株式会社 WOWOW 様
人気鉄道紀行番組の4K制作にCineAlta 4KカメラPMW-F55とともに、XDCAMメモリーカムコーダーPXW-Z100をマルチコプターに搭載した4K空撮を活用。
(左)技術局 制作技術部 エグゼクティブ・エンジニア 篠田成彦様
/(右)同 技術計画部 リーダー 奥野俊彦様
WOWOWプライムで2014年3月8日・9日に放送される「Railway Storyスペシャル 東北復興の鉄路を行く」は、4K/60pで制作されました。撮影には、本編収録用にCineAlta 4KカメラPMW-F55を採用するとともに、マルチコプターにXDCAMメモリーカムコーダーPXW-Z100を搭載して4K空撮に活用されています。
技術局 制作技術部 エグゼクティブ・エンジニア 篠田成彦様、同 技術計画部 リーダー 奥野俊彦様に、主にPXW-Z100採用の目的や決め手、運用状況、番組としての見どころとともに、使用した上での評価や今後の可能性などを伺いました。
「Railway Story」は、1990年のWOWOW試験放送から放送されている長寿番組。世界各国の鉄道旅を通じ、それぞれの国・地域の人気観光地や雄大な自然風景、そして歴史・文化・風土を美しい映像で紹介しており、鉄道ファンのみならず多くの視聴者に愛されている人気番組。2014年3月8日・9日にWOWOWプライムで放送される「東北復興の鉄路を行く」は、復興に向けて歩み続ける東北を舞台に、Part-1「粘り強き会津の心を感じて」、Part-2「おくのほそ道を旅して」、Part-3「みちのく文学の故郷を訪ねて」、Part-4「絶景の三陸海岸に沿って」の4回に分けて、合計12路線に乗車して会津若松から青森までを縦断し、東北の楽しさと美しさを4K制作による高精細な映像で仕上げ、デジタルハイビジョン放送されるスペシャル版。
当社では、現在CineAlta 4KカメラPMW-F55を2台保有しており、4Kコンテンツ制作にも積極的に活用を始めています。これは、基本的にはNexTV-F(次世代放送推進フォーラム)のメンバーとして、4Kコンテンツの企画・制作、配給することを目的としていますが、常に新しい技術や可能性に意欲的に取り組んでいこうというWOWOW創立以来の社是、社風を反映したものであるとも言えます。4Kや60pといった次世代放送フォーマットの特長、魅力を生かせるコンテンツを創っていきたいという思いが込められています。
その一つが、ドラマ制作です。たとえば、2013年11月にオンエアした「ドラマW チキンレース」もPMW-F55を使って4K制作した作品でした。平成25年度文化庁芸術祭優秀賞、ギャラクシー賞2013年11月度月間賞を受賞するなど、高い評価を受けたドラマでした。もちろん、企画・脚本、演出、そして演じる方々の素晴らしい演技があっての評価ですが、PMW-F55の高感度・高精細、広い色域、ラチチュードなどの表現力も、ダウンコンバートしたハイビジョン放送の中でも生きていたのではないかと思います。
制作サイドが、次の4K制作のターゲットとしたのが紀行番組で、当社の長寿番組の一つであり、大勢の視聴者に愛されている「Railway Story」という番組でした。PMW-F55を使用することを前提として企画されましたが、新しい試みにチャレンジしたいという要望もありました。そこで技術として提案したのは、登場して間もなかった4K/60p収録ができるXDCAMメモリーカムコーダーPXW-Z100と、すでにコンサートライブやテニストーナメントなどで運用実績のあるマルチコプターとの組み合わせによる4K/60p空撮でした。PMW-F55の高精細、かつ滑らかな映像美に、鳥瞰的なダイナミックな映像を加えることで、より魅力的な番組を視聴者に提供できると判断しました。
地上から150m程度の高度で、いわゆる鳥瞰的な映像を収録するには、モーターパラグライダーなどを使う方法もあります。カメラマンが自ら撮影できるメリットがありますが、残念ながらホバリングができません。移動とホバリングができるのがマルチコプターで、当社では新進気鋭のベンチャー企業であるNSi真岡さんと共同で、民生用ハンディカムHDR-PJ630Vなどを搭載し、FPU(放送用無線映像伝送装置)でHD生中継出来る機体を共同開発して、ライブなどの空撮に活用してきました。このマルチコプター運用時の課題は、重量、サイズ、それと関連する飛行時間です。
今回、PXW-Z100を搭載して4K/60pの空撮を実現するために、新たな機体設計を行い、カメラとともにジンバル、制御CPU、モーター、そしてバッテリーを搭載して約12、3分の飛行が可能な機体を完成することができました。限られた時間の中で、まして登場して間もないPXW-Z100を使用するということで苦労も多かったのですが、マルチコプター開発陣の経験とノウハウ、そしてPXW-Z100のコンパクトで軽いハンディカムコーダーという特性があってこそ実現できたと思っています。
