Cafe Apres-midi 1000 〜2014 Winter〜
Special Interview
大好評の「Free Soul 1000」チャンネルに続き、橋本徹(SUBURBIA)監修・選曲による新チャンネル「Cafe Apres-midi 1000」がMusic Unlimitedに待望の登場!
「午後のコーヒー的なシアワセ」——心を和やかにしてくれる、スタイリッシュで洗練されたカフェ・ミュージックの代名詞となった、大ヒット・コンピ・シリーズ『カフェ・アプレミディ』をよりスケールアップ&アップデイトした専門チャンネルです。
ジャズやボサノヴァ、ソフト・ロックにSSW〜AOR、メロウ・グルーヴからフレンチや映画音楽まで、オール・ジャンルからセレクトされた日常に心地よく寄り添う名曲1,000曲が、好きなときに好きなだけ聴き放題!
チャンネル・スタートを記念して、改めて橋本徹さんのスペシャル・インタビューをお届けします。
■フリー・ソウル・チャンネルの大反響と音楽のキュレーション
———前回はフリー・ソウル・チャンネルの立ち上がりのタイミングでのインタビューでしたが、それから3か月が経過しました。フリー・ソウル・チャンネルは、かなり大きな反響を持って迎えられましたね。
橋本 チャンネルの再生回数やプレイリストのチャートが軒並み1位になるなど、おかげさまで大好評で迎えていただいて。スティーヴィー・ワンダーとかがいきなりアーティスト別のチャートでアリアナ・グランデやマルーン5とかと並んでいたりして(笑)。それで「日本のフリー・ソウルっていうのはすごい!」とMusic Unlimitedのインターナショナル・ミーティングでも話題になるくらいだったそうです。———そうなんですね(笑)。前回も話題に取り上げましたが、スティーヴィー・ワンダー、シャーデー、ディアンジェロを皮切りに、10月にマイケル・ジャクソン、エリカ・バドゥ、そして今月はプリンスとジョニ・ミッチェルと、続々とプレイリストが公開されましたね。これらは許諾の関係もあって、今まではフリー・ソウルのCDコンピレイションになっていなかったアーティストでもありました。僕自身も聴いていて、とても気持ちよかったですし、いろいろな人たちに届くだろうと感じました。
橋本 本当にそうですね。CDコンピで実現していない云々だけでなく、単純にそれだけのポテンシャルがあるアーティストのベスト・セレクションを編めば、これだけの人が聴いてくれるんだということを実感しました。そういう中で浮かび上がってきたリスナーのイメージというのは、シンプルに、カジュアルに音楽に接している人たちが大きな割合を占めているなあと。いわゆる音楽マニアみたいな人たちよりも、普通の音楽好きにアピールしている印象で、それが3か月前に始まる前に想定していた数より多いと感じています。———そうですね。
橋本 スティーヴィー・ワンダーやマイケル・ジャクソンという名前は知っていて、聴いた曲や好きな曲もあるんだけど、たくさんアルバムがあるので断片的にしか接していなかった音楽好きが、特定のテイストや切り口を通してまとまった形でその音楽に接することができたということの価値は大きかったと思っています。———そう思います。定額で聴き放題というサービス形態ですし、個別の曲はYouTubeとかでも聴けるかもしれないけど、プレイリストとして並んでいるので、流していて「この曲いいじゃん」というような形でカジュアルに接したいリスナーに向いている企画だなあと感じました。
橋本 コンピレイションでもそうなんだけれど、例えばマイケルでもスティーヴィーでも、いろんなタイプの曲があるじゃないですか。たとえばそれが今回のマイケルならメロウなテイストに特化することによって、いろんなタイプの曲が乱れ打ちで耳に入ってくるのではなく、ひとつの雰囲気の中で音楽に浸れるから、選曲によるスタイリングのようなものが、とても受け入れられているし反響を呼んでいるという気がしています。———それこそマイケルなら「Bad」や「Beat It」が分かりやすいと思うんですけど、そのあたりはベスト盤には入るんだろうけど、フリー・ソウルやメロウという観点だとちょっと違うのかなと。
