ディレクター・編集 山本圭一 様(ユニバーサルミュージック)/撮影 丁龍海 様(R&Y Factory)
2011年に韓国デビューし、日本国内でも人気を誇る男性アイドルグループ B1A4(ビーワンエーフォー)のミュージックビデオ(MV)『You and I』および『Choo Choo TRAIN』は、ソニーのXDCAMメモリーカムコーダー「PXW-FS7」(※以下、FS7)、さらにはその後継モデルとなる「FS7 II(マークツー)」の2台を使用して撮影されました。MV『You and I』『Choo Choo TRAIN』のディレクターを担当されたユニバーサルミュージック合同会社の山本圭一様と、撮影を担当された有限会社 R&Y Factoryの丁龍海様に話を伺いました。 FS7は、4K大判センサーを搭載したカムコーダーとして、映画やCM、ドキュメンタリーなどの映像制作現場で多くの支持を頂いている一方、FS7 IIはユーザーの方々から頂いた多くのご意見・ご要望を分析・反映し、利便性を向上させています。ユニバーサルミュージック様、R&Y Factory様とも、既にFS7を導入され、多くの作品の収録に活用されていますが、リリース直後のFS7 IIを実際の撮影現場で使用して感じた進化について語っていただきました。
2017年3月8日にリリースされたB1A4『You and I』のMV撮影は、日本各地が記録的寒波に見舞われた1月16・17日、長野県菅平高原において、夜間は−20℃という厳しい環境の中で行われました。また、1991年にCMソングにも起用されたヒット曲のカバー『Choo Choo TRAIN』のMVも同日に撮影されました。
丁氏:撮影は基本的にHD 4:2:2 10bit 24pでの収録ですが、240fpsのスローモーションシーンもあることを考慮してFS7+SHOGUN FLAME/FS7 II+SHOGUN INFERNOという組み合わせで行いました。撮影当日は寒さを覚悟していましたが、まさかの−20℃。寒さが大敵であるため、拡張ユニット XDCA-FS7にVマウントバッテリーを装着するとともに、カイロとレスキューシートでカメラを覆って保温を行いながら撮影しました。
山本氏:B1A4のユニバーサルミュージック移籍第1弾シングルとなる『You and I』は、新しい生活のスタートが曲のコンセプトで、寒冷地での撮影ながら春らしい雰囲気を出したいと考えていました。一方でカバー曲『Choo Choo TRAIN』は原曲の「雪」のイメージがあり寒冷地での撮影となったわけですが、全く印象が異なるこの2曲分のMV撮影ほか、スチール撮影などに許されたスケジュールは2日弱。非常に厳しいスケジュールで撮影を行いました。
これまで多くの撮影でFS7を使用してきた山本様と丁様。FS7 IIとの違いをどう感じていらっしゃったのでしょうか。
丁氏:FS7 IIにおける進化のポイントの1つとして、おそらくソニーが一番に挙げたいのは「電子式可変NDフィルター」なのだと考えますが、今回のMVでは照明が入っていたため、正直な話、同機能をそれほど使っていません。しかし、電子式可変NDフィルターは被写界深度を固定しながらさまざまなシチュエーションで撮影することができるため、屋内から屋外への撮影など明るさが異なる環境や、夕焼けから太陽が沈むシーンなど明暗差がある外ロケに有効で、マットボックスを使用した頻繁なNDワークや照明にコストをかけられないような映画・CMの現場はもとより、ドキュメンタリー撮影にも適していると考えています。今回の撮影はFS7とFS7 IIの2台使いでしたが、実を言うとFS7 IIの電子式可変NDフィルターにより、色が転んでしまうことはないか−−最初は不安がありました。しかし、結果的に全く問題なく、現場で安心したのを覚えています。同機能は屋内で行った『You and I』のMVでのワンシーンで、窓の外から差し込む春の木漏れ日を表現するシーンで使用し、絞りを変えずに逆光の柔らかい日差しを撮影しました。
山本氏:FS7はもともと凄いカメラだと感じていたので、FS7 IIになって、どう変わったのか、興味を持って撮影に臨みました。スケジュールに余裕がないMVの撮影には機動力が求められます。そんな中で感じたのは、FS7 IIの使い勝手の良さ。例えば、工具なしで長さが調節できるようになったグリップアームなど、ショルダー/ハンディー/三脚などさまざまなスタイルでのポジション設定が容易になっています。『Choo Choo TRAIN』でメンバーが雪と戯れるシーンは、ハンディーで撮影しました。音楽作品は視聴者に臨場感やリズムを感じてもらうため、ハンディーでの撮影が効果的な場合がありますが、演者自身のリズムも重視する必要があり、ポジション変更に時間をかけることはできません。
