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2009年3月、"防沫マイク"F-115Bが発売になりました。放送の世界で30年余り愛用され続けてきた"防滴マイク"F-115の復刻モデルで、再登場の背景には放送界のサウンドエンジニアの復活に期待する熱い思いがありました。ソニーのエンジニアは、その熱い思いにどう応えたのか、開発に至る軌跡と、使う立場と作る立場のエンジニア同士が紡いだ奇跡の物語を紹介します。
- _防滴マイクF-115は、放送の世界ではどんな用途に使われ、どういう評価がされていたのですか。
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- 梶原と神田の発言
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TBS梶原巧さん(以下、梶原) ちょっと個人的な話になってしまうのですが、僕は放送の仕事に入る前から実はF-115というマイクを愛用していたんです。PBR-400というパラボラアンテナにF-115を付けて、その当時趣味にしていた生録をしていました。ですから、F-115は1974年の発売だったと記憶しているのですが、最初はコンスーマー用だったのではないかと思いますね。
SONY神田宏志さん(以下、神田) 正確に言いますと、2種類あったんです。キャノンプラグのF-115と、標準プラグのF-115Aです。梶原さんがお使いになっていたのは、F-115Aの方かもしれませんね。
- 梶原の発言
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梶原 なるほど、そういうことだったんですね。いずれにしても、非常に思い入れのあるマイクなんです。当然、TBSテレビに入社したときにはすでに局内にF-115があって、積極的に活用されていました。このマイクのポイントの一つは、防滴マイクという別称があるように、防滴・防塵構造、無指向性で風切りに強く、しかも音質にも優れた全天候型マイクであり、特に中継には欠かせないマイクとして定評がありました。台風中継、あるいはプロ野球祝勝会のイベントとして定着した「ビールかけ」中継などで使われているのは、もちろんF-115です。
- 村上の発言
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TBS村上信高さん(以下、村上(信)) ラジオでも中継やインタビューといった用途でF-115をずっと使っていました。ラジオ放送は、基本的にマイク1本で中継することが多いですから、雨の日、風の日といったように天候不順の場合でも、いい音で中継できるだけでなく、周囲の音もきちんと伝えられるマイクとしてF-115は欠かせない存在です。また、音だけのメディアですから、周囲の環境ノイズも貴重な情報となりますし、またマイクが壊れて音が出なくなるといったことは絶対避けなければなりません。その意味で、安定性・信頼性に優れたF-115は安心して使えるマイクです。
- 梶原の発言
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梶原 F-115のもう一つのポイントは、その信頼性の高さということです。典型的なアプリケーションといえるのが、お天気情報カメラ用マイクとしての運用です。TBSテレビでも30ヶ所以上にお天気情報カメラを設置していますが、物理的に取り付けができない場合を除いて基本的にマイクも一緒に設置しています。ここでもF-115を愛用してきました。オンエアでつねに音を使用するわけではありませんが、災害や事件・事故といった際には、音は不可欠の情報となるからです。一方で、お天気情報カメラというのは、一般的にビルの屋上、空港、駅、海辺や景色の美しい場所に設置しますが、どこも自然環境が厳しい場所です。夏は高温になり、冬は厳しい寒さと風、海辺なら塩分を含む潮風があります。こうした場所で、10年前後はメンテナンスフリーで運用できるマイクというのはF-115しかなかったのです。この、他にはないマイクというのが、F-115が30年余も放送の現場で愛用され続けてきたポイントになると思います。
- 村上の発言
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村上(信) 先ほども少し触れましたが、ラジオにとっては周囲の環境ノイズも貴重な情報となります。たとえば、プロ野球の中継などでは、ファンの歓声や声援も臨場感にあふれた放送に欠かせません。そこで、球場などではこうした音を収音するノイズマイクを球場内に設置していることが少なくありません。横浜球場の外野席の鉄柱に、このノイズマイクとしてF-115を設置しています。これもほとんどメンテナンスフリーで長期間運用しますから、周囲の音をクリアに収音できるだけでなく、長期間に渡って信頼性に優れたF-115でないと安心して使うことはできません。
- 梶原の発言
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梶原 このように、性能が良くて信頼性が高く、しかも他にはないマイクとして愛用してきたF-115でしたが、2003年に販売終了となってしまいました。長年愛用してきた僕たちからすると、突然ハシゴを外されたような気分にさせられた事件でした(笑)。