのインタビューまでおこない、「S-Master」に関する事柄を隅から隅まで確認しました。その中で感じたことは、やはりウォークマンでしか出せない音を出したい、ウォークマンで在り続けたい、ということです。「S-Master HX」は、ハイレゾ時代を迎えたウォークマンが踏み出した次へと続く一歩をしるせたと思います。店頭で「S-Master HX」を搭載したウォークマンを見かけたら、ぜひその音を聞いていただけるとうれしいです。もし「何か変わったな」と思っていただけたら最高ですね。
「DSEE HX」は楽曲が本来もっている情報を予測・復元することで、CDや圧縮音源にハイレゾ音源に迫る臨場感をもたらします。手持ちのコンテンツをより深く楽しめる「DSEE HX」とはどんな技術なのでしょう。開発に携わった知念に「DSEE」からの進化や開発のポイントについて聞きました。
──CDや圧縮音源をハイレゾに迫るクオリティーに変える「DSEE HX」が誕生したきっかけについて教えてください。
知念:ハイレゾは本格的に立ち上がったばかりで、残念ながら音源はまだそれほど多くありません。せっかくハイレゾ対応機器を買ったのにその実力をフルに発揮できないのはもったいないですよね。それにお気に入りのアーティストの曲を少しでも早く、さらになつかしの曲もハイレゾ相当の品質で聞ければ、といった経緯から、CD音源や圧縮音源をハイレゾ相当の高解像度音源にアップスケーリングする「DSEE HX」の開発がスタートしました。
──圧縮音源を対象とした技術として「DSEE」がありますが、「DSEE」と「DSEE HX」のちがいとは?
知念:「DSEE」は、MP3のような圧縮音源を対象とした再生帯域の拡張技術です。楽曲を波形データとして見ると、低い周波数から高い周波数へと信号が連続してつながっています。たとえばバイオリンやギターの心地よい倍音の響きは、波形が大小の山と谷になって連続してあらわれますし、ヴォーカルの場合は大きな山と谷があらわれます。圧縮音源では、このスペクトル波形が高音域までつながっているはずのところが、途中から不自然なかたちでなくなってしまっているんですね。この高音域で失われているスペクトル波形を低音域のスペクトル波形から予測して復元するのが「DSEE」です。
「DSEE HX」は、「DSEE」の再生帯域の拡張技術をベースに帯域を従来の4倍となる96kHz(サンプリング周波数192kHz)に拡張し、高音域の表現力がさらに向上しました。そして音源のビット深度を24bitに拡張する処理も同時に組み合わせています。また、「DSEE HX」では、圧縮音源のほかにCDの音源についてもアップスケーリングします。
──「DSEE HX」で新たに加わったビット深度の拡張にはどのような効果があるのでしょうか?
知念:ビット深度は音の大小の表現、ダイナミックレンジの広さに関わっています。ライブやコンサート会場では、曲の出だしなどは衣擦れの音が聞こえるほど静かだと思えば、次の瞬間には割れんばかりの歓声が起こることがありますよね。これをCDや圧縮音源のビット深度、16bitですべて表現しようとすると、音の大小のどちらか一方を優先することになり、音の消え際などかすかな信号が正確に記録されずに縮こまったような音になってしまいます。これが24bitになると大小どちらの帯域にも余裕ができ、伸び伸びと自然に響く音になります。音の消え際の余韻も自然に消えるようになるんです。
──「DSEE」をベースとした高音域の再現と、新たに加わったビット深度の拡張が合わさることで、CDや圧縮音源がハイレゾ音源に迫るクオリティーへと変わるんですね。
知念:ダイナミックレンジが広がることで、歌手の存在感(音像)は中央にありながら、ステージ(音場)は左右のスピーカ一いっぱいに広がっていきます。さらに奥行き方向に空間が広がっていく感覚は一度お試しいただきたいですね。
ホールで演奏されるクラシックや、ポップスなどのライブ盤の音源は、「DSEE HX」の効果をはっきりと感じやすい音源です。これらの音源は時間波形を確認すると、不規則な波の揺らぎが多めに含まれています。これは会場の残響やかすかな風の音があらわれたもので、揺らぎがあることで音の立体感や演奏の空気感が生まれるんです。「DSEE HX」はライブ盤に含まれているこの揺らぎもとらえて予測・復元するので、ハイレゾ音源に迫る感覚でライブの臨場感を味わえます。
──「DSEE HX」で自然な音の響きを実現するために心がけていることとは?
知念:「DSEE HX」を開発するにあたり、さまざまなジャンルの楽曲でハイレゾ音源とCD、圧縮音源を分析し、それぞれの音源のスペクトル波形の低音域から高音域へとつながるパターンを解析しました。そして解析で得られた結果をもとにして、楽曲が本来もっている高音域のスペクトル波形を予測するアルゴリズムを開発しました。この「予測」がポイントです。
「DSEE HX」のアルゴリズムは、イチかバチか、という予測ではなく、常に正しい音を出していくことを心がけています。というのも、予測をピンポイントで決めうってしまうと外れたときの反動が大きくなるんですね。
──本来の音からかけ離れた響きになってしまう?
知念:そうです。私自身の体験からきている部分もあるのですが、自宅でゆったりとクラシックを聴いているときに、一ヵ所でも不自然なところがあると、とたんに音楽で自分の世界に浸っている状態から現実に引き戻されてしまう(笑)。一度でもおかしな音になってしまうと、もうリラックスして音楽を楽しむことはできませんよね。
オーディオは連続性のあるもので、「DSEE HX」もリアルタイムで処理をおこなっていますから、やり直しはききませんし、一瞬たりともおかしな音になってはいけないのです。
──「DSEE HX」はソニーのさまざまなジャンルの製品に搭載されていますが、どれも同じ技術が使われているのでしょうか?
