その場の空気感まで写し撮るような
「エアリーフォト」を撮り続けている山本まりこさん。
エアリーな世界観をそのまま動画で撮影した作品とともに、
動画表現のおもしろさや
撮影テクニックなどをご紹介いただきます。
物語のような世界を
動画でも作り上げたい
写真家
山本 まりこ
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私がテーマとしている「エアリー」には、「風が通り抜ける」とか「軽やかな」という意味があります。その場の空気や風、湿度、匂いを、見ている人にも感じてもらいたい。そう思いながら、頭の中に描いた「エアリーフィルター」を通して撮影することで、物語のような世界が表現できます。そんなエアリーフォトの空気感をよりリアルに伝えられるのが、動画のおもしろさだと思います。
広島は、撮影旅行でよく訪れる場所の一つ。世羅高原には、ダリアが見渡す限り一面に咲き誇る農園があります。宮島は、写真家になろうと思って旅をしていたときに訪れた地。鹿たちがとてもキュートで、当時から大好きな場所でした。この広島の魅力を、多くの人に知ってほしいと思って撮影した動画が「ダリアしか」です。
私は動画作品を作るとき、あらかじめ頭の中で構成を決めてから撮影に臨みます。この作品は、ダリアの「静」と鹿の「動」の共存をイメージしながら構成しました。
動画は撮影や編集が難しいのでは?と、なかなか挑戦できずにいる方も多いと思いますが、お持ちのαはMOVIEボタンを押すだけで簡単に動画が撮影できます。まずは難しく考えずに、ご自分が「楽しい」と思うところから始めてみませんか。
撮影テクニック
動画「ダリアしか」の中から、山本まりこさんお気に入りのシーンと、
撮影テクニックについて教えていただきました。
動画「ダリアしか」の中から、山本まりこさんお気に入りのシーンと、撮影テクニックについて教えていただきました。
ダリアのシーン
0:14〜0:16
この作品を作ろうと思ったときに、「ダリアがゆっくりと風に揺れていて、『ダリアしか』というタイトルが縦に入る」というイメージが真っ先に浮かび、撮影したのがこのシーンです。アップで撮影するとき、レンズはPlanar T* FE 50mm F1.4 ZAやFE 24-70mm F2.8 GMをよく使用します。できる限りレンズの開放に近い絞り値で、ダリアにピントがしっかり合うように意識しながら撮影しています。
揺れるダリアは、写真では表現できない、動画ならではの表現。ダリアを揺らすやさしい風や、心地いい鳥の声など、その場で感じたことを伝えられたらいいなと思って撮影しました。
0:29〜0:32
朝露をまとった、やわらかい雰囲気のダリアを表現したいと思って撮影したシーン。昼すぎには朝露が消えてしまうので、早朝の時間帯を狙って撮影しました。朝露の美しさを際立たせるために、奥のぼけを強調しながら構図を作っています。こちらのシーンもレンズの開放近くの絞り値で、ぼけを生かしたエアリーな表現にこだわりました。
液晶モニターとファインダーは、被写体によって使い分けています。望遠レンズで動物を狙ったり、朝露にピントが合っているかを確認したりするときは、ファインダーをのぞきながら。花などをゆったりした気持ちで撮っているときは、液晶モニターを使うことが多いですね。
1:57〜1:58
ダリアの中には、カエルが隠れていることがよくあります。そのシーンをどうしても撮りたくて、めったに出会えない晴れの日にがんばって探しました。
αは、液晶モニターやファインダーで見たままの映像が撮影できるのが魅力。背景のぼけ具合を確認しながら撮れるので、とても便利です。私はホワイトバランスを少しだけブルーに寄せることが多いのですが、それも液晶モニターやファインダーで見たままに写るので、思い通りの色が簡単に表現できます。
鹿のシーン
0:54〜0:56
まだ観光船が到着していない朝の時間帯で、リラックスした親子の鹿の仲むつまじい姿が撮れました。最初は心の中で鹿に話しかけ、間合いを取りながら少しずつ近づき、しばらくしてから声をかければ、その後はだいたい撮らせてくれます。鹿を逆光でとらえると、毛並みがふんわり光って、とても綺麗です。G Masterは逆光耐性に優れているので、太陽の位置を気にせずカメラを向けられるのがいいですね。
動画は写真と違って、少し先の未来を予測しながら撮る難しさがありますが、αのタッチトラッキングを使えば、液晶にタッチするだけで被写体を追ってくれるので、予測しにくい動きをする動物なども簡単に撮影できます。
1:43〜1:44
ゆったりと休む鹿をローアングルから撮影。α7Cはバリアングル液晶モニターが付いているので、低い位置からでも楽な姿勢で撮影できます。このシーンは、ぼけ表現をたくさん入れながら撮影しました。人間の目では見えない、レンズを通して見えてくる表現を入れると、まるで絵本のように見せることができます。
鹿の尻尾がピクピク動いていますが、この動きに音楽を合わせたらおもしろいと思って、BGMのテンポに尻尾の動きが合うように編集しています。
0:51〜0:52
