———新録曲は全体的に世の中のあり方に切り込んでいく感じがあって、これまでと詞の言葉のチョイスも違うような気がしました。ギターで作っていくことで、普段あまり使わないような言葉も出てくる感じはありましたか?
そうですね。ギターで作ると、何の違和感もなく出てくる言葉があるというか。今まで選んでいたものが全然合わないわけじゃないんですけど、自分が「良い」と思う言葉じゃなくなっていく感覚があって。音楽だから、サウンドと言葉の相性ってありますけど、そういう面白さを改めて実感しましたね。
———どの曲も声とフィットしているのはもちろん、こゑださんが持つ10代の尖っている部分というか、そういうのも相まって曲の緊迫感が高まっているようなところもあって。
最初の頃って、こゑだちゃんはまだ15歳とかだったんですよね。今は17歳で、やっぱり声が変わっていっているんです。ちょっと低くなっているというか。それに本人も最初は歌うことがただ楽しいだけだったんですけど、
supercellというものに入ってから、「前のボーカルの方が良かった」とかネットで叩かれることも増えてしまって、「歌っていて良いのかな?」と悩むことも多くあったって聞いて。というところを経て、もう一度戻ってきたという。その感じが人間的にこゑだちゃんを一回り成長させているのかな?と思います。昔の自分も認めて、それでも私は歌を歌いたい、というところもありながら、他の人からだとどう聴こえるか?という歌い方を意識するようになっていて。今の歌い方ってどうなんだろう?と、歌い終わった後に考えるようになったんですよ。
———すごく俯瞰しているだけに、振り幅がどれだけ広くともどの曲も違和感なくするっと入ってくるのかもしれないですね。そして、さっきおっしゃった1曲目から3曲目のストーリーに続く、中盤の楽曲、例えば、「従属人間」はどういうところから作られたんですか?
「レミングス」というネズミを陸地まで導いてあげるゲームがあるんですけど、あれを人間でやるとどうなるんだろう?みたいなイメージから作っていきました。ゲーム内の途中で壁とかがあるんですけど、そうすると一匹のレミングスに爆弾を持たせて爆発させたりして、他のレミングスの出口を作るんです。その爆弾を持たされたレミングスの視点というか。「爆弾持って。今から脱出するから」と言われたら、「え?」となると思いますけど、プレイヤーからすると、「命令だから」という感じなんですよね。プログラムされたことは絶対に変わらないので。そのどうしようもなさというのが現代に通じるな、と。だから、逆説的にそうならないために人を蹴落として生きていこうぜ、と書くことで現代社会のいびつな構造を風刺してみました。
———この曲の詞の言葉数、張り詰めた感情を表すかのごとくすごく多いですよね。ゆったりしたものもあれば、この曲のように最大限まで振り切っている真逆のようなものもあったりして。
めちゃめちゃ早口ですよね。たぶん、こゑだちゃんの早口できる言葉の限界の原本でもあるんじゃないかな?と。いつも曲の中で一番求められているものを、最大限に出そうとしていて。だから、歌詞もめちゃめちゃ長いものもあれば、すごく短いものもあったりするんですよ。
———6曲目の「ホワイト製薬」はどのような感じだったんですか?
これは新型うつ病をテーマにしています。現代病というか、そもそも「それって病気なの?」というようなものというか。例えば、仕事中は「体調大丈夫?」と言われるのに、終わった瞬間、いきなり元気になる人っているじゃないですか。あとは、会社に電話して「すみません、ちょっと体調悪くて」みたいなこと言いながら、休みが取れたら「ラッキー」と遊びに行ったりとか。サボっているだけじゃん、と思うんですけど、仮にそういう人ばかりになってしまったとしたらこういう商売する人でてきそうだなと。でも実際問題黒も白と言っちゃうというか。社会問題にすれば本当は黒なのに、白とみんなが認識するから。すごくダメなことでも、みんなで情報を共有することによって、「大丈夫でしょ」というイメージがついてヤバさが軽減されることって最近多いですよね。
———もうそれに慣れちゃって、ということは本当に身近に多いな、と思います。良い悪いの境界線も曖昧ですし。
結局、みんなが認めちゃえば、受け入れられるという。罪の意識もほとんどないんですよね。そういう社会の縮図感というか。きっと、何事も一部の人だけが違和感を抱えているとは思うんです。でも、もし正しい感じの人が1人出てきたとしても、総叩きになると思うんですよ。というところで、良いとか悪いとかじゃなく、みんな一緒の方が良いんだなという。自分もそうですし。そのシステムは大きく間違っているんですけど、最大限に利用して社長になってみようと思って作った曲ですね。
———この曲は途中で台詞も入っていて、それがまた現実感を増す感じがあるというか。
こゑだちゃんにヘリウムガスを吸ってもらって、いろんな台詞を言ってもらっています。その場で「この声でこう言ったら面白くない?」みたいな感じで。
———コーラス含め、すべてが上手くかみ合ったこの立体感がとても良いなと思いました。あと、14曲目の「時間列車」はアルバムの中で際立ってアレンジが変わっているというか。
あまりサビで歌っていないんですよね。エレクトロ手法というか。4つ打ちの曲って、平歌はAメロ、Bメロとしておいて、サビはもう4つ打ちだけという感じなんですよね。日本的じゃないかもしれないですけど、こういうやり方の曲も今後増やしていきたいなと。サウンドは試行錯誤した曲ではありますね。
———試行錯誤した曲と、スッとスムーズにできた曲と、結構分かれたものだったんですか?
他の曲は大体ギターだから、そんなに言ってもやれることがないんですけど、今回この曲に関しては楽器の点数がめちゃめちゃ多かったので、どう配置したら良いのか?というところで悩みましたね。打ち込みのサウンドに混ぜると、やっぱり生楽器って弱く聴こえるので、打ち込みに負けないようなサウンドを生でやるにはどうしたら良いか?という、指標を持って作っていったんです。結構意識を変えないと、全然違うものになっちゃうので。音を作っている時は、「これチャラいよね」と言っていたんですけど、そのチャラい感じにならないように仕上げていった感じです。
———軽さなんてものは感じず、イントロから最後まで1音も聞き逃したくない、と思えるような感じがありました。実際、今、そうやってアルバムが完成したばかりではありますが、次への意欲というといかがですか?
最初の初音ミクのアルバムで、今でもちょっと恥ずかしいな、というくらいかわいらしい歌詞を作って。で、その後は女の子らしい感じになったんですよね。今回は中性的というかどっちが歌っても大丈夫、というところにきて。なので、次は男にしか歌えない歌詞を作ってみたいなと。自分自身もまだ全然想像できないですけど、自分が男なだけに書けないはずがないので。できるでしょ、と思いながら……。想像できないからこそやってみたい、というのもありますよね。それを知りたいというか。作ってみたいですね。
TEXT:松坂 愛