知念:ベースとなる技術は同じです。ただ、製品の性格によって細かなチューニングはおこなっています。また、「DSEE HX」を搭載する製品は日本だけでなく海外でも多くの国と地域でお使いいただいています。生活している場所が異なれば、よく聞かれる音楽のジャンルやそこに住む人々の嗜好も変わりますよね。そのため、国や地域によっても「DSEE HX」のアルゴリズムを細かくチューニングしています。
ハイレゾ音源はどんどん増えつつあり、ジャズ、クラシック、ポップスとたくさんのジャンルの中からお気に入りの楽曲も見つかることと思います。ただ、かつて聞いた思い出の曲はハイレゾ化できないこともあります。これは当時のレコーディング機材の限界が原因となっていることが多く、残念ながらどうすることもできません。そんなときは「DSEE HX」を使って好きな曲をCD以上に深く楽しんでいただきたいですね。また、「DSEE HX」はハイレゾを体験する入り口としてもおすすめです。お手持ちのCDや圧縮音源に「DSEE HX」を適用して聞きくらべてみてください。きっとハイレゾの魅力の一端を知ることができるはずです。
moraは2013年10月よりハイレゾ音源の配信をスタートし、現在は約1,800タイトルをラインアップしています。ハイレゾ音源はリスナー、そしてアーティストにどのように受けとめられているのでしょう。ハイレゾ音源を配信するmoraを担当する中川、寺江に話を聞きました。
──moraがハイレゾ音源を配信することになったきっかけを教えてください。
中川:moraのハイレゾ配信は、ハイレゾ対応機器とコンテンツを同時に立ち上げるソニーグループが一丸となった取り組みのひとつとして、2013年10月に、ハイレゾ対応ウォークマンの発売に合わせてスタートしました。ハイレゾ音源の配信は、アルバム約600タイトルから始まりましたが、2014年4月の時点でアルバム約1,800タイトルを配信するなど、ラインアップは半年で2倍以上に拡大しました。
──ハイレゾの配信開始によってどのような変化がありましたか?
中川:配信を開始する前は、ハイレゾはコアなオーディオファンを皮切りに時間をかけて広まっていくと予想していました。ですからオーディオファンに人気の高いジャズやクラシックが配信の中心になると思っていたんですが、いざふたを開けてみると、アニメやJ-POPにも人気が集まり、よい意味で予想が裏切られました。それにより、これまでハイレゾに慎重だった音楽レーベルでも積極的に音源作りがはじまるなど、音楽業界全体でハイレゾを盛り上げる機運が高まっていると感じています。
寺江:最近の傾向としては、J-POPでは宇多田ヒカルさんやJUJUさん、アニメ系では花澤香菜さんに人気がありますね。もともとmoraはJ-POPやアニメ系の楽曲が人気で、普及が進みつつあるハイレゾもその傾向に近づいてきています。さらにアーティストのファンも「ハイレゾ音源があるならそちらを」と、購入されているのではないかと思います。
中川:新たなハイレゾ対応製品が登場するごとに配信数が伸びていく、というのも特長です。とくにウォークマン「NW-ZX1」の登場には大きなインパクトがありました。また、ハイレゾ楽曲を購入される方は、より高音質な音源を求められることが多く、たとえばマイルス・デイビスのアルバム「Tutu」や「Kind of Blue」は96kHz/24bitと192kHz/24bitの2種類のハイレゾ音源がありますが、どちらのアルバムもスペックの高い192kHz/24bitのものが圧倒的に人気です。
──楽曲を制作するアーティスト(制作者)側にもハイレゾ音源への関心は高まってきつつあるのでしょうか。
寺江:ハイレゾへの対応はアーティストごとに異なりますね。CDの音質に限界を感じて以前からハイレゾを意識したレコーディングをおこなっていたアーティストさんもいますし、表現に集中するため録音に関してはスタジオやレコーディングエンジニアにまかせているアーティストさんもいます。ただ、最近のハイレゾ対応機器、ハイレゾ音源の広まりとともに制作側の意識は少しずつ変わってきているようにも感じます。
中川:音の響きという点については、録音を担当するスタジオやレコーディングエンジニアにも注目が集まっていますね。CDやレコードの時代からスタジオやエンジニアによる音の響きや表情の違いが話題になっていましたが、ハイレゾではその違いがとくに際立つように感じます。楽曲紹介のコメントでもスタジオやレコーディングエンジニアに関する内容は反響が大きいですね。
中川:楽曲の魅力は作品ごとに異なりますが、音の響きから演奏している場の空気感まで感じ取れるのは、ハイレゾならではの魅力のひとつではないでしょうか。
寺江:ライブ音源であれば、その会場の空間の大きさが味わえるのもハイレゾの楽しさですね。目を閉じるとステージから音が広がっていくのがわかって、会場の広さを耳で実感できるんです。
中川:あと、ハイレゾと相性のいいクラシックやジャズも注目です。ハイレゾの広まりとともに人気が高まってきていて、新譜がどんどん増えています。さまざまな音楽ジャンルでハイレゾは普及に弾みがつき始めています。moraもさらに多くの音源を配信して、ハイレゾの楽しさを広げていけたらと考えています。
寺江:ハイレゾが生み出す臨場感や空気感には、曲を聴いていて思わず声が出てしまうほどの迫力があります。ハイレゾでもう一度お気に入りの曲に触れてみてもらえば、きっと音楽のパワーを体感できると思います。
※ WALKMAN®、ウォークマン®およびそのロゴは、ソニー株式会社の商標または登録商標です
※ 「OS-CON 」、「POSCAP」は、三洋電機の登録商標です
※ 本ページに掲載している情報は2014年5月1日現在の情報であり、予告なく変更される場合がございます