法人のお客様ラージセンサーカメラ CineAltaカメラ VENICE 開発者に訊く。

CineAltaカメラ VENICE 開発者に訊く。

ソニーのデジタルシネマカメラの歴史は、F900が発表された2000年から始まる。この年からハリウッドは本格的にデジタル化に移行し始め、ジョージ・ルーカスは『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』で100%デジタル撮影をすることを発表し、F900を採用。そのF900に初めて“CineAlta(シネアルタ)”というブランドが与えられ、その歴史がスタートした。

CineAltaはその後、初のSuper35mm単板CCDを採用したF35、8Kイメージセンサーを搭載したF65、広く4Kシネマの普及を目指したF55と、映画、CM、ドラマといった世界でその足跡を残してきた。

そして2017年9月、CineAltaブランドのフラグシップモデルとなる「VENICE」が発表された。ソニーのデジタルシネマカメラでは初となる新開発の36×24mmフルサイズCMOSイメージセンサーを採用し、デジタルシネマの新境地を切り開くモデルだ。

CineAltaカメラ VENICE 開発メンバー

岡橋 豊
(商品企画担当)

大庭 裕二
(プロジェクトリーダー)

平野 晋作
(デザイン担当)

泉 浩司
(メカ担当)

“VENICE”の由来

― 今回、従来のアルファベットと数字の組み合わせによるいわゆる「型番」ではなく名称が付けられていますが。

岡橋:この「VENICE」という名前はハリウッドに近いロサンゼルスのベニスビーチに由来しています。また、ベニスビーチはイタリアのベネチアに由来していますが、ここはベネチア国際映画祭が開催され、また様々な映画に登場するなど映画に大変ゆかりのある町です。愛着のわく名前を付けて欲しいというお客様からの声が数多くあり、この名前を採用し前面に出すことにしました。

ハイクオリティーを追求する映画、ドラマ、CM撮影向けカメラ

― ターゲットとしているお客様はどのような層になるでしょう。

岡橋:ターゲットとしているマーケットは、映画をはじめ、ドラマやCM制作です。独自の映像表現とハイクオリティーを追求されるお客様に向けフルサイズセンサーやアナモフィックをアピールしていきたいと思っています。

シネマカメラ用6Kフルサイズイメージセンサー/アナモフィック対応

― 6K 36×24mmというフルサイズイメージセンサーを搭載しましたね。どのような狙いがあるのでしょうか。これはαシリーズからの流用なのですか?

大庭:“フルサイズ”ということでαシリーズと同様のセンサーのように思われるかもしれませんが、シネマ用カメラに特化して新たに開発したセンサーを採用しています。そしてフルサイズを採用した理由は、フルサイズセンサーを搭載すれば、4:3のアナモフィックにも対応できることです。これにより、シネマスコープサイズの映像制作に対応することはもちろんのこと、アナモフィックレンズ独特のボケ感やフレアを得ることができます。またSuper35mmよりも浅い被写界深度や広い画角、6K画素の活用などを通じて、これまでとは違った映像表現ができます。

新開発36×24mmフルフレームCMOSイメージセンサー

岡橋:最近は映画だけでなくCMなど他の分野でもアナモフィックが話題になっています。そしてα7に見られるようにフルサイズも十分に受け入れられています。またフルサイズであれば、他のアスペクト、またはイメージサイズにも柔軟に対応でき、今まで通りSuper 35mm 16:9で撮りたければその画角で切り出すことも可能です。またSuper35mmよりも被写界深度が浅くなることのメリットとして、より浅い映像を得ることができるということがよく言われます。もちろんそれもありますが、もう一つのメリットとして同じ被写界深度の場合でフルフレームとSuper35mmでは絞り値で1〜2絞りの差がありますので使用するレンズのF値選択に余裕が生まれるということがあげられると思っています。

レンズマウントはPLとE

― 映画用カメラとしてはPLマウントがデファクトですが、今回PLマウントに加えてEマウントも搭載しましたね。

泉:6本のネジを外してPLマウントを外すと、Eマウントが現れます。Eマウントを新たに取り付ける必要はありません。ユーザーご自身でPLの着脱が可能です。また、Eマウントはデジタル一眼カメラなどに搭載されているバヨネットタイプではなく、FS7 IIで採用したレバー式のロック機構を採用しています。

岡橋:PLマウントの着脱を六角ネジにした理由は、むしろ簡単に外れないようにするためです。PMW-F55ではFZマウントをPLマウントに変換するマウントアダプターがレバーロック式でボディに固定されています。しかし撮影現場でレンズ交換のつもりがマウント自体を外してしまったという事故のリスクを無くすためにも、マウントは簡単に外れないようにして欲しいという要望がありました。

泉:Eマウントのスチルカメラ用レンズは小型軽量という特長があり、VENICEをドローンやジンバル、あるいは水中ハウジングで使用する場合、セットを小型軽量にできます。超広角レンズや超望遠レンズなどのPLマウントレンズにはないレンズも活用できると考えています。

8ポジションのNDフィルター

― 世界初の8ポジション内蔵NDフィルターを搭載しました。ソニーにはFS7 IIやFS5に搭載されている電子式可変NDフィルターもありますよね。

大庭:電子式可変NDフィルターがあるのにどうしてそれを使わなかったのかと、よく質問されます。映画撮影では、ステップで可変するNDに慣れていることもあり、あえて電子式可変NDフィルターは採用しませんでした。

泉:0.3(1/2)から2.4(1/256)までのガラスフィルターにするためには2枚必要で、これを18mmのフランジバックの中にどう納めるかで苦労しましたが、ソニーのコアデバイスの小型化技術を結集して何とか納めることができました。

世界初*8ポジション光学式NDフィルター *2017年9月7日時点において(ソニー調べ)

