ビデオグラファー として活躍する曽根隼人氏、
FX9を使用して臨むショートフィルム撮影。
ビデオグラファーというポジションで、広告映像やドラマなどを手がける曽根氏。今回FX9を使用し、映画館とフィルムをモチーフにしたショートフィルム「オールド・シネマ・ヘル」を撮影した。作品の制作意図や、現場でのFX9の使用感を聞いた。
暗いところでも
グイグイ攻められる
ビデオグラファーというポジションで、広告映像やドラマなどを手がける曽根氏。今回FX9を使用し、映画館とフィルムをモチーフにしたショートフィルム「オールド・シネマ・ヘル」を撮影した。作品の制作意図や、現場でのFX9の使用感を聞いた。
今回、無くなってしまう映画館で働く2人のキャラクターの関係を描いたショートフィルムを制作しました。最近では動画のオンデマンドサービスが多数出てきて、自宅やスマホで映画を見られるようになりました。オンデマンドサービスはすごく便利で、僕も家でよく利用しますが、これと同時に、映画館で映画を見る意義というものが大きく問われるようになったと感じています。
若いころに映画館で映画を見て映像を好きになったという原体験が僕にはあって、映画館の良さを表現したいと思ったのが今回の作品のきっかけです。オンデマンドサービスの方が、毎回高いチケット代を払わなくていいですし、映画館に行く手間も省けるので合理的なのかもしれません。でも、1つ面倒な工程を挟むことに特別な体験のようなことがあって、それも含めて映画館の良さだと思うんです。
もう1つのモチーフがフィルムです。フィルムは、撮影するのも編集するのも面倒で一手間かかるもの。スマートに考えれば、フィルムよりはるかにデジタルの方に優位性があります。でも今流行っている映像や、アカデミー賞を受賞している映画を見ても、フィルムトーンが使われていたり、デジタルで撮影したものをフィルムルックに再現したりしています。Sonyのカメラはデジタルシネマカメラの分野を牽引してきたわけですが、FX9やVENICEはフィルムのトーンを意識した設計だと感じました。デジタルを追求してきた結果、フィルムルックに回帰するという点は面白いですよね。
“デジタルで撮影する時代だからこそフィルムの価値に気づくこと”と、“映画が手軽に見られる時代だからこそ映画館の価値に気づくこと”に共通点を感じて、FX9でこの物語を描くことがすごく意味あることだと思っています。
以前、ミュージックビデオの撮影でもFX9を使用しましたが、特にDual Base ISOが非常に使いやすかったです。撮影クルーが少ない現場でカット数も多かったので、ワンカットごとに大がかかりな照明を組むことは不可能でした。
今回の現場も映画館で元々の照明が暗いことから本来は多くの照明を仕込まなければなりません。明るさの確保もさることながら、演出意図に合わせてシャッターを早くしたり、絞り込もうとすると、さらに照明量は増えます。しかしFX9にはDual Base ISO機能がありISO4000で収録することができるため、今回はベース+最低限の照明だけで、絞りやシャッタースピードを演出意図に合わせて決めることができました。また気になるISO4000のノイズ感ですが、全くノイズを気にすることなくISO800と同じ感覚で使うことができるのには驚きました。仮にライティングがちゃんと組めない環境でも、周りの光をうまく使うことでISO4000でしっかり撮れます。これまで使ってきたカメラだとISO感度を上げてNDフィルターで露出調整するのはもったいないという感覚がありましたが、FX9だとその辺りの感覚も変わりますね。
NDフィルターもPXW-FS7(以下、FS7)から進化し、1/4〜1/128まで無段階に濃度を変えられる電子式可変NDフィルターが搭載されています。外付けNDフィルターだとフィルターチェンジのために時間や人手がかかりますし、ほこりの付着などのリスクもあります。またプロミストなど他フィルターとの2枚使いの場合もマットボックス無しで行けちゃいます。比較的小さな現場では時間短縮やコストメリットの高い機能だと思います。
