スイッチャー

日本中央競馬会 様
株式会社 山口シネマ 様

2015年2月掲載

競馬実況映像、審判用映像の制作、配信に 2台1セット合計6台の大型中継車を導入へ。
2014年夏のJRA札幌競馬場から運用を開始。


2014 年5 月に先行導入された2 台1セットの大型中継車。夏に開催された札幌競馬から先行運用を 開始しました。写真は、東京競馬場で行われた中継車完成の修祓式の様子。

日本中央競馬会(JRA)様、株式会社 山口シネマ様は、競馬開催に欠かせない各種映像コンテンツの制作、配信に大型中継車を合計6台導入される予定で、すでに2台を導入し先行運用を開始しました。
JRA 映像情報課 クリエイティブプロデューサー 森本圭介様と、運用・管理を受託されている株式会社 山口シネマ 次長 稲垣宏行様、技術課 課長 西田隆司様、ITV業務課 課長 関山正義様に、導入の目的・用途、選定の決め手、運用の成果や現時点での評価、期待などを伺いました。
なお、記事は2014年9月中旬に取材した内容を、編集部でまとめた ものです。

場内スタジオ運用から、より柔軟な中継車運用への移行が目的


森本圭介様


稲垣宏行様


西田隆司様


関山正義様


【ITV用中継車】


【パトロールビデオ中継車】

ITV(インフォメーションテレビ) と呼ばれる競馬場内外のファンサービス用の映像制作を行う中継車と、公営競技の公正確保のためのパトロールビデオ用中継車を2台1セットで運用。2014年内に3セット導入する予定で、これにより2015年からは3場同時開催においても、すべて中継車による合理的かつ柔軟な運用が可能になります。

中央競馬の開催では、各種映像コンテンツの制作、配信が欠かせません。一つは、ITV(インフォメーションテレビ)と呼んでいるファンサービス用映像で、レース実況はもちろん、パドックや返し馬の様子などを競馬場内の大型ビジョンやモニターに配信します。また、他の競馬場やウインズ(場外発売所)のほか、BS11やグリーンチャンネルへの配信も行います。もう一つは、競馬の公正確保に不可欠なパトロールビデオ( 審判映像) です。

従来こうした映像制作、配信は、全国10場に設置した専用スタジオで行っていましたが、スイッチャーだけでも30式あり、運用機材が膨大になっていました。当然、保守・補修、更新の手間とコスト、あるいはパトロールビデオ用の機材の一部は持ち出して運用する必要があるなど、複雑な運用・管理が悩みの一つでした。

そこで、より合理的で柔軟な運用が可能な中継車の導入を決めました。ITV用、パトロールビデオ用の2台を1セットとすることで、3セット用意すれば、3場同時開催でも対応が可能になります。システムや機材もコンパクトに集約でき、移動も容易になるなどメリットが大きいと判断した結果でした。

信頼性・安定性の高さと、快適な居住性を評価




拡幅式の大型中継車ならではの余裕のスペースで快適な居住性を実現。大勢のスタッフによる長時間の運用でも動線を確保しやすく、ストレスを低減できる点も導入の決め手の一つとなっています。

システム選定で、最も重視したのは正確性の確保です。公正確保やファンサービスが目的ですから、映像が止まったり、配信できなくなるといった事態は許されません。信頼性・安定性に優れたシステムであることが絶対条件となります。加えて、クオリティーや機能性が高く、オペレー トしやすく、用途に応じた配信ができるなど、柔軟に運用できるポテンシャルの高さも求められます。

もう一つは、居住性です。第1 レースから最終レースまで約8時間、10名を超えるスタッフが車内で作業を行います。移動時の動線の確保や、ストレスなくオペレートに集中するためには、余裕のあるスペースと車高が必要になります。

こうした条件の下に選考を行った結果、ソニーのシステムインテグレーションによる拡幅式の大型中継車を導入することになりました。納入実績や評価の高さだけでなく、実際に他社に納入された同様の中継車を見学、体験させてもらうことで信頼性・安定性、使い勝手、居住性を実感できたことが決め手となりました。