岡橋:外部NDだと交換する際にホコリの付着に気を使ったり、製造メーカーによって多少色が違っていたり、交換作業により撮影のテンポが損なわれるというデメリットがありますが、これらを気にせず撮影に集中できる点を高く評価いただいています。また0.3が使えるということについてもありがたいというお声を多くいただいています。

堅牢さとメンテナンスを追求した内部構造

― VENICEでは過酷な撮影現場でも安定して動作し続けるための堅牢性や冗長性にかなり力を入れたと聞いています。例えばどんな点でしょうか。

泉:通常は上下吸排気口を設ける設計が多いのですが、そうすると雨が降ればそこから水が入ります。VENICEでは基板の構成と配置を工夫し、通気は左サイド(カメラマン側)から入って右サイド(カメラマンの反対側)に抜けます。ベンチレーション系の流路を電気部品から隔離させることで、吸排気口に水が入っても動作に影響がない構造としています。社内テストではハードなテストも行っており、それでも動作に影響しないことを確認しています。
また、ファンは水平に置かれており、センサーモジュールを取り外すと、引き出しのようにファンを取り出し交換することができます。ファンはどうしても汚れますので、簡単に交換できるようにしました。端子についてもビューファー用端子にLEMOを、24V電源用端子にフィッシャーを採用するなど堅牢性にこだわりました。

平野:筐体に関しては、堅牢性がテーマなこともあり、実際の堅牢性とともに安心感という意味でも堅牢性を感じさせる外観にこだわりました。今までのカメラもマグネシウム筐体ですが、メディアスロットのカバーなどそうでない部分もありました。VENICEではそうした部分も金属を採用しています。また色も新色で、表面処理も凹凸感のある高品位な仕上げにしています。

使いやすさの工夫

― VENICEでは従来カメラマン側にあったメイン操作パネルをアシスタント側にもって来ましたね。それ以外にも使いやすさという意味で工夫された部分はあるのでしょうか。

大庭:このカメラはカメラアシスタントがいるような撮影現場で使われますので、メインディスプレイはカメラアシスタントが操作し易いようにアウトサイドに付けました。またカメラマン側にも小型の有機ELディスプレイを設けて基本的な項目についてはカメラマン側からも操作することができます。また操作をしない場合もこの有機ELディスプレイがあることによりNDポジションやEI値など基本的な撮影パラメータをカメラマンも一目で確認することができ安心感につながると考えています。

アウトサイド(アシスタント側)

インサイド(カメラマン側)

平野:よりシンプルな操作を目指して、徹底したユーザーヒアリングを行いキー数とレイアウト、メニュー構成を決めていきました。アウトサイド側でボタンは14個に減らしており、直観的な操作にしました。さらにメニュー構成も新しくしています。普段はシンプルなメニューで、詳細の設定が必要なときのみメニューを長押しするとフルメニューが出てくるといった方法にしています。

泉:本体底面からの光軸高さを現行F55と合わせることと、フルフレーム対応のNDフィルターを新たに導入した関係でカメラ上部にスペースができ、うまく使えないかと考えた末、ボディの上にスライドレールを付けました。これによりハンドルとビューファインダーのステーを独立して自由に移動できます。また、ビューファインダーを90° 回転して付けることができますので、壁際や車内などでビューファインダーを覗けない場合にも便利です。一方で下のスペースにもケーブルが外に飛び出さないように端子を配置するなどして、沢山ケーブルが差されたときにもパネル操作に支障がないようにかつ、コンパクトに運用できるように配慮しています。

VENICE Camera Simulator
VENICE Camera
Simulator

※Sony Globalのサイトにリンクします

※注意事項
動作ブラウザ:Google Chrome 63以上、Safari 10以上

※制限事項
・RECボタン、ユーザーメニュー、フルメニュー、TC /メディア、モニタリング、オーディオ、詳細メニューはシミュレートされません。取扱説明書を参照ください。
・本シミュレータは全て実機と同様に動作することを保証するものではありません。
・別売のポータブルメモリーレコーダー AXS-R7、フルフレームライセンスCBKZ-3610A、アナモフィックライセンスCBKZ-3610Fがインストールまたは装着された状態をシュミレートしています。
・本体ファームウェアVer 1.0をシュミレートしています。

フィルム感を重視した画質

―映像の質感はどうでしょうか。また、映画の世界では、ただ単に高画質というだけではなく、それ以外のものも求められると思うのですが。

大庭:確かに以前のカメラでは光学系の特性上、比較的シャキッとした映像になっていました。これはこれで一つの方向性であり、こうした画を好むユーザーも数多くいらっしゃいます。一方でフィルム感を望むユーザーからは雰囲気のある画や柔らかいトーンを望む方も多くいらっしゃいました。VENICEではそこを根本的に見直しています。もちろん、F55などと一緒に使う場合は、それに合わせたトーンにもできますが、それとは別に色表現や光学ローパスフィルターの特性も変えてフィルム感を大切にした質感を実現していますし、それが今回の画作りの大きな目標の一つです。

岡橋:モニターアウトも一部変更してS709という新しいガンマカーブを追加しています。フィルミックで自然なスキントーンの質感です。外観や使い勝手を改善しただけではなく、色再現性、色表現にもこだわっています。

― 新開発の6KフルフレームCMOSイメージセンサーや世界初の8ポジション内蔵NDフィルターなどソニーらしい最先端の技術を搭載しつつ、VENICEでは一貫して現場で使用するユーザーからの徹底したヒアリングに基づき、コネクタ一つ、スイッチ一つに至るまで「現場」を考え抜いて仕様が決定されている。今後VENICEが、最も厳しい目を持つ映画の世界でどのような評価を受けるか楽しみである。

CineAlta SEMIMAR