スイッチャー

スカパーJSAT株式会社 様

2018年7月掲載

4K放送向けスタジオサブを更新、HDRC-4000を中心にHDR対応を実現

スカパーJSAT株式会社様は、スカパー東京メディアセンター内第3スタジオの映像系設備を4K HDR対応に更新され、2018年2月から、サッカー情報番組の「スカサカ!ライブ」や、バラエティ番組の「BAZOOKA!!!」などの制作を中心に4K番組制作、4K/HDサイマル生放送を開始されました。

永目 和弘様
技術運用部門 放送技術本部
放送運用部長
永目 和弘様

草野 雅至様
技術運用部門 放送技術本部
放送運用部 第2運用チーム
専任マネージャー
草野 雅至様

山田 恭旦様
技術運用部門 放送技術本部
放送運用部 第2運用チーム
山田 恭旦様

古屋 裕之様
技術運用部門 放送技術本部
放送運用部 第2運用チーム
古屋 裕之様

4K放送向けHDR 制作にフォーカスした更新

当社のスカパー東京メディアセンターには6つのサブ(副調整室)があり、内3つがスタジオと連携したスタジオサブ、残る3つが中継番組制作にフォーカスした受けサブです。このうち、今回更新した「3サブ」は、スタジオサブになります。
当社では、すでにスカパー!プレミアムサービスにおいて3つのチャンネルで4K 番組を放送していますが、今回の「3サブ」更新は、この4K 放送にフォーカスした更新になります。2009年の東陽町への移転以来、10年近く経過して設備更新時期を迎えたことから、今回は現行HDサブの更新を機に4K HDR化を図ることにしました。
これまでの4K 番組のスタジオ制作は、グループ会社が持つ4K HDR中継車をスタジオに横付けし、中継車をスタジオサブの形態で運用してきました。これまでの運用で得た実績やノウハウを取り込んだ4K HDR対応サブが構築できました。

XVS-8000とHDC-4300を中心としたシステム構成

システム構成は、スイッチャーとして4K 4ME構成のXVS-8000を核に、マルチフォーマットポータブルカメラHDC-4300を4台常設、最大で6カメまで対応可能としました。カメラコントロールユニット(CCU)やベースバンドプロセッサーユニット(BPU)はHDCU-2500とBPU-4000を5式備え、5カメ目はカメラの持ち込みだけで対応、6カメ目はカメラとCCUとBPUの持ち込みで対応する方針でシステム設計しました。

4K固定運用に定め、HD制作にも対応しながらシステムをシンプル化

今回更新したスタジオサブは、4K番組制作をメインに据えることを考えていましたが、一方で、依然として主流のHD番組制作にも対応する必要がありました。また当社は、放送だけではなく幅広い配信用途も考慮する必要がありましたので、SDRやHDR、HDRといってもHLGやPQ、カラースペースもITU-R BT.709やBT.2020でのコンテンツ制作がフレキシブルにできるシステムを目標にしました。それ故に、全体のシステム構成を、どのような基本思想で設計するのかが、当初の課題でした。
さまざまな検証・検討の結果、ソニーからの提案もあり、HD番組制作も最終段でのダウンコンバートを前提として、サブ内は常時4Kで運用するシンプルな設計にすることにしました。結果、運用性の向上と全体のコストを抑えて実現することができました。計画時期の関係で12G-SDIやIP化は見送り、3G-SDIベースでの構築としましたが逆にその面を活かすため、4K(画質/解像度)でモニタリングするべき信号とモニター箇所を精査し、それ以外を2SI(2サンプルインターリーブ)の3G-SDIの1本だけを使い、4K映像信号を直接HD受けしてモニタリングするなどの方法を取りました。理論上ジャギーは出ますが、実用上問題ない程度でしたので当社ではこの方法を適用しました。また、4K HDRと4K SDR、HD SDRのサイマル生放送にも対応できるシステムが実現できました。


左:TD(SW)卓右側のVE卓。RCPによるカメラ調整のほか、MSU-1000によるHDRC-4000の一括設定やHDR/SDRサイマル制作における調整、システム全体の設定状況の確認なども行う。
右:4K/HD、HDR/SDRサイマル放送を実現するHDRプロダクションコンバーターユニットHDRC-4000を9式設置。

HDと変わらないオペレーションができることがコンセプト

当社ではオペレーションの技術スタッフを社内で抱えていないこともあり、外部の技術スタッフにオペレーションしていただくうえで、既存のHDサブと変わらないオペレーションが求められています。その中で、不慣れなオペレーターでも、あらゆるシチュエーションで正確に信号をモニタリングできる環境が必要であるため、ソニーには、全体の機器の一括設定機能や、4K HDR運用時の各4KモニターのLUT自動切り替え、4K/HDサイマル制作時の4K/HDモニターの自動リンク機能などの要望にも応えていただきました。新たなフォーマットでの操作はこれまでもSDからHD制作へ移行したときもそうだったように、システム操作の慣れが必要ですが、現時点では現場の戸惑う声やトラブルもなく、当初の目論見通りの「いままでと変わらない操作感」が実現できたと思います。

追加コストはほとんどなくHDRにも対応

そもそもスタジオでHDRに対応する必要があるのか?と、質問を受けることがよくあります。私たちのいままでの検証結果では、スタジオ番組でもHDRは「明らかに見て分かる違いがある」というのが結論でした。当社の番組ではスポーツやライブ番組なども多く、HDRが素材としてあるなかで、一貫したHDRでのコンテンツ制作を行いたいという思いがあります。加えて、ソニーの主要4K機材の多くがHDRにも対応しており、追加投資もほとんど必要とせずにHDR対応が可能でしたので、HDR対応のスタジオとサブで更新をすることにしました。
番組の制作意図に合わせ、サブ内の運用をSDR(BT.709)またはHDRとする形ですが、いまは慣熟期間ということでSDR中心に運用を行っています。今後、慣れてきた段階でHDR番組も積極的に制作していきたいと考えています。また、将来的には自社番組に限らず、各チャンネルの放送事業者にもご利用いただければと考えています。

HDRC-4000があったから実現できたシステム構成

今回の更新は、4K HDRのライブシステムを構築できる製品の幅広いラインアップや経験などから、現実にはソニー以外では実現できなかったシステムだと思います。特に複数の解像度や色空間、加えて4K/HDサイマル放送への対応などは、ソニーのHDRプロダクションコンバーターユニットHDRC-4000がなくては実現できませんでした。4K放送でもしばしばHD素材を扱うことがありますが、特にHDRC-4000によるアップコンバートの画質の良さには満足しています。

インテグレーション能力と施工スピードを評価

スタジオサブの更新となるとどうしても必要となる他社製品も含めたインテグレーションと、サポート能力の高さに、ソニーに依頼したのは間違いない選択だったと思いました。今回の更新は、音声設備やインカムなどを残し、映像設備のみを更新するという特殊なものでしたが、既存の必要な設備・配線を残しながらの入れ替えなど、複雑な現場の施工・稼動試験を1カ月という短い期間で行ってくれました。ソニーには、機材やインテグレーションのみならず、今後も、さらに運用をサポートしてくれるソフト面でのアプリケーションやアップデートに期待しています。