橋本 もちろん、グルーヴィーというか上がりたい気分のときに聴くマイケルを集めたものを作ってもいいんですけど、フリー・ソウル・チャンネルに付随するプレイリストとして何が一番良いキュレーションなのかを考えたときに、あれがベストだと思ったし、実際そうしたことでマイケルの素晴らしさや偉大さが伝わった音楽ファンもたくさんいたと思います。———そうですね。今まさに橋本さんから出たんですけども、すごくいいキュレーターとして橋本徹という存在が機能した企画だったと感じました。また、チャンネル担当の方からうかがったんですが、ゲスト・セレクターをされた松尾“KC”潔さんが「Music Unlimitedは、PCよりスマホで使ってこそ」と言われていたそうですね。スマホからスピーカーにワイヤレスで飛ばす、という良さや便利さもありますしね。家に帰って、電車でイヤフォンで聴いていた続きという感じで聴ける。
橋本 そうだね。音楽を持ち運びながら聴けるとともに、スピーカーと一緒に、野外に音楽を持ち出せたりする楽しさとかも、やはり「いつでもどこでも好きなだけ」という、Music Unlimitedならではのカジュアルな楽しみ方だと思いますね。-
フリー・ソウル・
スティーヴィー・ワンダー選曲/橋本徹(SUBURBIA)
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永遠・不朽の名曲ばかりながら、全盛期の70年代作品がコンピCDでは使用できないため、大物ソウル・アーティストでは唯一フリー・ソウル版ベスト盤が実現していないスティーヴィー・ワンダー。だからこのMusic Unlimited版40曲は、まさに夢の選曲です。もちろん他にも良い曲はありますが、もう思い残すことはありません。本当に奇跡のよう。いつかこのままCDにできたら、と願いをこめてセレクトしました。音楽の奇跡が詰まっています。近いうちにスティーヴィー・カヴァーの名作を集めたプレイリストも作りたいですね。
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フリー・ソウル・
シャーデー選曲/橋本徹(SUBURBIA)
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何年もの間、プライヴェイトでもよくセレクトCDを作って愛聴してきたシャーデー。日々の感情に優しく寄り添ってくれるメロウな音楽です。やはり人生規模で大好きな名曲ばかり。実は『フリー・ソウル・シャーデー』は、レコード会社からの依頼で、リリースが決まるより前に選曲リストを提出しているのですが、このMusic Unlimited版は、それを少しアレンジして、現時点では音源のなかったリミックス作品に代わり、シャーデー・アデュ以外のメンバーが構成するスウィートバックによる世界観の近い2曲を加えているのもポイント。僕にとっては永遠に聴いていたくなるような珠玉の名作が連なりますので、都会の雑踏の中で、夕暮れの海辺で、夜のドライヴで、灯りを落としたベッドルームで、ぜひ。
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フリー・ソウル・
ディアンジェロ選曲/橋本徹(SUBURBIA)
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21世紀のソウル・ミュージックの礎となり、新作も今か今かと待たれるディアンジェロは、ソウル好きの美しい女性と聴くことを思い浮かべながら選曲しました。最近の僕のコンピレイションのテーマでもある、ポスト・ディアンジェロ時代のアーバン・メロウ、という観点も踏まえたシルキーでセンシュアルな音楽で、フリー・ソウル・ファンならずとも嬉しいソウル・クラシックの名カヴァーもちりばめています(豊富にあったフィーチャリング音源も、ボーナス・トラックとして最後に10曲!)。ぞくぞくするような色気のある歌声とサウンドに、お酒を飲みながら、あるいはナイトクルージング〜ベッドルームで、身も心も委ねてください。音のセクシャル・ヒーリングにどうぞ。
9/11追記:
『Live At The Jazz Cafe, London』収録作を含む、全40曲のコンプリート版が再公開されました。ぜひお楽しみください! -
フリー・ソウル・
マイケル・ジャクソン選曲/橋本徹(SUBURBIA)
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コンピCDでは大ベストセラーになった“フリー・ソウル・ジャクソン・ファイヴ”がありましたが、マイケル・ジャクソンで選曲するのは初めて。その第1弾、モータウン〜クインシー・ジョーンズ期、30歳になる前の“メロウ・マイケル”です。2014年の今セレクトするなら、「Love Never Felt So Good」(元来は20代の録音です)に始まり終わらざるを得ないでしょう! スティーヴィー・ワンダーの影響やロッド・テンパートンの功績、BADセッションBチームあたりも、大切なキーワードです。言わば20世紀のスタンダードとしてのマイケル。実はいちばん思い入れ深いのは、ここには入れてませんが、高校生のとき仲間と踊った懐かしい(恥ずかしい)思い出がある「Beat It」だったりしますが……。
