アクティブスピーカー「ARA-ZX1」開発者インタビューアクティブスピーカー「ARA-ZX1」開発者インタビュー

01 気持ちよい音を聴くために考案されたメビウスダクト

関   SONYでは、20年以上前からアクティブスピーカーという(カテゴリーで)製品を作っているのですが、大きなテーマのひとつに、「デスクトップに置ける辞書サイズのスピーカーで、いかに気持ちのよい音を聴かせるか」というのがあります。ただこのサイズのスピーカーですと、低域をしっかり聴かせるというのは難しかった。それゆえ今までは、中、高域をいかに聴かせるかということに注力してきましたが、どうやったら求める低音が出せるのかということも研究していました。そこでSRS-ZX1では今までより低音を聴かせる、もう一歩進んだ形で迫力のある音を出せるスピーカーを開発しようということで、今回この製品を企画しました。
伊藤   やはりベースラインは音楽の中で重要な要素ですから、これがしっかり聴こえないと、それはいい音とは言えないと思います。ただ低音だけをよくすればいいというのではなく、スピーカーから聴こえてくる音は「気持ちのよい音」でなくてはいけない。そこでSRS-ZX1では低音だけをカバーする、サブウーファーというカタチを取らず、2つのスピーカーですべてをまかなうことにしました。我々はこれを2chと呼んでいます。このほうが低い音から高い音まで、全帯域に渡る連続感というのが感じられるんです。サブウーファーのように、2.1chのシステムになりますと、低域は低域、高域は高域となりますから、どうしても繋がりの部分で重ならないところが出てきてしまう。それだと音にクセが出てしまうんです。今回はフルレンジにこだわって、どこまで量感が出せるかというところを突き詰めていきました。
関   そこで考え出したのがスピーカーの後ろに付いている、ダクトの部分なんです。実は同じ筐体、同じユニットの直径で比べると、ダクトを長くしたほうがより低い帯域での共振が取りやすくなります。ただ長くすればその分スペースが必要になり、本体が大きくなってしまいます。また、低音部分を出す間口の部分の断面がスパッと切り落とされている形だと、風切りという、笛吹き現象が起こってしまうんです。今回はダクトを長くするのと同時に、この風切りを低減するというのもテーマにしました。

伊藤   ダクトの構造にはいろいろな案が出されました。取り回しを考えて筐体の外に出したり、上に出したり、後ろに伸ばしたり、それこそチョンマゲみたいなものもありました(笑)。ただ、どれが一番いいのかと考えたとき、一度外に出したダクトを筐体の中に戻すというのがよいという結論に達しました。
関   こうすると、本体をあまり巨大にせずダクトを長くすることができ、スペース効率が非常によくなるんです。あと間口も大きく取れるようになり、風切りを抑えるための効果的な構造ができたんです。本体背面から出たダクトが、本体正面に戻って音を出すダクトの構造から、メビウスの輪を連想してメビウスダクトと名付けました。
関   メビウスダクトの構造はこれで決まったと。ただ問題は、この部品をいかに作り、製品化するかということでした。当初はダクトを縦に二つに割ったものを繋げればいいんじゃないかと考えていたのですが、デザインも成り立たないし、やはり重要なのは“いかに密閉するか”ということ。そこでダクトの金型製作を、昔からお付き合いしていただいている、技術力の高いメーカーさんにお願いする事にしました。ただ、ダクトが真ん中でアーチになっていて密閉されているというものは、成型という方法では、一体で作れないんです。そこでご覧のような形で分割して作ることになったんですが(写真:白いパーツと黒いパーツ部分が分割)、この分割したものをきれいにひとつにするというところにも、高い技術力が活かされています。
伊藤   パーツを組み合わせてできるわずかな隙間を、エラストマーというゴム系の柔らかい部品を一体成型することで確実に塞いでいます。これはとても難度の高い技術で、日本の金型メーカーさんでもめったにできないんですよね。
関   そうそう、完成したパーツを見て驚いたのが、2つのパーツをくっつけたダクトに水を入れても、水が漏れないんですよ。これはきちんと密閉されているということで、僕もこれを最初に組んだ時は喜びました。ダクトが密閉されていないと、せっかく風切りを抑える構造にしたのに、ダクトから吹き抜けてしまいますから、すべてが台無しになってしまう。いくつも試作を作りましたが、今思えばこのダクトの作り方をクリアすることが、設計で一番大きな課題だったかもしれません。
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