写真家の想いと作品

萩原史郎 RX10を持って風景のなかへ 見えなかったものが見えてくる

Profile: 1959年山梨県甲府市生まれ。日本大学卒業後、「季刊(*現在は隔月刊)風景写真」の創刊に携わる。編集・発行人を経験、退職後フリーのカメラマンに転向。現在自然風景を中心に撮影、執筆活動中。日本自然科学写真協会会員(SSP)、日本風景写真家協会会員(JSPA)。

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他にない機動性を生かす 手持ち風景スナップが似合う

RX10を最初に手にしたときは、これまでのRXシリーズとは違う、衝撃的ともいえる個性的なデザインに驚きました。使ってみると、一台で24mmから200mm相当そしてマクロまでの幅広い撮影ができるというこのカメラの特長が、他にはない、際立ったものであることがわかってきます。

この写真は上高地で撮ったもので、ほぼワイド端、つまり24mm相当です。一般的に35mmから50mmぐらいが肉眼に近いといわれますが、それも人それぞれで、ワイドに風景を見る人もいます。僕にとっては、いいなと思った風景をピッタリ収めるのに適しているのがこの24mmぐらいなのです。

こうした写真は遠景の解像感がカギとなってきますが、焼岳の山頂まできっちり描写してくれています。1インチのセンサーに記録した画像は、拡大しても細かいディテールが出ていて、目が詰まったようなところがなく、とても感じのいい画質です。水底の風景や空の青さ、透明感もそっくり気持ちよく切り取ってくれました。

これは手持ち撮影です。普通、風景は三脚が必須といわれますが、三脚にこだわると移動中に面倒で撮らなくなってしまうということもあります。今回の撮影は、可能な限り手持ちで、歩いている最中にいいと思ったものを「手持ち風景スナップする」という気持ちで撮っていきました。それが高い機動性を持つRX10に合っていると思ったのです。

RX10には水平水準器が内蔵されています。この写真のように水面がある場所だとそれに惑わされて水平がずれてしまうことがありますが、カメラがきちんと水平を教えてくれると手持ちでも安心です。

望遠200mmも高い描写力 信頼性の高い手ブレ防止

これは10月下旬、上高地から安房峠に登っていく旧道で撮ったものです。

200mmのテレ端です。風景というのは200mmまであればけっこう自由に切り取れるものです。レンズによっては、ここまで望遠になると解像力が落ちることもあるのですが、このレンズは、木の質感や山肌などもしっかり描写してくれて、さすがだなと思いました。

これも手持ちです。ブレが心配で多少感度を上げたくなります。ただRX10は手ブレ補正がよく効きます。このレンズは前側に伸びるので、そのレンズの下を支えればさらにきっちりブラさないで撮ることができます。ある程度の手応えのある重さも、風景撮影の手ブレ防止にはいいんですね。今回の撮影全体を通じて、手ブレしているのは一枚もない。手ブレが非常におこりにくいカメラだといえます。

実はこの場所では、けっこう長い時間をかけて撮っていました。RX10は電池を入れて800グラム程度ですが、70-200mmズームレンズをつけたフルサイズ一眼だと2キロを超えてしまいます。それをずっと持っているのは私でも大変で、身体への負担から集中力が途切れて構図にも影響するし、もういいか、という気にもなってくる。そんなふうに気持ちが折れると写真を撮れないので、三脚に固定して待つことになるんですが、人が多い場所だと迷惑にもなります。このカメラひとつで行く撮影は本当に身体に優しいし、他の人にも優しいんです。このカメラで撮るメリットはとても大きいと感じました。

テレマクロとワイドマクロ 両方使えるのは武器になる

群馬県の長野原で、楓が真っ赤に色づいていました。これはテレ端でのマクロ撮影です。

RX10ならマクロレンズを持ってこなかったから撮影をあきらめるという悔しい思いをせずに、キッチリ撮れるのがうれしい。一般的なズームレンズなら24-70mm、70-200mm、マクロレンズと3本分に相当するわけです。しかも全域でF2.8。このレンズ3本を持ち歩くとなると相当重い。それだけの装備を、ザックなど背負わずに、首から下げて行くことができるのです。

コンパクトカメラのマクロはあまり使えないものもあるのですが、これはハッキリと「使えるマクロ域」です。しかもテレ側だけでなくワイドマクロでも撮れるから作品の意図に応じて背景を変えられます。レンズ交換式の一眼だと24mmでワイドマクロが撮れるレンズはそうそうないので、すごい武器になります。

この写真は、背景の光と手前の葉の位置関係に相当気を配っています。こういう場合カメラを三脚に固定してしまうと構図を決めるのがかなり難しくなってしまうので、私はたいてい手持ちで撮影します。ただ、望遠のマクロですからそれなりに手ブレを防ぐ工夫もしていて、これは三脚を立ててそこに自分の肘を乗せて、撮影しています。つまり肘の置き台として三脚を利用するわけです。こうするとマクロ撮影の成功確率が高くなります。

マクロ撮影ではピント位置の選択が大切ですが、RX10はピント位置を自由に変えられるので、アングルや構図を自由に決めやすいですね。