教育ICT化時代到来
「協働学習」のキャンパスとして活きる
大画面&フリーなWindows タブレット
ICT化そのものを目的とするのでなく、子どもたちが協働的に学びを深める助けとなることを目指して導入された大画面タブレット・VAIO Tap 21が活躍する授業の現場を訪問した。
現在、教育現場ではそのICT化が急速に推し進められつつある。そんな中、特に注目を集めているのが「1人1台」を掛け声に進められている児童生徒用タブレットの導入だ。しかし、ともすれば導入台数という数字だけが一人歩きをするケースも散見される一方、肝心の授業での活用が思うように広がらない例もあるという。宇都宮市教育委員会では、タブレットの導入自体を目的化することなく、子どもたちの「協働的な学び」に貢献できるICT活用のあり方を検討した結果、グループでの利用に適した大画面のWindowsタブレットの導入を決断した。
業 種 | 導入機種 | 使用用途 |
---|---|---|
公立小学校 | VAIO Tap 21 10台 | 児童が利用する教育用タブレットPC |
マルチタッチ対応大画面で
子どもたちの一斉操作も対応
のぞきこんだり向き合ったり、
子どもたちの気分に合わせて
大きなボディだから
ワイヤレスの自由さがうれしい
宇都宮市教育委員会 教育センター
鷹箸 秀昭 様
鷹箸 学校へのタブレット導入というと、昨今では「1人1台」というキャッチフレーズが先行していて、その場合はやはり10インチ程度の機種が念頭におかれていることが多いようです。もちろん、そうした姿が将来的に目指されていくことを否定するものではありません。しかし現実には、例えば宇都宮市のような大きな自治体の場合、一足飛びに数を追うような整備計画には、予算その他の面からも難しい問題が出てきます。そんなとき、VAIOのカタログを目にする機会があったのですが、大画面のタブレットを囲むように寝そべった子どもたちが、楽しげに勉強している写真が強烈に目に飛びこんできました。その瞬間「これだ!」と思ったんです。
宇都宮市教育委員会 教育センター
副主幹・指導主事 手塚 浩 先生
手塚 そもそもタブレットの導入などICTの活用というのは、機材導入そのものを目的としているわけではないんですね。昨今、学校教育には「21世紀型学力の育成」などといった、これまでにない新たな課題への対応が求められています。ICT活用もそうした課題のひとつと言えますが、同時に、そうした課題に対応するための道具だとも言えるわけです。そう考えたとき、子どもたちが主体的に、しかも友だちと力を合わせて学習に取り組むという「協働的な学習」の実現をひとつの課題として捉え、そのためのツールとして、この大画面タブレットを活用するというプランが浮かんできたのです。
鷹箸 大画面タブレットも、いくつかの機種が存在しますが、重量や価格、電源やスタンドの構造、運用や保守までを総合的に判断した結果、このVAIO Tap 21の採用が決まりました。
(株)ジャストシステム ジャストスマイルクラス
http://www.justsystems.com/jp/products/smileclass/(株)JR四国コミュニケーションソフトウェア コラボノート for School
http://www.collabonote.com/edu/school/ 渡辺 最初にタブレットの導入説明を受けた際、教育委員会からハッキリと「協働学習」という目的が明示されました。そのための大画面タブレットということで、驚きはありましたが、違和感はありませんでしたね。
実機を目にして最初に感じたのは、やはり画面の見やすさです。本校では教材提示用に50インチの大画面デジタルテレビを使っていますが、表示内容によっては、それでも教室後方の子どもたちにとって、見やすいとは言いがたい場合もあります。それがこのVAIO Tap 21では、班ごとに手元の大画面で、教材その他を大写しにして見ることができますから、まず、教材提示の面だけをとっても大きなメリットがあると感じました。
さらに、使い始めてみて実感したのは、やはり大画面とグループ活動、つまり協働的な学びの相性のよさです。一般的なタブレットでは、どうしても個々人での思考や作業が中心の活用になりがちですが、グループのメンバーが一斉に手を出しながらあれこれ試行錯誤できる大画面タブレットでは、ごく自然に、子どもたち同士の協働性が生まれてくるのです。