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フリー・ソウル・
エリカ・バドゥ選曲/橋本徹(SUBURBIA)
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来日公演の素晴らしさも記憶に新しいエリカ・バドゥ。個人的には90年代以降に現れた最も好きな女性アーティストのひとりで、音源のなかった1枚をのぞくすべてのアルバムから選曲することができた、夢のようなセレクションです。まさにソウルとジャズとヒップホップの理想的な融合。カヴァー/サンプリング元を示すなら、ドナルド・バード/ロイ・エアーズ/シルヴィア・ストリップリン/リロイ・ハトソン/エディー・ケンドリックス/ルーファス/ヒートウェイヴ/ジョニー・ハモンド/タリカ・ブルー/アビー・リンカーン……Free Soulファンでなくても聴きたくなりますよね。コモン「The Light」のJ・ディラ・リミックスやディアンジェロとの「Your Precious Love」、ボノボとの「Heaven For The Sinner」など他にも入れたかった曲はありますが、フィーチャリング曲も大充実です。秋の夜長に心地よくメロウに疲れを癒してくれると思います!
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フリー・ソウル・
プリンス選曲/橋本徹(SUBURBIA)
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プリンスは大好きなアーティスト。Music Unlimitedには90年代初頭までと近作の音源がありました。新作でいちばんのフェイヴァリット「Breakfast Can Wait」に始まり、ディアンジェロとジョニ・ミッチェルを掛け合わせたような「The Ballad Of Dorothy Parker」、カラー・ミー・バッド「How Deep」でのサンプリングも印象深かった隠れ名曲「Crazy You」というオープニングから、ひどく気に入っています。Free SoulのDJパーティーで最もプレイしたのは「My Love Is Forever」(「I Wanna Be Your Lover」も)、懐かしのヒット・ナンバーもたっぷりで、高校時代の僕は「Little Red Corvette」〜「When Doves Cry」をきっかけにプリンスに惹かれました。最も好きなアルバムは『Parade』、次点に『Sign ‘O’ The Times』、どちらもスライの影響を感じさせますね。最後に『Lovesexy』をまるごとボーナス収録。グルーヴィーでメロウでポップな“フリー・ソウル・プリンス”、存分にお楽しみください!
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フリー・ソウル・
ジョニ・ミッチェル選曲/橋本徹(SUBURBIA)
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“Oh, My Favorite Song” She Said / And It Was Joni Singing “Help Me I Think I’m Falling” とプリンス「The Ballad Of Dorothy Parker」に歌われた「Help Me」に始まる“フリー・ソウル・ジョニ・ミッチェル”。前半から錚々たる不朽の名曲がずらりと並び、絶品の名アコースティック・グルーヴが連なる全50曲、圧巻ですね。近年ジャズ・ヴォーカルによるカヴァーが急増し、多くのトリビュート作も生まれていますが、いま彼女を捉え直すなら、やはりプリンスとジェイムス・ブレイク(共に「A Case Of You」をカヴァー)抜きには考えられません。そうした感覚が選曲に反映されていると思います。「Big Yellow Taxi」はジャネット・ジャクソンにサンプリングされる以前からFree Soulのヘヴィー・プレイ・チューンでした。当初から予定していた1960〜70年代の40曲に、80年代以降のフェイヴァリット10曲を年代順に加えた完全版、ぜひご堪能ください!
