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3C's

Creative
Craftsmanship
Challenging
05

Yusuke Taki

DIT
映像クオリティーを引き上げる、
冷静な視線

タキユウスケ

九州芸術工科大学(現・九州大学芸術工学部)を卒業後、VE(ビデオエンジニア)を目指して2004年にソニーPCLに入社。撮影アシスタントやVEなどを経験したのち、DITとしてのキャリアをスタートさせる。その後、ポストプロダクションスタジオであるレスパスビジョンに転職。2019年に独立し、株式会社虎徹を立ち上げる。

デジタルワークフローの中で、撮影から編集までのテクニカルサポートを担うDIT(デジタル・イメージング・テクニシャン)。デジタル化が進む映像業界において注目を集めるDITの第一人者として、CMやMVといった数々の作品を手がけるタキユウスケ氏。客観的に撮影現場を見つめ、クオリティーの高い映像の最適解を導き出すタキ氏のこだわりとは。映像制作における3C(Creative Craftsmanship Challenging)を聞きました。

chapter01
映像クオリティーを担保するDIT

DITの仕事は、大きく4つのことをマネジメントする仕事だと思っています。1つ目が、撮影データを管理する「データマネジメント」。2つ目が、撮影素材がどのような色情報を持ち、かつ編集環境や最終的なアウトプットがどのような条件になるかを考慮し、色に関する交通整理を行う「カラーマネジメント」。3つ目が、モニターを何台用意するのか、電源はどこから持ってくるのかといった、撮影現場の「インフラマネジメント」。そして、最後が一番大事な点で、モニターに映っている映像がキレイであるかどうかを見極める「クオリティーマネジメント」になります。

これら4つのマネジメントを手がけるDITを名乗るからには、ポスプロで困らないような仕事をしなければならないと考えています。映像は、監督やエディターなど最終的に仕上げる人がクオリティーの責任を持つことになると思うので、そこでのストレスがないような撮影素材をつくることが僕たち撮影スタッフの責任です。

しかし、それだけを考えると面白い撮影ができません。監督もカメラマンも照明技師も、自由にやりつつポスプロで困らない映像を撮影できるように現場を整えることがDITの仕事です。そして、モニターに映る映像が自分自身の主観でキレイでカッコイイと思えるものにする。そう思えなければ、失礼でも「こうしたらいいのでは」と現場のスタッフに意見や提案することもあります。このような視点を持ちながら、DITとして撮影現場に臨んでいます。

chapter02
常に完成形を見据える

ソニーPCLに新卒で入社し、VEとしての経験を積んだ後に、ポストプロダクションスタジオであるレスパスビジョンに転職しました。そこでは、音楽からCM、ドラマまで、担当する作品は多岐に渡りました。かなり風通しの良い会社で、「この人はこれしかやらない」といった制約がほとんどない。一般には撮影部(カメラマンやカメラアシスタント)寄りのDITやVEが多い中、レスパスビジョンではDITが「完成を見据えたポスプロ目線」を持つことの重要性、を学びました。その上で、「映像とは撮影である。」ということを再確認することもできました。

映像制作に関わる仕事は細分化されているので、実はそういった目線で現場を見ることって、なかなかできないんですよね。しかし本当は、ポスプロを見据えた目線を、あらゆるスタッフが持たないといけないと思うんです。だから僕は自らカメラマンやディレクターもやるし、編集や合成も経験してきました。全部やらないと、映像に関わるスタッフの仕事の「痛み」が分からない。それを知らずに、意見や提案なんてできませんから。

chapter03
現場に影響が出ない、
絶妙なバランス

現場でカラコレ(色彩補正)して、映像のトーンを決めるのがDITの仕事だと思われがちなんですが、それは最も重要な仕事ではありません。逆に必要以上にそこに入り込んだら、作品の質を下げる行為になりかねない。僕らがカラコレをするのは、現場で気持ちよくモニターを見るためといった意味合いが強いんです。むやみに色を補正したら、ライティングのバランスが悪くなりますし、例えば誤ったワークフローでフィルムルックになったデータにCGを合わせようとしたら、CG自体のクオリティーも下がってしまいます。

