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3C's

Creative
Craftsmanship
Challenging
17

Daichi Hayashi

Cinematographer
新たな技術を吸収し、
オンライン時代にも適応する。
若き撮影監督の視線

林 大智

1996年、名古屋生まれ。高校生の頃より映像制作を開始。日本大学 芸術学部映画学科を卒業後、広告やMV、映画やドラマの撮影などを中心に手がけつつ、劇団ノーミーツに参加。2017年に劇場公開された「脱脱脱脱17」では撮影/グレーディングを担当。ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2016で審査員特別賞、観客賞を受賞し、プチョン国際映画祭2016でも上映される。その他、「空はどこにある」(山浦未陽監督)、「君が世界のはじまり」(ふくだももこ監督)、「さつきのマドリ」(葛里華監督)などの作品に撮影や照明で参加している。

若干25歳という若さで、広告やMV、映画やドラマの現場で撮影監督を手がける林氏。近年では撮影を手がけた「脱脱脱脱17」が海外の映画祭で上映されたり、フルリモートで演劇を生配信する「劇団ノーミーツ」に参加するなど、活躍の場を広げています。そんな彼は、いかにして映像の世界に飛び込み、どのように今の撮影スタイルを築き上げていったのでしょうか。林氏ならではの映像制作における3C(Creative Craftsmanship Challenging)を聞きました。

chapter 01
幼少期、ホームビデオを撮るのは自分の役目だった

最初にカメラを手にしたのは、まだ小学生のころ。ホームビデオを撮るのは、いつも僕の役目でした。撮影したものをパソコンに取り込んで、ムービーメーカーで簡単な編集までやっていましたね。そんな僕を見て、ある日母親が、小学校で開催されている映像教室に連れて行ってくれたのです。そこで簡単な作品を一人ひとつ作って、皆で見せ合うということをしたのですが、それがすごく楽しくて。そこからは、自然とカメラなどの機材が身近にある生活を送ってきました。

中学・高校になると、作品をYouTubeにアップするように。いろんな方からコメントをもらい、それも映像作品を作る上で、すごく刺激になったんです。また当時、海外の方がアップしていた“ちゃんとルックのついた映像作品”というものに強い憧れを抱きました。それで、まだ当時日本では浸透していなかった海外製の機材を購入。それからは、カラコレも自分でやるようになりました。

そんな僕の映像作品に目をつけてくれたのが、映像監督の鈴木健太です。当時僕らはまだ高校生で、住んでいた場所もバラバラでした。ですが、同じ映像を志す仲間同士。夜な夜なSkypeで会話して、かっこいい映像作品を共有しあったり、遠隔で作品を作ったり、東京で集まって1日で短編映画を撮ったり――。そんな日々を過ごしていました。チーム名は、KIKIFILM。この時皆で作った「声を大にして叫べ」という短編映画もYouTubeにアップ後、いろいろな方からフィードバックをいただくことができ、映像制作の糧になりましたね。

それから大学進学と同時に上京。お話ししてきた通り、僕は小学生の頃からカメラが身近にある生活を送ってきたので、高校生のころには既に「将来は映像を仕事にするんだろうな」と、ぼんやり考えていました。なので、進学先に日芸の映画学科を選んだのも、ものすごく自然な流れだったのです。

chapter 02
ターニングポイントとなったMVとの出会い

ターニングポイントとなったのは、大学一年生の時に撮影したシンガーソングライター・室井雅也の「A GIRL BY SEASIDE」というMV作品。この時、初めてリグを組んだり、シネマレンズを使ったりと、しっかり作り込みをしました。この時のルックが、今の自分の映像作りにも強く影響しています。

室井雅也「A GIRL BY SEASIDE」

映像を見ていただくと分かると思うのですが、空や海のシーンが度々登場します。そのため、青が印象的な作品にしたいなと思っていました。カラコレの過程で、いい色を出せないかと試行錯誤している時に、今の自分のベースとなるルックが生まれたのです。純粋な色ではなく、少し濁った色味で、たとえば青色ならシアンを強くしたり、黄色なら黄土色に変化させてみたり。くすんだ色味がいいと気づけたのが、この時でした。

仕上がりを見た時に、「これなら胸を張って自分の作品と言える!」と思いました。代理店や制作会社のプロデューサーの方に嬉しいフィードバックをいただいたりと、印象に残る作品になりましたね。ちなみに、この時に使ったLUTのベースを3パターンくらいに派生させて、今の作品にも使っているんですよ。

chapter 03
光の重要性に気づかされた映画への挑戦

「A GIRL BY SEASIDE」の監督はKIKIFILMのメンバーで、彼女とはいくつも一緒に映像を作ってきました。それから本MVを皮切りに、テレビCM、映画「脱脱脱脱17」でも一緒に仕事をしてきました。当時の仲間と今でもこうして一緒に仕事ができることを嬉しく思います。

「脱脱脱脱17」の撮影では、光をコントロールすることにより、映像の質が変わってくるということを学びました。当時僕は、インド製のステディカムを多用していたのですが、内蔵バッテリーが15分くらいしか持たないようなもので、撮影はすごく大変でした。ただ、仕上がった時は、「めちゃくちゃいいのが撮れた!」と感じました。

