RSK山陽放送株式会社様は、新社屋移転に伴い、局内設備全体をSMPTE ST 2110ベースのIP Liveプロダクションシステムに更新され、2021年春より運用を開始されました。
RSK山陽放送株式会社
技術局 制作技術部
主査 佐藤 直樹 様
新社屋への移転に伴い、当初は回線システム・制作サブシステム・報道サブシステムのそれぞれを個別にどのメーカーにお願いするかの比較検討をしていましたが、結果的にIPで一括システマイズするソニーの提案が将来性・拡張性のすべての面で優れていたため、局内設備全体をソニーでIP化することになりました。
2018年に新社屋移転の計画が立ち上がり、ソニーからのお声がけですでにIPでのシステム構築を完了されている静岡放送様、三重テレビ放送様の見学をさせていただきました。静岡放送様では、IPリモートプロダクションの運用をスタジアムと局側の双方から拝見しました。アイリスの制御や遅延の具合を実際に体験しましたが、IPだから運用を大きく変えなくてはいけないのではないかという懸念や不安をまったく感じませんでした。三重テレビ放送様では、フリーアクセス内のケーブル本数の少なさや、同軸のパッチ盤がないことを確認させていただき、室間の構築において、配線周りがすっきりしていることが敷設する上での大きなメリットだと感じると同時に、まったく問題なく運用ができていることを実感しました。
自局の更新については建屋と部屋の配置がすでに決まっていて、同軸ケーブルでは不都合な距離の取りまわしが必要な状況でした。各社にご提案をお願いしたところ、ソニー以外は各スタジオサブを個別にSDIで構築するプランでしたが、ソニーは回線システム・制作サブシステム・報道サブシステムをIPでまとめた提案を出してきました。
ソニー案はケーブル配線の懸念が解消できると共に、複数設備をIPでまとめて構築することでスケールの自由度、リソースシェア、コストなど多くのメリットが出ることがわかり、驚いたことを覚えています。
その結果、回線システム・制作サブシステム・報道サブシステムをまとめてソニーにお任せすることにしました。
IPシステムの採用実績という意味ではすでにソニーで導入した事例がいくつもありましたし、実際にIPシステムを導入されたご担当の方に話を伺っても、ここがよくない、あそこがダメというネガティブな話もなく、制約・制限事項もありませんでした。
同じ業界の人間が対面すると、「正直これはダメ、あれはやめておいた方がいい」という話は必ず出てきますが、採用されたどの放送局の方々に聞いても大きなネガティブ要素がなかったので、これは信用してよさそうだという、確かな感触を得られました。
また、放送局の設備は更新スパンが長いですから、これからの若い世代にちゃんとしたものを残したいという強い思いがありましたので、若手メンバーにヒアリングしたことも覚えています。
SMPTE ST 2110はまだ国内では事例のないタイミングでしたが、IPシステムの実績と言えばソニーだと思いましたし、「回線システムから各サブシステムまでまとめてよろしく」という頼み方ができるのもソニー以外他にありませんでした。まとめて発注できるというのは、打合せ回数も少なくできますし、ベンダーごとに個別で確認が必要な点もなくなり、かなり効率化できたと思います。
ちょうどメーカー選定時期がCOVID-19の感染拡大とぶつかったため、仕様詰めの打合せや立会検査も非常に工夫が求められました。特に立会検査は緊急事態宣言下だったため、ソニーの工場に行くことができませんでしたが、完全オンラインで実施したのも印象深いですね。ソニーの工場で仮組みされた設備をカメラで撮影してもらい、それをリモート会議の画面に投影しながら実施しました。オンラインでやったからといって大きな齟齬もなくスムーズにできたのは新しい成功体験となりました。
SDIシステムからIPシステムに変更したことによる違和感や運用の変化はあまりないですし、技術担当以外の運用者にはIPシステムに変わったことすら認識していないメンバーもいると思います。それくらい、運用上SDIシステムから変わったことはないです。マイナートラブルはありますが、リモートでメンテナンスできますしログ取りもできるので、現場の工数がそこまでかからないのもIPシステムのメリットだと思います。
実際に衆院選のときには、バージョンの問題で想定通りに稼働しないことが本番前々日に判明したのですが、直前にも関わらず急遽リモート環境からバージョンアップすることで解決ができ、IPシステムの柔軟性を感じました。
今後、IP機器や対応デバイスが増えていくとさらにメリットが出てくると思っています。
ユーザーが増えることで対応製品も増えますし、そこにどんどん競争が生まれて、より良い製品やより運用面でのメリットのある製品が普及していきますから、そういう意味では業界全体の進歩を期待しています。RSK山陽放送を見学してもらうことで、IPの裾野が広がっていくのなら、ぜひ協力したいと思っています。
取材:2022年