草木が芽吹き、眠っていた生命が躍動しはじめる季節。
写真家の福田健太郎氏が「G Master」をはじめとしたαレンズで撮影した珠玉の作品とともに
レンズの特性を生かした撮影テクニックなど、春の風景撮影についてお話をお聞きしました。
まだ見ぬ春との出会いを、
写真で愉しむ
自然の中に小さな生命が生まれ、明るい色彩が増える、日本の春。
毎年同じに見える景色も、アングルやポジション、絞りを少し変えるだけで、
見たことのなかった新たな表情を見せてくれることでしょう。
その出会いをもっと印象的に演出してくれるもの、それがレンズ。
写す範囲を変えることで、自分が心惹かれた風景をぐっと引き出すことができます。
春は、新しい写真表現にチャレンジするのにぴったりの季節。
レンズの力を活用して、新たな発見を愉しんでほしいと思います。
写真家 福田健太郎
![写真家 福田健太郎](img/fukuda.jpg)
1973年、埼玉県川口市生まれ。日本写真芸術専門学校卒業後、写真家・竹内敏信氏のアシスタントを経てフリーランスの写真家として活動を開始。日本を主なフィールドに、「森は魚を育てる」をキーワードとした生命の循環を見つめ続けている。公益社団法人 日本写真家協会会員
春の魅力を引き出すレンズと
撮影テクニック
私は、ありのままの自然や自分が生きている今の風景を、
よりリアルに見る人に届けたいという思いで写真を撮影しています。
そのためレンズには、葉の一枚一枚まで描き出す解像性能や、
その場の空気感まですくい取る描写性能が必要だと考えています。
ここでは、私が求める性能を備えながら、
春の魅力を引き出せるレンズと撮影テクニックを解説します。
弾けるように咲き誇る、
里山の桜
小高い丘の上から一段下に咲いている桜をやや見下ろすように、背景に広がる農耕地や残雪の山並みとともにFE 24-70mm F2.8 GMで切り取りました。主題の桜と副題の背景のバランスを考えてポジションを探りながら、画面左奥に背景を取り入れた構図にしています。焦点距離は、副題をしっかり表現できる大きさを計算して、41mmに。桜の木はあえて全体を見せないことで見る人の想像力をかき立て、桜のボリューム感や弾けるイメージを演出しながら、背景の広がり感も表現しています。「G Master」レンズの優れた解像性能が、桜の花びらの一枚一枚まで描き出し、作品にリアリティーをもたらしてくれました。
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- 主題とのバランスを考慮したポジショニングと、副題の大きさに配慮した焦点距離で構図を作る
- あえて全体を見せないことで、桜のボリューム感と背景の広がり感を表現
春の陽にほほえむ、
可憐な花々
冷たい雪解け水が流れる湿原に咲く、リュウキンカとミズバショウを撮影。地面すれすれの低い位置から、花と同じ目線で見てみると、いつもとは違った小さな世界が見えてきます。春の陽光の中で、まばゆい色彩を放つリュウキンカの明るい印象を誘い出すために、主役となる花は、たっぷりと日差しを浴びている一輪を丹念に選んでいます。主役の存在感を強めるために、開放絞りで被写界深度を浅くして前ぼけと後ぼけをつくり、主役の花だけにピントが合うように角度を調節。ローアングルで奥行きを持たせることで、背景をより大きくぼかしています。「G Master」レンズのぼけは、とろけるようになめらかで美しく、主役の花をさらに際立たせてくれます。春の到来を喜ぶ花々の声が聞こえるような一枚が撮影できたと思います。
標準域で切り取る、
季節の移ろい
前景の桜、中景のヤナギの若緑、遠景の雪山で、冬から春への季節の移ろいを表現した一枚。山形県月山の川沿いの公園に咲いていた桜を、橋の上から撮影しています。標準域のレンズを使うことで、自分が美しいと思った範囲が切り取れました。平面的にならないように、空の割合は最低限に。「G Master」レンズの緻密な描写で、画面全体に立体感が生まれました。
木立が誘う、
菜の花の絨毯
ここは、秋田県大潟村。八郎潟という湖があったエリアです。群生する菜の花と防風林をFE 70-200mm F2.8 GM OSSで撮影しました。木々の並びがまっすぐに続いて見えるポジションを選び、目線の高さから水平方向のアングルで、奥に吸い込まれていくような感覚を引き出しました。この手法は、並木やビルなど直線的なラインが等間隔に並んでいる都市風景の撮影にも応用できます。ピント位置は日が差し込んでいる画面中央付近に設定し、やわらかい夕方の光と菜の花の黄色で温かみを演出。前後のぼけ描写で奥行き感も生まれました。「G Master」レンズのぼけはなめらかなので、自然な奥行きを表現できました。引き寄せ効果、圧縮効果、ぼけ効果など、望遠レンズの特性をすべて盛り込んだ一枚です。
