本記事は2024年11月にPRONEWSへ掲載された記事の転載となります。
11月発売のBRC最上位モデル「BRC-AM7」
目次
ソニーのPTZカメラには、映像制作向けのBRCシリーズ、ビジネス向けのSRGシリーズ、フルサイズセンサーを搭載してレンズ交換を可能にしたCinema Lineの「FR7」があるという図式になっている。
今年4月に発表し、2024年11月に発売予定の「BRC-AM7」は、BRCシリーズの頂点となるカメラだ。発表時点では2025年初頭の発売とされていたが、発売が少し早まっている。「これからは、AIが撮る。」というコピーが添えられているが、「PTZオートフレーミングカメラ」という商品名の通り、AIによるPTZオートフレーミング機能を搭載したユニークなカメラだ。
今回はいち早くお借りすることができたので、その性能をチェックしてみたい。
24mmスタートで40倍までカバー
まずカメラスペックを確認しておく。 レンズは35mm換算で24〜480mmの光学20倍ズームレンズ。超解像領域まで含めれば、4K解像度で30倍、フルHDで40倍の高倍率ズームが使える。絞りはF2.8〜4.5。
撮像素子は1.0型ExmorRS CMOSイメージセンサーで、有効画素数は約1400万画素。画像処理エンジンは最新のBIONZ XRだ。さらに大きな特徴として、電子式可変NDフィルターを搭載している。
ここまで見てきて、放送用カメラに詳しい人なら「あれ?」と思わなくてはならない。このスペックは、今年9月に登場したプロ向けハンディカムコーダー、NXCAM「NXR-NX800」およびXDCAM「PXW-Z200」とほぼ同じだ。ハードウェア的に非搭載の機能は、手ブレ補正ぐらいだろう。つまりAM7は、NX800/Z200相当のカメラヘッドを搭載したPTZカメラだと言える。
この両機は、AIによるオートフレーミング機能を搭載して話題になったばかりだ。これは4K解像度の映像からの切り出しで自動追従してくれるものだが、AM7はPTZオートフレーミング機能を搭載し、パン・チルト駆動機構と光学ズームでカメラごと動かして、切り出しなしで撮影していこうというわけである。
実際メニューを見ても、ほとんど同じだ。NX800/Z200では、メニューボタンの1回押しで10ページに整理されたメニューを使う事になるが、メニューボタンの長押しでフルメニューにアクセスできる。AM7ではフルメニューがあるのみだが、メニュー構成もほぼ同じとなっている。
PTZカメラでは、主にライブ映像出力をメインに考えるところだろうが、実は本体にメモリーカードスロットを2基備えており、収録もできる。SDIやHDMIからの出力スペックが最高4K/60p HDR対応となっていることから、ハイフレームレート撮影ができないと思った方も多いと思うが、実は収録では最高240fpsの撮影が可能だ。システムのフレームレートを何にするかで、スロー倍率が変わるという仕様だ。
709ベースであれば、S-Cinetone、ITU709、709toneのプリセットを備えるところも共通している。シーンファイルの読み込みと書き出しにも対応しており、NX800/Z200と設定を合わせることも可能だ。
多彩なI/Oとコントロール
AM7の強みは、ライブ/ネットワークカメラとして豊富なI/Oを備えたところにある。音声入力では、2chのXLRのほか、ミニプラグも用意されている。入力が汎用端子になったことで、現場の思いつきで音も入れておくか、となっても、大抵なんとかなる。
SDI出力は2系統あり、これはZ200を上回る。ネットワーク端子としては、通常のLAN端子に加え、ソニーが開発したカメラコントロール規格であるVISCAのIN/OUT端子を備え、NDIやSRTなどのネットワーク系出力に対応できる。
電源に関しては、XLR-4ピンのDC12Vで動くので、アダプタを経由してVマウントバッテリーなどで動かせる。
