コンパクトデジタルカメラの常識をはるかに超える描写力を手にしたRX1。徹底的に無駄を廃したコンパクトかつシンプルな意匠は、これからどんな画をみせてくれるのか。
これから3回にわたり、雑誌、広告など、第一線のクリエイティブ現場で活躍する気鋭のカメラマン・若木信吾とともにその可能性を探っていきます。第1回目はRX1で撮影した浜松の写真を中心に、若木信吾が感じたRX1の魅力をお届けします。
若木 信吾
1971年静岡県浜松市生まれ。ニューヨーク・ロチェスター工科大学写真学科卒業後、The New York Times Magazine、Newsweek、Switch、Elle Japon、HF、relaxをはじめ、雑誌・広告・音楽媒体など、幅広い分野で活躍。国内外で高い評価を受ける傍ら、雑誌の刊行・映画の制作等、活動の場を広げている。
普段の撮影は、感覚のまま瞬時に構図を切り取っていることが多いのですが、RX1を手に歩いていると、立ち止まってフォーカスを合わせながらじっくり構えている自分に気づきました。カメラを構えているうちに、ピントやボケ味をとことん追求したくなる。RX1は、これを撮ったらどうなる?これはどこまで写せる?と撮影意欲を掻き立てる1台ですね。
たとえば、糸巻き工場の撮影写真。ボケの部分に注目してほしいんですけど、白い糸巻き機の中に1台だけ青い糸巻き機があるの、分かりますか。これまでのデジタルって、背景のボケについて語られることは多かったんだけど、ボケの中味についてまで語られてこなかった気がするんですよ。
そこがフィルムを知る人間としては物足りなかった部分でもあるんですけど、僕はボケの中にあるものまでしっかり表現したいんですね。でも、この写真は、拡大すると白い糸と青い糸の重なる部分の区切りまではっきりわかる。RX1の表現力はここまで来ているのかと、正直驚きました。こんなことはこれまでに絶対にありえなかったので、この再現性は大きな信頼感につながりました。
この描写力の理由を自分なりに分析してみたのですが、高性能の単焦点レンズとフルサイズのCMOSセンサーのマッチングがうまくいっているということです。まるで、このレンズのためにつくられたCMOSセンサーなんじゃないかというくらい。でないとここまで細部を表現できないと思うんですよ。これこそが、レンズ一体型のRX1の強みなのでしょう。本当にワクワクさせられる面白いカメラです。
また、電子ビューファインダーも相当鮮明でしたね。通常ファインダーを覗くと拡大されて見える感じがするのですが、モニターで見ている感覚とほとんど変わらない。モニター上だと操作線が見えてしまうのですが、それがまったく見えない。目にしたままの、イメージ通りの撮影ができました。
僕自身、これまではフィルムで撮ったり、モノクロで撮ったりしながら、ラインをとって構図をはかることが好きだったのですが、最近では色の表現にも面白さを感じるようになってきていました。でも、デジタルって表現される色が微妙だなと感じていたんですね。
だからRX1を手にしたとき、あえてカラフルなものにフォーカスを合わせてみたんです。結果は、「さすが」のひと言ですね。花の色、緑の質感、光と影の陰影、すべて自分が思っている色がはっきり出ていました。以前はフィルムの違いによって色の出方が違ったのですが、これからはイメージセンサーの差が違いになってくるんでしょうね。それにしてもRX1は、このボディでフィルムの色分解を超えてきているから驚きです。
RX1の色の再現性に関してもうひとつ言うと、通常、デジタルだと輪郭の区切り部分の色が滲んで出ることが多い。特に室内で人物撮影をするときなどは顔と首の輪郭が滲んでしまって、ピンが合っていないところを拡大してみると色と色が混じりあっている。
これがデジタルっぽさを引き出している要因のひとつだと思うんですが、RX1は拡大してみても見事に再現されていました。
また、RX1ではあえて引いた写真を撮りたくなりましたね。普通はモニターをパッと見て確認できる範囲の画角、つまり寄りぎみの写真を撮ろうとします。でも、RX1は細部までしっかり写るとわかっているから、画角の広いワイドな写真が思い切って撮れる。「田中屋」という商店の写真を撮ったときも、普通は一眼レフどころか4×5など大判カメラで撮るような被写体ですよね。でも、RX1は道路の質感から屋根の瓦、奥の停車場まできっちり写す。隅もゆがまないので、引いた写真でさびれた空気感まで表現できました。
僕の楽しみのひとつに「見る側の目線を誘導する」というのがあるんです。見る側に「意図的に自分の意識でここを見ているんだ」っていうポイントを誘導できないとダメだと思っているんですよ。この「自分の意図を正確に写し出す」部分ってカメラの性能が一番出るところだと思うんですが、RX1は、こちらの意図をしっかり反映してくれるので、ピントや露出を確認してからシャッターを押したくなりました。
たとえば、この花の写真は拡大すると毛皮のような花弁にピントが合っています。肉眼では判別しにくいディテールですが、写るのはわかってますから、僕もしっかりピントを合わせる。RX1は、まるでアナログカメラのように一枚一枚ていねいに撮りたくなるカメラでしたね。ちょっとかしこまった写真にはなりましたが、新しくて新鮮な体験になりました。
実は、描写性が想像以上だったので、ある俳優さんのポートレート撮影の現場でRX1を試してみたんです。被写体が気づかないほどシャッター音が小さいので、インタビューを邪魔せず自然体の表情を撮ることができました。
自然光で陰影のあるイメージ通りの写真が撮れたので、実際に発売される雑誌の写真に採用しました。「もうこれで仕事できちゃうね」っていうほど満足できる仕上がりでしたよ。