本記事は2022年12月にPRONEWSへ掲載された記事の転載となります。
ワークフローの変革期がそこまでやってきている。そうENGを始めとした映像業界にもその変革はやってきた。いずれにしろDXにより、クラウド化することは時間の問題だったと思うが、大きく変わらないのが、日本の映像業界だ。この2年間でリモートワークも増え、ワークフローの変革自身も加速したと言えるだろう。映像業界にもその変革の足音は聞こえているのだ。
クラウドの仕組みも頭では理解できているが、果たして実際の現場ではストレスなく運用できるのだろうか?ただただクラウドに対しての一抹の不安がなかったとは言えないのだ。今回試した「C3 Portal」を使ったワークフローは違う。久しぶりに楽しい機材に巡り合った。今回はその取材の様子と舞台裏を紹介したいと思う。
11月開催のInter BEEに向けてPRONEWS編集部で会議中、今回はクラウドで撮影、編集、アップロードまで一気通貫で行えないかという話になった。「岡さん、C3 Portal興味あります?」と話を振られ、C3 Portalの存在は認知しているし、興味はあるものの一際触れたこともなく、一抹の不安があったことは正直なところだ。「ただでさえ電波の飛び交っているメッセ会場で取材中にクラウドに撮影アップロードするのは困難じゃないか?」と思った。
しかしながら、このクラウド運用で煩雑なファイル受け渡しや取材チームと編集チームのコミュニケーションで起こるヒューマンエラーが解決されるメリットがある。これは一歩踏み出そうと心に決め、本番に備えることにした。事前にソニーさんから改めてC3 Portalの話を聞き、幾度と試してみて、電波状況の悪さを加味してもうまくいけるな、とクラウドへの疑問は成功の確信に変わった。
今回、チームのミッションは、PRONEWS編集部が会場内でピックアップした面白そうな機材について、3〜5分の比較的短い動画を撮影編集し即日公開することだ。
取材撮影班と編集班を分けて実行に移した。当初、想定していたワークフローは、取材撮影後ごとにメモリーカードを会場内に設けられた編集部まで戻りエディターに渡す、極めてアナログ(従来)のオーソドックスなスタイルだった。結果、編集部までの往復の時間が取材時間より長いという本末転倒な話になりそうだったが、そこにC3 Portalを導入したおかげで効率的なワークフローの選択が可能となった。
今回運用の肝は、撮影〜編集〜公開までを効率化して速やかに行うことだ。まさにC3 Portalにはピッタリの用途となる。一方で、Inter BEE 2022は業界の祭典とも言える展示会なので、会場はこの時期、A/B帯はもちろんのこと、Wi-Fiやデジタル波などの他、4/5Gのセルラー回線も飛びまくっている。
その状況下で、1本5分弱の動画素材といえども、それなりの大容量のファイルサイズとなる。取材終了後に伝送を開始したのでは、時間がかかってしまう。そこでC3 Portalの機能をフル活用することにした。RECが止まった時点で自動的にクラウドにファイルをアップロードする機能が便利だ。インサート用の短いフッテージならほぼリアルタイムで撮影と同時にアップロードは完了している。だが、それだけの機能であれば、他のクラウド系サービスでも存在する。
特筆すべきは、C3 Portalにはチャンク形式で、REC中でも短い時間(今回は30秒)設定の単位で小間切れにクラウドにアップロードされ、クラウド上で自動的に結合される機能が存在することだ。編集者側でも追っかけでファイル閲覧が可能なため、アップロードされる素材の不必要の判断が可能だ。素材を送る際にもマーカーを打つことにより、カメラマン側からもOK/NGを伝えることができる。アップロードするファイルはカメラマン側で選択することも可能だ。
今回使用したカメラはPXW-Z280である。その恩恵によりプロキシだけでなくハイレゾを転送することも可能で、もちろん各々を選択して転送することもできる。そしてチャンク形式では、プロキシとは言え30秒ごとにどんどん転送でき、編集用素材としての運用も可能となる。
今回、我々のチームは、ワークフローの速度を重視してプロキシをチャンク形式で転送し、その状態でタイムラインを作り、取材が終わってから編集室でプロキシをハイレゾに置き換えてエンコードすれば完成するスタイルに最終的に落ち着いた。
またプロキシとは言えHD画質で収録されていることを利用して、午後からは直接アップロードしたファイルをそのまま編集し公開とするスタイルに進化させた。今回のワークフローは以降、すべてこの方法で行い無事終了できた。その画質は既に公開されているので確認いただければその実力が分かるはずだ。
WebブラウザーからC3 Portalにアクセスするとこの様に確認ができる。表示方法は詳細/アイコン/プレビュー含め色々可能。メタデータも確認可能なため、誰がどこで撮った素材であるかまで一目瞭然で理解できるだろう。
どのフォルダーにアップロードをするか撮影段階で指定できるため、複数台のカメラで撮った素材を1つのフォルダーに集約することもできる。日付を跨げばその日付ごとのフォルダーができ、自動で割り振られるのも便利だ。
編集チームはアップロードされている必要な素材をダウンロードし、即座に編集開始となる。ただし、チャンク形式で転送された素材は、撮影班が取材中の場合もあるため、一度確認し、更新後にプロジェクトを作る方がより安全だ。クラウドからダウンロードさえすれば、後は通常の編集フローとなるので問題はない。
このC3 Portalの様子はスマホからでも確認できる。現場ディレクターがその素材にマーカーを付けて、エディターはそれを見て大まかな編集点を探すことでフローの確立もしやすいはずだ。
今回、一番懸念したアップロードでのトラブルはまったくなかった。5G回線での接続がメインだったが、4G回線でもプロキシ転送ならまったく問題なく、ほぼリアルタイムでサーバーにアップロードすることができた。また今回は、Xperia PRO-Iを使用したが、もちろん他メーカーの端末でもC3 Portalの専用アプリをインストールして利用できる。Android、iPhoneでも同じことができるのは嬉しい(Android 10 以降、iOS 14以降に対応)。
C3 Portal対応カメラは、ENG系のXDCAM Camcorderに加え、Cinema Lineにも対応している。ファイルをリアルタイムに受け渡せることは、報道の現場だけではなく、他の制作現場でも製作日数の圧縮にもなるはずだ。
気になる価格についてだが、デバイスラインセンス1本のセットパッケージで75,000円/月となっている。デバイスが増えるごとに15,000円/月が追加される。日々、現場に出て、報道系の仕事をしている方はもちろん、制作系の様に現場と編集室が非常に離れた場所でロケを行う場合、ワークフロー全体の改善と制作費のコストダウンも期待できるため、この価格は決して高くないのではと思える。ソニーのインカムアプリであるCallsignも同じだが、1日限定の価格設定があれば、かなり広く普及されるのではないか?
ぜひソニーには頑張っていただきたい。久しぶりにワクワクする推せるソリューションが、ソニーから出たことは個人的には非常に嬉しい。
今度はNAB ShowやCineGearの海外取材で使いたい。海外取材では時差の問題もあるが、それを逆手に取り、素材を整理せずとも国内のエディターにそのまま届けておけば、睡眠時間も確保できるというもの。C3 Portal導入でぐっすりと寝たいというのが本音だ。