■心地よく日常にフィットするカフェ・アプレミディ・チャンネル
———で、そういういい流れの中でカフェ・アプレミディ・チャンネルが11月27日についにスタートするということで、これはフリー・ソウル・チャンネルと対になるという感じの意味合いを持っているようなところがあるのかなと思うんですけれど。
橋本 ちょうどこの年末でカフェ・アプレミディが15周年を迎えるんですが、それを祝う皮切りのタイミングでのチャンネル開設に加えて、これでフリー・ソウルとアプレミディ、僕にとってちょうど両輪が揃う感じになるのも嬉しいですね。———フリー・ソウル同様に、ジャンルに特化したチャンネルではありませんね。20代の人から年配の方まで、幅広い年齢層のリスナーの日常にフィットするような音楽性であり選曲ですよね。
橋本 まさに「音楽のある風景」ですね。聴いていてリラックスできるような、心地よい感じの選曲をできたらいいなと思っていて。フリー・ソウルが気持ちが上がるときに聴きたい音楽だとしたら、心地よくなりたいときに聴きたいものというか。快楽と快適の違い、と言ったら言いすぎだけど(笑)。———いわゆる90年代初頭の「Suburbia Suite」や、カフェ・アプレミディがオープンして、それと連動した形で2000年夏からリリースされたコンピレイションCD、その後は『音楽のある風景』シリーズにつながっていくような、そういうテイストをまとめているチャンネルということですよね。
橋本 2000年代初頭にカフェ・ミュージックが大きなブームになったので、そういうパブリック・イメージが強いのかもしれませんが、僕が考えているのは、むしろ最近のアプレミディ・レコーズでの選曲――『FM』シリーズや『音楽のある風景』、『素晴らしきメランコリーの世界』など、テイスト的にはそちらに寄せた方がリスナーの皆さんにいい感じだなと思ってもらえるんじゃないかという気持ちが強くて、1,000曲のトータル・カラーとしては意識していますね。それを肉付けするものとして、90年代前半に「Suburbia Suite」で紹介・提案したような、映画音楽やムード音楽〜ソフト・ロック〜ボサノヴァ〜フレンチ、それは2000年代にカフェ・ミュージックというフィルターを通してやったことにも発展していくものなんだけれども、そういったメイン・ディッシュを敢えて前菜やデザート、サイド・ディッシュとして用意するというようなところが今回はあるかな。———橋本さんはUSENでもカフェ・アプレミディのチャンネルを2001年から始められて、そちらはもう15年近い歴史があるわけですけども。
橋本 そちらも選曲がアップデイトされていることが重要で、92年の渋谷や2000年代初頭の渋谷そのままを今やっても意味がないわけで、あの頃のように街や時代の空気が弾んでいるわけではないから、僕たちの気持ちや内面にフィットするような、2014年の気分に即したアプレミディ・テイストを出したいなって気持ちがありますね。そうじゃないと懐かしいだけになってしまったり、今の空気感に合っていないものになってしまったりする可能性があると思うんですよね。———アップデイト、現在進行形で生きている選曲が重要ということですね。先ほど話されていたような、過去の経験の積み重ねというのが実際に反映されていると、曲目リストを見て感じました。それらを通過した2014年のサバービアでありアプレミディであり、という風になっている。
橋本 Music Unlimitedが得意とするのも、わりと最近の音楽だったりするから、とても苦労してアーティストとコンタクトを取ってCDに収録した曲があっさりと音源にあったりするんで、衝撃を受けています(笑)。配信オンリーや個人リリースのものが自然にあったりとか。2000年代以降の音源に関しては、知る人ぞ知るというか、かなり突っ込んだ音源でもカタログにあるので、それを最大限に生かした選曲をめざしました。特にサロン・ジャズ系の強さはすごいですね。———それは感じますね。あと、橋本さんとの話で出てくるのが、絶対的に普遍的にいい音源、吸引力の強い音源に対するこだわりなんですが、最近とみに意識されてるのかな? と思います。今年はフリー・ソウル20周年だったので、自然とそういう検証作業になったってこともあったと思うんですが。