渡辺 今日見ていただいた授業でもそうだったと思いますが、自分たちで行った実験の結果といった生の資料を、即手元で確認しながら考え、またその考えを、みんなで相談しながらまとめていくといった一連の作業が、このタブレットを中心に行えるんですね。今回の授業では「デジタルもぞう紙」というソフトを使いましたが、これですと、同じ一つのグラフに、各グループの実験結果を同時並行的にプロットしていくこともできますから、グループごとの活動をクラス全体で共有することまでが一気にできてしまいます。私たちから見ると「すごいこと」なんですが、子どもたちにはもうそれが自然なこととして受け止められているようです。
手塚 こうして実際に授業で活用される現場を見ると、やはり瞬時にして子どもたちの考えや、実験の結果といったものが共有できることのメリットを強く感じます。しかも、一人ひとりが小さな画面をのぞき込むのではなくて、グループの友だちと一緒に画面を共有していることによって、意見の交流など、リアルなコミュニケーションがそこで生まれてくるという良さがあります。1人1台への単なる通過点という以上の価値が、大画面タブレットでの協働学習にはあると思います。
(1)課題をつかむ
前の時間までに学んだ「おもりと重さと時間」「振り子の振れ幅と時間」の関係をおさらいし、これから行う「振り子の長さと時間」の関係についての実験で、何を確かめようとするのか理解する。
(既習事項の想起と課題把握)
(2)実験結果を予想する
おもりの重さと振れ幅を固定した上で、ふりこの長さを変えたとき、振り子が往復する時間がどうなるかを予想させ、発言を板書する。
(既習事項に基づく予想)
(3)実験を行う
手順の説明を行い、実験を行う。
各グループで振り子の長さを分担し、それぞれ3回実験した結果を、VAIO Tap 21を使ってサーバ上のひとつのグラフにプロットし共有する。
(実験とタブレットPCによる結果共有)
(4)実験結果をまとめ、発表する
他グループのものを含めた実験結果を画面上で閲覧しながら、振り子の長さと往復時間の関係を各人で考察し、自分の考えをグループ内で発表し合う。
話し合ってまとめたグループの考え方は、タブレットPCでデジタルもぞう紙に書き込み、クラス全体に共有・発表する。
(個による思考、グループでの意見交流、タブレットPCを使った全体共有)
(5)学習のまとめをする
前の時間までに学んだことと、この時間に行った実験結果や考察を合わせて、さらに思考を深める。
(既習事項と学習事項の統合・考察)
本実践で用いられたのは、(株)ジャストシステムのタブレット活用統合ソフト『ジャストスマイルクラス』に含まれる「デジタルもぞう紙」と、画面共有、画面巡視などを行う「授業支援ソフト」。本校ではこの他に、(株)JR四国コミュニケーションソフトウェアの協働学習支援ソフト『コラボノート』も利用されている。
これらはいずれもタブレット端末と電子黒板などを連携させることで活用型学力や探求型学力を育成し、子ども同士の協働的な学びを支援するためのネットワークソフトウェアで、サーバーソフトとクライアントソフトで構成されている。
本事例では、この学習環境自体を過般型とするため、ノートPCがサーバーとして利用され、子どもたちのグループ活動用にVAIO Tap 21、教師用にはタブレットとノートの両用が可能なハイブリッド型端末が採用された。
タブレット端末の導入は全国の公立学校で進められているが、その形態は「1人1台」や「1校40台(1学級全員分)」などさまざま。そんな中、宇都宮市教育委員会では「子どもたちの協働的な学び」をビジョンとして明示すると共に、それに適した端末として、大画面で複数人が同時操作でき、バッテリー駆動で持ち運びも可能なVAIO Tap 21の採用を決定した。
鷹箸 この、姿川第一小学校での実践は、タブレットを使った協働学習のモデル事業という位置づけです。来年度(本取材は平成26年度末に実施)に向けて、さらに中学校1校、小学校1校でモデル事業を重ね、その成果をもって全市に導入展開を行っていきたいと考えています。
手塚 現時点では、モデル事業ということもあって、タブレットで利用するアプリケーションについても、1つに限定せず、ジャストシステムの『ジャストスマイルクラス』とJR四国情報システムの『コラボノート』の2つを中心に、先生に自由に使ってもらっています。授業の内容はもちろん、先生自身や子どもたちが、これまでパソコンルームなどで使ってきたソフトの経験などとの関係で、使うソフトが選ばれているのが現状です。モデル事業を通じて得られた結果を、ソフトウェアメーカーにもフィードバックして、より授業に役立つものにしていければと思っています。
渡辺 標準的なタブレットに比べて、大画面タブレットを使った授業実践の例はまだ多くありませんので、情報収集の難しさはあるのですが、逆に私たちがそうした事例になっていければいいなと思います。今後はタブレットで使うための教材を、私たち教員自身が作ったり、カスタマイズしたりできる環境ができてくれば、より活用が進むのではないでしょうか。