上写真(左)若木 信吾(中)大島 正昭/デジタルイメージング事業本部 商品設計部門 設計1部5課 統括課長(右)加藤 隆史/デジタルイメージング事業本部 コア技術部門 鏡筒設計部 1課 シニア・メカニカル・エンジニア
圧倒的な描写力や、意のままの再現性。
前回、浜松の旅で、RX1の新たな可能性を感じた若木信吾。
その描写力には、どのような意思が込められているのか。
その再現性は、どのような技術が支えているのか。
そして、RX1が今後のカメラに与えた影響は?
若木氏とRX1の開発者たちが語り合った。
モニターに次々と映し出されていく作品。高解像度、色の再現性、美しいボケ味。RX1の性能を最大限に引き出した若木氏の作品に、開発に携わった二人は食い入るように画面を見つめている。
RX1を手にしながら、若木氏が撮影の狙いを話す。
「この海の写真は、夕方の瀬戸内の海を撮影したものです。波の光の変化をきっちりと捉えながら、普通のデジタルスチルカメラでは溶け込んでしまいがちな、空と海の境界線や沖合に見える島影もしっかりと写っています」
木の実の写真は、マクロモードで撮影したものだ。
「この紫の3段階ぐらいの色がすごくきれいだったのでこれをうまく表現したかったのと、開放で撮るとどれくらいのぼけ味なのかを試しました」
ひと通り撮影の話を終えると、若木氏はRX1の感想について語り出した。「これだけの高級機ながらレンズ交換はできないし、ズームもない。しかもボディが小さいから、初めて手にしたときは本当に使えるカメラなのかと不安でした。でも、写りを見てそんな気持ちは吹き飛びました。イメージをはるかに超える写りでした」
この言葉を聞いたプロダクトマネージャーの大島氏が口を開く。
「RX1は『最高画質を、手のひらに』というテーマでスタートしたプロジェクトなんです」
高画質でコンパクト。相反するこの課題をいかに克服するかが一番の課題であったとのこと。実際の開発段階では、もっと大きなボディの案も出ていたという。
「迷ったときは『最高画質を、手のひらに』という原点に何度も立ち戻りました。この小さなボディで現在の最高画質を実現するためには、技術的なハードルはかなり高かったのですが、若木さんの作品の美しさを見て、やり遂げて良かったと実感しました」
RX1で撮影するとき、若木氏が感じていたのがレンズの描写性能の高さだ。
「きれいなボケ味と高い解像度を両方兼ね備えた、最高のレンズですね。このレンズだけでも発売してほしいぐらいです」プロカメラマンから最高の賞賛を受けたカールツァイス「ゾナーT*」レンズ。
レンズを設計した加藤氏は言う。
「このレンズはレンズ一体型のカメラとしてRX1のことだけを考えて設計したもので、7群8枚で構成されています。前のレンズは小さく見えますが、後ろに行くほどレンズは大きくなっています。そのため7枚目、8枚目のレンズはレンズ交換式カメラでいえばボディに相当する部分に隠されています」
レンズ交換式ではないところを生かして、レンズとイメージセンサーの位置の精度も極限まで追い込んでいる。RX1の場合、レンズとイメージセンサーを組み上げる工程で、一台一台ミクロン単位でイメージセンサーの角度を調整している。
「だから、4×5のような画面の隅々までビシッとした描写力の高い画が撮れるんですね」
加藤氏のこだわりを聞いた若木氏が思わずつぶやいた。
「おっしゃるとおりです」と加藤氏は続ける。
「写真の表現として見せたいものを写すというのは当然ですが、見る側としては写真の隅に写っているのが何なのかも気になると思うんです。この浜辺の写真のように手前の砂のディテールはもちろん、奥にいる人物までもが一枚の画でしっかりと写っている。今までは4×5などの大判カメラで撮っていた写真と同じ画がこの小さなカメラで体験できるというのは、本当に画期的だと思います」
