伊納達也氏、
可変ND×フルサイズ×AFのFX9を語る。
ドキュメンタリー・ショートフィルムを中心に、社会課題を解決するための”挑戦”にフォーカスした映像を制作する伊納達也氏。今回、FX9を使用し、ミニドキュメンタリー『山とふたり』を撮影した。制作の意図、現場でのFX9の使用感を聞いた。
映画クオリティの
ドキュメンタリーを。
ドキュメンタリー・ショートフィルムを中心に、社会課題を解決するための”挑戦”にフォーカスした映像を制作する伊納達也氏。今回、FX9を使用し、ミニドキュメンタリー『山とふたり』を撮影した。制作の意図、現場でのFX9の使用感を聞いた。
僕は今『ポートレート・フィルムズ』というドキュメンタリー・シリーズを撮影しています。人が自分で決めたそれぞれの目標に向かって生きている姿を描くことで「普通に生きなきゃ」という社会圧力から自由になれる世の中を作りたいと思ったんです。その流れで、今作『山とふたり』では、釣りをはじめとしたアウトドアガイドの星野晃宏さんと、山岳ランナーでスカイランニング日本代表の星野由香理さんを取材しました。二人は2020年の夏から日光でアウトドアガイドとしての活動をスタートされたのですが、彼らの姿をFX9で撮影したのは正解だったと思います。
話は変わるのですが、第92回アカデミー賞の長編ドキュメンタリー部門を受賞した『アメリカン・ファクトリー』という映画があります。中国企業に買収されたアメリカの工場を舞台に、米中文化の衝突を描いた作品です。あの作品の監督は工場の近くに住んでおり、すぐに現場に向かい、カメラを担いで撮影が始められるという環境で撮影していました。
僕はドキュメンタリー制作において、事件や問題が起こった場所に遠くから出向いて撮影するという手法ではなく、自分が生活基盤を置く地域からテーマを発見していくというアプローチでも価値ある映像は作れると思っています。フットワーク軽く何かが起きたときにすぐに撮影ができますし、取材させていただく方との関係性が築きやすいからです。そういった理由から僕も昨年、栃木県鹿沼市に移住して地域内でのつながり作りとフィールドワークに力を入れています。そのつながりの中から今回の御夫婦も紹介していただきましたし、隣の市である奥日光国立公園で撮影することで、都会では実現不可能だった新しい映像表現の追求に繋がっています。
“フットワークを軽くすること”と、“可変ND×フルサイズ×オートフォーカスで世界に通用する絵作り”をできるという点において、今作『山とふたり』をFX9で撮影出来たのは大変意義のあることだったと思います。
FX9を使うのは初めてでしたが、15ストップ+のダイナミックレンジは僕の想像を超えた美しい絵作りをもたらしてくれました。隆々とした山陵、広大な森を流れる渓流など、奥日光の大自然を構成する光と影を余すことなく表現できます。
映画ならば照明で光を作ることもできますが、ドキュメンタリーでは照明を持ち込めない現場も多いです。ダイナミックレンジが大きいということは絵作りの自由度に直結するため、ドキュメンタリーにこそ使ってほしいカメラですね。
夜明けの山際や、渓流にかかる木々の間から空が見えるような明暗差のあるシーンも階調豊かに撮影できています。また、夜明けのシーンは基準ISO感度のハイ側、ISO4000で撮影しました。デュアルベースISO機能によりISO800とISO4000のノイズレベルがほぼ同じなのでISO4000でも画が荒れません。ポストでもデノイズ処理はせず、そのまま使うことができました。この辺りも必ずしも露出環境が整った場所での撮影ばかりではないドキュメンタリー撮影に向いているところですね。
山での撮影のため緑の美しさを重要視したいと思いましたが、色域の広いS-Gamut3.cineを使うことで鮮やかな色を表現できました。広いダイナミックレンジで色が薄くなる要因となる白トビや黒潰れもありません。グレーディングが容易になったおかげで作品の企画立案や撮影に集中できるので、仕事の幅も広がりそうです。
オートフォーカスも非常に優秀でした。フォーカス速度を7段階、被写体の乗り移り感度を5段階に設定できるため、撮影の自由度も上がりますね。今回は顔を常に追ってくれる顔優先AFを使いましたが、人とカメラの間に障害物が入ってきたときは自動的にマニュアルフォーカスになる顔限定AFも表現の幅が広がりそうです。合焦スピードも速く、ランニングのシーンでも顔からフォーカスがずれることもほとんどありません。
