CG作品「Dusk」より
*写真提供:株式会社ドロイズ様
「Dusk」は、2012年8月に米国ロサンゼルスで開催されたSIGGRAPH(シーグラフ)に出展され、来場者の注目を集めたCG作品です。
制作を担当した株式会社ドロイズ 代表取締役/ディレクター 尾小山良哉様、マックレイ株式会社 第2営業チーム チームリーダー 石ヶ谷宜昭様、撮影・DIT・VE 関 祥海様、テクニカルカラリスト 黒部尊仁様に、CineAltaカメラF65採用の狙いや、ワークフロー、成果などを伺いました。
なお、記事は10月上旬に取材した内容を、編集部でまとめたものです。
CineAltaカメラF65の最大の特長は、業界最高水準の解像度が生み出す圧倒的なクオリティーということだと思います。実際にその通りなのでしょうが、見る側からすると素材や視聴環境で受けるイメージが異なりますので客観的に評価することは至難の技と言えます。これに対して、8K CMOSイメージセンサーを搭載したF65の圧倒的なダイナミックレンジの広さを生かして収録された16 ビットリニアデータ「F65RAW」は、客観的に評価できるだけでなく、後処理を含めたフロー全体で確実に、しかも有効に活用できます。今回の作品制作にF65を採用したのは、この客観的事実を評価したからにほかなりません。
しかし、カメラ個体の魅力それ自体は、クリエーターにとってあまり意味がありません。この個の魅力をいかにワークフローという線につなげて目指す作品世界を創り上げるかにあります。そこで今回はF65RAWをシーンリニアワークフローに繋げたら果たしてどんなことができるかをテーマにしました。さらに、一貫したフローでカラースペースを統一しようという新しい考え方をもたらしたACES規格にも準拠した手法を採用しました。
本作品「Dusk」の制作において構築された16bitシーンリニアワークフロー。
撮影からコンポジットまでの作業をシーンリニアデータで、またColor SpaceがACESで統一された。
今回の作品は、「狐の嫁入り」をモチーフにしており、幻想的な嫁入りシーンなどの実写部分をCineAltaカメラF65/SRMASTERポータブルレコーダーSR-R4で撮影・収録しています。テーマとしたのは夕暮れ時の刻々と変化する明るさや色、階調などをいかに忠実に記録・再現するかということでした。
F65は、こうしたテーマを見事にクリアしてくれたと思っています。暗部の微妙な階調も再現してくれましたし、クモの巣に付いた水滴のきらめきもリアルに再現してくれています。また暗くなった川辺の植物の微妙な緑の変化も克明に捉えています。最も驚いたのは、撮影時に目視できなかった夕日の微妙な赤の成分までしっかりキャプチャーしていた点です。
こうした映像のクオリティーは、やはり8K CMOSイメージセンサーによる圧倒的な解像度だからこそ記録できるのではないかと実感しました。また、今回のようなクオリティーの高い作品の撮影では、安心して使えるメディアが不可欠の存在となりますが、SRMemoryは業務用にふさわしいフィーチャーを備えており、非常に信頼性・安定性に優れていることを改めて確認することができました。
今回の撮影現場の様子。夕暮れ時の刻々と移り変わる空の明るさや色、階調等をいかに忠実に記録・再現する事がポイントだった。 ※写真提供:株式会社ドロイズ様
クモの巣の水滴のきらめきや、暗くなった川辺の植物の微妙な緑の変化、撮影時に目視できなかった夕日の赤の成分もしっかりキャプチャーしており、これをグレーディングにより整えていった。 ※「Dusk」より
作品を仕上げる後処理工程では、F65/SR-R4で撮影・収録した実写部分とCG部分を、ガンマを統一した状態ですべてコンポジットしてから、グレーディングや微妙なカラー調整などを行っています。F65RAWのダイナミックレンジの広さを有効に活用することで、ストレスを感じることなく、作品全体を高品質に仕上げることができたと思っています。暗部の階調の豊かさや色などに象徴される情報量の豊富さが最大の特長で、微妙な色の補正や表現が可能でした。それは、CGとの合成部分だけでなく、夕暮れの風景の中を流れて行く雲の独特の美しさなどに現れています。
また、デジタル編集では多様な機器やソフトウェアを使用することから、各フローで統一した色管理を行うことが困難でしたが、今回はACES規格という統一のカラースペースを採用したので、不要な迷いが生じることがなかったことも大きなメリットでした。
各種色域の比較
こうした手法により、再現性を判断する作業と作品性を追求する作業を明確に分けることができ、共同作業がしやすく、作品のクオリティーとクリエイティビティーを同時に向上できました。F65の今後の可能性の一つは、この辺にあるのではないかと思いました。
8bit(左)16bit half-float(右)による合成後のカラーグレーディングの比較。豊富な色情報、階調情報は表現の幅を大きく広げる。また、実景・CGのコンポジットをシーンリニア/ACESで統一する事で、グレーディングにおけるクリエイティビティに集中する時間をもたらした。
撮影素材は、F65による広色域S-Gamutで撮影。これをsRGB、ACESカラースペースに変換して比較すると、特にハイライトの部分でsRGBで保有できなかったような赤の成分をACESカラースペースで有している事が分かり、更に美しい色表現が可能に。
※Web上で違いをより分かりやすくする為、少し色合いを強調しています。
株式会社 ドロイズ
代表取締役/ディレクター
尾小山良哉様
今回の作品は、16ビットリニアデータを使ったシーンリニアワークフローでどんなことができるのかというプレゼンテーションとも言えます。F65という個の魅力を、ワークフローという線に繋げることで、表現の可能性はさらに広がると思います。
マックレイ株式会社
第2営業チーム チームリーダー
石ヶ谷宜昭様
SR-R4によるSRMemoryでの記録は、非常に信頼性・安定性に優れていると今回の撮影でも再認識しました。やはり、業務用のフィーチャーを備えて、安心して使えるメディアは不可欠の存在です。
マックレイ株式会社
撮影・DIT・VE
関 祥海様
今回は薄暮特有の微妙な色や階調をいかに記録・再現するかがテーマでしたが、F65は撮影時に目視できなかった夕日の微妙な赤の成分までを、しっかりキャプチャーしており、これには正直驚きました。
マックレイ株式会社
テクニカルカラリスト
黒部尊仁様
16ビットリニアデータ「F65RAW」の最大の特長は、ダイナミックレンジの広さ、色などの情報量が豊富であることです。今回も実写とCGとの合成部分だけでなく、流れ行く雲の独特の美しさなどにそのメリットが生きています。
2008年7月設立。テレビCM等のCGを中心としたディレクションと制作や、映画やオリジナルコンテンツの制作を行うクリエイティブカンパニー。日本においていち早く3D立体視映像制作に着目し、CMや映画、その他多様な映像コンテンツ領域において、クオリティーの高い作品を世に生み出している日本でトップレベルのプロダクションでもある。
2004年、株式会社レイより分割分社化し創業したポストプロダクション。2013年2月に西麻布に新スタジオをオープンし、今まで運営していた五反田スタジオ、天王洲スタジオを西麻布に集結。現在は、西麻布に2つのスタジオ運営。撮影部、グレーディングルーム、オンライン/オフライン編集室、MAなどの設備を保有し、CMや番組制作を中心にブルーレイ・DVD制作まで幅広い映像コンテンツ制作に活躍されています。また、2011年からはイベント・コンベンション・展示会等、企業向けの映像企画を担当するブレントユニット部門も活動を開始しました。