事前にテスト飛行、テスト収録を行い、番組ディレクターと映像イメージや画づくりの打ち合わせを終えた後、東北12路線の列車や地域の風土、自然、祭事などをPMW-F55で収録するメインのクルーと別に、独自に太平洋岸の各地、合計5ヶ所で撮影を行いました。現地の環境合わせてテスト飛行や、リハーサルを通して、パイロットとカメラマンとの連携強化も図りました。それでも機材の運搬や天候の影響で、ほぼ一発勝負での本番撮影といったケースも少なくありませんでした。スタッフはもちろんですが、パイロットも務めてくれた機体開発陣、そして地元の方々の協力もあって、大きなトラブルもなく、収録を終えることができました。
撮影は、全編をフル4K(4096×2160)、60pで行っています。PXW-Z100は2つのXQDカードスロットを搭載しているので、64GBのXQDカードを2枚用いて最長約20分の収録が可能ですが、今回のマルチコプターの飛行時間に合わせて1回の飛行で約10分の収録を行いました。八戸、久慈、宿戸、松島など5ヶ所で、合計100分ほどの空撮映像を撮ったことになります。収録後すぐにロケバスでノートPCからソニー製HDD PSZ-HA1T にバックアップを取りました。USB3.0対応で高速かつ安定したコピーが可能で、すぐに次の撮影のためにXQDカードをフォーマットすることができました。
飛行時間などの制約から、安全第一を前提に、カメラの設定はオートアイリス、オートフォーカス、画角は30.0mmのワイド端に固定して撮影しました。機体から無線で送られてくる飛行制御用のコンポジットの画を見ながら、雲台のパン・チルトを遠隔操作しました。メインのPMW-F55がS-Log2を使用しているので、質感をなるべく合わせるためにCinematoneガンマを使用しています。特に、松島海岸の撮影では、飛行時間を有効に活用するため、パイロットとカメラマンが別の小舟に乗って離れた地点から操作しています。事前に綿密なリハーサルや画のイメージの打ち合わせを行って対応しましたが、通常の撮影とは異なる難しさがあったことは事実です。
しかし、4K/60pによる空撮という新しい可能性へのチャレンジ、そして期待の大きさはそうした苦労をはるかに上回るものでした。PXW-Z100は、4K解像度出力に対応したHDMI端子を搭載しているので、撮影現場やホテルで30型業務用4K液晶モニターPVM-X300で素材チェックを行いました。これにより、三陸海岸に沿って走る八戸線の列車の風景や、松島の絶景を4K/60pならではの高精細、かつ滑らかな映像、そして空撮独自のダイナミックな視点、アングルを確認することができました。スタッフ間のイメージ共有、クリエイティビティー向上にも寄与してくれたと思っています。
また、松島海岸の撮影では、空撮以外にハンディスタイルでも運用しています。松島復興のシンボルの一つとなっている牡蠣の加工工場の取材もPXW-Z100で行っています。この時には、フルマニュアル操作で、光学20倍の高倍率ズームも有効に使っています。ホールド感や操作性、液晶パネルの見やすさなど、これまで使い慣れたPMW-EX3などソニー製ハンディカムコーダーの使い勝手の良さを踏襲しており、非常に使いやすく、撮りやすいと感じました。
PXW-Z100の画質や表現力、あるいは機能等については、選択肢も限られる状況でもあり、今後の運用を通して、時間をかけて検証・検討すべきテーマだと思います。このカムコーダーについて、いま最も評価すべきは、このサイズと重さ、使い勝手、そして価格で4K/60p撮影を実現したメモリーカムコーダーであるという点です。今回、当社が導入を決めた一番の理由もそこで、新しい可能性にはチャレンジしていきたいという意向に沿ったものです。今回のような4K空撮といった特殊撮影だけでなく、ライブでの客中やステージ上といった大きなカメラや人が入れない場所での4K収録にも使えます。実際、すでに演劇の撮影等で稼働もしています。幅広い4K/HD撮影に活用したいと思っています。
技術サイドから制作への提案、プロモーションも積極的に行っていく予定です。実際、今回PXW-Z100で撮影した素材のサンプル映像を作って、社内にプレゼンテーションしていくつもりです。このコンパクトなカメラで、4Kの高精細な画やハイフレームレート60pでの自然で滑らかな質感の映像が撮れる点をアピールして、ドラマや紀行番組に続く、より多彩な4Kコンテンツ制作、番組の充実にも貢献していければと考えています。もちろん、通常のHD制作においても、用途・目的に合った運用を提案していきます。
株式会社WOWOW
1990年に日本初の有料放送を行う民間衛星放送局として開局。現在、日本を放送対象地域とする衛星基幹放送事業者として、BSデジタル放送で「WOWOWプライム」、「WOWOWライブ」、「WOWOWシネマ」のハイビジョン3チャンネル放送を実施。「見るほどに、新しい出会い。」のコーポレートメッセージにふさわしい、映画・ドラマ・音楽・演劇・スポーツなど幅広い、魅力的な映像コンテンツを契約視聴者に提供し、好評を得ている。