橋本 フリー・ソウルは20年経っても色あせずに輝いているエヴァーグリーンだったことを証明できた1年だったと思うんだけど、今ちょうど選んでいる「Cafe Apres-midi 1000」のための音源も、やはり20年後も輝いているだろうという名作をセレクトしているつもりです。そしてこれはとても大事なことだと思うんですけど、3ヵ月ごとの選曲の更新に際しては、フリー・ソウル・チャンネル以上に、季節感を重要視していけたらと考えています。■カフェ・アプレミディ・チャンネルを象徴する多彩なプレイリスト
———チャンネルのオープン記念ということで、今回はカフェ・アプレミディ仕様のプレイリストも3つ公開されますね。
橋本 すごいですよ、錚々たる面々です(笑)。フリー・ソウルでも自分が好きで、なおかつたくさんの音楽ファンが好きだろうアーティストを僕なりの感覚で選曲してきたんですけれども、カフェ・アプレミディというテイストでやるならば、スティーヴィー・ワンダー的な存在感で、これまでコンピレイションCDには使用できていないアーティストという意味で、キャロル・キングというのが最初に浮かびました。単純にリスナーの皆さんに喜ばれるだろうってこともあるんだけど、僕自身がスティーヴィーのように大好きなアーティストなのにコンピレイションを権利の関係で作れない、という部分もあったので、より意欲的に取り組めました。スティーヴィーもキャロル・キングも、誰がどう聴いても好きでしょ? というか、嫌いな人がいないアーティストだから、カフェ・アプレミディ・チャンネルで最初に特集するアーティストとしては申し分ないかなと。———(曲目リストを見て)『Music』や『Rhymes & Reasons』からの曲が多いですね。
橋本 僕自身の好みなのかもしれないけど、キャロル・キングで最も大切なアルバムは『Music』であり、次点に『Rhymes & Reasons』っていうのがアプレミディだっていう意識は強くあって。もちろん『Tapestry』には名曲が沢山あるし、大好きなアルバムではあるんだけど、アプレミディの象徴としては『Music』、続いて『Rhymes & Reasons』っていうのは、常にカフェ・アプレミディのDJブースにあのジャケットが置いてある、みたいな光景がいつでも思い浮かぶから、どうしてもそうなりますね。———リアルな実感がそこにあるということですね。時代的にも1971、72年とマーヴィン・ゲイ『What’s Going On』以降のシンガー・ソングライター像が提示されているアルバムです。要は90年代以前の感覚とは違うよ、ってことですよね。同じようなことをケニー・ランキンに関しても思ったりしました。彼は90年代以前だと、『The Kenny Rankin Album』あたりが代表作とされている、マイケル・フランクスなんかを好きなAOR好きが掘っていくと行き着くアーティストというイメージでしたが、やはり『Silver Morning』から多く選ばれています。
橋本 SSWにフォーク・ロックとかブルー・アイド・ソウルとかブラジル音楽が一番いい感じで混ざっているのが『Silver Morning』だよね。まあケニー・ランキンは総じてアルバムの水準が高いので、どれも外さないけど。———その『Silver Morning』の代表曲「Haven’t We Met」のアプレミディにおけるシグネチャー的な役割も重要です。
橋本 そうそう。ソプラノ・サックスの入っているチェスキーでの再録ヴァージョンは残念ながら音源ないみたいだけど。やっぱりあの曲がアプレミディの象徴だから。コンピレイションCD(「usen for Cafe Apres-midi」の10周年を記念した『Haven't We Met?』)でも1曲目に持ってきたし。———次にエヴリシング・バット・ザ・ガール(以下EBTG)ですね。
橋本 EBTGは個人的にはやっぱり、80年代前半の自分が音楽を好きになるタイミングで登場してきたアーティストで、本当に同じ時代を生きてきたんだなと感じることが多くて。それはミュージシャンとしてという以上に、リスナーとしても。そういう意味でのベン・ワットやトレイシー・ソーンに対する共感と信頼はものすごくありますね。フリー・ソウル・チャンネルのときにシャーデーを持ってきたような感覚に近いかな。———なるほど。時代的にも80年代に登場して、当時のシーンに新しい風を吹き込むとともに、長きにわたり愛されているという点が似ていますね。
