Kyotaro Hayashi
独自の色彩感覚が生み出す演出法
Chapter
林 響太朗
多摩美術大学卒業、DRAWING AND MANUAL 所属。映像のみならずインスタレーションやプロジェクションマッピングといったさまざまなクリエイションに関わる。星野源、Mr.Children、米津玄師、BUMP OF CHICKENなど多数のMV(ミュージックビデオ)を監督。2016年「ヴェネツィアヴィエンナーレ」特別賞、2019年「ADFEST」ブロンズなど受賞歴多数。
独自の色彩感覚で光を切り取る映像を生み出しながら、大手ブランドCMや有名アーティストのMVの監督・演出などを数多く手がける林氏。ジャンルを問わず、クオリティーの高い映像作品を作り続けるための3C(Creative Craftsmanship Challenging)を聞きました。
chapter01
VJの経験と音楽の影響が、
作品に現れる
作品に現れる
大学生の時にVJをしていて、それが映像制作を始めたきっかけですね。下北沢のライブハウスで、曲に合わせて映像をはめたり、スイッチングするということをずっとやっていました。流す映像はAfter Effects やCinema 4Dなどを駆使して、全て自作。YouTubeで海外のチュートリアルを見たりして独学で知識を身につけていたので、必死でしたね(笑)。
大学では情報デザイン学科に所属して、タイムベースドデザインという時間軸の授業や絵本の勉強をしたことが印象に残っています。卒業制作では、「音と図の関係性」をテーマにしたインタラクティブ映像を作りました(動画参照)。
映像を映す布にもこだわりました。ホログラムのような映像演出をするために、オーガンジーの布を前面に張るようにしたんです。また、ライブ演出と演奏が同調した方がいいと思ったので、舞台裏から自ら映像出しをしました。この作品ではその後もずっと関わっていく、シンガーソングライターのRyu Matsuyamaくんが歌と演奏を担当してくれています。
卒業制作のテーマを選ぶためのワークショップを受ける中で、自分が一番影響を受けた人は音楽家の父親だと気付いて。そこから音とモーション、幾何学的なグラフィックを合わせた動画を作ろうと考えたのが、卒業制作のスタートでしたね。その後、同じ「Form giving」というタイトルでスパイラルホールでもパフォーマンスをしたんですよ(動画参照)。それもすごくいい経験になりましたね。
chapter02
FS700で撮った、
情熱あふれるMV
情熱あふれるMV
大学卒業後はCGやVFXに関わることが多かったのですが、初めて実写映像の監督をしたのが卒業制作を手伝ってくれたRyu MatsuyamaくんのMVですね(動画参照)。卒業制作で協力してくれたお礼のために、FS700を駆使して撮影したんですが、僕にとってもすごいプラスになった作品です。
実は、卒業制作の時期にFS700が発売になって、「HSって何?ハイスピード!スゲー」みたいな(笑)。もともと卒業制作でも3Dアニメーションではなく、実写のような3Dの映像が動く作品を作りたかったんです。それで当時、FS700を購入しようと思ったのですが、さすがに学生時代では手が出せませんでした。そんな経験があったので、DRAWING AND MANUALに入社してFS700が導入されたら、もう目がキラキラしちゃって。会社からFS700を借りて、卒業制作時の思いをぶつけたのがこのMVですね。撮影も全部自分でやりました。
キレイな映像に仕上げたかったので、細かい配置にもこだわりました。あと、しゃぼん玉のような色に染めた布が欲しくて、大学時代から仲の良かったCanako inoueに頼んで、イチから作ってもらったんです。昔から透明でキレイなものが好きで、そういった自分の感性を大切にしながら仕上げましたね。
chapter03
オールドレンズは、
作品づくりに欠かせない
作品づくりに欠かせない
