魔法劇場を舞台に繰り広げられるPlayStation®3専用アクションゲーム『パペッティア』は、3D映像表現に新たな可能性をもたらしました。ヘッドマウントディスプレイがもたらす3D体験はゲームの臨場感をどのように変えるのか。『パペッティア』とヘッドマウントディスプレイ『HMZ-T3W/T3』の開発者が、お互いの商品に注いだ情熱とともにゲームの新しい楽しさ、リアルな臨場感を語ります。
──はじめに、PS3®向けアクションゲーム『パペッティア』の魅力を教えてください。
佐藤 一信 (『パペッティア』リードゲームデザイナー):
『パペッティア』は魔法劇場を舞台に、人形に封じ込められてしまったクウタロウが地球に帰るため、魔法の月を冒険する3D立体視対応のアクションゲームです。ひとりで遊んで楽しいことはもちろん、プレイ中はいつでも協力プレイができるようにすることで、家族みんなでワイワイ言いながら遊べるゲームを目指しました。
高橋 (『HMZ-T3W/T3』画質Gp.リーダー):
ハサミを使ったアクションと、魔法劇場という舞台がおもしろいですよね。カーテンを切り裂きながら空を駆け昇ったり舞台そのものがひっくり返ったりと、ゲームのワクワクがありながらも、ハサミも劇場もどちらも現実に存在するものだから感情移入がしやすい。
佐藤 一信 (『パペッティア』リードゲームデザイナー):
物語に直接入りこむのではなく、劇場という一歩引いた視点がポイントになっています。『パペッティア』のことをよく知らなくても、劇場空間というものは皆さん体験されているものですので、すぐに『パペッティア』の世界に入っていけるものと思います。クウタロウのハサミですが、開発初期に、剣だったこともあるんです。でも、家の中で身近にある道具といえば、剣じゃなくてハサミですよね。子どもが初めて触れる刃物で、しかも大人になってからも使う道具です。世代を超えて使い方をイメージできるし感情移入もしやすい。みんなで遊ぶなら剣よりもやっぱり身近なハサミが楽しいだろうと。
──『パペッティア』は、ヘッドマウントディスプレイ専用の3D立体視モードを搭載していますよね。このヘッドマウントディスプレイ専用モードは、液晶テレビなどで体験できる3D立体視と何が違うのでしょうか?
近藤 聰明 (『パペッティア』プログラマー):
3D映像を「表示する仕組み」自体は、3D対応テレビもヘッドマウントディスプレイ専用モードも同じものです。でも、テレビは見る環境によって画面と目との距離(視聴距離)が違うことがありますよね。リビングでは壁際の離れた場所にテレビを置くことが多いですが、寝室や子ども部屋などでは目の前1メートルくらいの場所にテレビの画面があったりします。また、部屋の座る場所によっても視聴距離は変化します。3D映像は視聴距離によって立体表現の見え方が変化しますので、人それぞれに異なる視聴距離に対応できるよう、通常は許容幅を広めに取るような3D調整をしています。
それに対して『パペッティア』のヘッドマウントディスプレイ専用モードは、「20メートル先に750インチの画面がある」ことを基準に3D映像の「見え方」を徹底的にチューニングしたものです。ヘッドマウントディスプレイの場合は視聴距離と画面の大きさが常に一定なので、3Dの自然な見え方と迫力をとことん追求することができます。特に画面から敵キャラが飛びかかってくるようなシーンは、映画館や劇場と同じ臨場感を味わうことができます。
佐藤 一信 (『パペッティア』リードゲームデザイナー):
ヘッドマウントディスプレイを装着して『パペッティア』をプレイしたお客様からは「目の前いっぱいに世界が広がる」、「3D映像がテレビとは全然ちがう」といった感想をいただいています。
──『HMZ-T3W/T3』は画質モードにゲームモードを搭載しています。これはどのような機能なのでしょう?
