2021年9月 更新

染まりゆく、秋の美を捉える

季節の移ろいを感じながら、
写真の秋を楽しむ

秋が深まるほどに美しく染まる樹木。
野山が赤や黄に変わっていく光景に私たちは季節の移ろいを感じ、
古くから「もみじ狩り」としてその趣を楽しんできました。
そこで今回は、紅葉撮影で知っておきたい基礎知識と
おすすめの広角レンズを写真家 福田健太郎氏にお聞きしました。
あなたもαとともに写真の秋を楽しんでみませんか。

福田健太郎流 紅葉撮影のいろは

01 撮影計画

リアルタイムな情報を集めて、
そのとき旬な紅葉スポットへ

紅葉の名所といっても毎年同じように色づくわけではなく、その年の天候や気温によって紅葉の鮮やかさが変わります。ですからシーズンの撮影計画を事前に決めることはせず、インターネットで常に情報収集して、そのとき一番キレイな紅葉スポットに出かけるようにしています。

  • 事前に撮影計画は立てず、常に情報収集しながら旬なスポットに出かけるスタイル
  • 紅葉は北から南へ、標高の高い所から低い所へと移りながら各地で見頃を迎える
  • 9月下旬に北海道をスタートし、南下して九州まで行った後、暖かい関東平野部を最後に12月上旬まで撮影
02 撮影地での所作

撮影は早朝スタート。
服装は雨や寒さ対策も

有名な紅葉スポットなどは混雑するので、人が少ない早朝から撮影するようにしています。9月下旬といっても、山の上などは一日の寒暖差が激しく早朝は冷えこむので、一枚羽織れるダウンジャケットなどがあるといいと思います。

  • 撮影のときは、動きやすい服装を選択。靴は歩きやすいトレッキングシューズ
  • 体温を調整しやすい薄いダウンジャケットなどがあると便利
  • 雨に降られたとき用のレインコート、レインウェアも準備

晴れている日は、
太陽に向かって歩いて被写体探し

撮影地に着いたら、まずはくまなく歩いて撮影スポットを探索。晴れている日は、太陽の方向、つまり逆光方向に歩くと、太陽の光を透過した色鮮やかな紅葉を見つけることができます。また日中だけでなく、暖色の光で赤みが増す朝や夕方も狙い目です。

  • 晴れた日は逆光方向に歩いていくと、光を透過した美しい紅葉を見つけやすい
  • 日中だけでなく、暖色の光で赤みが増す朝や夕方も狙ってみる
  • 色づきや葉の状態が良くないエリアでも、谷をひとつ超えるだけでキレイな紅葉に出会えることがある
  • 鮮やかな葉だけでは平面的な画になりがちのため、幹や枝振りもチェックして構図に取り入れる
03 カメラの設定

絞り優先「Aモード」と
色鮮やかな「紅葉モード」が基本

撮影モードは基本的に「Aモード」に設定しています。また、逆光で撮影することが多い紅葉撮影では、太陽の光が眩しく液晶画面が見づらいため、電子ビューファインダーを活用し、露出などを確認しながら撮影しています。

  • 撮影モードは、基本的に「Aモード」に設定
  • クリエイティブスタイルは「紅葉」や「風景」「ビビッド」を選択
  • ホワイトバランスを「曇天」や「日陰」にして、暖色を強調することも可能
  • メリハリのある画づくりをするときは、DレンジオプティマイザーとオートHDRを「OFF」にしておく
  • ピントはAFで合わせて、不安なときだけMFに切り替えて撮影

心惹かれる紅葉を
自分自身の目で探し出す

紅葉撮影では、観光ポスターのような美しい光景を撮りたい方も多いと思います。ただ、必ずしも素敵な紅葉シーンに毎回出会えるわけではありません。そのときは諦めてしまうのではなく、自分自身の目で、心惹かれる紅葉風景を探してみてください。自分ならではのイメージを表現できれば、写真の幅が広がり、紅葉撮影をさらに楽しめると思います。