橋本 感性的にも存在感的にも最もシンパシーを感じるアーティストなので、象徴的な意味を込めてEBTGをベン・ワット、トレイシー・ソーンのソロも含めて第1回のプレイリストに加えたかったという気持ちはすごくありますね。女性、男性、男女という3組の組み合わせもいいし。———リベラルなバランスですね(笑)。今後はぜひジョアン・ジルベルトやビル・エヴァンスも期待したいですが、シャーデーもEBTGもサウンドとしてはスタイリッシュだと思うんですけど、その中に込められている芯の強さやメンタリティーの部分に橋本さんは共感しているんだろうなあ、ということは思いました。90年代以降の、ドラムンベースやハウスに接近してみたりっていう行き方とかも含めて。
橋本 自然だしね。ベン・ワットが自身のレーベルに「Buzzin’ Fly」ってつけたりするセンスがすごく好きだから。ドラムンベースもボサノヴァも、ハウスもティム・バックリーも好きだよってことを僕自身もやりたいと思って、20年以上も音楽に関わる仕事をしてきてるから。———橋本さんの選曲も、メロウ・ビーツだったりメランコリーの世界だったりという風に、サウンド的にはそのときそのときの興味や対象で変化していっているけど、ある種のセンスや美学が貫かれていますね。それこそフリー・ソウルだったり。リスナーの人にとって理想的な入口として、フリー・ソウル・チャンネルが機能しているという状況がある中で、カフェ・アプレミディ・チャンネルもいろんなプレイリストが充実してくると、Music Unlimited自体がより魅力的なサービスになっていくと思います。
橋本アプレミディ・チャンネルは音楽マニアだけでなく、女性など、フリー・ソウルに比べるとより幅の広いセレクターを立てて、ゲストのプレイリストも展開していったら面白いんじゃないかと思っています。女優さんとか、料理方面の方とか、インテリアやファッション関係の方たちとか。実際、3か月が過ぎて浮かび上がってきたMusic Unlimitedのリスナー像は、わりとコンサヴァティヴな人たちなのかなってのがあるから、ある意味フリー・ソウル以上にアプレミディの方が敷居を低くして楽しめるのかな、という気もしています。———単純に、カフェ・ミュージックを聴きたいという潜在的なリスナーは多そうですしね。家でまったりしたいときに、という感じで。実際ボサノヴァ・チャンネルなんかも人気があるみたいですし。読書をしながら、ワインやコーヒーを飲みながら、また寝る前のくつろいだ時間に心地よい音楽を聴きたいといった、生活を彩るBGMを求めている人たちに、このチャンネルは一番いい入口になると思います。
橋本そうだね。そこからアプレミディ・レコーズで作っているようなコンピレイションCDの存在に何人かの人でも気づいてくれたらいいな、という気持ちもありますね。フリー・ソウルで人気の曲のカヴァーが、アプレミディだと絶妙なヴァージョンであったりするので、メロディーは知ってるけど、そのヴァージョンは初めて聴いた、みたいな楽しみ方もできるんじゃないかな。———今年はフリー・ソウル20周年でしたが、年末から来年にかけて、今度はアプレミディ15周年が盛り上がっていきそうですね。今後のさまざまな展開を本当に楽しみにしています。
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カフェ・アプレミディ・
キャロル・キング選曲/橋本徹(SUBURBIA)
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キャロル・キングの『Music』はこれまでにカフェ・アプレミディで最もかけられた女性シンガー・ソングライター・アルバムかもしれません。「午後のコーヒー的なシアワセ」という言葉に、彼女がピアノに向かい微笑む、暖かな陽射しが零れるジャケットの光景を重ねていました。いつでも気持ちに寄り添ってくれる、まろやかな自然体の音楽。それは「人生の夏の記憶」のようで、「Music」の歌詞の一節は座右の銘と言えるかもしれません。今回は1980年までの作品から、名盤の誉れ高い大ヒット作『Tapestry』はもちろん、『Music』の仲のよい姉妹作のような『Rhymes & Reasons』や、ソロとしてアルバム・デビューする前に在籍した名グループ”The City”の音源を含む、本当に名曲尽くしという感じの全35曲。Music is playing inside my head / Over and over and over again / My friend, there is no end to music♪
