放送用機器やコンスーマー製品で既に多くの実績を持つソニーの4K。
そのラインナップにこのたび新たにネットワークカメラが加わった。
昨今の防犯ニーズの高まりと共に、ネットワークカメラに対して
「見張られている」から「あると安全・安心」とポジティブにとらえる社会の変化が起きており、
市街地や公共交通、また教育現場やビジネスなど多様な場において導入が進んでいる。
特に、撮影した映像をデジタルデータ化して
コンピューターネットワークに直接配信できるネットワークカメラは、
設置や拡張面での柔軟性、LANケーブル1本で
映像・音声・制御信号などの伝送を全て実現できる利便性を背景に堅調な市場成長が続いており、
ソニーも2002年から取り組んできた。
ネットワークカメラの普及と共に、人の顔や車のナンバープレートなど映像の細部まで見たいという要求が強まり、
SD→HD→フルHDとカメラの高画素化が進んでいる。
最近ではフルHD(1920x1080)の4倍の解像度を持つ4K(3840×2160)のネットワークカメラも出始めており、
ソニーもこのたび初の4K対応ネットワークカメラ「SNC-VM772R」を発売するに至った。
今回発売したモデルは、ソニーのネットワークカメラとしては初めて1.0型Exmor R® CMOSイメージセンサーを採用し、
従来の4Kカメラで課題となっていた低照度環境での視認性を大幅に改善。
また、業界最高クラスの0.06lxという高感度と高解像度の両立を実現した。
さらに4Kの膨大なデータ量を効果的に活用して、
高精度の画像情報を記録しながら帯域への負担を抑制する多彩な出力モードを搭載するなど、
ユニークな仕様を備えている。
さまざまな課題を克服し、本機種を開発するまでのチャレンジを商品企画・設計担当に聞いた。
藤井大輔
水谷智之
低照度環境比較画像
また、このセンサーは20メガピクセル(5,472 x 3,648)という4Kを超える非常に高い画素数を持つのですが、この解像感を余すことなく発揮できる独自開発のレンズや、コンスーマーからプロフェッショナル用途までさまざまなカメラで培ったソニーの画像処理技術を結集した信号処理エンジンを搭載することで、通常のレンズでは解像感が落ち、ぼけやすい周縁部の隅々までくっきりと、歪み・ノイズを低減して映し出す高画質を実現しています。
水野:「高解像度と高感度の両立」の実現には、大判のCMOSイメージセンサー採用が必要で、それに従いレンズも大きくなるため、セット本体がより大きく重くなります。そのうえで他社を上回る設置性をどう実現するかが最大の課題でした。今回は試作前の商品化コンセプト段階で実際の使用例や設置方法の仮説を立て、簡易試作品や説明図をお客さま先に持ち込んで検証・改良を短期間で繰り返すリーンスタートアップというプロセスを導入し、お客さまにとって本当に必要な機能を見極め、改善を図っています。 その過程で国内外の作業場所を見せていただき、自ら設置作業を行って検証しましたが、通常壁や天井に金具を取り付け、配線を行ってからカメラを設置するため、片手でカメラを持ちながら配線や金具へのネジ止めを行う大変さを痛感しました。こうした現場の苦労を解決すべく、配線時にカメラを金具に仮止めできるストラップや、金具とカメラをワンタッチで仮止めできる機能を取り入れて、両手での作業が出来るように工夫しました。有効性を確かめるために設置経験がない社内の人間にも試してもらった際も、従来モデルの半分の時間で設置ができ、感動されたのが印象に残っています。実際にお客さまからも作業時間が短縮できると好評いただき、自信を深めることができました。
水野智正
(左)カメラを補助するストラップ(右)金具を取り付けた姿
さらに今回初めて無線接続によってスマートフォンで設置したカメラの画角確認ができる機能(下写真)を搭載しています。監視カメラ業界で無線をこのように使う例というのはまだ珍しく、コンスーマー製品も手がけるソニーならではのノウハウを生かすことができたと思っています。
スマートフォンにダウンロードした専用アプリSNC toolbox mobileでカメラの画角確認が可能
