監督 熊澤尚人 様/撮影 鍋島淳裕 様
PXW-FS5の機動性、カラーバランスの良さとハイコストパフォーマンス
S-Log3/S-Gamut3の素晴らしさをカラーグレーディングで実感
ヴォーカル、ヴィジュアル、全てにおいてプレミアムな6人組アイドルグループVIXX(ヴィックス)の日本オリジナル3rdシングル『花風(はなかぜ)』のミュージックビデオ(MV)は、ソニーのXDCAMメモリーカムコーダー「PXW-FS5」を使って撮影されました。監督は爽やかな青春映画を得意とする熊澤尚人様、撮影は幅広いジャンルの映画撮影を手がける鍋島淳裕様が手がけています。ともに映画を主戦場とする監督とカメラマンのコンビにより、さまざまな“想い”を包み込んでいくようなソフトな世界観で、より“映画的”なMVとなっているのが特徴です。「新しいカメラを使うのはワクワクする」「特にカラーバランスの良さを実感した」という熊澤様と鍋島様にPXW-FS5の魅力などについて伺いました。なお、このミュージックビデオは6月29日発売のCD『花風』初回限定版Aに付属されるDVDにメイキング映像とともに収録されています。
[CAST] VIXX / 川津明日香
[STAFF] プロデューサー:渡辺和昌 / 監督:熊澤尚人 / 撮影:鍋島淳裕 / 照明:鹿毛 剛 / 美術:小林美智子 / 衣裳:宮本まさ江
ヘアメイク:金 慶姫 / 助監督:宮下健作 / 制作担当:三上慎一
熊澤尚人様 監督
『花風』MVの企画・演出ポイントについて、監督の熊澤様は「これまでのVIXXのMVは、ファンタジックだったりエキゾチックだったりと、現実とはかけ離れた、いわゆる“アイドル”的な映像が多かったのですが、今回は、より映画的に、なおかつリアルな方向でMVを作りたいという要望だったので、カメラマンは映画を中心に撮影している鍋島さんにお願いし、“日常感とリアル感”をポイントに色を探ってもらい、ソフトな感じに仕上げたいと思いました」と話しています。
通常のMV制作は、楽曲や歌詞の世界観を映像で表現していくケースが多いのですが、今回は熊澤様に監督のオファーがあった時点で、まだ曲、歌詞とも完成しておらず、タイトルも決まっていなかったといいます。
熊澤監督「まずVIXXのメンバーを紹介され、前作『Depend on me』を見ただけで、本当に何もない状態からスタートしました。でも、私にオファーするからには“映画的”にしたいのだろうという思いに応えるべく、ほのかな憧れ、ステキという気持ちが強くなった恋心など、日常的にどこにでもあるさまざまな“想い”を優しく見守っているような映像のアイデアをプロデューサーやレコード会社に提案し、GOが出ました。これも1つのミュージックビデオのあり方なのかな、と感じています」
鍋島淳裕様 撮影
鍋島様は劇場映画を中心に撮影をされていますが、PXW-FS5やソニーAマウントレンズによる撮影は初めてだったといいます。
鍋島氏「撮影にあたって、まず監督のイメージに合うカメラは何かを考えますが、今回は、現場のさまざまな制約や撮影スケジュールなどを考え、プロデューサーから提案されたPXW-FS5での撮影に挑戦してみようと考えました。また、これまではスチルカメラのレンズを使った動画撮影のチャンスがなかったのですが、使ってみると、普段使っているツァイスレンズの柔らかさとは違った感触、すごく切れ味が良く、肌触りが爽やかでした。現場でビューファインダーを見ていた時はわからなかったのですが、カラーグレーディング時にモニターで画を見た時には新鮮な驚きがあり、スチルのレンズも良いなと思いました」
『花風』の撮影は4月下旬の2日間、千葉県木更津市のカフェと、流山市の江戸川大学を中心に行われました。特に大学キャンパス内は車で移動できないため、図書館や大講堂、街路樹の並ぶメインストリートなど移動の連続でしたが、小型・軽量で機動力が高いPXW-FS5の特長が生かされたといいます。
鍋島氏「撮影スタッフが少なく、しかも大学キャンパス内での小さな移動がすごく多かったので、0.8kgという軽さは非常に役立ちました。今回はフィックスですごく落ち着いた、ちょっと大人な感じの撮り方をしており、ハンディでの撮影は少なかったのですが、カメラを動かすような撮影ではその使い勝手がさらに生きるのではないかと思います。また、カメラが小さいことで、実景や風景などが一番良い光の時にすぐ撮れるメリットがあります。カメラマンにとってこの“すぐ撮れる”ことが非常にありがたいこと。モチベーションがグーンと上がります。良い光を逃さないという意味でも、私はこのくらいの大きさ・軽さのカメラが好きなんです」
収録はXAVC HD フォーマット、よりフィルムに近いトーンのS-Log3とS-Gamut3が採用されており、S-Log3収録によるラチチュードの広さを感じたと言います。
鍋島氏「ラチチュードの広さは、Rec709をあてたオフライン素材の段階でも感じていました。完パケではトーンを大きく変えていますが、元素材には情報が残っているので、ラチチュードに関するストレスはありませんでした。喫茶店のシーンなどは窓をバックに人物を撮っています。今回は、メンバーが女の子を見てちょっと眩しいというか、キラキラと輝いて見えるような印象にしたかったので、あえて窓の外の情報をなくすよう仕上げていますが、素材には窓外の情報が残っている一方で、喫茶店内の木目調の装飾部など、暗部も残っており、暗部の表現力は見事でした」
