空山さんがAIBOのデザインに関わったきっかけは何ですか?
空山(以下 空)土井さん(ソニー株式会社常務、Digital
Creature Laboratory所長)が昔ヨット持っていて、僕も含めてみんなで共同オーナーだったの。NEWS(ソニー製ワークステーション)のときキャラクターを描いたの。こずるそうなウサギを描いたの。10数年前からの付き合いかな。
ちょっと来てくれ、っていわれて。 つらかったな、最初。親分の知り合いってイヤでしょ。上司の知り合いって。 しかもさ、土井さんに言われたことってさ、「うちのエンジニア達をいじめてくれ」、一言だよ。
みんなさ、優秀なのよ。限界点とか、コスト計算とかもすぐできちゃうわけ。わがままも言わないし。
だから、僕がむちゃくちゃ言って、困らせろ、って言われちゃった。ソニーの社風だろうけど、ほとんど自己紹介もなして進行して、なんて不親切な会社だと感じました。
そういう意味では、外様でつらかったよ。今までそういう仕事ってしたことなかったから。
難しいんですよ、人の中に入るっていうのが。生まれてこの方、あんまりいやなことしたことなかったから。努力も嫌いだし。いやでしょ、つらいこと好き?
僕、つらいことしないんだよね。 でもほら、おもしろいことがあると、そのためにはつらいことは何もなくなるのよ。
だから今回のアイボに関しても、願ったりかなったりの面白い状況だったのよ。
そのために、こなさなければいけないことがいろいろあって。でも、実務では、それすら楽しいことに変換されてしまう。
メーカーとジョイントの仕事ははじめてですか?
空 本格的なのはね。
それも世界でも一番クオリティの高い商品じゃない。同じ方向性のものはいっぱいあっても、グレードの高いやつ。自分の美意識や価値観の中じゃね。
これまでも機会はあったけど、自分の美意識にそぐわないものは拒否してたね。それもものすごく儲かるのよ。何千万とか、うまくいけば何億とか。
けど、単価が600円と聞いたときはちょっとね。志が違うとね。
自分がお金持ちだったら、自分がお金出してでもつくりたいものだよ。
やっぱりね、つくっている途中でね、耳なんかでもエンジニアの人と確執があってね。
強度と、デザインや動きの点でね。最後はソニーの方に任せましたけどね。
この10日くらい(AIBO ERS-110のプレス発表時期)で潰瘍になっちゃったよ。
取材なんかでも、ソニーを後ろに背負わなきゃならないでしょ。 雑誌の人達はおもしろおかしく書きたい。けれど、そうすると「マルヒ」(秘)の話もからむし、ちょっと言ったことに尾ひれがついたり。
一応、こっちは材料としては、しゃべれる範囲のところはしゃべらなきゃならないし。
けど、しゃべりすぎると、例えば、プレゼンテーション段階でのおもしろいアイデアの中でも一切カタチにならなかったものはいっぱいあるわけよ。
それってカタチにはなってないけど、ソニーの財産なのよ。そういうのって、しゃべりたくて仕方ないんだけど、しゃべれないのよ。 採算ベースを考えると無理なアイデアがいっぱいあるの。
次があれば、活かしてくれるのかもしれないしね。
まあ今は種まきだから。自分がおもしろがってやっているし。言ってみればファンタジーの具現化でしょ。
CGとか3Dとかでは簡単にできることだけど。
夢のような出来事だから。これができるならね、骨身を惜しまないよ。
AIBO ERS-110の開発中は、どれくらいの頻度でエンジニアにお会いになっていましたか?
空 週に1回くらい。僕が来てると、そこだけうるさいんだよね(笑)。
極力、声は抑えているんだけど、楽しくておもしろいから、自然と声が大きくなるんだよ。 周りがね、耳ダンボになっているのがわかるんだよね。
やばいやばい、すこしは敬語使わないと、って。
あとね、話している時ね、一方的に攻撃すると、その人の社内での立場があるじゃない。そのために逃げ道つくらなきゃならないし...
難しいんだよ。はがゆいんだけど、自分に能力がないからね。 極端なことを言うと、エンジニアの人達って世界でもデジタルのトップランクの人たちでしょ、みんな。私はアナログなのよ。E-mailもないし。
やる気のある人がいいね、思っていることがちゃんと言える人。 業界変わっても、意識や価値観は同じなんだ。たとえば、試作機のときも、すごい血糖値上がったもん。
そういうとき、ハイになれるのよ。ドーパミンとかエンドルフィンこんなに出る時があるのよ。
20年前とかね、ビジネスマンとクリエイティブの世界の人とは世界が違うって思ってたの。
ビジネスって人をだましたりすることだと思っていたわけ。けど、あるビジネスマンに会った時、同じようにハイになったことがある。
昔、ある広告代理店にいた時にね、制作部門にいたんだけど、最初は利益責任がない部署だったんだけど、そのうち利益責任が出てきてね。嫌だったね。だから辞めちゃった。
アイボのデザインの時は、今の動きもイメージしながらデザインされたのですか?