ただし、カラコレをした方が、気持ちよく撮影ができる場合もあります。僕がカラコレする時は、まずはRec.709 カラープロファイルでモニタリングし、現場のライティングの出来が見えてきてから始めます。また、色は変えても、極力明るさは変えないようにします。もし、映像を明るくしたことで、カメラマンがレンズを絞ってしまうと画が暗くなってしまいますから。あくまで、撮影に影響が出ない範囲での作業になります。

chapter04
浮ついた現場でも、
冷静にマスターモニターを見続ける

撮影現場には複数のモニターがあるので、「どのモニターの色が正しいのか」という話はよく話題にあがります。もし僕が監督や照明技師、スタイリストといった方々から「どのモニターが正しいの?」と聞かれたら、「今日このモニターが正しいと決めたものだけを見てください」と伝えます。それが、タブレットの画面であっても構わないんです。テレビやタブレット、サイネージも出る色は違いますよね。逆説的に、僕だけはマスターモニターで見ることが大事だと考えています。

計測器としての役割を持つマスターモニターでは、色の評価はもちろん、フォーカスが合っているか、以前撮った映像との色の差分などを見ています。その他にもノイズやモアレが出ていないか、映像が破綻していないかといった部分もじっくりとチェックします。

撮影現場は、タレントやアーティストがいたり、演出のために雨を降らせたり爆破したりと、お祭りみたいに浮ついた雰囲気になります。そういった時でも、信頼できるモニターをじっくり見続けるのがDITの仕事だと思います。撮影データの管理も同様で、冷静に現場を見る人がやっぱり必要なんです。

chapter05
多様な技術を持ち、
時代の流れに対応する

僕は学生の頃から編集や合成・CGなども経験しているので、使えるアプリケーションが他のDITより多いかもしれません。撮影現場で仮編集やトラッキング、CINEMA 4Dで現場の映像とCGを組み合わせるなど、実際に見せてイメージを共有する。そこまでやって、やっと発言にも説得力が出ると思っています。

僕の会社(株式会社虎徹)自体も、撮影技術だけの会社ではなく、編集をできる人が撮影のことも経験したり、VFXのワークフローを効率化したりと、撮影技術にまつわる多様な技術・ノウハウを持ち合わせている会社にしていきたいと思っています。

僕が2004年に大学を卒業したときは、映画的な映像はフィルムで撮るかCineAltaやVaricamで撮るかしかありませんでした。5Dやα7が出てからは、僕らが10年修行しないと撮れなかったような映像が手軽に撮れ、撮影する手段も多様になっています。進化を続ける技術・機材・アプリケーションなども積極的に学びながら、そうした時代の変化にも対応していきたいと考えています。

chapter06
技術力を発揮するエンジニアのように撮影に関わる

僕らDITがいる/いないで、映像のクオリティーが変わることを理解してもらえればDITの存在価値はもっと高まると思っています。時間も予算もない案件であっても、DITがいることでベストソリューションに近づけると知ってもらいたい。ただ、僕らの仕事は、頑張りが映像に出にくいのも確かです。現場のインフラ整備も現場でのカラコレもデータ管理も、作品に反映されているかはなかなか分からない(笑)。だからこそ、DITという仕事が面白くなるように足掻き続けていて、我々DITは重要性をアピールできるようにもっと頑張らねばならないと思います。

僕がこの業界に入ったのは、カメラマンの篠田昇さんがHDW-F900で撮った映画「リリイ・シュシュのすべて」(岩井俊二監督)を観たことがキッカケです。あの映像が、デジタルで撮影されたというのが衝撃で。せっかく理系学部を出たなら、その知識を生かして「デジタルで映画を作る仕事をしよう」と思ったのがそもそもの始まりです。やはり理系出身なので「エンジニア」という言葉の響きに憧れがあります。撮影現場でエンジニアと付くポジションは、レコーディングエンジニアとビデオエンジニアしかいません。DITの「T」はテクニシャンですが、技術力を発揮するエンジニアのように撮影に関わっていきたいですね。

あとがき

撮影現場とは多くの人が関わり、映画やCM、ドラマが生まれる、華やかな場所です。しかし、そこには冷静にモニターを見つめ、大切な撮影データを管理するDITがいるのです。「裏方」と一言で表現するのは安直かもしれませんが、まさに映像のクオリティーを支える影の人こそ、DITなのだと実感しました。

Text : Yukitaka Sanada
Photo : Yuji Yamazaki

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