4K HDRライブ制作システムとワークフローについて語る

2016年8月掲載

「ソニーオープン・イン・ハワイ」でHDR制作のトライアルを実施。
従来と変わらないワークフローでの4K HDR制作。

テレビ・映画など幅広い分野で急速に注目を集めてきているHDR(ハイダイナミックレンジ)。2016年1月のアメリカ・NBCスポーツのゴルフチャンネル(Golf Channel)と協業して行った「ソニーオープン」のライブ中継における、HDR制作のトライアルとそのシステム構成、HDR制作による効果、ワークフローについて、ソニー株式会社 プロフェッショナル・ソリューション&サービス本部とプロフェッショナル・プロダクツ本部のHDR担当メンバーに語ってもらいました。

HDRが生きるソニーオープンでのトライアル

ソニーでは、従来から「ソニーオープン」を新しい技術やコンセプトを試みる場としてきましたが、2016年は、HDRのライブ制作に取り組みました。
PGAツアー最初となるソニーオープンは、毎年1月にハワイのオアフ島でスタートします。冬でも日差しが大変強く、全てが屋外で行われるゴルフというスポーツは、従来のSDR(スタンダードダイナミックレンジ)でのコンテンツ制作においては、とても厳しい条件です。選手の背景などにも映るハワイの雄大な自然や美しい景色は、視聴者の皆さまに届け甲斐のある、まさに、HDRという新しい技術を投入するにはふさわしいコンテンツでした。

従来のHD中継車と変わらない機器構成でのHDR 制作


海の見えるホール風景


クラブハウス内に設置したライブスタジオ

NBCスポーツでのテレビ中継については、従来通りHD SDRで放送を行います。そのため、今回の取り組みとなる4K HDRはサイマルでの制作ということになりました。NBCさまがお持ちのHD中継車に、4K HDR制作にかかる部分のみの機材とスタッフを追加しての運用でした。中継車の装備をほぼそのままに、カメラヘッドのみマルチフォーマットポータブルカメラHDC-4300に置き換えました。中継車側には、わずか1.5Uの筐体のベースバンドプロセッサーユニットBPU-4000を追加しただけです。CCUも中継車に搭載しているHD 制作用のカメラコントロールユニットHDCU-2000をそのまま使用し、BPU-4000 には、HDR制作を便利にする試験的な追加機能を搭載しました。

BPUから取り出した4K S-Log3のHDR 信号のみを、HDRデモ用として外部に仮設したシステムに取り出し、収録とスイッチングを行いました。

あくまで、制作はNBCスポーツでの中継がメインですので、カメラマン・VEなどのスタッフの皆さんは、HD SDR制作にのみ注力したワークフローと手順でオペレーションを行いました。4K HDR側は、4K映像を別に制作するために必要なレコーダー類のオペレーターと、スイッチャーのスタッフだけという、最少限の体制でした。仮に4K HDR放送を行うことになれば、本線の中継車内で全てのオペレーションが可能になります。レコーダーは、HDR映像の広いダイナミックレンジを扱うのに適した、XAVC 10bit記録が行えるマルチポートAVストレージユニットPWS-4400を使用しました。

HDRならではの意欲的なオープンスタジオを設置

番組中の解説などを行う仮設スタジオは、ゴルフ場のクラブハウスに設置し、背景にオアフ島の美しい自然が望める場所を確保しました。スタジオは室内、背景は屋外、という厳しい条件ですが、HDRの効果が十分に発揮できる環境でした。また、こちらには、放送に使われているHD SDRの映像と4K HDRの映像を見比べられるようにしたデモコーナーを用意し、来場者の皆さまにも実際にその違いを目にしていただけるスペースを確保しました。

今までできなかった表現を可能にするHDRの効果

オアフ島の日差しはとても強く、コースの上では、全体に露出を合わせると、選手の表情が帽子の影となって潰れてしまったり、コースや時間帯によっては逆光となり、選手が見づらくなる場面があります。このような厳しい状況でも、HDRではどちらの被写体も問題なく見ることができ、全ての景色をお楽しみいただけることが確認できました。

HDR ライブ制作を容易にするBPUの追加機能

実際に商業ベースでHDR制作をはじめる場合の課題は、オペレーションの手間と、コストだと思います。HDR制作を行う際に大きくオペレーションが変わったり、新たな技術や知識が必要となると、HDR制作へのハードルが上がってしまいます。また、SDR とHDRを個別に制作する場合などもあると思います。

そうした背景から、今回の試みの一つに、今までのワークフローをどこまで変えずにHDR 制作が行えるか、というテーマがありました。そこで、BPU-4000に新たにHDR制作をサポートする追加機能を試験的に実装しました。その追加機能とは、SDR制作を前提に絞りなどを調整するだけで、HDR信号ではHDRコンテンツとして適切なコンディションの映像が出力される仕組みです。本追加機能は2016年夏対応予定です。これにより、仮にサイマル制作などを行う場合でも、SDR に基準を取るか、HDRに基準を取るか、といったことに悩んだりする心配がありません。また、VEなどのスタッフの皆さんも従来通り、SDR制作と同じ人数で、同じオペレーションをするだけで、サイマルを含めたHDR制作が行えるようになります。

実際に、想定通りの優れた結果が得られました。NBCスポーツのテレビ中継側でのオペレーションにより、BPU-4000から出力された4K HDR信号を、当初の見込み通りに、そのまま無加工でHDRとして十分にお楽しみいただける仕上がりの映像が得られました。従来は、HDR制作というと、オペレーションが複雑、カラーグレーディングなどがセットで必要という認識がありましたが、今回の追加機能により、SDR制作と変わらないオペレーションで、HDR 制作ができる環境が整ったことを実証することができました。

NAB 2016でソニーオープンの4K HDRをデモ

NAB 2016の会場では、今回のトライアルで得られた4K HDR映像をご覧いただきました。SDR制作のオペレーションそのままに、HDC-4300とBPU-4000を追加するだけで4K HDR を同時に制作できることを、会場の皆さまにご体感いただき、好評を得ることができました。

日本国内でも、この映像をご覧いただける機会をご用意できると思いますので、是非、そのクオリティーと効果を体感していただければと思います。

ソニーは、今後もカメラだけでなく、周辺機器を含めて、HDR制作を後押しする環境整備を一層加速し、皆さまのご期待に応えられるよう努力してまいります。

  • 岡野 正
    岡野 正
  • 神谷浩二
    神谷浩二