Hiroyuki Nagata
新時代のエディターが持つスキル
Chapter
永田 裕之
専門学校で音響技術を学び、ポストプロダクションへ入社。主に音楽番組の編集・MAを担当し、2016年に独立。2020年2月にiNA Creative Studio株式会社を設立。教育、アイドル、バラエティーなど数多くのYouTubeチャンネルの動画制作などを担当。MVのCG監督も務めている。
テレビ業界において編集・MAを学び、主な活躍の場をWeb業界に移した永田氏。数々のタレントのYouTube動画制作だけではなく、バーチャルYouTuber(VTuber)の制作やMVのCG監督も手がけるなど、さまざまなスキルを発揮しながら、さらに活躍の場を広げています。テレビとWeb、新旧の映像業界で活躍してきた永田氏の映像制作における3C(Creative Craftsmanship Challenging)を聞きました。
chapter
01
独立を機に
テレビからWebの世界へ
テレビからWebの世界へ
祖父が今でいうミキサーの仕事をしていて、日本を代表する映画監督の作品にも携わっていたんです。その姿を見て何だか面白そうだなと思い、専門学校で音響を学びました。卒業後、ゴールデンタイムのバラエティ番組などを担当しているポストプロダクションへ入社し、編集とMAの経験を積みました。本当はMA志望だったんですが、人が足りなくていつの間にか編集までやっていましたね(笑)。
予算が少ない音楽番組などはかなり自由にやらせてもらっていたのですが、入社3年を過ぎたあたりで、仕事の幅を広げるため独立することにしました。というのもちょうどその頃、360°動画やVTuberが出始めたタイミングで。そういった動画の仕事の依頼があり、編集からMAまで担当したり、モーションキャプチャーやVTuberの動画で使う小物のモデリングの仕事が増えていき、自然とテレビからWebへと軸足が移っていきました。
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02
1日で完パケする
Web動画のスピード感
Web動画のスピード感
テレビとWebの圧倒的な違いは、制作のスピード感ですね。テレビは最初に”決まり”を作って、そのフォーマットに沿って番組制作を繰り返していくスタイル。ゴールデンタイムの1時間番組だと、3日〜4日は制作に時間をかけます。一方でWeb(YouTube動画)は、コメント欄にある視聴者の要望や意見をもとに動画のリニューアルを重ねていくんです。20〜30分の動画であれば、1日で完パケまでもっていきます。
しかし、最近では有名タレントのYouTube進出が多く、時間をかけてクオリティーを上げていこうという流れになっています。というのも、プロ・アマ関係なく作られた動画が無数にアップされていく中で、動画のクオリティーで差異化を図る必要が出てきているためです。プロが制作した動画は、パッと見ただけで違いが分かりますからね。
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03
音のこだわりが、
映像全体の質を高める
映像全体の質を高める
音の作り方もテレビとWebで、ポイントが違います。テレビを見る環境は人によってそこまで大きな違いがないため、フラットに音をミックスさせていくイメージです。一方、Webの場合だとスマートフォンで見る人が非常に多い。なので、反響音やノイズ音といった細かい雑音を消して、ヘッドホンで視聴しても気にならないようにしています。
ハードもソフトも便利になって、誰でも動画を撮影できる時代になりました。編集技術は動画の中でも目に付く部分なのでみなさん頑張っていますが、音までこだわっている動画は多くありません。MAしたものとそうでないものを比べてみると、動画全体のレベルが圧倒的に違うことが分かります。YouTubeの制作者たちもクオリティーを上げるためには、音も重要だということに気づき始めているのではないでしょうか。
その一例が、「中田敦彦のYouTube大学」で配信したXENO(ゼノ)というカードゲーム動画です。これは、ミックスだけでなく、BGMやSEといった音効も私が担当しています。動画の特性上、中田さんの声が小さくなったりするので、声を持ち上げた時にノイズが出ないようにしながら、映画のような雰囲気の音づくりにこだわりました。ユーザーもそうですが、中田さんご本人からも高い評価をいただきましたね。
また、VTuberである「響木アオ」のMVも担当したことがあります。これはモーションキャプチャーを使って、グリーンバックで撮影しました。ステージを3Dに仕立てて、奥行きのある空間にしたんです。この動画もファンの方から、評判が良かったですね。
【中田敦彦vsDaiGo@】〜異能の心眼〜【XENO】
響木アオ / melt warp
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04
一貫して
”業界のスタンダード”を使い、
判断のブレをなくす
”業界のスタンダード”を使い、
判断のブレをなくす
基本的に自宅で仕事をしていますが、ナレーションを録音するときなどは外で作業することもあります。私の場合はどんなときでも、ヘッドホンは「MDR-CD900ST」を使うようにしています。”業界のスタンダード”といえるヘッドホンですが、一貫してこれを使うことで自分の判断基準がブレないようにしています。他のメーカーだと出る音もさまざまなので、「MDR-CD900ST」に統一することで音が混乱しないんです。
ミックスは普段「Pro Tools」を使用していますが、音楽を盛り上げたい、動画の内容に合わせて抑揚をつけたい時は「Artist Mix」というミキサーを使っています。やはりミキサーの方が、操作するスピードも違うんですよね。前の会社には職人気質のミキサーさんが多くて、「ミックスはプラグインでなく、手でやるんだよ」と言われていた影響も多少はあるとは思いますが(笑)。
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05
遊ぶようにして、
次のことに挑戦
次のことに挑戦
新しいものが好きなので、「これできない?」と聞かれたり、新しい技術を使う仕事の依頼があったりすると、自分でどんどん調べてやってしまうんですよね。それを繰り返している内に、仕事の幅も広がっていきました。私としては、趣味が仕事になっている感じです(笑)。
編集もCGも、勉強しているときは遊んでいる感覚で「大変だ」と思うことがないんです。新しいツールを勉強する時も、とりあえず手を動かしてみて「これ作れそうだな」と思ったら、そこを目指して形にしながらスキルを身に付けています。昨年、編集ソフト「DaVinci Resolve」を覚えたので、最近はカラーグレーディングにハマっています。「Osmo Pocket」を持ちながら旅行して、撮ったものをカラーグレーディングしながら、編集したりしていますね。
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06
テレビの技術が、
さらに必要となる
さらに必要となる
Web動画の醍醐味は、演者さんとの近さにあると思っています。こちらの提案がすぐに通ることも珍しくありません。お笑いトリオ・ハナコのYouTube公式チャンネル「ハナチャン」にある360°コントに関しては、「360°に撮影できる技術があって、これに合わせてネタつくれますか?」と提案したら、ハナコの秋山さんがその場でネタを360°技術に合わせてくれたんです。このようなスピード感は本当に凄いと感じます。
YouTubeもクオリティーが重視され始めた中で、テロップが多用されるなど、動画の構成がテレビ番組に似てくるようになってきました。私自身、YouTube 動画の制作時には、SEを複数組み合わせて音に厚みを持たせたり、必要であれば自分で音を作ったりもしています。そのようにクオリティーを重視した、テレビ制作で培った技術がますますWebでも発揮できるようになってきました。YouTubeでは今後、テレビのやり方を応用した動画づくりが流行っていくかもしれないですね。
あとがき
有名タレントが続々とYouTubeへ進出することによって、テレビの制作マンたちがWeb動画制作に続々と参加。動画のクオリティーが、どんどんと上がっています。それは、映像だけでなく、音も例外ではありません。テレビで培った技術と、Webに関わることで身に付けた最新ツール。どちらも手にしている永田氏のスキルは、今後さらに必要とされていくでしょう。
Text : Yukitaka Sanada
Photo : Yuji Yamazaki