ソニーは、優れた動画応答や鮮やかな色彩表現が可能な自発光型ディスプレイデバイス・有機ELの性能をさらに飛躍させるため、独自の技術「スーパートップエミッション」を開発し、25型メディカル用有機ELモニター「PVM-2551MD」のパネルに採用しました。
ここでは、有機ELの原理と、「スーパートップエミッション」を中心にTRIMASTER EL技術をご紹介いたします。

有機ELの基本構造例

「EL」はElectro Luminescence（エレクトロルミネッセンス）のことで電気エネルギーを光に変換するプロセスを指します。太陽電池は光をとりこんで電気エネルギーをつくりますが、ELは太陽電池とちょうど逆の働きをします。電気を流すと光る性質を持つ有機材料を使ったディスプレイが有機ELディスプレイになります。

有機ELは、数 100nmの有機EL膜の両側を電極で挟んだ構造になっており、電極から有機EL膜に注入された電子と正孔が、有機EL膜内を移動して発光層（EML）内で再結合することで、発光層の有機分子が発光します。自発光型ディスプレイである有機ELは、高コントラスト、高速応答が可能で、広視野角等の特長があります。

発光のメカニズム

有機EL膜〔HTL（正孔輸送層）+EML（発光層）+ETL（電子輸送層）〕の両端の電極へ電圧を印加すると、陰極から電子、陽極から正孔が有機EL膜中に流れ込み、発光層の発光分子で電子と正孔が再結合し、発光します。

電流による発光であること、電圧-電流の関係がダイオード特性であることから英語では有機ELをOLED（Organic Light Emitting Diode）と呼んでいます。

発光したEL光を外部に効率よく取り出せるトップエミッション方式

有機ELパネルでの光の取り出し方法には、有機層の「上」からと「下」からの2種類があります。製造工程が比較的簡単とされているボトムエミッション方式は、有機分子の光をTFT基板側の「下」から取り出す方式です。ただTFT基板にはEL駆動用の画素回路が存在するため、光取り出し領域が限られてしまい、有機分子の光利用効率が落ちてしまいます。

これに対しソニーの採用したトップエミッション方式は画素回路など光をさえぎるものがない封止ガラス側の「上」から光を取り出すので、発光したEL光を外部に効率よく取り出し、低消費電力かつ長寿命を実現できます。

完全固体封止でさらなる薄型化が可能に

一般的に有機EL材料は水分や酸素に弱いとされており、有機EL膜を蒸着したまま大気中に放置するとすぐに特性が劣化してしまいます。つまり有機EL膜を完全に大気から遮断するための封止構造が必須となります。

従来有機EL膜の封止は金属カバーを使っていたので封止側から光を取り出すことができず、ボトムエミッション方式しか実現できませんでしたが、トップエミッション方式を採用するために、ソニーは封止基板を樹脂接着剤で直接EL基板に貼り付ける方式を開発しました。これにより、中空部分がないため大型化が可能となり、また、封止ガラスを薄型化することによるパネルの薄型化、さらにはプラスチックフィルム封止による超薄型パネル実現への道を開き、信頼性の高いパネルを実現しました。

マイクロキャビティ構造

上述の有機ELパネル構造の特性に加え、ソニー独自の「スーパートップエミッション」方式は、マイクロキャビティ（微小共振器）構造とカラーフィルタにより、色純度アップと高コントラストと低消費電力を同時に実現しました。

マイクロキャビティ構造は、上下電極間での光の共振効果を利用しています。RGB（赤・緑・青）各色の光の波長はそれぞれ異なるため、各色のELスペクトルピーク波長に陰極（カソード）・陽極（アノード）電極間の光路長を合致させ、各色から最も強い光を取り出すように有機層の膜厚を変えています。発生した光は、カソード半透過膜とアノード電極（反射膜）との間で反射を繰り返します。光路長の合致した波長の光のみを共振させて強調し、光路長のずれたそれ以外の波長の光を弱めます。この結果、外部に取り出される光のスペクトルが急峻かつ高強度になり、輝度と色純度が向上するという構造です。

マイクロキャビティ構造とカラーフィルタで外光反射を抑制

従来のパネルは、パネル表面に円偏光板（位相差板と偏光板）を設置し、外光反射を防いでいましたが、これではEL光量が半減してしまいます。ソニーは、円偏光板を使用せず、マイクロキャビティ構造にカラーフィルタを組み合わせたことで、外光反射を防ぐと同時に、色純度を向上させました。これにより、低消費電力でかつ長寿命、高画質を実現しました。

大型化・長寿命化のハードルを乗り越えて、フルHD25インチの量産化を実現しました

ソニー有機ＥＬパネルの能力を最大限に引き出すように設計された専用プロセッサー

ソニー有機ＥＬパネルの能力を最大限に引き出すために、ソニー独自のコントロールプロセッサーを開発しました。パネルの優位性を維持するための最適な制御をこのコントロールプロセッサーによって行うことで、有機ELパネルの長寿命化、黒のディテール再現に適したガンマコントロールとより高精細なカラーマネジメントによる優れたユニフォーミティ（画面全体の色表現の均一化）を実現しました。

忠実な黒を再現し、高いコントラストを実現

有機ELパネルは自発光方式であり、黒の映像を表現する際、発光しないため、これまでにない深い黒を表示することが可能です。さらに"スーパートップエミッション"により、外光の反射を抑え、精細に高いコントラストで表現することができます。

動きの速いものを滑らかに映す動画特性

有機ELは、液晶に比べて応答性が良いため、手術器具や内視鏡などの素早い動きにも追従し、残像の少ない、滑らかかつ自然な表現が可能です。

広い色域と、正確な色再現

"スーパートップエミッション"のマイクロキャビティ構造とカラーフィルターによる独自の色抽出技術により、色純度を向上させ、複数の放送規格を包含しています。従来のITU-R BT.709の色域を正確に再現するだけでなく、さらに深みのある色を実現します。また、低輝度においても高い色再現性を維持することができるため、これまで表現ができなかった低階調の色を再現できます。

広色域表示

広色域有機ELパネルにより、ITU-R BT.709、EBU、SMPTE-Cの色域を正確に再現します。従来の液晶モニターより広い色域表現も可能です。（NATIVEモード設定時）

一部 Sony Japan「技術情報」より転載