福田健太郎が選ぶ、
紅葉撮影で活躍するレンズ

広角ズームレンズ 広角描写で
空の広がりまで表現

シャッター速度1/80秒 F値8 ISO感度200

長野県八ヶ岳の山麓で撮影しているとき、ふと空を見上げると秋らしい雲が泳いでいました。そこで色鮮やかな紅葉と組み合わせられる場所がないかと散策して撮影した一枚です。うろこ雲が漂う空をしっかり見せるために、ボディは35mmフルサイズセンサーを搭載したα7シリーズ、レンズは広角で撮れるVario-Tessar T* FE 16-35mm F4 ZA OSSを選択。広い画角を生かして手前の木だけでなく奥の木々も小さく取り込み、風景の奥行や広がりを表現。さらに紅葉と枯れ木との対比を意識してフレーミングしました。

F8まで絞って手持ちで撮影していますが、レンズのシャープで抜けの良い描写と高画素なボディによる高い解像感によって、細やかな枝がつぶれることなく出ています。あまり奇をてらわずに、素直に見上げたときに感じた秋の爽やかな空気感を表現しました。また、空の青さと紅葉の色彩を際立たせるためにPLフィルターは必須です。

超広角ズームレンズ 超広角でしか
不可能なフレーミング

シャッター速度3.2秒 F値16 ISO感度200

濡れた倒木の上にはらはらと散ったカエデと、絶えず流れ落ちる滝。この対比で移ろいゆく季節と秋のわびしさを表現しました。主役であるカエデを大きく捉えつつ、背景に滝を収めるには超広角域をカバーするレンズが必要です。そこでE 10-18mm F4 OSSを使い、広角端10mmのパースの効いた表現を生かして手前を大きく奥を小さく写し、遠近感を強調。

このレンズは最短撮影距離が25cmと短く、被写体に大きく寄れるのも特徴。レンズが触れそうになるくらい倒木に近づけて撮ることでダイナミックに捉えました。広角域をカバーしているレンズの割にはコンパクトで意外なほど軽いため、奥深い山のなかでも負担にならずに撮影を楽しめます。

身近な公園の秋を表現

紅葉撮影は身近な公園や街路樹でも楽しめます。大きな公園に行けば、落ち葉が一面に広がった光景に出会えます。写真は落ち葉の上を走る長い影を、立った姿勢のままあえて撮ったもの。E 10-18mm F4 OSSで足下から写すことで、踏みしめているふかふかの落ち葉と色濃い影を印象的に捉えました。逆光に強いレンズなのでフレアやゴーストも抑えられています。紅葉越しに光を透かした表現にもおすすめのレンズです。

シャッター速度1/80秒 F値11 ISO感度200

広角単焦点レンズ ツァイスで
空気感を際立たせる

シャッター速度1/60秒 F値9 ISO感度200

秋の澄んだ空気感を表現するなら、気温が上昇する前の朝方がおすすめです。写真は日の出から1時間程経ち、光が暖色から白色に変わった頃に撮ったもの。清々しい空気感をそのまま写しとるために、クリアに描写できるSonnar T* E 24mm F1.8 ZAを選択。このレンズの高コントラストで抜けの良い描写がうまくシーンにはまりました。24mm(35mm判換算で36mm相当)の画角は人間の視野角にも近く、その場で自分が見ている風景を再現しやすい。

さらに枝の一本一本、葉の一枚一枚までしっかり解像しています。F8からF11くらいまで絞れば全面がシャープに撮れるので、とても立体感のある画になります。風景の奥行き感を出すために、右手前にも紅葉を配置。サイド光で陰影が生まれ、紅葉が鮮やかに浮かび上がる瞬間を捉えることができました。

