株式会社 KADOKAWA 様/撮影監督 阪本善尚 様/カラリスト 森下賢一 様
CineAlta 4KカメラPMW-F55に新たに追加されたS-Gamut3.Cine/S-Log3の特性を生かしてミリオンセラー小説の世界観を4K撮影で表現。
伊坂幸太郎さんの小説「グラスホッパー」が映画化(監督:瀧本智行、脚本:青島武、撮影監督:阪本善尚、出演:生田斗真、浅野忠信、山田涼介<Hey! Say! JUMP>ほか)され、2015年秋に全国劇場公開予定です。この作品は、CineAlta 4KカメラPMW-F55に新たに選択肢として追加された色域・ログカーブであるS-Gamut3.Cine/S-Log3を使い全編4K撮影されました。
制作を担当された株式会社 角川大映スタジオ プロデューサー 杉崎隆行様に作品の概要と見どころを、撮影監督 阪本善尚様に実際にPMW-F55でのS-Gamut3.Cine/S-Log3を使っていただいた感想や評価を、カラリスト 森下賢一様にはグレーディング作業におけるメリットなどを伺いました。
なお記事は、2014年9月下旬に取材した内容を編集部でまとめたものです。
今回の作品は、120万部のミリオンセラーを記録した伊坂幸太郎さんの小説「グラスホッパー」を映画化するものです。恋人を失った気弱な元教師という主人公を生田斗真さん、個性の異なる殺し屋を浅野忠信さん、山田涼介(Hey! Say! JUMP) さんが演じます。監督は、映画「脳男」などの骨太な演出で知られる瀧本智行さん、脚本は「あなたへ」で日本アカデミー脚本賞優秀賞を受賞した青島武さんが担当。この豪華なキャストとスタッフで映像化するもので、心に闇を抱えた男たちが交錯するサスペンスストーリーをPMW-F55の新しい色域・ログカーブを使って4K撮影で表現している点も、作品の見どころの一つとなります。
まだ撮影中という段階ですが、2014年10月末にクランクアップし、2015年2月よりグレーディングなどの後処理、仕上げの作業に入り、同年秋に全国劇場公開予定となっています。
PMW-F55を2台使用して撮影。基本的にXAVC 4Kで撮影し、合成が必要となるシーンの撮影では4K RAWで撮影、収録を行っています。
撮影にCineAlta 4KカメラPMW-F55を採用、新たに追加された色域とログカーブ「S-Gamut3.Cine/S-Log3」を使って原作「グラスホッパー」の世界観を表現。写真右が瀧本智行監督。
今回の撮影でPMW-F55を使い、新しい色域・ログカーブとして2013年末にリリースされたS-Gamut3.Cine/S-Log3を採用した理由には少し長い経緯があります。もともとフィルムに固執して撮影に臨んできましたが、同時にフィルムがいずれ終焉を迎えるだろうと認識もしていました。そこで、デジタルシネマ制作においても、何とかフィルム画質は残していきたいと考え、積極的にデジタル制作に関わるカメラメーカーにも要望として伝えていこうと考えていました。
ソニーのCineAltaシリーズではS-Gamutという広い色域やS-Log、S-Log2というガンマカーブがカメラに実装されるようになり、中でもS-Log2は高感度、広いダイナミックレンジを有効に生かすガンマカーブとしてテレビドラマやドキュメンタリー、あるいは劇場用映画においても内容によっては威力を発揮するものと評価していました。
しかし、色再現やフィルムエミュレーションとの親和性について改善希望があり、撮影監督の立場から要望として伝えました。代表的なものがフェイストーンです。デジタルの特長はリアルな色を再現できる点ですが、劇映画はフューチャーと呼ばれるように現実の再現ではないのです。これは私感ですが、フィルムで再現する色は「記憶色」で、観る人に心地よさを与える色を追求し進化してきました。映画では出演者の演技や表情が重要な役割を担うため、あまりにリアルなフェイストーンだと、演技が台無しになってしまうこともあり、やむなく顔の部分だけマスクを切って調整することも少なくありませんでした。特に昨今は、男優陣を中心にノーメイクで演じることも多く、フェイストーンの再現性はより重要なファクターとなっています。
S-Gamut3.Cine/S-Log3という色域、ログカーブは、S-Log2よりさらにCineonデジタルネガティブをベースに設計されています。色再現もフィルム撮影のネガフィルムをスキャンしたものに近づいており、こちらの要望に的確に応えてくれました。瀧本監督からも小説のシリアスな空間とは異なる、現実から少し離れた映像空間を構築したい、そのため暗部の再現性に注力した画づくりをしたいと要望がありましたが、それにも応えられるだろうと判断しました。