写真がフィルムからデジタルへと変わり、いまではデジタルが標準となりつつあるようだ。この間の変化をプロカメラマンとして、若木氏はどのように捉えているのだろうか。
だからRX1を手にしたとき、あえてカラフルなものにフォーカスを合わせてみたんです。結果は、「さすが」のひと言ですね。花の色、緑の質感、光と影の陰影、すべて自分が思っている色がはっきり出ていました。以前はフィルムの違いによって色の出方が違ったのですが、これからはイメージセンサーの差が違いになってくるんでしょうね。それにしてもRX1は、このボディでフィルムの色分解を超えてきているから驚きです。
「先日、雑誌のポートレート撮影で中判カメラをメインにRX1をサブカメラとして持って行ったんです。室内撮影だったのですが、写真のクオリティは中判と比べてもまったく遜色がない。それどころかRX1は一眼レフのようなミラーがなくシャッター音が小さいから、モデルさんが構えてない自然な表情が撮れるんです。いつの間にかRX1がメインになっていました。結局、誌面にはRX1で撮影した写真が載っています。コンパクトでかつ高い描写力を持つRX1だからこそできた撮影だと思います」
開発者として想定していたのは、あくまでサブ機としての使用だった。
「サブが中心になるとは思っていたけど、理想としてはメインで使って頂きたいと思っていました。実際にメインカメラになることが証明できたのが嬉しいですね」若木氏のRX1への信頼度の高さに、プロダクトマネージャーの大島氏も驚きを隠せない。
その言葉に若木氏は笑顔で答える。
「写りはメインカメラとして十分なクオリティがある。さらにコンパクトなことで、新しい写真が生まれる可能性が広がります。4×5のような大判カメラでアシスタントを連れて撮影しなければならないような写真が、RX1なら自分一人で撮れてしまいます。大げさかもしれませんが、すべてのカメラに代わる存在になり得る、デジカメの歴史に新しい一歩を刻んだカメラだと思います」
文字通り『最高画質を、手のひらに』を実現したRX1。これまでのデジタルスチルカメラとはまったく違う、新たな道筋を切り拓いたこのカメラは、今後どのような変化を遂げていくのだろうか。加藤氏は言う。
「RX1シリーズというのはどんどん新しく変わっていくのではなく、長くお使いいただけるカメラだと考えています。ですから、最初から最高の物を設計しています」
プロダクトマネージャーの大島氏も、その言葉に賛同する。
「操作部の形状や配置が今のRX1の形になっているのは、開発段階で操作性を突き詰めていった結果、必然的に長いカメラの歴史の積み重ねで得られた普遍的な形状に近づいたのだと思います。だから今後も、基本的な操作やスタイリングをドラスティックに変える必要はないのではないでしょうか」
プロカメラマンにとって、カメラは仕事のための道具。どんなに写りが良くても信頼できなければ、プロとしては使えない。
「デジタルスチルカメラはまだ歴史が浅いので、未だに変革している時期。そのなかでRX1はこれからのデジタルカメラの基準となっていける1台だと思います。とはいっても、新しい機種が出るたびに操作が変わってしまうようでは道具としては使えないのですが、今日お二人の言葉を聞いて信頼が高まりました。これは長く愛用できるカメラになりますね」
数々の苦労を重ねてRX1を生み出した開発者としては、ユーザーにどんな写真を撮ってもらいたいと思っているのだろうか。最後に聞いてみた。
加藤氏「一体型だからこそできた超高性能コンパクトのRX1では、今まで一眼レフでは撮れなかった写真が撮れます。ぜひ、今までにない新しい表現に挑戦していただきたいと思います」
大島氏「いつでも持ち出して、特別なイベントだけではなくいつもの風景やいつもの場面をたくさん撮影して、写真を楽しんでもらうと同時にこのカメラを好きになって欲しいですね」