丁氏:グリップアームの変更でカメラマンが撮影しやすいポジションで構えることができ、機動性がさらに高まりました。また、液晶モニターの位置調整が容易になったほか、位置調整のためにクランプをゆるめた際、ビューファインダーが傾いてしまう現象もなくなりました。さらにはビューファインダーの脱着も容易になるなど、細かな部分で改善されている点が多く見受けられます。一方、FS7 II のレンズ付属モデルPXW-FS7M2Kには「SELP18110G」のレンズが付いており、メカニカルズーム機構に変更されたことで、タイムラグのないダイレクトな操作が可能になったほか、ワイド端が広くなり、倍率も前モデルの4.8倍から6.1倍に上がり非常に使いやすくなりました。また、性能についてもブリージングやフォーカスシフトをしっかり抑えられており、全体的に前モデルより大きく改善されたことが実感できます。こういった細やかなバージョンアップは、多くのユーザーの方々から意見を採り入れた改善点なのだと思います。
『You and I』『Choo Choo TRAIN』では、ガンマカーブにS-Log3を使用しています。またSHOGUN INFERNOとの組み合わせで240fpsのハイスピード撮影も行われました。
丁氏:FS7/FS7 II本体ではHDで180fpsまでのスローモーション撮影が可能ですが、今回は240fpsのスローモーションを取り入れるため、FS7/FS7 IIに拡張ユニット「XDCA-FS7」を装着し、FS RAWの240fps出力に対応するSHOGUN INFERNOを使用しました。ガンマカーブはS-Log3を採用し、現場ではオリジナルのLUTを適用し画像チェックを行っています。
山本氏: FS7/FS7 IIでの収録はHD 4:2:2 10bitを中心に行いました。編集はAdobe Premiere、エフェクトやカラーグレーディングの作業はAfter Effectsを使用。カラーグレーディングの作業については、例えば『You and I』では春の柔らく淡い感じを出すために、S-Log3収録が有効だと感じました。一方『Choo Choo TRAIN』ではゴリゴリとグレーディング作業を行っています。逆光の状態で演者をシルエット的に見せるシーンがありますが、S-Log3だと暗部を起こしやすくなります。また、キャンプファイヤーのシーンではスキーウェアがより鮮やかに見えるようグレーディングを行いました。全体の色をしめてしまうとせっかくの雰囲気をつぶしてしまうこともありますが、S-Log収録では、暗部だけを落として中間色だけを少し上げたいといった表現の幅を飛躍的に広くすることができます。PC上の後処理で色や階調を調整するという作業は、10年前では考えられませんでした。
FS7/FS7 IIの2台を使用した収録で、お二人が最大のメリットとして挙げられたのは、FS7シリーズ共通の表現力でもある4K 4:2:2 10bitの画質でした。
丁氏:FS7 IIではセンサーやチップなどFS7から変更がなく、画質に関しても変化は感じられず安心しました。10bitの画質はグラデーションも綺麗に表現され、8bitの画像と比較してバンディングに対する耐性が大きく改善することが判ります。例えばスモークを焚いて照明を当てたシーンでは、試しにデジタル一眼でも撮影してみたのですが、やはり8bitではバンディングが出てしまい限界がありました。10bitで収録することにより綺麗に表現されました。また、雪と戯れるシーンでの雪の諧調などにも10bit収録が活かされました。さらにS-Logで収録を行い、グレーディングすることにより、より良い諧調・色表現が可能になると思います。
山本氏:予算が限られるケースの多いMVではグリーンバックでの撮影機会も多いのが現状で、可能な限り色情報の多い4:2:2収録が有効です。4:2:0だとどうしても色にじみが出やすくなりますので、合成が伴う作品の場合4:2:2収録は必須だと思います。
丁氏:大判センサーのハイスペックカメラは、数年前まで大きな導入コストが必要でした。FS7シリーズは導入しやすい価格でありながら、4K 60p収録、S-Log、ハイスピード撮影、14ストップのラチチュードと優れた性能と多くの機能を持ち、カメラマンのイメージを具現化できるカメラです。FS7 IIではソニーがユーザーの意見を採り入れて多くの変更がなされ、制作向け/ENG向けという壁を越えた万能なカメラになりつつあると感じています。