また、S-Log2の拡張版ではなく、独立した選択肢として用意された点も評価しました。カメラで撮影可能な最大色域をキャプチャーし、デジタルネガティブとして記録できるS-Gamut3.Cine/S-Log3と合わせ、用途や目的に応じた選択の幅が広がりました。
PMW-F55のS-Gamut3.Cine/S-Log3を使った映画撮影は、2月にクランクインした別の作品でも使用しました。農夫や漁師の暮らしを追った作品ですが、日焼けした表情も違和感なく捉えることができました。カメラテストではなく、実際に作品を撮影することで可能性の高さと表現力を実感することができ、今回の作品でも安心して撮影に臨むことができました。
撮影は基本的にXAVC 4Kで行い、合成が必要となるシーンは4K RAWを使用しました。4K撮影は今後のデジタルシネマ制作のスタンダードになるのではないかと考えています。最終的に2K DCPで仕上げる場合でも、情報量が多いので表現に幅と余裕があります。フェイストーンで言えば、豊富なサンプリングの結果なのか、艶になって現れる印象がありました。過去の名作映画のネガフィルムを4Kでスキャンして再リリースするといった動きもありますし、個人的には48コマ上映が規格化されたら、さらに4K上映が浸透すると期待しています。
スロー&クイックモーション撮影機能、あるいはローリングシャッター歪みやフラッシュバンドのないクリーンな映像表現が可能なフレームイメージスキャン機能などPMW-F55ならではの特性も、銃撃シーンなどアクションの撮影で威力を発揮してくれました。
S-Gamut3.Cine/S-Log3については、スキントーンに象徴されるフィルムライクな、観る人に心地よさを感じさせる色の再現性など、要望に応える表現力を得ることができたと好評です。
本作品はまだ撮影中ということもあり、グレーディングをはじめとするポストプロダクション工程は年明けから本格的にスタートすることになります。ただ、S-Gamut3.Cine/S-Log3を使った素材はすでに別作品で体験済みであり、その特性、メリットを十分に感じているので、本作品においても期待感には大きなものがあります。
一番の魅力は、カラリスト特有の表現でもあるのですが「触りやすさ」です。言い換えると「無理が効く」と言ってもいいのですが、たとえばグレーディング作業ではイメージに近づけるためにレイヤーを重ねていくことがあります。その工程において、画質が粗くなりデータが破綻することも少なくありません。その点、無理が効いて触りやすいので、ストレスを感じることなくクリエイティブな作業に集中できます。
たとえば、明るい部分を飛ばしたくないため、あえて暗く撮るといったケースがあります。こうしたシーンではグレーディングで暗部を持ち上げる作業を行いますが、S-Gamut3.Cine/S-Log3の素材だとかなり持ち上げたつもりでも破綻することがありません。しかも柔らかい印象はそのまま保つことができるといったメリットがあり、演出イメージを損ねることもありません。また、フェイストーンについても色や感じが欲しいと思う所に来ている印象があり、フィルムの時と同じような感覚で作業できます。今回の作品では重要なテーマの一つとなる点でもあり、有効に生かせるのではないかと考えています。
こうした特性、メリットは、Cineonデジタルネガティブをベースに設計された点や、色域がDCI-P3よりも広く設定されたこと、暗部の階調表現がさらに豊かになったことなどが反映された成果だろうと思っています。また、従来のデジタルシネマカメラでは、グレーディング作業時にカメラセンサー特有のクセを補正する必要がありましたが、PMW-F55のS-Gamut3.Cine/S-Log3ではそうした点を意識することなく、フィルム素材のグレーディングと同様の感覚で作業できる点も大きなメリットだと思っています。
今後、2015年秋の全国劇場公開に向けて、グレーディングや編集作業が本格化していきます。ぜひ、劇場で作品を楽しんでいただくとともに、PMW-F55による映像美も堪能していただけたらと思います。
試写室での杉崎様と阪本様。中央は今回の作品制作をサポートしている株式会社 角川大映スタジオ プロダクション事業部 企画制作課 新井宏美様。
株式会社 角川大映スタジオ
プロデューサー
杉崎隆行 様
撮影監督
阪本善尚 様
カラリスト
森下賢一 様