2022年3月 更新
まだ見たことのない、花の美しさを発見する まだ見たことのない、花の美しさを発見する

春は多くの花々が、彩り豊かに咲きはじめます。
目を楽しませてくれる春の花も、カメラを持って少し視点を変えるだけで、
まだ見たことのない美しさに出会えます。
上手な写真を撮ろうと気負う必要はありません。
森や公園などいろいろな場所で、色とりどりの花々を楽しみながら、
自分なりの表現にチャレンジしてみてください。
お持ちのαを手に、春の花を撮りに出掛けてみませんか。
常識にとらわれない花の撮影術を、おすすめのレンズとともに
写真家 並木隆氏にお聞きしました。

写真家 並木 隆氏

写真家 並木 隆氏

1971年生まれ。高校生時代、写真家・丸林正則氏と出会い、写真の指導を受ける。東京写真専門学校(現・ビジュアルアーツ)中退後、フリーランスに。花や自然をモチーフに各種雑誌誌面での作品発表。公益社団法人 日本写真家協会、公益社団法人 日本写真協会、日本自然科学写真協会会員。

春に見られる主な花
  • 菜の花
    5月末まで見頃。小さな黄色の花が群生する情景が圧巻。
  • 代表的なソメイヨシノの満開は4月上旬。誰もが知る春の花の代名詞。
  • チューリップ
    5月上旬まで見頃。赤、黄色、ピンク、青など豊富な花の色が魅力。
  • ポピー
    5月上旬まで見頃。印象派の巨匠モネがテーマにした花のひとつ。
  • ツツジ
    5月中旬まで見頃。万葉集に歌が詠まれるほど、日本人に愛される花。
  • バラ
    春バラは6月上旬まで見頃。秋バラよりも豊かなボリューム感が魅力。
花の美しさを引き出す、3つの撮影テクニック 花の美しさを引き出す、3つの撮影テクニック
01露出補正

露出補正は、見た目ではなく
イメージに合わせる

FE 70-200mm F2.8 GM OSS, 200mm,
 F4.0, 1/1000秒, ISO640, +2.3EV

「露出補正」は、見た目に近い明るさに調整するものだと思いがちですが、私は"自分の好きな表現に近づけるため"にこそ使って欲しいと思います。たとえば、明るい写真が好きなら明るく、暗めのイメージにまとめたいときには暗くすればいいのです。ただ、実際には同じ被写体でも、背景の明るさや光の当たり方で露出は変わるので、まず±0EVで撮って基準を決めてから、自分の好みの明るさに補正していくといいと思います。この桜の写真も、実際は背景が明るいため桜がかなり暗く写るのですが、全体を淡いピンク色でまとめたかったので、その桜の色がしっかりと出るまでプラス補正していきました。

白とび・黒つぶれも
写真表現のひとつ

FE 90mm F2.8 Macro G OSS, 90mm,
F2.8, 1/1250秒, ISO4000, +2.3EV

"白とび"や"黒つぶれ"は「いけないもの」と、多くの人が思いがちなのですが、そんなことはありません。このチューリップの写真では、+2.3EVにして周りの花びらをわざと白くとばすことで、花弁の美しい造形を浮かび上がらせました。"白とび"や"黒つぶれ"は気にせず、大胆に表現することで、新しい発見があると思います。

明暗差によって、
見せたいポイントを強調する

FE 90mm F2.8 Macro G OSS, 90mm,
 F2.8, 1/6400秒, ISO640, -2.0EV

この写真では、フジの花びらに当たる強い光を表現するため、あえてマイナス補正をかけて背景を暗く落としています。このときに背景の葉っぱに露出を合わせてしまうと、花びらの色がとんで、何を見せたい写真なのか分からなくなります。"自分がどのポイントを強調したいか"に合わせて露出補正することがポイントです。

