写真家の想いと作品

小澤忠恭/レンズ一体型設計というのは、ここまで精密に描写できるのか…

Profile:1951年岐阜県郡上八幡生まれ。1972年日本大学芸術学部映画学科中退後、写真家 篠山紀信氏に師事。1981年「僕のイスタンブル」「ブエノスアイレスの風」でデビュー。以後「作家の貌」などの人物写真、「MOMOCO写真館」などのアイドル写真、旅や料理の写真で、雑誌、CMで活躍。ヌード、ポートレートで定評を得る。女優写真集、アイドル写真集、料理写真集など100冊近い写真集がある。神奈川県大磯在住。

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RX1は、上級者を本気にさせる“とがっている”カメラだ。

RX1のことを知ったとき、35mmフルサイズのセンサーには驚いたが、レンズは35mm単焦点レンズで、手ブレ補正は搭載していないという…良いのか?悪いのか?一体どういうカメラなのかわからなかった。しかし、写真家は未知のものに人一倍興奮する人種だ。早速、テスト撮影をすると、フォーカスには手こずるし、ブレには泣かされるし、はじめは苦労したが、撮り続けているうちに印象がガラリと変わった。35mmの単焦点レンズなら、画づくりを工夫すればいい。ズームが無いなら、自分が動けばいい。手ブレ補正が無いなら、カメラをしっかり構えればいい。いつの間にか、カメラを使いこなして表現する、写真本来の喜びを感じ始めていた。今まで僕はデジタルカメラのオート機能に甘え、楽をしすぎていたのかも知れない。一方、このRX1は最高峰の画質を求め、余分な飾りを脱ぎ捨て、撮影する喜びを純化させている。なるほど、我々写真家や上級者を本気にさせる、ソニーらしい"とがっている"カメラじゃないか。このRX1の実力をもっと知りたい。僕は、人々の色々な表情を撮りたくて、人情あふれる下町へ向かった。

レンズ一体型設計というのは、ここまで精密に描写力できるのか…

RX1を使っていちばん初めに驚いたのは、レンズ一体型設計というのは、これほどまでに精密に描写できるのかということ。レンズと撮像面の位置をミクロン単位で調整したRX1の描写力は僕の経験上、デジタル一眼カメラの高級レンズ以上といっても過言じゃないと思う。それはプリントすれば、一目瞭然だ。現に、雨上がりの街並を撮影してみると、辺りに漂う湿気やアスファルトの濡れた表面、葉っぱにしたたる水滴、雲の切れ目からの微かな光など、細部の質感が見事に写真に定着していた。我々写真家は匂いや触感などを写せないものを写真に載せようとするが、その際に重要となるのが質感の表現だ。その点、RX1のカールツァイス「ゾナーT*」は、肉眼では見えないような細部まで緻密にとらえ、今までにないリアリティーを写真に表現してくれる。写真家にとって、頼もしい存在だ。RX1でポートレートを撮影すると、どんな仕上がりになるのだろうか。ロケ撮影は終わっていないのに、僕のイメージは広がっていった。

35mm単焦点レンズには、表現の可能性があふれている。

なぜRX1は35mm単焦点レンズを選んだのか?もちろんボディの小型化も理由の1つだと思うが、違う答えもあるはずだ。そんな思いでRX1のシャッターを切っていくうちに、レンズ交換の苦労から解放される心地良さを感じた。シーンに合わせてレンズを換えるというのは一見正しく思えるものの、その分あれこれ考えてしまう。でも、単焦点レンズなら、アップを撮りたければ自分が寄ればいいし、ワイドに撮りたければ自分が引けばいい。つまり余計なことを考えなくていいのだ。あとは決められた画角のなかで、どう表現するか考えていくと、実に幅広い画が撮れる。24mmに見えるような写真も、70mmに見える写真も撮れるようになるのだ。たとえば、右の写真は手前に壁を入れることで奥行きを感じるワイドな写真になった。この自由度が、この画角のレンズの醍醐味だろう。工夫していくなかで、自分の撮影スキルが上がっていく過程も面白い。ちなみに35mmでワイドや望遠のような写真を撮影できるようになると、デジタル一眼カメラに戻ったときに、すごく上手くなった気がする(笑)。そういった意味では、RX1はデジタル一眼カメラのユーザーを鍛え直してくれるカメラとも言えるかも知れない。

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