ダリアは寄りのシーンが多かったので、鹿は引きのシーンも意識しながら撮影しています。宮島の鹿は海や神社の近くによくいるのですが、街の中にポツンといるシーンをあえて入れることで、全体の構成にメリハリをつけました。
動物を撮るときは望遠レンズを使うことが多いので、特に手ブレに注意していますが、α7Cのボディ内手ブレ補正機能のおかげで、望遠でも安心して撮影できました。
その他のシーン
この作品の主役はダリアと鹿ですが、世羅高原や宮島の魅力も伝えようと思い、主役以外のシーンも入れました。ダリアと鹿だけだと単調になるので、変化をつけるという効果もあります。
ただし、主役より目立たないように、あえて全体を見せ過ぎず抽象的に留めるのがポイントです。
0:23〜0:28
このシーンは、ダリアと同じ色の靴を履いた足元を入れて、自分が世羅高原にいたことを香らせています。
0:39〜0:42
宮島の景色の素晴らしさを伝えたくて入れたシーン。フェリー乗り場のアナウンスをかすかに入れることで、臨場感が出せたと思います。
1:22〜1:26
小さくきらめく玉ぼけと、波の音を合わせたいと思って撮影したシーンです。夜景や夕景はカッコよくなりがちですが、意図的にピントを外すと、やわらかいエアリーな表現になります。
動画編集のためのアドバイス
- 撮影時は、シーンの前後を数秒長めに撮ることを意識しましょう。後から編集がしやすくなります。
- 私は作品に合ったBGMを見つけることに時間をかけています。今回は、ダリアの「静」と鹿の「動」の要素が共存したBGMを探すのが大変でした。普段から音楽ファイルをストックして、「明るい」「未来的」などのイメージごとにフォルダ分けしておくとスムーズに選曲できます。編集では、BGMのリズムに合わせてシーンを切り換えると、美しくまとまると思います。
カメラの設定と
撮影機能
山本まりこさんの動画撮影設定
- フレームレートと
シャッタースピード - 60pのときは1/60秒に、30pのときは1/30秒に設定
- 絞り
- そのとき使用しているレンズの開放に近い数値に設定
- ISO感度
- 撮影するシーンの明るさに合わせて選択することが多い
- ホワイトバランス
- カスタム1〜3で好みの色に調整し、少しだけブルーになるように微調整。編集で修正するのは大変なので、ブルーにしすぎないように注意
私は動画や写真を撮るとき、その場で感じたことを、そのまま撮りきりたいと思っています。そのために、できるだけ後から加工しなくても済むような撮影設定にしています。
登録呼び出し設定
ダリアや鹿など、撮りたいものが決まっている場合には、あらかじめ登録呼び出しに設定を登録しておきます。今回の撮影では、1に写真(エアリーフォト)用の設定、2に動画(エアリームービー)用の設定、3に動物用の設定を登録しました。撮影するときはダイヤルを回し、その場の状況に合わせて微調整しています。
αの機能でよく使うのが「クリエイティブスタイル」。スタンダード、ビビッド、ニュートラルなど、被写体と光の関係によって使い分けています。まずスタンダードに設定して、コントラストとシャープネスを下げると、やわらかい表現ができるのでおすすめです。
機材と必須アイテム
カメラ
「ダリアしか」の撮影には、α7Cを使用しています。実は今回、同じカメラで写真も撮影していたのですが、設定を変えながら動画と写真を撮り分けるのが難しかったです。撮影に集中したい方や初心者の方は、動画だけに絞って撮影することをおすすめしたいですね。
レンズ
Planar T* FE 50mm F1.4 ZA、FE 24-70mm F2.8 GM、FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSSを使用しました。お気に入りは、Planar T* FE 50mm F1.4 ZA。ぼけの美しさに加え、ピントが合っている部分は鮮鋭に描写できるので、エアリーな表現には欠かせない1本です。
ズームレンズは表現が硬くなりがちですが、FE 24-70mm F2.8 GMは幅広い画角でありながら、やわらかい表現で撮影できます。大きくて重いレンズは三脚が必要になるので、初心者の方は、まずはキットレンズから挑戦してみるのもいいと思います。
アクセサリー
ぼけを生かしたエアリーな表現では、レンズの開放付近の絞り値で撮影することが多いので、明るくなりすぎないように、市販のNDフィルターで光の量を調整しています。
私は音声もその場で録りたいと思っているので、別録りは行わず、外付けマイクを使用しています。ショットガンマイクロホンECM-B1Mは、音の美しさにとても驚きました。コンパクトで使いやすい点も気に入っています。このマイクは録りたい音に合わせて指向性を変えられます。通常はカメラ正面の音を収録する「鋭指向性」に、街の音や鳥の声を録るときは、前方の音を広く収録できる「単一指向性」に設定しています。
私は旅が大好きなのですが、最近は気軽に行けなくなってしまいました。そんな中でも撮る楽しみを見つけたいと思い、趣味のスパイスを使った料理や、庭で育てているスパイスを被写体に、写真や動画の撮影を楽しんでいます。みなさまも趣味を楽しむとき、傍らにαを置いてみてはいかがでしょうか。きっと、新たな撮影の楽しさに出会えることでしょう。