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- 木々の並びがまっすぐ奥に向かって見える位置を探す。目線は水平に
- 前後のぼけで奥行き感を演出
- ピントは日が差している画面中央に
木と木が重なるようにして、ボリューム感を演出
並木などを撮影するとき、風景全体を収めようとすると木と木の感覚が空いてまばらに写り、迫力ある印象が弱まってしまいます。そこでひと工夫。木と木、枝と枝が重なって見えるポジションを探して撮影すれば、ボリューム感を演出できます。望遠レンズであれば圧縮効果でさらにボリュームのある印象にできます。
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ボリュームのある印象に
やわらかな風に枝垂れる、
優美な花姿
桜の名所、弘前公園の枝垂れ桜。目にとまった枝を主役にし、ファインダーをのぞきながら、主役の両サイドに脇役の枝がバランスよく配置できるポジションを探りました。背景の一本道を中央に配し、吸い込まれるような奥行き感も演出。光がやわらかだったので、花びらのトーンや階調も繊細に描写できました。露出は+1から+1.3程度に補正し、淡い色合いを表現。白とびしないように、0.3段刻みで細かく補正するのがポイントです。前後のぼけを生かして、桜の優美さを際立てた一枚。「G Master」レンズならではのやわらかなぼけ味で、麗しい姿がさらに引き立ちました。望遠ズームは、春におすすめのレンズ。マニュアルフォーカスで手前から奥へとピントをずらしながら、ぼけていく様を体験してみてほしいです。
ローアングルで生命
の力強さを表現
森の中で、太陽に向かって伸びようとする姿に生命の力強さを感じて撮影。主役のエンゴサクだけでなく、右側のエンレイソウも取り入れ、対のリズムや大小のリズムをねらっています。ローアングルで手持ち撮影していますが、FE 70-200mm F2.8 GM OSSの手ブレ補正機能が役立ちました。大きくぼける、望遠ズームレンズの特性を生かして撮影していますが、ざわつきのない、ふわっとしたぼけ味は、開放F値2.8の明るいレンズならではの効果です。
夕陽のぬくもりに包まれる、
春の情景
春の夕暮れ、駐車場の土手に咲いていたチューリップを撮影。被写界深度が深い広角レンズはぼけにくいと考えがちですが、被写体に近づくことでぼけ効果を得ることができます。FE 16-35mm F2.8 GMは最短撮影距離が28cmと短く、開放F値も2.8と明るいので、ぼけを生かした撮影ができました。土手に点々と咲くチューリップ。一本の木が立っていて、その奥にある木立の向こうから夕日が差している。そんな周りの様子まで盛り込みたくて、16mmの画角で切り取りました。撮影が難しい逆光シーンですが、「G Master」レンズは逆光耐性が高く、微妙なトーンを表現する階調再現性に優れているので、ゴーストや白とびがなく、高コントラストで豊かに描き出せました。低い位置からの逆光とぼけ描写で、ほのぼのとしたムードが表現できた一枚だと思います。
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- 主題の花との距離を詰めることで、背景をより大きくぼかす
- 背景を広く取り入れられる広角域で、点在するチューリップをより多く画面に収める
陽だまりに集い咲く、
小さな命
林の中で誰にも気付かれず、ささやかに咲く小さなカタクリ。自分も同じ気持ちになってみたくて、カタクリの花と同じ目線でとらえました。やや傾斜のある場所だったので、地面にカメラを置き、下からあおって撮影。画角の広い広角レンズで切り取ることで、林の中の陽だまりや、周りを囲む杉林など、どのような場所に咲いていたのかも伝わる一枚になりました。カタクリの花の緻密な描写と、なめらかで自然な背景のぼけ。林床の春をリアルに伝えられるのは、「G Master」レンズの優れた解像性能とぼけ描写のなせる技だと思います。
降りそそぐように迫りくる、
薄暮の艶桜
長野県飯田市の「麻績の里舞台桜」を、FE 12-24mm F4 Gで撮影。桜の手前にある柵にぎりぎりまで近づき、超広角12mmで切り取ることで、こちらへ降りかかってくるかのような勢いが表現できました。Gレンズの優れた解像性能が、花びら一枚一枚まで描き出し、作品のリアリティーをさらに高めています。撮影したのは、薄暮の時間帯のわずか10分間。刻一刻と暗くなっていく空の色と、ライトアップされた桜の色がマッチする瞬間をねらいました。桜の花は、ホワイトバランスを白色蛍光灯に設定すると、ほのかにピンクがかった色になります。空の青にも赤みが増し、独特の雰囲気を醸し出せます。
