Interview パーソナルフィールドスピーカー「PFR-V1」開発者インタビュー
山口 恭正
山口 恭正
(ヤマグチ ユキマサ)
スピーカー設計担当
1人の開発者の閃きから生まれたパーソナルフィールドスピーカー「PFR-V1」。 ヘッドホンでもスピーカーでも再現できなかった新たな音の誕生秘話を、 開発者が語る−−−。
3.今までにないものだからこそ悩むデザイン
山岸:
ただ、もうひとつ大きな問題点がありました。それはどういった形状にするか、デザイン面ですね。スピーカーにストローを刺して、「PFR-V1」のアイディアを閃いたまではよかったのですが、実際にはダクトを耳穴の入り口に設置するわけですから、危険ではない形状はどういうものか。またそこでもダクトの素材は何にするかなど、いろいろな問題点が出てきたんです。
 ただ一緒にやっているメンバーは、入社してからいろいろな分野で活躍し、また様々な製品を担当してきた面々。それなりのノウハウというのが身に付いていて、別の角度からいろいろなアイディアを出してくれました。
山口:
最初ダクトの部分はアルミを曲げてダクトを作っていました。ただ直に耳の中に入れると痛くて冷たい(笑)。もちろんこのままではダメだと。そこでダクトの表面に、フッ素系の潤滑性のいい塗装を施しました。こうすることで金属そのままより体感温度として、4〜5℃ぐらい差を感じないんです。
また「PFR-V1」ではスピーカーユニットの周りは完全に密閉し、ダクトの先から低音を出すという構造なのですが、ダクトの周りも音漏れや、空気漏れを防ぐ工夫がしてあります。この部分は車載カメラを製作したときのゴムパッキン技術を活かしています。この辺りは、私がいままでに培ってきたものをすべて使っています。
山岸:
あと一番難しかったのはどうやって頭に装着したらいいのかという問題。これは我々もデザイナーも非常に頭を悩ませました。
山口:
photo最初は軽量型のバーティカルヘッドホンをベースにして、ハンガー部分にスピーカーを取り付け、ドライバーユニットにダクトを付けようと。しかしこれだと耳の穴で重さを支える比重が大きくなり、耳が痛くなってしまう。次にハンガーに耳掛けを付けてみました。これだと重さが分散されるのですが、非常に装着しにくい。それであればと、ダクトの付いたハウジング部分を回転させるような構造を考えました。
ただここでも問題が発生したんです。頭と耳までの長さは人によって違う。これは分かっていたことであり今までのヘッドホンを参考にすればよかったのですが、もうひとつ、耳と耳穴の寸法も人によってまちまちだったんです。
山岸:
つまりヘッドバンドとハンガーの長さの調節のほか、ハンガーとダクトの間の調節機構がもうひとつ必要だと。そこでハウジング部をアームで吊るして、アームを上下に回転できる機構を考えたんです。こうすることで、装着するときアームを持つと、自然にハウジング部が外側に開き、装着性がよくなったんです。またヘッドパットをつけることで安定感も抜群によくなりました。ちなみにこのヘッドパットに使われている素材は、水着で使われるような伸縮性に優れたものなんです。
山口:
「PFR-V1」のデザインでは、球体を強くイメージしており、その球体が宙に浮いたカタチにしたいというのがデザイナーの意向でした。それも2つの調節機構を付けることで、解決しましたね。普通デザイナーと設計は敵同士みたいになるんですけど(笑)、これに関してはデザイン的にも非常に斬新で、また機能的にも優れているものができたと、お互いに目指すところが一致した究極の形であると思っています。
山岸 亮
山岸 亮
(ヤマギシ マコト)
スピーカー音響設計担当
スピーカーユニット構造
4.最新の技術と素材で実現した理想のスピーカー
山岸:
肝心な音質ですが、こうして出来上がった試作機を聴いてみて、思った以上に良い音になっていました。実は現在発売されているほとんどのCDは、スピーカーで聴くことを前提に録音されているんです。ヘッドホンはその音をちゃんと聴こえるように、いろいろ苦労して音作りをしています。その点「PFR-V1」ではスピーカーで聴くように録音されたものをスピーカーで聴くわけですから、自然に聴こえるはずなんです。かと言って圧縮音楽が聴けないかというと、そうでもない。音に余分なひずみがない分、圧縮音楽も今まで以上に良く聴こえます。
山口:
スピーカーで音楽を聴く場合、直接入ってくる音、床とか天井などに反射した音、顔を伝わってくる音、耳から反射してくる音などなど、みんな一緒に聴いているんですよね。顔や耳の形は個人差があり、そこで音がどう変化するかは人それぞれ。なので、耳の近くにスピーカーがあれば、よりリアルな音場を再現できるんです。
山岸:
photoまた音の反射ということであれば、スピーカー自体の反射というものもあります。特に大きなスピーカーから音が出ると、その瞬間にスピーカーの筐体表面ですべて反射してしまう。さらに言うとスピーカーユニットの後ろから出た音も、中で反射してしまうんです。ただそれはスピーカーを小型にすることで、軽減することができます。具体的にはスピーカーが小型になると、それらの音は人の耳に聴こえにくい帯域にシフトするのです。そのため「PFR-V1」ではとてもハイファイの音を簡単に再現できる。
あとはダクトを使った低音の再現も、「PFR-V1」の音の特徴になっています。
我々はエクステンデッドバスレフダクトと呼んでいますが、ダクトを耳に近づけ、そこから低音を出すことで、非常に豊かで迫力のある重低音を再現できるんです。
山口:
スピーカーは、特に高級になればなるほど、部屋にお金をかけなければ本当のスペックが発揮されない。photo100万円ぐらいのスピーカーなら、500万円ぐらい部屋にかけないとバランスが取れないというイメージがあると思います。
ただこの「PFR-V1」であれば、それと同じような状況を耳元で再現できる。また頭の外に音像が定位するというのは今まで非常に難しかった。構造自体は20年前からあったけれども、小型軽量で、頭外定位を簡単に実現でき、しかも低音も再生できてとなると「PFR-V1」が初だと思います。
山岸:
その音をさらに楽しんでいただけるよう、「PFR-V1」には付属品としてブースターを付けています。ポータブルオーディオなどで聴くときはあまり必要ないのですが、パソコンなど、出力が弱いと感じたら使っていただければ音はよくなります。また6.3mmのヘッドホンプラグもありますので、オーディオ機器などにも対応できます。
山口:
今まで設計してきた製品はすべて我が子のようなものなのですが、「PFR-V1」には今までない驚きと期待感があります。出来上がってみていろいろ聴いてみると、映像との相性もとてもいい。まるで画面から音が出ているように感じられ、映像にすんなり入っていける。またゲームも臨場感ある音で楽しめます。
山岸:
「PFR-V1」はスピーカーなので、100パーセント音漏れはします(笑)。もちろん電車の中や人ごみなどで使うことは難しいですが、ヘッドホンの音漏れと違ってシャカシャカした音ではなく、実際にはいい音が出ている。隣にいる人が流れている曲が好きならば、一緒に聴けたりもします。また音楽を聴いていても、周りの人と話をすることはできます。音漏れはしますが、周りの人の声も聴こえる。ただ自分は音楽に集中できる、ちょっと不思議な商品です。聴いていただければその真価が分かるとおもいますが、目からウロコならぬ、耳からウロコですよ(笑)。「PFR-V1」はパーソナルフィールドスピーカーという新しいカテゴリー。これからラインナップを広げ、このカテゴリーを定着させていきたいですね。
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パーソナルフィールドスピーカー PFR-V1
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