海外でのスポーツ大会における『M2L-X』を使用したクラウドでのライブ制作運用検証
株式会社フジテレビジョン様は、海外でのスポーツ大会においてソフトウェアスイッチャー『M2L-X(検証版)』の使用をはじめとしたクラウドでのライブ制作の運用検証を行われました。
これまで、フジテレビジョン様とはクラウドを活用した番組制作検証を共に行ってきました。その中でフジテレビジョン様は、特に海外でのライブ制作で課題になる回線費用や大規模な設備運搬、人員派遣といった観点を解決する方法の一つとして、クラウドやそれに付随したインターネット回線の活用を検討されています。
今回の運用検証の技術責任者を務めた、技術局 制作技術統括部 関口 貴久 様に、運用検証に臨んだきっかけや、それを踏まえて今後目指していきたいことなどをお伺いしました。
株式会社フジテレビジョン
技術局制作技術統括部
関口 貴久様
海外で行われる大会の中継は、映像を伝送するための回線費用が大きなハードルとなることがありますが、その一つの解決策になりうる、クラウドを活用するということを念頭に置きました。
クラウドに限らず、活用する技術は適材適所だと思いますが、例えば中継先からサブシステムへの信号を全て伝送することが難しい、コストがかかるというパターンには、クラウドの活用が生かせるのではないかと思います。また、クラウドの使用は、基本的にはインターネット回線と組み合わせることになりますが、放送システムと一緒に使用することについて、数年前と比較して、現在では受け入れられつつあると感じています。中継先と拠点側のシステム間の専用回線トラブルが起きやすい海外での現場において、煩わしい回線の手配が軽減されることは一つのメリットとなります。
そういった中、ソニーのソフトウェアスイッチャー『M2L-X』を紹介いただきました。『M2L-X』は、普段自分たちが使い慣れている操作パネルを組み合わせて使うことができる点(将来対応)が選択理由として大きかったです。新たなことに挑戦しつつも、現場で働くメンバーには、できるだけこれまで通りの操作で運用してもらうことができれば、受け入れてもらいやすいと考えていました。
検証を行ってみて分かったことは、セッティング量、機材量が少なくて済むということです。予想はしていましたが、実際にそう感じる結果になりました。予備の機材をどのくらい用意するのかということは、これからの検討事項ではありますが、機材やそれを繋ぐ配線作業を効率化できることは、コストを抑えるというだけではなく、作業時間の短縮といった働き方の改善にも繋がっていくと思います。
また、中継先からインターネット回線でカメラの映像を送り、PC上のGUI画面でスイッチングできることも確認しました。本検証では、スイッチング操作を行うのも、映像伝送を行う中継元もシステム設置場所と同国であったため、操作遅延や映像遅延ができるだけ少なくなるように、距離的に近いリージョンのインスタンスを選択しましたが、現地の環境の中で、この確認ができたことは今回の収穫です。
一方で『M2L-X(検証版)』単体だけでなく、音声やCG、マルチビューアーのクラウド化にも挑戦したことで調整項目が増え、苦労しました。また、トラブルが発生した際に切り分けをすることが、経験則上まだ難しいとも感じました。ただ、今回は自分たち自身で手を動かすことを多くした分、学びもありました。
ここ数年、スポーツ中継制作の予算は二極化し、国内では予算の関係で中継制作を続けることが難しい場面も出てきています。それでも、今後も長くスポーツ中継を続けていきたいというのが私の願いです。そのためには、あらゆる面での効率化が必要で、新しいことに取り組む土壌がフジテレビのスポーツ制作、技術チームには揃っています。
効率化に日々頭をひねりながら、私自身は冬のロードレース中継に向けて準備を進めています。
※本ページ内の記事・画像は2024年9月に行った取材を元に作成しています