今やメディアとして確固たる地位を築いているYouTube。そこで活動するYouTuberたちは、さまざまなメディアに出演し、活躍領域を広げています。去る2月、ソニー・ミュージックエンタテインメントでは、そんな動画クリエイターたちをサポートするプロジェクト「Be」をスタート。クリエイターを募集し、現在「Be」には31組のクリエイターが参加しています。今回は、プロジェクトリーダーである三浦紹さんに、「Be」の全容と将来のクリエイター像についてお話を伺いました。
「立ち上げた理由としてネットにおける個人のパワーが強くなっていることが挙げられます。メディア側の発信だけではなく、取材を受けた人やインタビュアーからのSNS発信で、記事を読む方が多くなったことが背景にあると思います。いまはもう昔のように新聞やテレビ、もしくはメジャーレーベルといった既存の枠組みだけでは情報発信が成立しない世界なのかもしれません。
また、クリエイターの思い描いているアイデアを実現するためのお手伝いや、クリエイターと企業の橋渡しをしたかったからです。長年に渡りアーティストのマネジメントをおこなうソニーミュージックは、人に寄り添うビジネスを得意としています。そんな背景もあって、クリエイター側に立てるビジネスを立ち上げました。」
「2017年の夏頃からそういった話が出ていました。YouTuberというキーワードが浸透してきて、すでに生配信でライバーと呼ばれる方たちが活躍していました。またAbemaTVが本格的にネット番組に注力している中でメディアそのものが本格的にネットにシフトしていくかもしれないという感覚が強くなっていった時期でしたね。」
「あまり後発だという意識はなかったかもしれません。先進事務所には日本を牽引している有名アーティストが数多く所属をしています。マネジメントの本質的な価値は所属しているクリエイターに依るところが大きいと考えています。世の中のさまざまなマネジメント会社を見渡し、後発の会社でもいいクリエイターが育てば、十分に戦っていける世界だと感じたので、タイミングに関しては気後れすることはなかったですね。」
「社内外を含めいろんな反響をいただきました。過去一緒にビジネスをしていた方から連絡をもらったり、いままでクライアントだった方からインフルエンサーマーケティングに興味があるという話を受けたりしました。社内からもアーティストの次の活動として、YouTube立ち上げを考えていたといった相談も受けました。ソニーミュージックグループが新しいクリエイター事業をやることに何かしらのインパクトがあったのかなと思っています。」
「一番は、そのクリエイターを好きだと思えるかどうかに尽きます。方向性や考えていることが違ってしまえば、一緒になってもお互いが幸せにはなることはできないので、チャンネル登録者数などの数字はほぼ見ていませんでした。800組くらいの応募をいただいた中で、相性が良さそうと感じた100人弱とリモートで面談をして、最終的に31組に絞りました。」
「ソニーミュージックグループにはそれぞれのセクションにスペシャリストがいます。新人発掘のセクションで早くからインフルエンサーとかネットクリエイターに目をつけて育成していたメンバー、ミュージシャンのYouTube上の戦略を考えてプラットフォームと交渉にあたっていたメンバーなど、色々なキャリアを持った人間で構成されています。未来がどんな時代になるかを想像しながら実際に足を動かして、いち早く新しい世界に飛び込んでいた人たちが集まって、このプロジェクトを進めています。そういったマインドと、さまざまなノウハウを持ち合わせていることがチームの強みです。チームメンバーのことはものすごく誇りに思っています。」
「アイデア出しはもちろんですが、企画の手伝いや動画へのアドバイス、作った動画がどう受け止められているかをあらゆる側面からフィードバックしています。またブランディングに関わる全体のコンセプトを考えたり、スタジオを使って撮影をしたりと、支援内容は多岐に渡ります。支援していくなかで、モノづくりは個人のパワーに依る物だという思いが強くなりました。」
