2008.9.30 掲載
世界初!水槽内でのマンタの出産映像を撮影。
少人数となる夜間の監視体制をネットワークカメラでサポート
沖縄県国頭郡本部町の海洋博公園内に位置する沖縄美ら海水族館様は、黒潮に育まれた「沖縄の海との出会い」をコンセプトに、様々な海の生物を紹介している世界最大級の水族館です。ギネスブックにも認定された世界一巨大なアクリルパネルの水槽「黒潮の海」や、世界で初めて長期飼育に成功したジンベエザメとオニイトマキエイ(マンタ)、生きたサンゴの大規模飼育など、いくつもの「世界一」と「世界初」があります。館内は単に水槽を組み合わせて見せるだけの展示に終わらせず、さまざまな角度から見られる工夫を施し、何度訪れても新たな発見がある、海への興味がつきない水族館づくりを目指しています。
沖縄美ら海水族館 飼育係 松本葉介様にお話を伺いました。
大水槽の観察窓に設置し、海中生物の生態を記録するネットワークカメラSNC-CS50N
水族館の1階から2階を貫く大水槽「黒潮の海」は、奥行き27m×幅35m×深さ10m、容量7,500tと、世界でも有数の大きさを誇ります。水族館のメインコーナーでもあるこの「黒潮の海」水槽内で、2006年6月にマンタの交尾を確認し、ビデオ撮影に成功しました。マンタの交尾の確認は、自然界でも極めて珍しいことです。マンタは"卵生"ではなく赤ちゃんを産む"胎生"で、マンタの仲間である海洋生物の生態から妊娠期間は約1年と予想されていました。しかし、その生態にはまだ謎に満ちており、それまでマンタの出産に関する記録映像もありませんでした。そこでこのチャンスを逃さず、出産シーンをビデオにおさめたいと考えました。ここで課題となったのが人員体制です。スタッフが大勢いる日中はまだしも、宿直スタッフしか残らない夜間は手薄となります。また、「黒潮の海」水槽をずっと見張っているわけにもいかず、海洋生物は陣痛のような目立つ出産兆候を見せないこともあって、気づかないうちに出産が終ってしまう可能性もあります。そこで、万全の体制を整えるために、水槽に監視用カメラを設置することにしました。
ネットワークカメラ専用レコーダー NSR-100は可動式ラックに収め、他の水槽まで手軽に運んで設置できるよう工夫した
最初は民生用のビデオカメラを導入検討していたのですが、民生用ビデオカメラのファイル容量は大きく、保存用HDDがすぐにいっぱいになってしまいます。毎日DVDなどのメディアに保存する時間は取れませんし、できたとしてもメディアが膨大な量になります。さらに、出産だけでなく、マンタや他の海洋生物の生態を研究するためにも、長時間記録できるシステムがいいだろうと判断しました。たとえば海洋生物は交尾時期が分かりにくいのですが、1年分ほどの大容量記録が可能ならば、ずっと観察ビデオを撮り溜めて、出産してから妊娠期間をさかのぼって確認するという活用もできます。そこで、ネットワークカメラに着目しました。他社製品も含めて検討した結果、LAN経由でネットワークカメラの撮影映像を記録できること、電源供給ができること、操作や設定が簡単で、黒潮の大水槽だけでなくほかの水槽にも容易に設置できる点を評価し、ソニーのネットワークカメラを選択しました。
2006年10月、ネットワークカメラ SNC-CS50Nを3台と、ネットワークカメラ専用レコーダー NSR-100を1台導入しました。ネットワークカメラ SNC-CS50Nにはカメラスタンドを付け、ネットワークカメラ専用レコーダー NSR-100は可動式ラックに収めて、他の水槽まで手軽に運んで設置できるよう工夫しました。
世界最大級を誇る「黒潮の海」の大水槽で泳ぐマンタ。交尾・出産もここで確認された
導入後、マンタの出産時期までは、2ヶ所ある黒潮の大水槽の観察窓に1台ずつSNC-CS50Nを設置し、テスト運用を繰り返しました。コマとコマの間に取りこぼしが生じないよう、記録レートはVGA(640×480)、30フレーム/秒という最大値に設定しています。水槽内の夜間照明は、昼間の約3分の2から2分の1の明るさに落としますが、Day&Night機能を持つSNC-CS50Nならば高画質で撮影できます。
いよいよ出産が近づいた2007年6月には、SNC-CS50Nを大水槽の真正面とその両側に合計3台設置し、水槽に死角ができないよう配慮しました。マンタが出産する瞬間まで「絶対に撮影しなければ」と緊張する日々が続いていましたが、万が一誰もいないときに出産が始まっても、SNC-CS50Nが撮ってくれるという安心感がありました。精神的負担がかなり軽減されたと思います。2007年6月16日の出産時には、タイミングよく私が待機していたため、水中カメラを利用して出産*の撮影を行いましたが、後日確認したところNSR-100にも出産の瞬間がはっきりと記録されていました。
ネットワークカメラの最初の導入目的はマンタの出産でしたが、他の魚の繁殖や生態を記録するのにも有効なシステムです。すでにレモンザメの出産でも活用しました。飼育下におけるレモンザメの出産は日本では初、出産の撮影は世界初となります。また、学術的には解明できているものの、きちんとした出産・産卵の映像がない水生生物もいます。その記録を撮ることで、一般のお客様への資料とし、より理解を深めていただくことができます。さらに、日々の生態から思わぬ発見へとつながり、貴重な映像となる可能性もあります。今後は、ネットワークカメラの映像をそのような撮影に活用していきたいですね。