空 もちろんですよ。まず、技術屋さんから何が出てくるか。機能イコールデザインですよ。
これまで、ロボットのデザインをされたご経験を教えてください。
空 僕は、女の人のロボットで知られているんですが、やわらかさだとか皮下脂肪だとか、そういう部分を金属っていうカチンコチンのモノで表現したのが新鮮だったんですよ。
だけど、それをどうやってカタチを出すかっていうと、腕なんかでも、こうやって曲げると、骨は全く変化してないんだけど、皮下脂肪とか筋肉はニュってはみ出るじゃない。(といって腕を曲げてみせる)
そういう部分を出さなきゃならないんだけど、この部分の肉を取らないと、ユニバーサルジョイントにならないでしょ。 最初にポーズを決めてから、構図を付け足していたのね。平面の時は。
ダンプカーだとか、ショベルカーだとかって、キャタピラーがついてるのってあるじゃない。あれって機能美なの。男性的だし、力強いじゃない。
反対にスポーツカーでポルシェだとかフェラーリだとかってなめらかな曲線があるじゃない。あーいうのってセクシーだし、女性的じゃない。
それを両方ドッキングするって、不可能なんだけどね。最初に僕がやったのは、工作機械に近いものなんだけど、それを表面 だけ女の人にしたわけ。
企業なんかも悪いことばっかりしてたんだけど、エコロジーだとか自然との調和だと、地球にやさしいだとかを打ち出したころに、そういうロボットを出したから受けたんだよね。過去振り返ると。
それを今回は、3Dで完全に動かすから、本物にするから、そのうそ全部取り払わなくっちゃならなかったわけ。
ほんとに動かなきゃならないでしょ。例えば、横に寝っころがっていて、それが起きて立ち上がるには、ここにこういう長さが必要だとか、ここに贅肉つけてもらっちゃ困るだとかっていう、それをまず取材しない限りデザインもできないんですよ。
そういう意味では試行錯誤だったけど、非常にうれしい。楽しいの。
これまでも映画やったことがあって。映画で動かすの。
中にモデルさんが入ってやんなきゃなんないから、強度とか、イメージと違うものをどこまで歩み寄ってやらなきゃならないかっていうやり方は同じだね。
その時は、何週間いたのかな、同じような戦いをやったね。
その前にもILMでもレクチャーやってね。着ぐるみとCGとの確執みたいなのって知ってたんだけど、CGの連中にね、私のもっているファンタジーだとかタブーというような部分の、普段出来ないこととか話しても、通
じなかったな。
私が帰った後にすごいクレームが来た、って言ってたね。 そういう、なんていうのかな。私の表現方法が過激だったのかな。女性の通 訳が途中から「通訳できません」と言ってたし。
アイボの時も、イメージしていたものがなかなか伝わらなかったりしませんでしたか?
空 日本語だったら言える。
それにその共通の言葉や文化を勉強するために映画を観たりしたもの。
映画なんか一番分かりやすいんですよ。「あの映画のあのシーンのあのところをこうっ」、とかで通 じる。
共通の体験をしていると、ちょっとの単語だけで分かり合えるのよ。文学なんかもそう。AIBOのエンジニアなんかとも、その共通 のことばを捜すのが難しいのよ。
それからはじまるの。どういう部分を私がおもしろがっているかっていうのを説明しなきゃないでしょ。時間がかかるの。モノをつくるってことは、異常な行為なんですよ。
(僕は)少数派だし、変態だし。だけど、それを表現するときは、みんなに通じる言葉を探さなきゃならないの。
今回一番面倒くさかったのは、製造物責任。メーカーだから、みんな過敏に反応したな。
それがこっちのイメージに食い込んでくるのよ。
バランスだとか、コントラストだとかに注意してね。
僕が一番ショックだったのは、タテイチとヨコイチの話(画角のこと)かな。
僕なんかはタテイチなんですよ。最近の若い人はヨコイチになっちゃったしね。
外国ではほとんどヨコイチなんですよ。タテイチで出すのは本当に限られてるんですよ。
自分の絵もヨコイチなんてほとんどないんですよ。
そうすると、自分の絵が最初にCD-ROMでできた時、ものすごい嫌だった。違和感があったんですよ。
それはヨコイチに彼らは処理してるんですよ。いつも。
モニターってこれからどんどん横になってくるでしょ。あそこにタテイチって入らないんですよ。
基本的には目ん玉って横についてるし、視角もヨコイチなんですよ。そこにタテの文化を入れたって言うのが間違いなんですよ。
明らかにヨコイチに変わっているし、光だとか色だとかの再現も、印刷物では出ない色が、モニターではがんがん使えるし。
光だから。印刷物って反射でしょ、発光体じゃなんですよ。 私は小さい頃から印刷物に影響されてきたわけだから、モニターを見て育ってきた人たちとは、明らかに発想は違うわけですよ。
小さい時からああいうAIBOがいればね、すごいよね、明らかに違う文化の人たちが出てくるの。小さい時からテレビがある人とそうでない人とは違うもん。
今回AIBOのデザイン画を担当されたということで、ご家族の方の反応はいかがでしたか?