またこの時に、初めてジブやレールといった特機を貸していただき、新しい挑戦を沢山しました。ジブって使いやすいんだなと気づかされたり、撮影の幅はもちろん広がりましたし、学びも多く、自分の中で非常に印象に残っている作品ですね。

映画『脱脱脱脱17』予告編

chapter 04
VENICEに見るカメラの進化

普段は、あまり助手をつけずにワンマンで撮影することが多いです。自分でモニターを見て絞りを決めたり、フォーカスを送ることが多いので、内蔵NDがあるカメラがいいというのが大前提。それに加えて、自分仕様にリグが組みやすく、コンパクトなカメラを好んで使います。僕は割とハンディが好きなのですが、イージーリグで使いやすいくらいのコンパクトさ、重さを求めていますね。

最近はやはり、VENICEにすごく興味があります。一度映画作品に助手として参加した際に触ったことがあるのですが、内蔵NDがコンマ3から1刻みで、2.5、2.8まであるんです。あと僕は、オールドレンズで開放しながら撮ってエッジが滲む感じが好きなんですが、そういった細かな調整もVENICEは全て自動でやってくれる。まさに、NDに関しては自分たちカメラマンの仕事はないんじゃないかと思いましたね(笑)。

chapter 05
オンライン時代の新しい撮影スタイル

昨年から劇団ノーミーツに所属しています。ノーミーツのテーマは「NO密で濃密なひとときを」。新型コロナウイルスの影響を受け、舞台やイベントといったリアルなエンターテインメントが失われてしまいました。そこで、一度も会ったことがない役者・スタッフ達と、一度も会わないまま企画・稽古し、本番を迎える――。最初から最後まですべてをフルリモートで運営している劇団。それがノーミーツです。

所属後に、自身の仕事にも変化がありました。たとえば、映像の現場で打ち合わせやロケハンに行くと、「ノーミーツやってますよね?」と声をかけていただけることが増え、それがきっかけとなってお仕事につながることもしばしばあります。それくらい今の時代にとって影響力のある劇団なんだなと思います。先にお話しした通り、キャストとも一度も会わないまま本番を迎えるので、対面でやるのに比べると、ライティングやWebカメラの映像の質に限界はあります。でも、だからこそ個人的にはまだまだやれるという伸びしろを感じています。

また、舞台の上で演劇をするわけではないので、綺麗なものというよりは、よりリアルな映像を作ることに力を入れています。照明を演出しすぎるのもリアルな感じがなくなってしまうので、逆にパソコンのインカメラで、リアル感を出すことを大事にしていたりもしますね。外から入る自然な太陽光を取り入れることで、生っぽいけどクオリティーは保っているような映像を、試行錯誤しながらやっている最中です。

また、キャストの方にはご自身の部屋をあらかじめ写真で送ってもらい、それを3Dで起こして、部屋のどのあたりにカメラをつけたらいいかなどを指示しました。その際に使用したのがリアルタイムの映画撮影シミュレーター。これが本当にすごくて、ロケハンに行けない今、大活躍しています。光の反射とかも全部やってくれるソフトなのですが、これにより、一度も会わずにカメラアングルやライティングを決めるのがスムーズになりましたね。実際に会って「ここはこうしましょう」と言えたらいいのですが、コロナ禍の今はそうもいきません。僕ら技術チームには知識がありますが、キャストの方に指示する場合、単純でわかりやすい方がいい。やっぱりなるべくキャストに負担をかけたくないので、そういった意味でもものすごく重宝しています。

chapter 06
新しい技術をどんどん実践していく

今後は、新しい技術にチャレンジしていきたいです。ドローンや360度カメラなんかがそうですね。海外の新しい情報はSNSなどで頻繁にチェックするようにしていて、若手なりにそういった新しい情報をキャッチしつつ、現場でしっかり実践していきたいですね。海外のビデオグラファーの方は面白い映像を撮っていて、日本の広告作品にも転用できるのではないかと思える映像が沢山あるんです。今後映像業界で生き残っていく上でも、自分の武器になるようなものを増やしていきたいです。

広告は面白い企画も多く、自分のやりたいことを実現しやすいので、これからはもっと広告の仕事にチャレンジしたいですね。ただ一方で、高校・大学の時に、仲間と何日も掛けて映画を作った面白さも知っているので、映画もやりつつ、お芝居や広告系・MVと幅広く手がけてできることを増やしていきたいですね。

あとがき

幼少期のホームビデオ撮影から始まり、高校・大学では仲間と一緒に映像作品を作るなど、まさに物心ついた時から映像に触れ続けてきた林氏。新型コロナウイルスの影響を受け、撮影業界にも大きな変化があったこの一年。そんな変化を逆手に取り、新しい機材の導入や知識のインプットを繰り返しながら、日々現場で実践している林氏の作品には、チャレンジングな姿勢を感じずにはいられません。劇団ノーミーツが放つまったく新しい演劇はもちろんのこと、今後は、広告・MV・映画など、ジャンルを問わず挑戦することで、できることを増やしていきたいと話していた林氏。今後の作品にも注目したいです。

Text : Yukitaka Sanada
Photo : Yuji Yamazaki

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