藤井:高画素カメラへの需要が高まる一方、お客さまからは4Kによるデータ容量の増大、帯域への影響などの懸念を伺っていました。そのためソニーでは、領域によって圧縮率を変え、ネットワーク帯域を最大で約50%抑制する「インテリジェントコーディング」や、注目領域を切り出してデータ量を抑制する「インテリジェントクロッピング」など多彩な出力モードを搭載し、お客さまのシステムトータルで見た際にコスト削減につながる4Kをめざしました。ただそうした出力モードをお客さま目線でどうわかりやすい仕様にするか、という点に苦心しました。実際の監視カメラのシステム構成は、録画しておいて有事の時だけ見たい場合もあれば、空港のように大規模な数の映像を常にまとめて監視したいなどニーズもさまざまです。顧客訪問や販売会社へのヒアリングを行い、代表的な使われ方を分析したうえで検討を重ね、最終的にはお客さまが複雑な設定をすることなく、モードを選択するだけで簡単に出力方法を選べる仕様に落とし込みました。こうして4Kだけではない、新しい使い方を提案できたことでポジティブな反応をいただいており、手応えを感じています。
小山隆浩
小山:4Kになることで扱うデータ容量が増えるため、ソフト面では処理が重くなることによってカメラの動作への影響や不具合につながらないよう、どの機能をどう組み合わせるかを考えながら、慎重に検証をしていきました。一例として、短期間で手戻りなく開発を進めるため、コンスーマー製品の開発プロセスを参考に、ソフト設計の前にシステム設計が必要な処理を見積もって、関係者間や有識者で確認作業を行い、効率的に作業を進めるように工夫しました。スピーディーな開発が求められるコンスーマー、長い使用サイクルに見合う耐久性や信頼性の担保が重要なプロフェッショナル、それぞれものづくりのプロセスは異なりますが、こうした双方のよい面を取り入れながら設計開発を進めました。
藤井:今回4Kの膨大なデータを圧縮するコーデックの技術については、社内の研究開発部門の協力を仰ぎました。セキュリティーカメラでは視認性が重要なので、ある程度の画質を保ちながらもビットレートの削減が求められますが、コンスーマーのカメラなどではビットレートの制約よりも映像としての美しさが重要視されます。このようにプロフェッショナルとコンスーマーのカメラでは画作りのスタンスが全く異なるので、いかにそのギャップを埋めてセキュリティーで要求される性能を正しく伝えてゴールを共有するか、その難しさも体験しました。
水谷:この製品は私が過去に担当した中でも最大のメンバーの協力を仰いだ一大プロジェクトで、通常の電気・メカ・ソフトウェアに加え、最大20メガピクセルというイメージセンサーの性能を余すところなく発揮できるレンズ、セキュリティーカメラとしての画づくりやチューニング、コーデック技術、信号処理など各分野のスペシャリストが多数参加しています。その道の第一人者である方々との作業を通じて、改めて必要とされる技術力の高さ・奥深さを実感しました。コンスーマーなど他分野で培った技術やノウハウの応用を積極的に行い、まさにソニーの技術を結集した製品と言えると思います。
藤井:とにかく画質にこだわりぬいたカメラなので、同じ4Kでも他社との違いをぜひ感じていただきたいです。視認性と優れた性能をあわせもった4Kカメラとして、長く提案していきたいと思います。
水谷:監視カメラでは音がちゃんと識別できる点も重要になるので、ノイズを抑える技術を意識的に入れるなど実は音にもこだわっています。画質だけではなく、音声部分でも数々のオーディオ製品も手がけるソニーとしてふさわしいカメラに仕上がったと自負しているので、注目して頂ければと思います。
水野:先述したストラップ・ワンタッチ仮止め・無線による画角確認以外にも極力工具を使わなくてすむようにネジを1本でも減らすなど設置性の向上を目指してさまざまな工夫を盛り込んでいるので、ぜひ実際に設置してそのよさを感じていただきたいです。
小山:ソフト面では多様な出力モードを開発する点が最も苦労しましたが、その甲斐あってユニークな製品に仕上がったと思います。さまざまな出力モードをお客さまの用途にあわせてぜひご活用いただきたいですね。また従来機種から要望をいただいていた起動時間の短縮、Web上のユーザーインターフェースからの設定レスポンスの向上などの地道な改善も行っているので、使い勝手のよさも実感していただければ嬉しいです。