ジンバルを使って山を走るシーンではカメラが自動でNDフィルターの濃度をリアルタイムに調整するオートND機能を使いました。木立を抜けたり刻々と撮影環境の明るさが変化する中でも絞り・シャッタースピード・ISO感度を固定したまま撮影できました。カメラへのケアが減ることにより、その分演出に専念できたと感じています。
また、FX9で新たに搭載された手振れ情報メタデータも試してみましたがNLEなどで行う手振れ補正処理よりも自然な感じで精度よく補正できますね。
もう一つよかったのは、リグ無しで担ぐことができるので、リグの組み換えも必要ないことです。三脚に据えて撮影してもいいし、すぐに担いで走り出してもいい。セッティングチェンジに時間がかからないことはドキュメンタリーにも映画にも必須条件だと思います。SDI端子とキャノン端子も二つあり、マイクも組んでジンバルに乗せれば、ワンマンで画・音の両方が撮れるためスタッフ人数を減らせるのも良いですね。
またクオリティの高いスチル用レンズはフルサイズセンサー用に作られたものが多く。Super35mmセンサーの機材では焦点距離がテレ側にシフトしてしまい使いづらい場合があるのですが、フルサイズセンサーだとそのままの画角で使えるところが良い点です。
同じ焦点距離のレンズでよりワイドに撮れるので広い画を自然に撮れる点もメリットです。今回は24mm単焦点レンズをかなり使いましたが軽量コンパクトで取り回しがしやすく、かつダイナミックな絵を想像通りに撮影できました。FX9はSuper 35mmサイズでの撮影も可能なので必要に応じてAPS-C用のレンズやマウントアダプターを使ってSuper35mm用PLレンズも使えますね。
フルサイズ・可変ND・オートフォーカスの三つが揃っているのは世界でもFX9だけですし、レンズ内手振れ補正があるFE PZ 28-135mm F4 G OSSなどを使えば、ショルダーでも問題ありません。
世界的に評価されるドキュメンタリーは、テーマや内容はもちろんのこと、絵も音も作りこんでいる作品でないと通用しなくなりました。ドキュメンタリーにも劇映画のようなクオリティが要求される時代が訪れたのだと思います。今後、ドキュメンタリー映画制作においてもFX9はスタンダードになるカメラだと思います。
今回はショートフィルムでしたが、長編でドキュメンタリーの制作にも挑戦したいと思っています。FX9なら長時間の鑑賞にも耐えうる絵作りができますし、機動性が高いので世界基準でも戦える映像に仕上げられると思います。
その一方で、映像制作を始めたばかりの方にも、是非気軽にハイエンドなカメラ機材に触れてほしいと思います。例えば、『シンシティ』や『スパイキッズ』のロバート・ロドリゲス監督は、2000年代前半からテキサス州にスタジオを作って映画を制作していますが、2005年の時の映像を見ると自宅のガレージを改造したようなサイズ感のスタジオです。そんな規模感でも世界中で愛される作品を作ることができるのだ!と制作風景の映像を見て衝撃をうけた記憶があります。
YouTuberが台頭してきたように、これからは誰もが映像を使って発信できる時代です。ドキュメンタリー映画の世界でも、地方のスタジオからでつくった映画が世界中で見られる時代がやってきたのだと、僕は信じています。FX9のような世界基準のカメラを使えば、クオリティも高く作品制作を行うことができ、海外映画祭や海外資本のサイトでの視聴にも向いています。面白いと思えるもの、誰かに見てほしいものがあったら、どんな規模感でもいいので、ぜひ作って見せていってほしいです。
僕も作品制作を続けて、どんな環境でも映画を作れると体現していきたいと思います。青天井で可能性のあるこの時代、「いい映画を作りたい」という同じ夢をもつ者同士、みんなでワクワクしていきたいですね。
Sony FE 24mm F1.4 GM
Distagon T* FE 35mm F1.4 ZA
Planar T* FE 50mm F1.4 ZA
FE 16-35mm F2.8 GM
FE PZ 28-135mm F4 G OSS
FE 70-200mm F2.8 GM OSS