三脚とリモートコマンダーで、徹底的にブレを抑える
夕景や夜景など光量が少なくブレやすいシーンでは、三脚が欠かせません。また、シャッターを切る際のわずかな振動も影響するため、リモートコマンダーは必須です。特に、太陽や風などで表情が刻々と変化する風景撮影では、ねらったタイミングでシャッターが切れるので、セルフタイマーよりも便利です。
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どこまでも広がる、
のどかな春の解放感
澄んだ青空と白い雲、満開の梨の花、土手に咲くタンポポ。春の心地よさに誘われて、土手に腰を下ろし、のどかに日なたぼっこをするような眼差しで撮影した一枚。焦点距離は超広角の12mm。画面の外へと広がっていくような雰囲気を出せるのが、超広角のおもしろいところ。春の開放的な気分を表現するのにぴったりなレンズだと思います。超広角は遠近感が強調されるレンズなので、遠くにある被写体は、肉眼で見た印象よりもさらに小さく写ります。こじんまりとした写真にならないように、それぞれの被写体との距離に強弱をつけるのがポイントです。また、非常に広い範囲が写るので、順光で撮影する場合は自分の影が入らないように注意が必要です。
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- 被写体との距離に強弱をつける
- 超広角のパースを生かして、土手の広がりを表現
- 超広角では自分の影が入りやすいので、光の向きにも配慮
遅春に咲き誇る、
湿原の女王
青森県の八甲田の湿原に咲いていたミズバショウを撮影。森の残雪や林の緑を取り込んで、冬の終わりと春の訪れを表現したかったので、背景を広く取り込める24mmの広角レンズを選択しました。逆光気味の光と3分割構図で、気品をもってたたずむミズバショウの姿を強調しています。逆光にすることで、湿地帯を潤す雪解け水のきらめきも表現できました。開放からわずかに絞ったF2で、花だけでなく葉にもピントを合わせています。「G Master」レンズの自然なぼけ味で、周囲の様子を伝えながら、主題を際立たせることができたと思います。
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![](img/05-point_sp.jpg)
- 3分割構図と逆行気味の光で、ミズバショウの気品ある姿を強調
- 残雪と林の緑を取り込み、季節の移ろいを表現
- 雪解け水のきらめきを表現するために、逆光のポジショニングに
背景までの距離を遠くして、大きくぼかす
花などの撮影で被写体を際立たせたいとき、ズームレンズでは望遠にすることで、簡単に背景を大きくぼかすことができます。ズーム機能のない単焦点レンズでは、カメラを被写体に近づけ、さらに被写体と背景の距離ができるだけ遠くなるポジションを見つけて撮影すると、背景を大きくぼかすことができます。
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密やかに訪れる、
深い森の春
暗い森の中で、誰にも気付かれずに咲いていたヤマシャクヤク。ひっそりと咲いている雰囲気を誘い出すために、苔むした森の様子を取り入れつつ、F1.4の開放絞りで背景をぼかして、主役を際立たせました。F1.4という絞り値は、自分では想像しえない、現実から離れた空間が生まれます。異界へ誘われるかのような不思議さがあって、想像を超えるものが撮れたときのおもしろさがあります。単焦点レンズは、自分が動かなければ被写体の大きさが変わりません。だから、軽いフットワークで自由に動いて撮影したくなる衝動を与えてくれます。FE 24mm F1.4 GMは、ぼけも解像性能も優れていながら軽量なので、プラス1本のレンズとして最適だと思います。
風景撮影の必須アイテム「円偏光フィルター」で、
空の青や花の色をより鮮やかに
私たちが見ている青空は、空気中の細かい水滴や塵に太陽の光が反射し、色あせて見えているときがあります。また、晴天下の花や葉っぱには表面反射が現れ、青空と同じく、被写体本来の色で写し出せない状況があります。そんなときは、円偏光フィルターを使ってみましょう。一定角度の反射を取り除き、色鮮やかに再現できます。
VF-CPAM2