「博多祇園山笠」のHD生中継と4K HDR同時収録を実施

2017年2月掲載

HDC-4300 / BPU-4000の4K/HDサイマル運用を活用して、
HD SDR生中継と4K HDR収録を効率的に実現。

九州朝日放送株式会社(KBC)様は、今年で775年目を迎える博多総鎮守・櫛田神社の祇園神に対する奉納神事で、国の重要無形文化財にも選ばれている「博多祇園山笠」のクライマックスである「追い山笠」を「走れ!山笠」(第1部・第2部、7月15日オンエア)において、HD SDR(スタンダードダイナミックレンジ)で生中継するとともに、4K HDR(ハイダイナミックレンジ)収録も行いました。
同社 役員待遇 技術担当 松永慎二様、社長室長 兼 経営企画部長 石橋 聡様、技術局 制作技術部 副部長 栗田祥治様に、番組制作や4Kへの取り組みとともに、今回HD SDRで生中継すると同時に、4K HDR収録にチャレンジした目的や成果、今後の取り組みなどを伺いました。
なお、記事は2016年9月下旬に取材した内容を弊社にてまとめたものです。

伝統の奉納神事の魅力、臨場感を伝える新しいチャレンジ


4K/HD撮影・収録に株式会社テレテック様の4K/HD中継車を使用。

当社は、地元の視聴者目線を重視して、自社制作に積極的に取り組んでいます。スポーツやライブイベント中継では、ゴルフの「KBC オーガスタトーナメント」、プロ野球やマラソン、祭事やコンサートなどが挙げられます。2016年度上半期の自社制作比率は22.8%となっています。
新しい技術や可能性に注目し、積極的にトライアルを行っています。4Kなどの映像制作もその一つで、地上波での4Kは、まだ目処が立っていませんが、4Kコンテンツの需要は2020年に向けて加速し、2018年頃には、地方局にも具体的な対応が求められるようになってくると想定されます。当社においても実際に4K制作に挑戦し、検証や運用ノウハウの蓄積が必要になります。
そこで、2015年に4K撮影が可能なXDCAMメモリーカムコーダーPXW-FS7を導入、その後4K対応の編集システムも配備しました。また、今年(2016年)3月には株式会社テレテック様の協力を得て、マルチフォーマットポータブルカメラHDC-4300とマルチポートAVストレージユニットPWS-4400を活用してプロ野球において4K120pで収録し、HDカットアウトやスロー再生のトライアル放送も行っています。
今回、「博多祇園山笠」のHD SDR生中継と4K HDR同時収録を行ったのも、こうした将来に向けたトライアルの一環でした。この博多伝統の神事と当社の関わりは深く、開局2年目の1954年から取材、撮影を行い、1979年には初のテレビ生中継を当社が行いました。現在も取りまとめ局として、その魅力や臨場感を大勢の視聴者に提供できるように努力を重ねています。
このような伝統ある神事の中継では、カメラ台数など制限が多く、4K HDRの同時収録には、多くの課題が立ちはだかりました。そのような時に、ソニーからHDC-4300とベースバンドプロセッサーユニットBPU-4000との組み合わせで、当社が求めていたHD SDR / 4K HDRサイマル運用が可能という提案があり、検討を進めましたが、他にも懸念がありました。一つはHDC-4300に搭載されたCMOSセンサーによるフラッシュバンドでした。暗い中で大勢の観客が、フラッシュ撮影しますのでフラッシュバンドの発生が予想されました。実際にHDC-4300を使って暗転したスタジオや深夜の神社で実験を行ったところ、フラッシュバンドは発生するもののごく短時間であり、中継には影響しないだろうという結論に達しました。また、中継が深夜から明け方まで続くことで、暗から明への変化に伴うSDRとHDR両方の感度調整が難しいことも心配されましたが、BPU-4000を事前に使ってみてコントロール可能ではないかということになり、関係部署が集まった最終会議で、ここは思い切ってトライアルしてみようと判断しました。

HD SDR生中継、4K HDR同時収録できたことが成果

今回、テレテック様の4K/HD中継車と2台のHDC-4300、PWS-4500、30型4K有機EL マスターモニターBVM-X300 などを使ってBPU-4000から出力される4K HDR信号を収録し、HD SDR信号は、生中継に使いました。本番では心配されたフラッシュバンドや感度調整の問題は発生せず、4K HDR収録によるHD SDR生中継への影響は全くありませんでした。無事に7月15日のクライマックスである「追い山笠」の熱気と臨場感を生中継できたことが一番の成果でした。
一方、4K HDR収録素材は、九州放送機器展ソニーブースで展示映像として使用する目的で、オフライン編集、カラーグレーディング、完パケを株式会社ユーツー福岡支社様にお願いしました。作業日数は、3営業日という短期間でしたが、無事に完成し、BVM-X300を使って4K HDRとHD SDRの比較展示をソニーブースで行うことができました。
また、社内でもBVM-X300 と4K メモリープレーヤーPMW-PZ1 をそれぞれ2 台使用して4K 視聴会を行ったほか、「博多祇園山笠」の主催者の方がたにも視聴していただきました。それぞれ4K の可能性を実感してもらえたのではないかと思っています。
今回の4K HDR撮影・収録では、広いダイナミックレンジを活用して、暗い中での観客の表情や提灯のディテールまでリアルに捉えることができました。HDRならではの特徴をすべて生かしきったとは思っていませんが、表現の可能性を実感することができました。また、スタッフ、オペレーターを増やさなくてもHD SDR生中継、4K HDR収録ができ、HDC-4300 / BPU-4000によるサイマル運用において、制約の多い中継でも4K HDR制作の可能性を感じることができました。


「博多祇園山笠」のクライマックス「追い山笠」は深夜から明け方まで約5kmの距離を山笠を舁(か)いて回ります。感度調整やフラッシュバンドの問題も発生せず、「博多祇園山笠」をHD SDRで生中継するとともに、4K HDR収録を行いました。

効率的な4K、4K HDR制作のワークフロー構築へ

今回、無事にHD SDR 生中継と4K HDR 収録を終えたことに非常に満足するとともに、サポートしてくれたテレテック様、ユーツー様、ソニーには感謝しています。 当社では今後も、自社制作に積極的に取り組み、4K制作にもチャレンジしていきたいと考えています。もちろん、4K制作の効率的なワークフロー、コストパフォーマンスに優れた設備や運用、従来のHD制作と変わらぬスタッフ、オペレーションは重要な条件となります。
これまでのHDC-4300などを活用したトライアルで、こうした効率的な4K/HD制作の可能性を実感することができました。スポーツ中継などでは、HD最大8倍速のスーパースローも魅力的だと思います。また、HDカメラによる放送よりも、4K収録したものをHD SDRにダウンコンバートして放送したほうが、映像表現の幅が広がると感じました。
4K HDRについても、今回の経験や成果を踏まえて、積極的に取り組んでいきたいと思っています。HDRプロモーション映像などで表現される息をのむような迫力と現実に近い臨場感を生かして、福岡、九州ならではの自然、景観、祭事などの収録を目指したいと思います。
ソニーには、すでに4K制作に向けた機器、システムで充実したラインアップがあります。HDカメラの4KアップコンバートボードやHDRプロダクションコンバーターユニットHDRC-4000などに注目しています。今後も、限られた予算、人材、時間の中でも効率的な4K/4K HDR制作が可能なソリューションの提案に期待しています。

  • 岡野 正
    松永 慎二 様
  • 神谷浩二
    石橋 聡 様
  • 神谷浩二
    栗田 祥治 様