花撮影ワンポイントアドバイス

現場で露出をいろいろ
試してみること

露出補正に慣れていない方は、実際に補正値を一段ずつ変えて試してみましょう。「このシーンでこんな補正をかけたら、こういう感じになるんだな」と具体的なイメージをつかむことが大切です。露出補正のダイヤルでは−3.0EV〜+3.0EVまでですが、ファンクションメニューから選べば−5.0〜+5.0EVまで補正が可能なので、どのぐらい変化するか一度試してみるのもいいのではないかと思います。

※補正値を−3.0〜+3.0EVを越えて設定した場合、撮影画面では明るさは反映されません。記録画像のみ反映されます

02ぼけ表現

前ぼけは、
ひとつ奥の被写体を狙う

FE 70-200mm F2.8 GM OSS, 200mm,
 F5.6, 1/1000秒, ISO200, ±0EV

主役となる花の美しさを際立たせてくれる前ぼけ表現ですが、ここで大切なのが被写体選び。つい手前の花に意識がとられがちですが、手前の花の隙間からひとつ奥の花にレンズを向けてください。奥の花にピントを合わせれば、簡単に前ぼけをつくれます。あとは被写体とレンズの距離を調整しながら、理想のぼけ具合を探していきましょう。このチューリップの写真では、透過光によって美しく浮かび上がる花弁にフォーカスし、それを引き立たせるために前ぼけが淡い赤色になるよう、レンズとの距離を調整しました。

視点を変えれば、
前ぼけがつくれる

FE 70-200mm F2.8 GM OSS, 200mm, F4.0, 1/6400秒, ISO400, ±0EV
FE 70-200mm F2.8 GM OSS, 200mm,
 F4.0, 1/6400秒, ISO400, ±0EV
FE 70-200mm F2.8 GM OSS, 200mm, F4.0, 1/6400秒, ISO400, ±0EV

前ぼけをつくるコツは、一本だけ離れていたり、飛び出したりしている花を見つけること。でも、花がたくさん咲いている場所では、周りの花にもピントが合ってしまうため、ぼけをうまくつくれません。そんなときは"視点を変えて見る"ことがポイント。群生している花々も実は微妙に高さが違うので、視点を変えれば背の高い一本を見つけられます。このネモフィラの写真も、カメラの位置を花よりも低くし、背の高い一本にフォーカスすることで、手前と奥の花がぼけるようにしています。

距離を変えると、ぼけ表現は
さらに広がる

"被写体との距離を大胆に変えてみる"ことで、ぼけ表現の幅はさらに広がります。たとえばこのチューリップの写真は、被写体から20mぐらい離れ、そこに咲いていた花を前ぼけに利用しました。視点や距離を変えることで、前ぼけに使えるものは至るところに見つけられます。セオリーに縛られないで、どんどん新しい表現にチャレンジしてみてください。

FE 70-200mm F2.8 GM OSS, 200mm,
 F4.0, 1/4000秒, ISO400, ±0EV

花撮影ワンポイントアドバイス

地味に見える場所こそ、
ぼけ表現をつくる
絶好のポイント

花の撮影に慣れていない方は、どうしてもたくさんの花が咲いている場所で被写体を探しがちです。でも、実際に私が被写体を選ぶポイントは、右の写真のように周りに花があまりない場所。その方が他の被写体と距離が離れているため、前後のぼけが断然つくりやすいのです。ただ周りに花がない地味な場所なので見落としがちですが、ぼけ表現にチャレンジする際にはこういう場所で被写体を探してみてください。

FE 70-200mm F2.8 GM OSS, 200mm, F4.0, 1/250秒, ISO100, -2.3EV

FE 70-200mm F2.8 GM OSS, 200mm,
 F4.0, 1/250秒, ISO100, -2.3EV

03光の演出

質感表現は、
見た目に惑わされないこと

FE 90mm F2.8 Macro G OSS, 90mm,
 F2.8, 1/200秒, 1/50秒, ISO400, +0.3EV

花に日光が当たっている方が見た目はキレイなので、写真もキレイに撮れると思ってしまうのですが、実は質感を表現したいときには、日陰で撮影するのがポイント。直射日光が当たっている場所は色がとびやすく、バラなど花びらの多い花の場合どうしても影が強く出てしまいます。日陰であれば、明暗の差が少ないため、影が出にくく、このバラの写真のように花の色や質感をしっかりと描写することができます。

