株式会社 IMAGICAウェスト 様/株式会社 松竹撮影所 様/撮影監督 南野保彦 様
CineAlta 4KカメラPMW-F55を使って4K/RAWの高精細な映像とパラレルRECの効率的なワークフローを両立。
2014年5月23日より、毎週金曜にNHK BSプレミアムでオンエアされたBS時代劇「妻は、くノ一〜最終章〜」(原作:風野真知雄、脚本:金子成人、出演:市川染五郎、瀧本美織ほか、制作統括:NHKエンタープライズ/NHK、プロデュース:松竹、全5話)は、全編をCineAlta 4KカメラPMW-F55を使って4K/RAWで収録され、ハイビジョン放送されています。
このドラマの制作に携わった株式会社IMAGICAウェスト様、株式会社松竹撮影所様、そして撮影監督の南野保彦様に、PMW-F55採用の理由、運用の成果、今後の活用予定などを伺いました。
なお記事は、2014年4月中旬に取材した内容を編集部でまとめたものです。
今回の連続ドラマは、2013 年6 月にNHK総合でオンエアされ好評を得た「妻は、くノ一」の続編として企画・制作されました。前シリーズでも、ハイビジョン放送に合わせて最終的にはHD完パケしましたが、撮影・収録には4K/RAWを採用しました。これは、立ち回りや忍者特有の動きを表現するためにCG合成やVFXシーンが多く、後処理でのグレーディングや合成、あるいはHDリサイズなどで4K/RAW収録が有効だと判断したからです。
今回のシリーズでも、この4K/RAW収録の利点は踏襲したいと考えましたが、克服する課題としてワークフローの改善がありました。実は、前シリーズで使用したカメラは4K/RAWを選択すると、それ以外のフォーマットでの収録はできず、オフラインメディアの作成など後処理工程が複雑かつ多岐に渡り、そこにかかる労力や経費、スタッフの負担が大きくなりました。納品までの時間、バジェット、人員や素材管理などに制約のある連続ドラマの制作では、効率的で安定したワークフローの確立が必須要件となります。
そこで注目したのが、HD/4Kの多彩なフォーマットに対応するとともに、パラレルレコーディングも可能なPMW-F55でした。これならRAWレコーダーAXS-R5で4K/RAW収録を行い、同時に本体のメモリーカードにHD収録することが可能となり、わざわざオフライン用にメディアを作成する必要がなく、効率的なワークフローを構築できると考えました。早速、撮影監督やソニーの担当者の方とファームウェアの確認やテスト撮影と検証作業などを行い、クオリティーの確保とワークフローの改善を両立できるカメラと判断しました。この結果を受けて、PMW-F55を1台導入し、今回の連続ドラマの撮影・収録に活用しました。
撮影テストやファームウェアの状況、機能・使い勝手を慎重に検討され、マルチフォーマット対応、パラレルREC、ハイフレームレート記録などを高く評価されて導入を決定。今回のドラマ撮影で活用されました。
今回の撮影では、本編用に4K/29.97pでRAWレコーダーAXS-R5で収録を行い、同時に本体のメモリーカードにMPEG HD422/29.97pで同時記録しました。PMW-F55は14stopの広いラチチュード、基準感度ISO1250という高感度が大きな魅力です。今回の撮影においては、この余裕のあるラチチュードを生かし、EI値をISO800に設定。High(高輝度)側に十分なダイナミックレンジを残しつつ、Low側(暗部)にラチチュードに余裕を持たせる形で、より良いS/Nを意識した撮影を行えました。
芝居のシーンでは基本的に1カメで、立ち回りなどのアクションシーンでは2カメで撮影しました。レンズは、ALURA ZOOM 45mm〜250mm/18mm〜80mmをメインで活用し、狭い場所での撮影など状況に応じて11 〜 16mm のソニー製ズームレンズSCL-P11×15や、単焦点レンズも一部使用しました。
4K/RAWとMPEG HD422のパラレルRECを採用。RAWファイルは本編用としてグレーディングマシンに、メモリーカードはオフライン編集用として編集部に渡すことで、効率的なワークフローを実現。
撮影現場でのモニタリングには709(800%)を使用しましたが、それでもPMW-F55の高画質は実感することができました。最も印象に残っているのは、ナチュラルな画質です。画に特有のクセが無く、撮影時の現場のイメージを損なわず印象のままに撮影できる素直なカメラだと思いました。後工程では演出意図に沿った画作りも必要ですが、その際にも生きてくると思います。
もう一つは、色再現性の良さです。今回の作品でもお姫様が次々に衣装替えするところを次々とインサートするシーンがあるのですが、和服の微妙な色やグラデーションも非常に素材の色が自然に残っており、また高精細感が素材の質感を綺麗に残してくれました。この点も、作品性の向上に寄与してくれる点ではないかと思いました。
スロー&クイックなどの機能も印象的な映像表現に効果的であると好評を得ました。
PMW-F55を導入した決め手のひとつとなったのは、スロー&クイック機能とローリングシャッター歪みやフラッシュバンド歪みのないフレームイメージスキャン機能です。今回の作品でも、芝居のシーンでスローモーションを、立ち回りなどのアクションシーンではコマ数を自由に設定したクイックモーションを有効に活用しています。スロー&クイックの素材も現場で簡単にプレイバックできるため、監督、アクション監督の意志疎通が大変スムーズでした。また、時代劇においては雨や雪、雷のシーンがあるのですが、このようなシーンでパンをしても画が流れないのは大変強みで、フレームイメージスキャン機能が活躍しています。何より、そうした心配をせずに撮影できる点が撮影チームにとっては最大の利点です。
今回のドラマ撮影やテスト撮影を通してPMW-F55運用のノウハウを蓄積し、次の作品撮影に向けた準備も着々と進められています。株式会社松竹撮影所撮影部の山本翔太様(写真;右奥)も今回のドラマ撮影でも撮影助手として参画されたお一人です。
本編用のRAWファイルは、オフライン編集後にEDLでコンフォームし、リアルタイム再生可能なグレーディングシステムで色調整を行います。白マザー作成後、オンラインでCG合成などを行い、完パケ作成という手順をとっています。現場で709(800%)でのモニタリングだったので、ノイズの見逃しといった不安がありましたが、杞憂でした。信頼性の高い収録ができるカメラだと評価しています。
今後も、4K/RAWはもちろん、XAVCなどのテスト、検証作業を行って制作サイドへのさまざまな提案とアプローチを行っていきたいと思っています。たとえば、ハイエンドのコンテンツ制作で実績と評価の高いHDCAM-SRと同じコーデックを使いながらファイルオペレーションが可能なMPEG-4 SStPフォーマットの活用もその一つです。オフライン用も本編用も、同じフォーマットの素材を使えることで、ドラマなどのハイクオリティーな作品制作を、さらに効率的に行うことができるのではないかと期待しています。