また、各地にサービス拠点を持つ充実したサポート体制や、将来的に大型ビジョン向けの映像や、レース映像の撮影に有効と考えられる4Kへの移行がスムーズにできる、拡張性を持ったシステムであることも考慮しました。

性能・機能・操作性を含めたポテンシャルの高さも魅力


スイッチャーにはマルチフォーマットスイッチャーMVS-7000X(4ME) を採用。3 式のコントロールパネル(2ME / 1ME / 1ME) で同時に3種類の番組を制作し、効率的に配信してい ます。モニターには業務用液晶モニターLMD-A220 / A170を6式のほか、8式のマルチビューワーとしての液晶ディスプレイにより、多くの素材を一括監視・管理できると好評です。


ルーティングスイッチャーIXS-6700 も多用途運用に貢献(写真・左。パネルは特注)。収録には PDW-F1600 とHDW-S2000 を採用し、ファイルでもベースバンドでも収録が可能(写真・右)

5月に2台1 セットを導入し、夏の札幌競馬開催で運用を開始しま した。スタッフの多くが、まず何よりも想像以上の広さに驚いていました。たとえばITV車の場合、自場レース用・他場レース用・映像センター用と3種類の番組を制作するため、スイッチャーだけで3名、ほかにディレクターやVE、スローオペレーターなど11名が車内で長時間作業を行いますので、快適な居住性は大きな魅力だったと思います。

また、レースが行われるコースの各ポイント、パドック、返し馬、本馬場入場時の馬道など、20台以上のITVカメラを使用することもあり、それに加え10台以上のパトロール用カメラ映像も共有します。それらについては、スイッチャーMVS-7000X、ルーティングスイッチャーIXS-6700、マルチビューワーとしての8式の液晶ディスプレイなどにより、柔軟な運用と安定性を両立したオペレーションが可能となりました。もちろん、画質を含めたクオリティーの向上や機能性の高さも運用を通して実感できたと考えています。MVS-7000Xについては、充実したキーヤーも魅力の一つです。これまでME列を使って行っていた煩雑な作業もキーヤーの操作だけで可能になり、白素材の確保も容易に行えます。今後の運用を通して習熟度をさらに上げていけば、より有効に活用できると期待しています。

選定条件の最優先事項となっていた信頼性・安定性の高さにも満足しています。運用開始当初は、無事に制作、配信することに集中せざるを得ない状況でしたが、支障をきたすようなトラブルもなく制作、配信作業を完了できました。一度モニターにちょっとした不具合が発生した時がありましたが、スピーティーに対応してもらえました。土曜・日曜開催時でも迅速に対応してくれる安心感があります。

3セット6台の年内導入で2015年からすべて中継車運用へ

今回の試験運用に使用した1セットに続き、10月に1セット、12月に1 セット導入することで、3セットの納車が完了します。これにより、2015年の正月開催から全10 競馬場での映像制作、配信業務は中継車運用に切り替える予定です。より合理的かつ柔軟な運用という当初の目的を達成してくれることだけでなく、安定性の高い、臨場感に富んだ映像でさらに充実したファンサービスと、競馬の公正確保に貢献してくれることを期待しています。

運用サイドとしても、オペレーターの習熟度をさらに向上させ、今回導入したシステムの性能・機能・操作性をフルに活用することで、正確性の確保は当然のことながら、迫力にあふれた映像を提供することでファンの皆さんにレースを楽しんでもらえるように注力していきたいと考えています。

ソニーには、アフターフォローを含めたサポート体制を今後も継続してもらうだけでなく、時代に合ったシステムや機器を提案していただきたいと思います。たとえば、直近の課題ではありませんが、いずれ次世代映像である4K/8Kの可能性を検討していきたいと考えていますので、中継車運用でのシステムインテグレーションやサポートで協力いただけることを期待しています。