「「Be」という名前に込めたところでもあるんですが、いまは企業の名前や所属する組織の名前から活動を想起させるのではなくて、その人自身がエンタテインメントやブランドになる時代だと思っています。世の中のプラットフォームも常に移り変わるので、その人そのものの魅力が発揮できるのであれば、YouTubeだけではなく、TikTokだろうが、Instagramだろうが、場所を問わずに価値を届けられるようになるべきです。なので、マネジメント側に立つ僕らとしては、YouTuberではなくソーシャルクリエイターと呼ぶことにしました。
それに伴って「Be」もソーシャルクリエイターレーベルと名乗るようにしています。クリエイターにもゲーム実況、歌ってみた、踊ってみたなどといったそれぞれの強みに紐づいた固有のビジネスモデルがあったり、ファンの集まりがあったりします。この集団みたいなものをどう呼ぼうかと考えている時に、音楽業界的にレーベルという言い方がスッと腹に落ちました。」
「ある企業が新しく化粧品を出すのと、人気のモデルがプロデュースした化粧品を出すのとでは、後者のパワーがだんだん強くなってきているという感覚は、みんなが持ち始めている気がします。現在、消費者はストーリー性のある商品に魅力を感じています。それに対して、企業はさまざまなインフルエンサーやクリエイターが考案した商品を市場に出しています。
またインフルエンサーマーケティングの観点では、例えば、普段からビールを飲んでいるか分からない人がビールの新商品を宣伝するよりは、毎日ビールを飲んでいる人が宣伝した方がいいに決まっています。いまは熱意を持って商品を紹介しているかが見られています。そういったマーケティングのほうが見た人の行動を喚起するパワーを持っています。またこれからは商品の製造やブランドの在り方にも個人のパワーが影響を及ぼす時代がくると思っています。なので、企業もクリエイターも足並みを揃えてビジネスを進めていける世界を作っていけたらなと思っています。」
「メディアの種類に特にこだわりはないですね。クリエイターが自由に活動をしていて、そこにファンコミュニティが存在していればいいと思います。とある中国のインフルエンサーは、ノスタルジックな田舎暮らしを発信して人気を博し、それによってECサイトが立ち上がって中国でかなりの影響力を持っています。また有名ミュージシャンがヘッドホンを売ることで自身のビジネスを拡大していったりしています。その人の価値が適切な形でどんどん世に出るチャンスを作っていくことが健全なメディアの形だと思います。マネタイズされるかどうかは別として、メディアに縛られず、自由に活動できる姿が理想形ですね。」
「個人が生み出していた表現がさまざまな形で伝播していくのが価値のあるソーシャルクリエイターの未来だと思います。ジャスティン・ビーバーのようなYouTubeやTikTokからパッと出てきた人が人気を博すことも多くなってきていますから、そういう時代も当たり前になるのだと思っています。
「Be」の中でも、着実に活躍するクリエイターが育ってきています。我々も、今後のプロモーション戦略を立てたり、日々のクリエイティブ活動を支援したりして、彼らの世界観を1人でも多くの人に伝えるために日々闘っています。そういった活動を通して、「Be」のクリエイターが自由に楽しく創作し、それを認めてくれるファンコミュニティが広がっていく状況を作っていきたいです。」
現在、活躍の場を広げているYouTuber。プラットフォームが数多く出てきており、クリエイターたちは独自の表現を通して私たちを楽しませてくれています。ソニー・ミュージックエンタテインメントが新たに立ち上げたプロジェクト「Be」は、クリエイターが持っている才能や表現を私たちや企業に繋ぐためのクリエイターレーベルでした。熱い想いを持って次世代のソーシャルクリエイターを生み出していく「Be」の活動に今後も注目していきたいと思います。
株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント
コーポレートビジネスマーケティンググループ マーケティングオフィスプロデューサー
2004年ソニー・ミュージックエンタテインメントに入社。グループ会社であるエムオン・エンタテインメントにて放送広告営業、モバイル担当などを経て、2012年9月にWEB音楽チャンネルJAMBORiii STATIONを立ち上げ。DeNAの出向を経て、株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメントに異動。2020年、「Be」の立ち上げを行い、プロジェクトリーダーに就任。