Hayato Sone
「ビデオグラファーの新定義」
Chapter
曽根 隼人
演出・撮影・編集からグレーディングまで担当するスタイルで広告映像やミュージックビデオを制作。 無印良品のPR映像”TOKYO PEN PIXEL"では世界三大広告祭の一つ「ONE SHOW」や、アジア最大の広告祭「ADFEST」、「SPIKES ASIA」をはじめ多くの賞を受賞。
産業の変革期にある映像業界に、新しく誕生したビデオグラファーというポジション。その可能性にいち早く気づき、ビデオグラファーとして新たな領域を模索する曽根氏に、映像制作における3C(Creative Craftsmanship Challenging)を聞きました。
chapter01
カメラ操作からカラコレまで、なんでもやってみないと気が済まない
大阪から上京してきて、ディレクターとして活動する時に、一緒に映像をやってくれるつながりが東京にありませんでした。一般的なディレクターは、会社に所属して先輩方の背中を見ながらディレクターとしての必要なものを沢山蓄えていきます。一方で、初めからフリーになった僕は、ディレクターとして何が必要なのか自分で探るしかありませんでした。撮影から編集まで行うスキルはあったので、様々なディレクターの下でメイキングの撮影や編集など、色々な立ち位置で同行して理想のディレクター像を模索していたんです。
そうする間に、領域外のことでも一度徹底的に自分でやることが、ディレクターになるうえで大切だと気づきました。例えば、グレーディングで作りたいルックのイメージを共有しても、「それはできません」となるじゃないですか。それがソフトウェアの問題なのか、カメラの機能の問題なのか、それとも現場での光の問題なのか。自分がグレーディングに触れた経験があれば、なぜできないのか理由を細分化して、原因を解明することができるかもしれない。ですから、少しでも自分の作品イメージに近づくために、領域外のことも触れるようにしています。
chapter02
ビデオグラファーの可能性を確信したドラマ撮影
広告やミュージックビデオを撮影しているクリエイター10人を集め、10本のオムニバスのドラマを撮影しました。僕も監督として一本ドラマを担当しつつ、全10本のプロデュースをさせてもらいました。(動画参照)
従来の日本のドラマはルック作りに時間をかけられないことが多い中、今までの日本のドラマにはない、画力にこだわったドラマを制作することにしたんです。
僕はアクションドラマにチャレンジしてみたくて、先輩たちに相談してみたのですが、「絶対やめたほうがいい」と言われました。なぜならカット数が多いアクション映像は、通常の撮影に比べて3倍時間がかかるからですが、なんとかアクションドラマをやってみたかったんです。そこでビデオグラファーを呼び集めて、最大で5カメを同時に回しながら撮影しました。普段から企画・演出・撮影・編集まで全部を担うビデオグラファーを、カメラマンとしてアサインしたのが今回ポイントです。
ビデオグラファーは、それぞれがカメラマンでありながらディレクション経験もあります。なので編集もイメージしながら「こういうアングルあったらいいな」とか、「こんなカットが必要になるかも」ということを即時に現場で判断してくれました。おかげでカット数も通常の3倍どころか、5倍くらいの量が撮れました。ブライダルやweb広告といったスピーディーでクオリティーを求められる現場育ちのビデオグラファーは、時間をかけて制作するドラマの作り方を変え、ドラマ界全体で革命を起こせる可能性を感じました。
chapter03
「演技の追求」がビデオグラファーを進化させる
僕たちが次にやるべきことは、”演技をディレクションすること”だと思います。見る人のモチベーションを持続させるために、グレーディングや照明といった画作りを突き詰めてきましたが、被写体に対する演出に時間を割いてきませんでした。映像がいくら美しくても、編集が素晴らしくても、嘘くさいお芝居をしていたらまったく心に刺さらないですよね。一方、リアリティーがあって共感を生む演技は、人の心を動かし感動させることができます。
ビデオグラファーは撮影や編集、現場の動かし方に関しては、スピーディーでクオリティーの高いものを作れますが、演出することに関してはまだまだアプローチするチャンスに恵まれてません。テレビドラマや映画じゃなくても、映像を作っていく上で役者に演技のディレクションをするスキルは必要だと考えています。しかし実際のところ、演技について勉強をしているビデオグラファーは少なく、さらに演技を教えてくれる人もいないのが課題です。
そもそも映像での演技と今の舞台でみれる演技には違いがあります。映像だと被写体の表情にクローズアップできることが大きな違いとして挙げられるでしょう。些細な表情の変化をカメラで捉えられるかで、ディレクションの方法も大きく変わってきます。舞台での演技に慣れている役者さんが多いので、そうした役者さんに映像の演技をディレクションできるようになれば、ビデオグラファーが活躍する幅もさらに広がると思います。
chapter04
機材の使い分けと組み合わせが生む新しい発見
僕が好きなスタイルは、数種類の機材を併用することです。シネマカメラを購入してからも、α7SUなどのカメラも使っています。シネマカメラは情報量が多く撮れる反面、機動力が落ちてしまいます。それはシネマカメラがベストではないというわけではなく、シチュエーションに合った機材の使い分けが必要です。例えばスタビライザーに一眼レフを付けて、ガンガンにカメラを動かして撮る方がいいっていうこともありますから。
以前にドラマの撮影をした時のことですが、地上はFS7などを、俯瞰は、α7SUをそれぞれ使用したことがあります。真俯瞰の画は、カーボンロッドの先端にスタビライザーを付けて、そこにα7SUをセットして、5mくらい上から撮影してみました。かつてはクレーンを借りて大掛かりにしなければ撮れなかったアングルも、今は機材の組み合わせ次第で撮影できます。この時も、2カメ3カメで別のカメラを併用することで、予算を抑えつつ、コンパクトでダイナミックな画を撮ることができました。
chapter05
次なる挑戦
海外で見られるドラマを作りたいですね。グローバルに発信できる時代だからこそ、どうすればグローバルで通用するコンテンツを作れるのかと考えた時、それは感情なのだと思っています。感情って万国共通じゃないですか。だからセリフだけに頼らず、人の感情をカメラに収めて感動させるドラマを作ってみたいです。世界中で見られている日本のドラマはまだ少ないと思うので、なおさらですね。
海外の方が、画のルックなどに対してもこだわりが強くて、視聴者的もルックが悪いとそもそも見てくれない風潮があるような気がします。そういう意味でルックの追求も大事だし、感情の追求もしていきたいです。
あとがき
今回の取材で領域外のことでも徹底的に自分自身が体感し、作品のクオリティーを追求し続ける曽根氏のこだわりを感じました。ドラマ制作では、幅広い知識を活かし、新たな撮影スタイルを取り入れることでクオリティーの高い映像を作り出しました。曽根氏の映像に対する探究心が、今後ビデオグラファーが活躍する領域を広げていくのだと思います。
Text : Takumi Sakakibara
Photo : Yuji Yamazaki