PoE++で給電しながら、同一ネットワークにタブレットを接続すれば、現場でWEBアプリを使用することも可能である。WEBアプリではAM7のフル機能にアクセスできるだけでなく、画面タッチによるPTZオートフレーミングの被写体選択も可能だ。モニター代わりにもなるので、10インチ程度のタブレットがあるといいだろう。
カメラコントロールは、定番とも言えるリモートコントローラ「RM-IP500」があれば、ジョイスティックによるパン・チルト、ロッカースイッチによるズームが使えるので、柔軟なマニュアル操作が可能なのは当然だ。
だが付属の赤外線リモコンでも、かなりのことができる。パン・チルト・ズームのコントロールができるほか、3つまでプリセットポジションが記憶できる。メニュー操作に関しても、オートフレーミング以外の設定はできるので、メニューが確認できるディスプレイさえ繋いでおけば、ネットワーク接続なしでも使える。
事前にネット環境でPTZオートフレーミングの設定さえカメラに仕込んで追えば、マルチカメラ収録やSDIベースのライブ中継業務でも、現場でわざわざ制御のためにネットワーク環境を用意する必要はない。
大幅に可能性が拡がったPTZオートフレーミング
では実際に、AIによるPTZオートフレーミングを試してみる。さらに高度な設定を行なうために、WEBアプリによるコントロールが推奨される。これはAM7と同じネットワーク内にあるPCやタブレットなどのブラウザで、カメラのIPアドレスにアクセスすると、制御可能となる。
構図設定に関しては、NX800/Z200では大・中・小の3つから選択するのみだが、AM7ではサイズも位置もバリアブルに設定できる。パターンを作って3つまでプリセットしておけるのも強みだ。
スタートポジションを設定しておけば、その位置に入っていた人物に対してフレーミングしていくという動作になる。また検知範囲も設定できるので、左からフレームインした人物のみに対して追従するという動きもできる。何度か同じテイクを繰り返すドラマ収録などには便利な機能だろう。
今回は屋外で撮影してみたが、現場にネットワーク環境はない。事前にPTZオートフレーミングの設定を行なっておき、現場では赤外線リモコンでPTZオートフレーミングを起動しただけである。
ソニー「BRC-AM7」PTZオートフレーミング 撮影サンプル
AM7はパンで±175度、チルトで-30度〜210度まで動くので、カメラを近くに置いてもかなり広範囲に追うことができる。もちろん解像度も切り出しではなくフル解像度なので、4Kそのままでフォローできるのも強みだ。
またオートフレーミングは、ハイスピード撮影にも利用できる。サンプル動画後半のスロー撮影は59.94pで240fps撮影なので、4倍速スローとなっている。構図としては若干フォローが遅れ気味だが、これはオートフレーミングの構図をオフセットとして進行方向寄りに設定しておけば、カバーできるだろう。
撮影日は光量のある晴天だったが、電子式可変NDフィルターで露出制御できるので、減感なし、シャッタースピード1/60固定、絞り開放で撮影できる。焦点距離も長いので、被写界深度を生かした絵作りも可能だ。
プロフェッショナルのライブ配信から収録まで幅広く活躍
これまでPTZカメラは、いわゆる人が振るカメラとは性能的にも設定も別枠で扱われてきた。コントローラでマニュアルコントロールするか、プリセットしたポジションに動かす程度しか活用されてこなかったが、AM7はPTZオートフレーミングによりパン・チルト駆動機構を直接コントロールすることで、切り出しでは得られない高解像度と、幅広い撮影範囲をカバーできる。
さらにカメラ部は、PTZカメラといえどもNX800/Z200と画質的にも性能的に差がないところまで持ってきた。ライブだけでなく収録にも対応した事で、映像制作の現場にも投入できるカメラとなっている。
NX800/Z200で対応できる現場なら、AM7が通用しない理由がない。両カメラユーザーはもちろん、少人数でマルチカメラ撮影したい制作サイドでも、注目したいカメラである。