逆光を生かし、
輝く花の姿を写す

Vario-Tessar T* FE 16-35mm F4 ZA OSS,
 35mm, F4.0, 1/5000秒, ISO400, ±0EV

質感を表現したいときには、明暗差のない日陰や曇天がおすすめですが、日なたで花びらが光っている雰囲気を出したいときには、逆光で撮ることがポイントです。カメラを構えたときに、太陽が正面あるいは斜め前にある位置から撮れば、透過光によって花が光り輝く姿を撮影できます。

光の演出で、
被写体を輝かせる

FE 90mm F2.8 Macro G OSS,
 90mm, F4.0, 1/400秒, ISO800, ±0EV

光の使い方によって、被写体をより印象的な作品に仕上げることができます。このサクラソウの写真では、後ろの木々に反射する光を利用して丸ぼけをつくり、雨上がりにきらきらと輝く花をドラマチックに演出しました。大切なのは、"表現や被写体にあわせて光を利用する"ということです。

花撮影ワンポイントアドバイス

青空と花のコントラストが美しい季節

梅雨前のこの季節は青空が澄み切って美しい時期でもあり、青空をバックに花を撮影するのもおすすめです。青空を美しく撮りたいときに大切なのは、順光で撮ることがポイント。さらに花に寄り過ぎると、のっぺりとした印象になるので、花は小さめに配置した方がキレイにまとまります。

Vario-Tessar T* FE 16-35mm F4 ZA OSS,
 16mm, F16, 1/160秒, ISO200, ±0EV

花撮影の表現領域を広げるレンズ 花撮影の表現領域を広げるレンズ

マクロレンズ美しいと感じたポイントを、
大胆に表現する

FE 90mm F2.8 Macro G OSS, 90mm, F2.8, 1/800秒, ISO800, -0.7EV

シャガは花びらの形が特徴的なので、真上からレンズを向けて花全体を撮られる方が多いと思います。でもいろいろな角度から目を凝らしてみると、花びらの先端部分がクルッと丸まった可愛らしい姿を見つけました。この部分だけを際立たせようと、真横からマクロレンズで寄って、他の部分をぼかして撮影しました。背景もあえて暗いシチュエーションを選び、繊細な花弁に目がいくようにしています。

FE 90mm F2.8 Macro G OSS, 90mm, F2.8, 1/400秒, ISO640, +0.3EV

フジといえば紫色の長い房が垂れ下がる姿が一般的ですが、下から覗いたときにどう見えるのかと思って撮影したのがこの作品です。真下から房の先端にピントを合わせて撮影したのですが、蝶形花と呼ばれるマメ科特有の可憐な花の姿がそこにありました。フジは横から見るものという先入観にとらわれないで、被写体のまだ見たことのない魅力を探すことが、非常に重要だと思います。

Eマウントレンズ
(フルサイズ対応)

FE 90mm F2.8
Macro G OSS

SEL90M28G
FE 90mm F2.8 >Macro G OSS SEL90M28G

Eマウントレンズ
(APS-C対応)

E 30mm F3.5 Macro

SEL30M35
E 30mm F3.5 Macro SEL30M35

広角ズームレンズ美しい光景は、
画面いっぱいに写し取る

Vario-Tessar T* FE 16-35mm F4 ZA OSS,
 16mm, F16, 1/125秒, ISO400, ±0EV

普通はチューリップを真上から撮ると地面が写ってしまうのですが、この場所は土が見えないようにネモフィラが植えられていたので、広角レンズを使って真上から画面いっぱいに花々を取り込んでみました。ポイントは、チューリップだけでなくネモフィラもピントが合うようにF16まで絞り込み、すべての花にピントを合わせて、咲き乱れる花々の存在感を強調しました。