木下 (『HMZ-T3W/T3』画質Gp.ゲーム画質設計):
ゲームモードはゲームの雰囲気を壊さずに、ゲームプレイをサポートする画質調整を適用します。たとえば、ゲームに特化したエンハンスフィルターを用いて、斜め線に目立ちやすいギザギザを抑えつつ、映像の視認性を向上させたり、パネルの駆動方式を調整することで動きの速い映像の残像感を低減させたりしています。
また、『HMZ-T3W/T3』ではヘッドマウントディスプレイ専用LSIを搭載したことで、画像処理で発生するゲームの操作と画面表示のズレ(表示遅延)を、最小1フレームの低遅延で表示することができます。まさに視覚と操作が一体となったような思いどおりの操作が可能となっていますので、きっとゲームが上手くなったような気分になれる、、、んじゃないかなと思います(笑)。
佐藤 佳祐 (『HMZ-T3W/T3』画質Gp.ゲームモード設計):
さらに、ゲームモードには「ゲーム1」から「ゲーム4」の4段階を用意しており、暗闇に潜んでいるキャラクターを視認しやすいモードとなっています。ゲームの途中で切り替えることを考えてボタンの一押しでそれぞれのモードを呼び出せるようにしました。まさに、暗視スコープのモードを切り替えるようなイメージですね。『パペッティア』は劇場の雰囲気たっぷりなので、劇場の照明の光と深く沈んだ影のメリハリを表現できる「ゲーム1」の画質モードがピッタリかな、と思います。
──そもそも『パペッティア』は3D立体視への対応をどの時点で意識していましたか?
佐藤 一信 (『パペッティア』リードゲームデザイナー):
3D対応は『パペッティア』の開発当初から考えていましたね。そのときはヘッドマウントディスプレイ専用モードまでは考えていなかったんですけど、2012年の東京ゲームショウでたまたま『HMZ-T2』に触れる機会があったんです。当時は魔法劇場の表現を研究するために、いろんな劇場に通っていたんですが、『HMZ-T2』に映し出された『パペッティア』はまさに現実の劇場の雰囲気そのままで本当にびっくりしました。3Dテレビ向けに作った映像でこれだけダイナミックに見えるのなら、ヘッドマウントディスプレイに最適化したらどうなるんだろう? どんな映像になるんだろう?と。そこからヘッドマウントディスプレイの開発者の皆さんと実際にお会いして、コラボレーションがスタートしたかたちですね。
──『HMZ-T3W/T3』開発者の皆さんは、ヘッドマウントディスプレイで初めて『パペッティア』をプレイしたときの印象はいかがでしたか?
高橋 (『HMZ-T3W/T3』画質Gp.リーダー):
私は劇場という舞台の見せ方にビックリしました。ヘッドマウントディスプレイの映像は映画館のスクリーンの見え方を意識しています。没入感を高めるアイデアのひとつとして、客席やカーテンなど映画館や劇場の様子を再現したフレームを通して映像を見るという実験をしたことがあったんです。『パペッティア』の映像は実験の見た目そのままで。自分と同じことを考えている人がいたことに驚くと同時に「これはスゴイ!」と思いましたね。
『パペッティア』の3D映像は単純に見る人を驚かせるのが目的ではなく、そこからさらに踏み込んでゲームの世界、魔法劇場を表現する手段として使っているんですね。3D映像の表現とゲームの演出、インタラクティブ性が自然なかたちで融合しているんです。だから遊んでいるうちにいつの間にか魔法劇場が現実にある、そしてそこの客席に自分が座っているという感覚になっていました。
木下 (『HMZ-T3W/T3』画質Gp.ゲーム画質設計):
現実の劇場という感覚は『HMZ-T3W/T3』の画面サイズ調整機能を使うと、さらに強く感じることができるんです。90%や80%の表示で『パペッティア』の画面を映し出すとまるで後ろの席に移ったかのように舞台が見えるんですよ。通常の100%表示がアリーナ席なら、90%でA席、80%でB席という感じで。
佐藤 一信 (『パペッティア』リードゲームデザイナー):
舞台の大きさの変化で劇場の存在感を体感できるんですね。
