※本ページは2019年11月時点での情報を基に作成しています
九州朝日放送株式会社様はIP Liveプロダクションシステムの導入に向けたトライアルとして、高校野球中継と九州放送機器展におけるデモンストレーションを実施されました。
当社では、放送とネットワークの融合など、プラットフォーム変化への適応を目指しています。社内各部門で協調して、新しい技術の研究を行う枠組みとして「メディア工房」という、どの部門にも属さないセクションを立ち上げて、日々スタディを行っています。
2018年の春、新聞記事において「これからは中継車が不要になる」というような、IP Liveプロダクションシステムの実用事例に関する記事が報じられ、それが当社役員の目に止まりました。このことがきっかけとなり、メディア工房においてIP Liveプロダクションシステムのスタディを開始することになりました。
実は当社では、IP導入のメリットとされる「リモートプロダクション」や「リソースシェア」と似たような仕組みをすでに取り入れていました。
例えば、当社局舎から直線距離で3kmほどの位置にある福岡ヤフオク!ドームからの野球中継については、球場から公式映像・各カメラの映像を多重して光回線で局舎へ伝送し、サブでスイッチングをする、という制作を長らく行ってきています。IPを使ってはいませんが、IPにおける「リモートプロダクション」と概念的には類似のものです。
一方、スタジオについては、当社には情報系のLスタジオと附随するLサブ、報道顔出し用のNスタジオとNサブ、そのほかフロアのみの第1スタジオに加え、局舎エントランスにあるオープンスタジオの4つがあります。そして、この4つのスタジオと2つのサブは自由に組み合わせて使用することができます。こちらもインターフェースはIPではなく、物理的な結線も必要になりますが、設備とフロアが自由に組み合わせられるという意味で「リソースシェア」の概念に近いものです。
そのため、新たに実施するIP Liveプロダクションシステムのトライアルでは、その先の概念を見据えることにしました。
最初のトライアルは、高校野球の中継でした。高校野球の中継は、球場からデジタルFPUにより本線・予備を伝送、リターンは超低遅延コーデックを使用しインターネット回線を介しての伝送でした。IP化トライアルでは、回線は1Gbps、プロトコルはNMI(ネットワークメディアインターフェース)、コーデックは220MbpsのLLVCを使用しました。本線のほか、ユニカメラを想定した1カメ、加えてスコアボードの抜きの計3本を上り伝送し、リターン映像を下り伝送したほか、インカム、CCUのリモートコントロール、カメラタリーをIP経由で伝送しました。
実際の放送で使用するため、実績の豊富なソニーのNMIをベースとしたシステムで構成をしました。1Gbps帯域保証の回線を用意できたことで、ビットレートが大きく取れ、IP化が実現し、本線やリターンの画質がアップしたほか、インカムなどの実用性も確認できました。
2度目のトライアルは九州放送機器展における、会場と局舎の間での伝送です。「リモートプロダクション」と言うと、局舎内サブと中継現場で使われる例がほとんどです。しかしこれは、レギュラーの中継場所であれば効果的なものの、単発の中継では、結局人が動くことになり、人や設備のリソース節減にはなりません。そこで発想を変えて、局にはフロアだけがあり、サブはどこかにある(例えばシェアリングする)というような真逆のコンセプトを見立てることにし、九州放送機器展会場側をサブとして設営しました。
ソニーのIP Liveプロダクションシステム機器も、会期にはSMPTE ST2110への対応が間に合うということで、10Gbpsの回線、プロトコルはST2110、非圧縮での伝送を行いました。フロア2カメと俯瞰カメラの3本を上り伝送し、リターンと会場カメラの2本を下り伝送しました。そのほか、IPインカムやCCUのリモートコントロールもIPで伝送しました。
使い勝手では全く違和感がなく、会場の隣にスタジオがあるかのような感覚でオペレーションできました。あまりにすんなりで拍子抜けするほどでした。遅延も小さく、リターンを見ながらパンをしても十分に実用になります。今回お借りしたIPインカムも、普段使用しているデジタルインカムに比べて飛躍的な高音質で驚きました。
当社ではこの先、第一段階のIP化として、局内の分配システムのIP化実現を目指しています。各スタジオなどは更新時期がまちまちであるため、まず中核となる部分をスケーラブルでフレキシビリティーのあるものに置き換えようという考えからです。
ソニーは、いままでIP Liveプロダクションシステムを推進してきているだけでなく、製品ラインアップも最も先行するメーカーということもあり、今回のトライアルに加わってもらいました。ソニーとは今後も、機材や技術だけでなく、コンテンツや視聴者に向けたアプローチなど、より広い分野で協調して取り組める機会を模索できればと期待しています。