“色”に関しては、カラーグレーディングにおける色調整を最重視したといいます。
鍋島氏「現場での画像チェックはS-Log3の状態で行い、熊澤監督には演出に集中していただきました。準備期間が十分にあれば、テストを行っていくつかのカラーイメージを作成し、監督のイメージに近いものを選んでいただき、撮影現場ではそのLUTをあててチェックすることが理想です。今回は、色に関しては全て後処理で調整することにしました。ただ、PXW-FS7のように現場でモニター出力にLUTが当てられる機能がカメラにあると便利ですね」
熊澤監督 「オフライン編集はRec709をあてた素材で行いました。オフラインで見たものとグレーディング後では全く別モノですね。S-Log3で撮って、グレーディングするとこんなに良くなるのか!と実感しました」
カラーグレーディングにあたっては、鍋島様はオフライン編集の素材を見ながらイメージを聞いた上で、鍋島様としてのイメージをグレーダーに伝え、色を決めたといいます。
鍋島氏「撮影日は晴れたり曇ったりとハッキリしない天気でした。監督が求める“透明感”のある感じにするため、どんよりとした感じを、カラーグレーディングによってかなり優しく、柔らかくしたいと思い、通常のテレビで使用するコントラストよりもかなり柔らかくしています。その分、色の発色が落ちるので、サチュレーションを上げて、恋愛の感情にマッチするような“みずみずしいトーン”に仕上げました。また、柔らかさの中でも最暗部の黒が浮かないよう、黒は非常に強くしてもらっています」
また、MVのクライマックスとなる、メンバーの1人と女の子がすれ違うシーンや、2人が自転車に乗るシーン、雨が降るシーンでは、90fpsと120fpsのハイスピード撮影が行われています。
鍋島氏「ハイスピードもいい感じで撮れました。キレイでスムーズ、何のストレスもありません。今回の作品ではドラマチックなアクセントになるようなカットでハイスピードを使っているので、すごく気持ちの良い使い方になっていると思います」
また、内蔵の可変フィルターも効果的に使用しています。
鍋島氏「感度が高いISO 3200の設定で撮っているオープンの時や、細かい調整、深度調整の時にいいですね。ただ、今回はノンフィルターから一番薄いフィルターまでにもう一段階欲しいと感じました。それ以外はすごく使いやすかったですね。また、「超解像ズーム」は使用していませんが、砂漠などで「今一番いい光だ!」という瞬間には使ってみたいと思うかも知れませんね」
また、鍋島様はPXW-FS5の印象に残ったポイントとして、操作性の良さとカラーバランスの良さを挙げています。
鍋島氏「NDフィルターの位置やファインダーをのぞきながら絞りが調整できる点が気に入りました。また、カラーバランスが本当に良いと感じました。今回はグレーチャートなどを使ってキチンと調べてはいませんが、被写体を撮った感じのカラーバランスが気持ちよく、ノンストレスの撮影ができました。「この色が強すぎる」といったこともありませんし、グレーディングでも「この色をいじると別の部分が持ち上がってしまう」といったバランスの崩れは感じません。あの小さなカメラなのに素晴らしいなと思いました。フェーストーンも、気持ちの良い肌の色と、ちょっと触ると弾むような感じのみずみずしさが表現できました。レンズとの兼ね合いもありますが、PXW-FS5のカラーバランスの良さが大きかったのではないかと思います」
さらに、PXW-FS5のコストパフォーマンスの高さについても高く評価しています。
鍋島氏「4K対応やフルHDのハイスピード撮影、Log収録もできるなど、かなり安いと思います。安い=簡単に使えるということですから、このカメラをいつもそばに置いて“ここだ!”という時にすぐ撮ることができますし、マルチカメラの撮影では、このコストパフォーマンスの良さが生かされるのではないかと思います」
今回はMVの撮影でしたが、お二人は「映画の本編の撮影にもチャレンジしてみたい」と口を揃えます。
鍋島氏「もちろんテストは必要ですが、本編で使うなら、3〜4台のマルチカメラで撮影するシーンにはすごく良いのではないかと思います。また、山奥などで撮影条件の厳しいロケの場合、バックアップカメラとして別のカメラを用意しますが、本当はメインとバックアップカメラは同じカメラの方がいい。PXW-FS5であればコスト面からメインとバックアップを同じカメラにすることができますので、何かトラブルがあってもスムーズにカメラを切り替えられるのではないかと思います。今回の撮影でも大規模な照明設備は使わず、喫茶店やレストランなどのシーンでは外光を有効に活用していますが、ここでもPXW-FS5の感度の良さが生きています。この感度の良さを使って、繁華街などのナイトシーンを撮ってみたいと思いました。今までとはちょっと違う感じの映像が撮れる可能性がありますね」
熊澤監督 「やはり、ある意味で“ゲリラ的”な撮影や複数のカメラを使った撮影、もしくはハンディで被写体を追いかけながら撮るような作品にはすごく向いているだろうと思います。今回の撮影では、昔のVシネマと同じくらいのスピードで撮影を進めることができました。レストランやアパレル会社の事務所など、狭いところでも撮っていますが、カメラの機動力が高いためその狭さを感じませんでした。当然鍋島さんの力量もありますが、カメラが早く座れば現場も早く動きますから。小回りがきき、機動力があるPXW-FS5だからこそ、今回の予算と撮影期間でクオリティーの高い作品を作れたと思います」