プロを唸らせる「QUALIA 005」

QUALIA 015がこれまでの技術の集大成とするならば、映像を手がけるものとして今後決して避けて通れないディスプレイ、それが「QUALIA 005」だ。

新開発LEDバックライトシステム「トリルミナス」は、それまでブラウン管の色域を超えられないと言われてきた液晶ディスプレイに革命を起こした。これを採用したQUALIA 005は、従来のディスプレイと比較して150%、さらに日本の放送フォーマットであるNTSCで規定された色範囲をも超えてしまう表示性能を持つ。

その秘密は、白色のLEDを使うのではなく、RGBそれぞれ独立したLEDを用いて白色光を合成する、独特かつ贅沢な方法にある。光の三原色と同じ3色のLEDそれぞれが十分なスペクトルを発することで、従来バックライトとして用いられてきた冷陰極管以上の広色域特性を生み出すのである。

酒井 博史氏QUALIA 005の色表現について、マーケティングを担当する酒井 博史(さかい ひろし)氏にお話しを伺った。

「従来の一般的なテレビモニタでは、NTSCの70%ぐらいしか再現性がなかったわけです。トリルミナスはそこが抜本的にブレイクスルーできる技術ということで、一般家庭のテレビとしてセット化しようと。LEDバックライトは、もともと医療用などのノンコンシューマで使われたことはありました。ですが家庭に置く製品として仕上げるまでには、いろんな課題がありました。もちろんここまで大型化することも、ハードルの一つでしたね。」

QUALIA 005の発色で特に素晴らしいのが、赤、そして緑の表現力である。赤の例では、濃く暗く、かつ透明感のあるワインレッド、信号的に言えばビデオゲインが低くクロマが高いような赤色は、従来のテレビジョンシステムでは非常に出しにくい色だ。波形上は出力されているのだが、表示装置であるテレビモニタのほうで、どうしても透明感というか発色感が失われて、茶色になってしまうのである。

だが、トリルミナスを採用したQUALIA 005では、まさに実物のワインと同じ、ナチュラルな発色が可能だ。映像制作者が見せかった本物の赤色が表現できるテレビモニタは、今まで地球上に存在していなかったのである。このことだけでも、映像を制作するプロの側もスタンスを変えざるを得なくなるだろう。

「この商品を発売して3ヶ月ですが、実際に放送業界からもかなり問い合わせが来ています。トリルミナスという技術は、将来的には新しい放送用のモニタとしても応用できるだろうと期待しています。」

QUALIA 005のもう一つの特徴、緑の発色を表現するならば、「奥の深さ」だろうか。話の腰を折るようだが、ここで中学校の理科で習った、可視光線の7色スペクトルを思い出して頂きたい。そう、「赤-橙-黄-緑-青-藍-紫」というゴロで覚えたアレだ。人間の視覚は、この7色のセンターに位置する「緑」を中心に、波長の長い赤方向と、波長の短い紫方向に広がっている。この両端に行くに従って徐々に感度が落ちていき、見えなくなったところから赤外線や紫外線といった不可視光線の範囲になるわけだ。

したがって人間の視覚というのは、真ん中の緑が一番感度が高いのである。つまり言葉では「緑」と一口に言っても、その中での微妙な色の差や濃淡の差を、人間はかなり詳細に見分けることができる。この緑の発色に関して、酒井氏が面白い話をしてくれた。

「僕は根っからのゴルフファンなんですが、QUALIA 005で見るゴルフ中継では、緑の濃淡によってフェアウェイの起伏やグリーンの芝目とかまで、はっきり表現できるんですよ。これができるテレビは、他にはないんです。」

酒井氏の発言は、まさにこの視覚特性を裏付けるものだ。QUALIA 005を見てしまうと、いかに従来のテレビが単純化され、記号化された「緑色」しか発色できなかったかがよくわかる。

小寺 信良小寺信良
映像作家/映像アナリスト。バラエティ、報道、コマーシャルと活動拠点を変え、芸術面と技術面の両方で10数年のキャリアを持つ、映像のプロである。その知識と経験を生かした内容の濃さで、映像関連のライターとして圧倒的な支持を得ている。