山口 恭正
(ヤマグチ ユキマサ)
スピーカー設計担当
- 山岸:
- ただ、もうひとつ大きな問題点がありました。それはどういった形状にするか、デザイン面ですね。スピーカーにストローを刺して、「PFR-V1」のアイディアを閃いたまではよかったのですが、実際にはダクトを耳穴の入り口に設置するわけですから、危険ではない形状はどういうものか。またそこでもダクトの素材は何にするかなど、いろいろな問題点が出てきたんです。
ただ一緒にやっているメンバーは、入社してからいろいろな分野で活躍し、また様々な製品を担当してきた面々。それなりのノウハウというのが身に付いていて、別の角度からいろいろなアイディアを出してくれました。
- 山口:
- 最初ダクトの部分はアルミを曲げてダクトを作っていました。ただ直に耳の中に入れると痛くて冷たい(笑)。もちろんこのままではダメだと。そこでダクトの表面に、フッ素系の潤滑性のいい塗装を施しました。こうすることで金属そのままより体感温度として、4〜5℃ぐらい差を感じないんです。
また「PFR-V1」ではスピーカーユニットの周りは完全に密閉し、ダクトの先から低音を出すという構造なのですが、ダクトの周りも音漏れや、空気漏れを防ぐ工夫がしてあります。この部分は車載カメラを製作したときのゴムパッキン技術を活かしています。この辺りは、私がいままでに培ってきたものをすべて使っています。
- 山岸:
- あと一番難しかったのはどうやって頭に装着したらいいのかという問題。これは我々もデザイナーも非常に頭を悩ませました。
- 山口:
- 最初は軽量型のバーティカルヘッドホンをベースにして、ハンガー部分にスピーカーを取り付け、ドライバーユニットにダクトを付けようと。しかしこれだと耳の穴で重さを支える比重が大きくなり、耳が痛くなってしまう。次にハンガーに耳掛けを付けてみました。これだと重さが分散されるのですが、非常に装着しにくい。それであればと、ダクトの付いたハウジング部分を回転させるような構造を考えました。
ただここでも問題が発生したんです。頭と耳までの長さは人によって違う。これは分かっていたことであり今までのヘッドホンを参考にすればよかったのですが、もうひとつ、耳と耳穴の寸法も人によってまちまちだったんです。
- 山岸:
- つまりヘッドバンドとハンガーの長さの調節のほか、ハンガーとダクトの間の調節機構がもうひとつ必要だと。そこでハウジング部をアームで吊るして、アームを上下に回転できる機構を考えたんです。こうすることで、装着するときアームを持つと、自然にハウジング部が外側に開き、装着性がよくなったんです。またヘッドパットをつけることで安定感も抜群によくなりました。ちなみにこのヘッドパットに使われている素材は、水着で使われるような伸縮性に優れたものなんです。
- 山口:
- 「PFR-V1」のデザインでは、球体を強くイメージしており、その球体が宙に浮いたカタチにしたいというのがデザイナーの意向でした。それも2つの調節機構を付けることで、解決しましたね。普通デザイナーと設計は敵同士みたいになるんですけど(笑)、これに関してはデザイン的にも非常に斬新で、また機能的にも優れているものができたと、お互いに目指すところが一致した究極の形であると思っています。