Vario-Tessar T* FE 16-35mm F4 ZA OSS,
 35mm, F4.0, 1/1000秒, ISO400, +1.7EV

こちらは、しだれ桜を下から見上げるように撮影した作品です。こういう場面でマクロレンズを使うと、背景はピンクと白のぼけだけになってしまいます。でも、枝から垂れ下がっている桜の雰囲気を残したかったので、広角レンズを使いあえて背景の木を入れました。広角レンズは、被写体だけでなく情景全体を切り取れるので、もし周囲の景色がキレイであれば、どんどん背景を取り込んでみるといいと思います。

Eマウントレンズ
(フルサイズ対応)

Vario-Tessar T*
FE 16-35mm F4
ZA OSS

SEL1635Z
Vario-Tessar T* FE 16-35mm F4 ZA OSS SEL1635Z

Eマウントレンズ
(フルサイズ対応)

FE 16-35mm F2.8 GM
 

SEL1635GM
レンズ

望遠ズームレンズ大きなぼけで、
花の印象を際立たせる

FE 70-200mm F2.8 GM OSS,
 200mm, F5.0, 1/125秒, ISO320, +0.3EV

花を撮影するときに、この70-200mmの画角の望遠ズームレンズはとても重宝します。広角側なら手前の花を小さく撮ることもできるし、200mmの焦点距離なら離れた場所の花も大きく捉えられます。選べる被写体のバリエーションが確実に増えます。この作品では、かたまって咲いている一重咲きのバラが印象的だったので、バラの隙間からピントを合わせ、周りに大きな前ぼけを入れることでバラに目がいくようにしています。

FE 70-200mm F2.8 GM OSS,
 200mm, F4.0, 1/640秒, ISO800, ±0EV

前後のぼけ味を大きく表現できるのも望遠ズームレンズならではの魅力。この作品では、群生している水仙を一本だけ浮かび上がらせたかったので、周囲に他の水仙が咲いていないものを選び、前後に黄色のぼけを入れられる場所を丹念に探しました。狙った水仙に前ぼけの葉っぱが被らないよう、ミリ単位で高さを変えながら撮っています。F2.8だとぼけが広がりすぎてしまうため、F4に絞ってぼけを抑えて、群生感が感じられるようにしました。

Eマウントレンズ
(フルサイズ対応)

FE 70-200mm
F4 G OSS

SEL70200G
レンズ

Eマウントレンズ
(フルサイズ対応)

FE 70-200mm
F2.8 GM OSS

SEL70200GM
レンズ

STFレンズじわっとにじみ、溶け込んでいく、
唯一無二のぼけ味

FE 100mm F2.8 STF GM OSS,
 100mm, F5.6, 1/500秒, ISO400, ±0EV

STFレンズの魅力は、背景にじわっとにじんで溶け込んでいくような、唯一無二のぼけ表現です。このクロッカスの写真では、前方と後方2つのクロッカスの丸ぼけが、主役との絶妙なバランスを保てるように撮影しました。ただSTFレンズは、普通のレンズとは全く違うぼけ方をするので扱いが難しく、このときも背景の2つのクロッカスが少しでも近づくとぼけがひとつに溶け合ってしまうため、被写体と背景の距離を微妙に調整しながら何度も撮影しました。

FE 100mm F2.8 STF GM OSS,
 100mm, F5.6, 1/250秒, ISO400, -0.3EV

春の訪れを感じるつくしを、春霞がかかったイメージで仕上げるため、STFレンズを選択しました。普通のレンズでは背景の木々が輪郭のはっきりしたぼけになってしまうのですが、STFレンズだと葉っぱや木漏れ日がにじんで溶け合い、イメージ通りのぼけが表現できました。STFレンズはぼけ描写だけでなく解像感も秀逸で、つくしの先端部分を拡大すると、胞子まで鮮明に描写していることに驚きます。やわらかなぼけとシャープな解像感の両立、それがαのSTFレンズの真骨頂だと思います。

Eマウントレンズ
(フルサイズ対応)

FE 100mm F2.8
STF GM OSS

SEL100F28GM
レンズ