さらにFS7から発色のよさも進化していると感じました。色分離性も割と高いので、S-Logでしっかりグレーディングできるのが良かったです。操作性やインターフェースも気に入っていますね。SDI端子、音声を収録するためのキャノン端子がそれぞれ2つずつあり、HDMI端子もあるのでサブモニターやディレクターの確認用モニターなど現場の規模に合わせて拡張できる辺りも良い点でワンオペの現場から、ある程度の現場まで幅広い仕事に一台で対応できる点もFX9のコストパフォーマンスを高めている点だと思います。
予算や時間は無いけれど、ルックが良いものを撮影したいことがよくありますよね。ドラマやミュージックビデオで高いルックを追求したいときや低予算で映画を制作するときでも、同じように使いやすく活躍するカメラかなと思います。あと、少人数で撮影するビデオグラファースタイルにも向いています。ビデオグラファーの方々が映画やドラマを撮影することもあると思うのですが、そうしたコンパクトさが求められる現場ともFX9は相性が良いと思います。
僕は普段マニュアルフォーカスで撮影しますが、今回はところどころでオートフォーカスを使いました。FX9のファストハイブリッドAFはFS7と比べると格段に進化しています。合焦スピードが圧倒的な速さですし、これまでは意図せずハイコントラストな背景にAFが引っ張られることがありましたが、顔検出AFにより確実に顔を捉えるので安心して使えるようになりました。また人の目ではフォーカシングが難しい暗さでもちゃんと合わせられるのもスゴイです。αで培われてきたオートフォーカス機能がしっかり入っているのだと思います。
これまでは個人的に、ドラマや映画の撮影だとオートフォーカスに使いづらさを感じていました。意図した場所にオートフォーカスが来てほしいのですが、それを自動で行うことに抵抗があったためです。
今回の作品では、ドリーやジブを使った動きがありつつ、センサーサイズの大きさを生かした被写界深度の浅い画を撮影したいと思いました。そこでオートフォーカス機能がすごく役立ちましたね。オートフォーカスにしていても、フォーカスリングを動かせばマニュアルに切り替えられます。オートフォーカスの信頼感とマニュアルでピントを合わせられる安心感の両方がありますね。
もう1つ良かったのは、マニュアルフォーカスで撮影していて被写体の動きをどうしても追えなくなったときに、ワンタッチでオートフォーカスしてくれる機能です。マニュアル操作からオートフォーカス、オートフォーカスから部分的にマニュアル操作というように、用途に合わせて使い分けられます。
被写界深度が浅くてカメラワークがあるとなると、一般的にフォーカスマンが必要になりますし、ジブやジンバルに載せるとワイヤレスフォーカスも必要です。しかしFX9のオートフォーカス機能でカバーすることにより少人数、小機材での撮影が可能になります。
デジタルカメラで撮影しつつ、昔の映画のような懐かしさがある感覚を出すために、ブラックプロミストのフィルターを使って撮影しました。作中で妄想のようなシーンがあるのですが、そこだけプロミストの濃度やライティングの雰囲気を変えて、現実のシーンにメリハリが出るよう演出しました。ソニーのシネマカメラのルックを「ビデオっぽい」と言う方も多いと思いますがVENICEの発売以降、その印象は大きく変わっていると思います。今回もFX9が元々持つルックの良さやラチチュードの広さが相まって、イメージしているルックを作り出せたと思います。
映画館はいろいろ探して、館内を見るだけではなく映画を1本ちゃんと鑑賞しました。ロケハンには時間がかかりましたが、最終的に椅子の色味や形にこだわって映画館を選びました。撮影中も人物と椅子の位置関係を意識しましたね。
いろんな人に見てもらいたいですが、あまり映画館に行かない人が見たときに、映画館の雰囲気っていいなと思ってもらえると嬉しいですね。映画館をモチーフにしていたので、有名な映画へのオマージュもところどころに入れることにより、映画好きだからこそ気づくマニアックなポイントも作っています。映画好きな人には、さらに楽しんでもらえる作品になっているかと思います。