テレビや雑誌にもずいぶん取り上げられましたし。
空 うちの娘の最初の反応は違ったよ。いろんな人のサインをもらってきても喜ばないのよ。プレスリリースやった時もビデオが入ってたじゃない。「ビデオ観るか」って言っても、いいって言うわけよ。こんなにお父さんはおもしろく、ハイになってやってるのにって。グヤジィーッ!
その後、テレビのニュースだとか番組だとかで取り上げられてね、市民権を得た後で初めて観るんだよね。
デザイン画は見せてないですよ。あまり興味をもってくれてないんです。
ロボット自身に対する価値観がないんだよね。僕もリアクションないと話さなくなるじゃない。
デザインをしていらっしゃるとき、一番気を使っていることは?
空 光の中に神を見るのよ。
太陽だとか、反射だとか。あーいうものって人工的には作り出せないじゃない。自然の中にしかないから。顔を描いているとき、目のハイライトとかって一番緊張するもん。頬なんてどうでもいいんだよ。いっぱい絵をかいているとね、気になるんだよ。
もっともっと大きい言い方をするとね、顔なんだよ。顔ってわかりやすいんだよね。
共通の光、喜怒哀楽が一番分かるんだよね。体は分かりづらいんだよ。ただ、生まれてからずっと裸だったらよくわかるんだろうけど。
そういう意味では、ボディーランゲージは今回のアイボのとき必要だったけど、全く知らなかったもんね。観察っていうか、興味なかったもんね。
顔フェチっていうか、非常にステレオタイプな人たちは顔で選ぶじゃない。パートナーだとか、ガールフレンド、ボーイフレンドなんか。
顔は非常に判断材料もってるけど。体だとか、脳みそだとかっていうのは分かりにくいじゃない。 分かるにはものすごく時間がかかるじゃない。
まだ動きを含めた、アイボの最終的な姿って知らないから、それが分かったら、こういう可能性があるだとか、ビジョンだとか、楽しみとかって出てくるんだろうけどね。
ソフトの部分はあまりかかわってないから、それが残念だね。
AIBOのデザインに関わっていたこの1年の心の推移はどういうものでしたか?
空 感動したのは、やっぱり試作機に一番最初にであった時ですかね。
最初に出会ったとき、あーかわいーって思いましたね。
マイフェアレディーのヒギンズだっけ、花売りのお姉さんを教育する係、あれだよ。
調教じゃないんだけど、いろんな可能性を見たね。そういうのって瞬間的にわかるじゃん。たぶん板前さんなんかも、魚一匹みただけで、わー!って悲鳴だすと思うよ。
当然見る目があるわけだし。
アイボを描くときは、どこから描き始めましたか?
空 やっぱり、しっぽと耳と爪先かな。それって表現する上でのボディーランゲージの基本なのよ。
しっぽはふらない限り分からないんだよ。動物のしっぽって、単純に上下左右に動くわけじゃないの。動きにしなやかさ、が必要なのよ。
耳もね、くっついてりゃいいってもんじゃない。
ビーグル犬だっけ、耳が垂れているの。ああいうのがぶら下がることによって、動いた部分が倍変化して見える。だからぶら下げるものが絶対一つは欲しかったのよ。
それはやっぱり耳しかなかったのよ。
あと爪先も、「動物のお医者さん」って漫画知っててる?「ぼのぼの」って知ってる?
すみませんね、オタクで。こういうの通じると、すごく話が広がるんだけど。
そのキャラクターが肉球を触るのが好きなのよ。そういうのもあって、肉球はぜひ付けたかったの。
目はあまり光らなくていいのよ。
アートっていうのはびっくりさせることなのよ。感動っていうけど、びっくりさせない限り、ハイにならないのよ。
AIBOって見た感じぜんぜんかわいくないでしょ?女の人は、赤ちゃんみると本能的にかわいいって言うけどさ、生まれたての赤ちゃんて、サルみたいじゃない。全然かわいくないよ。
でもさ、なんかミルクあげたり、だっこしたりしていると、愛情がわいてくるっていうのかな。
AIBOもさ、コワモテなメカがいきなり、かわいい仕草をするから、いいわけ。ギャップがいいっていうか。
僕はもっともっと、メカっぽく、ボディももっともっと細くシャープにしたかったんだけどね。モノにも演出が必要なの。
ギャップが大きければ大きいほど、かわいさも感じるわけ。こわいデザインにすると、いろいろ叱られちゃうんだけどさ、最初っから、みんながかわいいっていうようなものは、もう新しくないわけ。20%の人だけが賛同して反応するようなものが、新しいのよ。
25万もするロボットだし、まったく新しいものじゃない。買う人は、いい意味でね、オタク。
だから、自分が納得するものが一番なの。誰がなんて言ったって、自分が本気で美しいとか、いい、とか思ってたら、がんばっちゃうよね。賛成する人が20%しかいなくても、押し切れちゃう。
そういう情熱もって仕事する人ってなかなかいないよね。でも、そういうのがいいモノになり得ると思う。
当然ハイリスクでもある。 |