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カフェ・アプレミディ・
ケニー・ランキン選曲/橋本徹(SUBURBIA)
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ケニー・ランキンの『Silver Morning』はこれまでにカフェ・アプレミディで最もかけられた男性シンガー・ソングライター・アルバムかもしれません。しなやかなガット・ギターとスキャット、ジェントルな歌声。ビートルズもボブ・ディランもボサノヴァもブルー・アイド・ソウルも彼の色に染められるピースフルな音楽は、その曲名に倣うなら”Sunday Kind Of Music”。そして名フォーキー・ワルツ「Haven’t We Met?」はすべてのロマンティストに捧ぐ合言葉(アプレミディ・レコーズのコンピ『Haven’t We Met?』に収めた再録ヴァージョンも絶品です!)。「Peaceful」「Soft Guitar」「In The Name Of Love」「Like A Seed」「Up On The Roof」「Berimbau」——今回は1980年までの作品から、掛け値なしの正真正銘の名作35曲を選び抜きました。この音楽を聴いてくれた皆さんが「僕たちどこかで会ったんじゃない?」と感じてくれたら嬉しいです。
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カフェ・アプレミディ・
エヴリシング・バット・ザ・ガール選曲/橋本徹(SUBURBIA)
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エヴリシング・バット・ザ・ガールは80年代前半から、自分と音楽人生を共に歩んでくれている、と感じるほど敬愛してやまないベン・ワットとトレイシー・ソーンの男女デュオ。彼らへの共感と信頼は並々ならぬものがあります。そんな思い入れの深さを反映して、二人のソロ作(特にベン・ワットの『North Marine Drive』は僕の青春のアルバムです!)も含め全55曲の大ヴォリューム、最後の5曲は素晴らしいクリスマス・ソングを集めました。コール・ポーター/ボブ・ディラン/ルー・リード/ポール・サイモン/エルヴィス・コステロ/トム・ウェイツ/プリテンダーズ/モノクローム・セット/シンディ・ローパーといったカヴァー曲のレパートリーも含め、リスナーとして強く感性的なシンパシーを抱きます。胸が熱くなると同時に、どこか等身大のリラックスした気持ちにさせてくれるのです(音源のなかったベンの「Spring」やトレイシーの「Oh, The Divorces!」などの近作も大好きです)。心の深く柔らかい部分に響く彼らの音楽を、ぜひじっくりとお聴きください。
プロフィール
橋本徹 (SUBURBIA)
編集者/選曲家/DJ/プロデューサー。サバービア・ファクトリー主宰。渋谷の「カフェ・アプレミディ」「アプレミディ・セレソン」店主。『フリー・ソウル』『メロウ・ビーツ』『アプレミディ』『ジャズ・シュプリーム』『音楽のある風景』シリーズなど、選曲を手がけたコンピCDは260枚を越える。
USENで音楽放送チャンネル「usen for Cafe Apres-midi」「usen for Free Soul」を監修・制作。著書に「Suburbia Suite」「公園通りみぎひだり」「公園通りの午後」「公園通りに吹く風は」「公園通りの春夏秋冬」などがある。
http://apres-midi.biz
http://music.usen.com/channel/d03/