レンズの明るさを生かして夜景撮影も

ライトアップされた紅葉は、昼間にはない趣があります。Sonnar T* E 24mm F1.8 ZAは夜景撮影でも活躍します。写真はライトに照らされて浮かび上がった美しい葉や幹のディテールを捉えた一枚。質感を大事にするために三脚を使用して、ISO200の低感度で撮影。シャッタースピードを2秒にすることで、葉の静と動を表現しました。明るい単焦点レンズなら、表現意図によっては絞りを開けてISO感度を高めれば充分手持ちでも撮影できます。

シャッター速度2秒 F値6.3 ISO感度200

広角単焦点レンズ 抜けの良さで
秋の色を深める

シャッター速度1/60秒 F値8 ISO感度800

紅葉はそのまま写しても素敵ですが、この作品ではひと工夫。水面を利用して被写体を抽象化し、色で日本の秋を感じてもらえるよう表現しました。水面の揺らぎを生かすためシャッタースピードは1/60秒に設定し、浮かぶ落ち葉にAFでピントを合わせて撮影。レンズはSonnar T* FE 35mm F2.8 ZAです。もともと35mmの画角が好きで多用しているのですが、このときは50mmくらいの画角に収めるためα6000に装着(35mm判換算で52.5mm相当)。黒が引き締まり、抜けの良い描写を発揮してくれました。コンパクトなのでα6000と合わせても500gもなく、首からぶら下げていても苦になりません。

35mmの画角をうまく生かす

こちらはα7Rに装着して、35mm本来の画角で撮影したもの。普段なら邪魔になる木立ですが、三角形の木の並びをあえて取り入れ、中央の紅葉に目がいくようにしました。距離の異なるものを効果的に入れれば、奥行き感が生まれます。また幹のディテールが写りすぎると画が散漫になりがちなので、逆光ぎみで木をシルエットのように表現。このレンズは、より強い逆光シーンでもフレアやゴーストが出にくく、紅葉撮影で活躍しやすいと思います。

シャッター速度1/60秒 F値8 ISO感度200

望遠ズームレンズ 望遠で美しい
ポイントのみを狙う

シャッター速度1/320秒 F値4 ISO感度100 シャッター速度1/320秒 F値4 ISO感度100

針葉樹に囲まれた池のほとりで見つけた小さな秋。わずかに光を浴びたカエデが風に揺れる繊細な姿を、FE 70-200mm F4 G OSSの望遠側で引き寄せました。枝葉が斜めに垂れ下がるラインを意識し、下側に空間を残してフレーミング。周囲には家屋があるため、余計なものが入らないようにする際にも望遠レンズは有効です。構図は縦や横にしながら何枚も撮影して決めました。

光を受けたカエデと影に沈む背景、その明暗のメリハリをつけるため露出補正を-0.7に設定し、葉の色や形をぐっと浮かび上がらせ、さらに高コントラストなレンズがよりクリアに描写してくれました。また背景に落ちる木漏れ日を、点光源ぼけで表現。こうしたぼけ表現を生かしやすいのも望遠レンズならではです。

望遠ズームレンズ 大口径のぼけ味が
情緒を生む

シャッター速度1/320秒 F値4 ISO感度100 シャッター速度1/320秒 F値4 ISO感度100

見事に染まったカエデの葉の美しさを、ぼけを生かしてより情緒的に表現した一枚。周囲をよく観察して、垂れ下がっている葉の形が整っているものを探し出して撮影しています。表現の要となるのがぼけ味。背景がなめらかにぼけるほど、ピントを合わせた葉っぱがより浮き上がって見えます。そのためレンズは、絞り開放でもシャープに写り、ぼけ味も美しい70-200mm F2.8 G SSM IIを選択しました。

このレンズはピントの合ったところがとにかくシャープで葉脈まで繊細に表現でき、そのわずか数センチ後ろから自然にぼけていきます。あとは手ブレに注意しながら撮るだけ。望遠ズームレンズなので、遠くの被写体を引き寄せるだけでなく、この写真のようにぼけを生かした表現も楽しめる。F2.8の明るさと、Gレンズのぼけ味は間違いなく撮れる世界が変わります。

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