やっぱり機材を触るのも好きで、特にレンズが好きですね。ハマったのは、大学よりも前の予備校生の時。父親が友人のミュージシャンから、Mamiya645とかNikon F4などの名機をずらっともらってきて。「え、なんでそんなに!使っていいの?」って僕も写真を撮るようになったら、機材に触るのが一気に面白くなっていきました。
その頃に、M42マウントの1個3000円くらいの古いレンズが付いた、PENTAXのちっちゃいフィルムカメラも大事に使っていました。それでオールドレンズの良さも知ったんです。今でもM42マウントのオールドレンズは、映像でもスチールでも使いますね。あとは、スーパータクマーなどのアトムレンズ(放射能レンズ)も使います。その頃に製造されたレンズは、被曝による放射能の影響でちょっと黄色いんです。そのレンズがすごく良い色を出してくれます。
あと、ロシアのオールドレンズのHeliosは、ボケ方が特徴的でこれまた最高で。ロシア系のカメラとかレンズは、安くて良いものがたまに手に入るんです。
chapter04
空間を大切にした現場づくり
あまり意識していないですが、いつも“空気を撮る”っていう感覚で撮影をしています。その時間の中で、役者さんの体調も含めて、その瞬間だけで撮れるものが一番いいんじゃないかと思っています。だからこそ、空気という要素を含めた”場づくり”は大事にしていますね。
空気感を大切にすることで、その瞬間の雰囲気が視覚的に伝えられると考えています。現場の空気感を役者さんと共有できたら、きっと作品への思いも共有できるんじゃないかって思っています。
演技については、口で説明するのが苦手ということもあり、役者さんの自然体に委ねる部分が多いですね。その場で撮影する大まかな内容を確認した上で、極端な言い方をするとその空間で自然体に映ればそれでOKだと思っています。
例えばすごくシリアスなシーンで、役者さんが笑ったような喋り方をしたら「それは違う」って言いますけど、その場の雰囲気や、その時の役者さんが持っている感情を大事にしています。
chapter05
制約があると、
ストイックになれる
ストイックになれる
バジェットの大小に関わらず、ある程度の制約があるとストイックに良いものを追求できる気がします。限られた条件で何に最も注力していくのか、頭を捻りますよね。そういう状況でこそ、ストイックになっていくものがあると思っています。
最近だと、WONKがYAMAHAとコラボレーションした映像があるんですが、これはかなり無理しましたね。ロボットアームにポイントを絞って撮影がしたかったので、それを借りてきました。僕がプレビズをやってみて、どういったワークができるのか特機部に聞いたら3mしか上がらないと。それでもできる範囲で、全部を作り込んでいきました。
あと、音楽でも商品でも、名前やタイトル、コンセプトを基にしてアイデアを導き出そうとしています。その部分は常に意識して、作品づくりをしていますね。
chapter06
映画やライブ演出に
挑んでみたい
挑んでみたい
以前、三陽商会さんの新ブランド「CAST:」のショートフィルムを監督したのですが、その経験がとても刺激的でした。今度は長編映画に挑戦したいと思っています。長い作品だったら、もっと役者さんたちと密に作品をつくっていけるので。
あとは、今までの経験を活かして、ライブ演出もしていきたいですね。その空間をいかに楽しいものにするかっていうのは撮影現場でもそうですし、ライブ会場でも同じことができると思っているんです。
あとがき
写真家としての一面も持つ林響太朗氏。今回のインタビューの中で、レンズについて熱く語っていたように、その場の一瞬の空気感をどう切り取るかに、強いこだわりを持っていると感じられました。さらに、役者さんへのディレクションも、その人自身の自然体を大事にする。映像で何かを表現するために、場の空気を丁寧に取り込んでいく。こうした林氏ならではのこだわりがあるからこそ、国内外で評価される作品を生み出せるのでしょう。映画やライブ演出など、さらに活躍の場を広げようとしている林氏の今後の作品に注目していきたいと思います。
Text : Yukitaka Sanada
Photo : Yuji Yamazaki