佐藤 佳祐 (『HMZ-T3W/T3』画質Gp.ゲームモード設計):
『パペッティア』は3Dの見え方がすごく自然というかリアルですよね。舞台の大道具の配置といい目の前でほんとうに人形劇をやっているような。だから縮小表示で小さく見えてもリアルさがなくならないんだと思います。あまりに自然すぎてプレイしている最中に「これって3D映像なんだっけ?」と思う瞬間があるくらい。それでいてボスキャラが登場するときは、画面から飛び出してくるように動いてドキッとさせられる。迫力ある3D映像とは何かがわかっているすごく効果的な見せ方で、とくに虎が襲いかかるシーンでは本当にビックリさせられました(笑)。
近藤 聰明 (『パペッティア』プログラマー):
虎のシーンは私もお気に入りのひとつです(笑)。飛び出す映像は3D映像ならではの表現ですが、目への負担を考えると飛び出し量を大きくとる、つまり迫力を出すことが難しいんです。視聴距離が一定ではないテレビでは、飛び出し量が大きいと不快に感じられる場合もありますから。しかし視聴距離が一定のヘッドマウントディスプレイなら、テレビ向けでは実現できないようなギリギリまで攻めた(笑)設定、ドキッと驚かせるような設定ができます。ヘッドマウントディスプレイならではのクロストーク(左右の映像が混ざり合って二重に見える現象)のない映像とあいまって、ナチュラルで迫力ある3D表現を追求することができました。
佐藤 一信 (『パペッティア』リードゲームデザイナー):
ヘッドマウントディスプレイとゲームはアイデアしだいで、たくさんの面白いことができる組み合わせだと思います。ヘッドマウントディスプレイは横になっても逆立ちをしても画面が常に正しく見えます。これを応用して新しいゲーム世界の見せ方を工夫したり、逆に頭の動きをなんらかのかたちで感知して視界を動かしてみたりすれば、今までにない不思議な臨場感のあるゲームが作れるかもしれません。
近藤 聰明 (『パペッティア』プログラマー):
クロストークがないこと、そして視聴距離が一定なので3D表現をとことん追求できるのがヘッドマウントディスプレイの魅力ですね。何もない暗闇に浮かび上がって見える画面は、映像に自然と集中することができます。ヘッドマウントディスプレイはゲームの世界に“いつの間に”という感覚で入り込めるのがとても楽しいですね。
木下 (『HMZ-T3W/T3』画質Gp.ゲーム画質設計):
『パペッティア』は専用モードでヘッドマウントディスプレイがもつ表現力を引き出してくれました。ゲーム好きとして、ヘッドマウントディスプレイの開発にかかわった者として、ヘッドマウントディスプレイで楽しさが増すゲームが登場したのはすごくうれしいことです。これからもゲームとヘッドマウントディスプレイがお互いに楽しさを引き出しあうような関係をどんどん築いていきたいですね。
佐藤 佳祐 (『HMZ-T3W/T3』画質Gp.ゲームモード設計):
ヘッドマウントディスプレイは目の周りを覆うことで、現実世界から切り離された映像だけに没入できる世界を作り出します。このヘッドマウントディスプレイ独特の没入できる映像空間を活かすことで、ゲームはもっとおもしろくなるのではないでしょうか。『パペッティア』は、この没入感を積極的に利用した初めてのゲームだと思います。『パペッティア』とヘッドマウントディスプレイの組み合わせには、現実を離れて劇場空間へと没入する楽しさがあります。
高橋 (『HMZ-T3W/T3』画質Gp.リーダー):
ゲーム世界に入り込む体験というと一人称視点のアクションゲームを思い浮かべますが、『パペッティア』は劇場という一歩引いた視点が新鮮です。そして現実にありそうでいて、ゲームだからこそ可能なファンタジックなシーンを再現しているのが楽しいですね。映画館の“見え方”を再現したヘッドマウントディスプレイと劇場を再現した『パペッティア』。そんな偶発的な出会いから、お互いのよさを引き出す、すばらしいコラボレーションができたと思います。
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