法人のお客様システムカメラ 事例紹介 名古屋テレビ放送株式会社 様 M41 SNG中継車

名古屋テレビ放送株式会社 様 M41 SNG中継車

中継現場の運用を支える
ソニーの最新4Kカメラ

名古屋テレビ放送株式会社様(以下、メ〜テレ様)は2020年7月、多用途の中型SNG中継車「M41」の運用を開始しました。この中継車にソニーのマルチフォーマットポータブルカメラHDC-5500及びカメラコントロールユニットHDCU-5500、3式が採用されました。

矢野 英幸 様
技術局 設備計画部
マネージャー
矢野 英幸様
稲垣 徹様
技術局 設備計画部
兼務 名古屋テレビ映像 技術センター
技術グループ VE
稲垣 徹様

SNG伝送の4K対応を機にHDC-5500を導入

今回、マルチフォーマットポータブルカメラHDC-5500を導入したのは、当社で保有する4台のSNG(衛星報道取材)中継車のうちの1台「M41中継車」です。4K伝送が可能な新SNG方式への変更と旧M41中継車の老朽化から中継車全体の更新を行いました。
SNG中継車は報道が第一の用途ではありますが、M41中継車については、最大8カメまでのマルチカメラ運用に対応し、報道現場以外でも多用途に活用できる中継車として設計しました。M41中継車の他に、最大12カメの大規模運用に対応できる中継車も保有していますが、そこまで規模を要しない制作現場がM41中継車の活用フィールドです。
地上波放送だけを考えればHDで十分ですが、世の中は4K化が進んでいます。今後15年のライフサイクルを見据えると4Kは当たり前になっていくだろうと推測できます。BSやケーブルテレビなど多くのメディアが4Kに対応しており、幅広いニーズにこたえるためM41中継車は4Kシステムで設計しました。当社は、これまでもPXW-Z450やPMW-F55、PXW-FS7といったカメラを使い、4K制作を行ってきましたが、システムカメラは保有していませんでした。HDC-5500は当社初の4Kシステムカメラです。そのため、中継先だけでなく中継車ドライブインによるスタジオ収録など、どこでも4K制作ができるよう、SDIだけでなくIPへの対応も考慮しました。

HDと4Kで変わらない運用ができるHDC-5500

カメラを選定するにあたって、4K制作をHDと同じ感覚で扱えることは重視しました。具体的には、12G-SDIによるシングルリンク運用、グローバルシャッターによる違和感のないスポーツシーンの撮影、それにトランク線や現場送り返しのプロンプター伝送なども4Kで行えることは評価しました。HDC-5500は従来のHDカメラ同様、BPUの無いシステム構成であり、ハーフラックサイズの製品であることは、空間に制約のあるSNG中継車の中では大きなメリットです。中継車に適したサイズ感はHDC-5500の採用を決めたポイントの一つです。4K対応ビデオサーバーPWS-4500も導入したため、撮影〜スイッチ〜ストレージ〜SNG伝送まで一貫した4K制作を行うことができるようにしました。

VE卓下に搭載されたカメラコントロールユニットHDCU-5500(上段及び下段左)と既有のHDCU-2500(下段右)。

スイッチャー卓下に可搬型ケースで搭載されたマルチポートAVストレージユニットPWS-4500とプロダクションコントロールステーションPWS-110PR1、メディアゲートウェイステーションPWS-110MG1。

運用を支えるソニー独自の便利な機能

HDC-5500には他にはない便利な機能があり、運用負担の軽減につながっています。独自機能の1つがARIA(Automatic Restoration of Illumination Attenuation)です。高倍率ズームレンズで寄ると、レンズ特性からテレ端付近で急に光量が落ちる「Fドロップ」や、画面周辺の光量が低下する現象が起きます。ARIAはこれを自動的に補正してくれます。これまでFドロップがおきるとVEが映像を見ながら忙しなく調整していましたが、ARIAがこれを全て自動で行ってくれます。サッカーやプロ野球のナイトゲーム中継においては、常にアイリス開放付近で運用しながら、ズーム倍率を限界まで使い切るようなオペレーションを行うため、特に威力を発揮してくれる機能です。リモートコントロールパネル(以下、RCP)のLEDランプの点灯により、Fドロップの発生をVEに知らせてくれる機能も助かっています。

中継車外側のメンテナンスドアを開けて望んだ、VEラック下部に搭載されたカメラコントロールユニットHDCU-5500の背面端子側。CCU背面に備えられたリアタリーの点灯(赤丸内中心部)が確認できる。

また、レンズのバックフォーカス調整をVEがワンマンで行える「リモートバックフォーカス(RBF)」機能も一度使うと手放せない便利さがあります。以前はカメラマンと二人三脚でバックフォーカスの調整をしていましたが、RBFによりVE一人で行えます。HD、4Kと移り変わってきて高解像度化すると同時に、ズームレンズの倍率も上がり、気温の変化などによって、運用中にバックフォーカスの変化やズレが気になってくる場面が増えました。そういった時も、ちょっとした合間にVEだけで微調整を行うことができるようになりました。
さらに、「Virtual IRIS」という、アイリスとゲインアップを一体化して、IRISつまみだけで連続的な調整ができる機能も、今後の活用が期待できます。
その他、高密度の配線で見通しの利きづらいラック背面の作業時に、RCPからコールボタンを押すだけでラック背面のタリーが点灯し、作業対象のCCUを間違いなく特定することができ、とても便利です。
多目的中継車という設計思想からスポーツ中継への対応も想定しました。HDC-5500のオプションに、HFR撮影があります。今後、専用のスローカメラを準備することなくスロー撮影ができるようにするため、M41中継車にはこのオプションを入れました。

互換性の高さが機材の共用・効率化を実現

既存中継車やスタジオで使っている既存のレンズやアクセサリーがM41中継車で使いまわしができたことは、機材効率化の観点から助かりました。バックワードコンパチブルは運用者目線では重要と考えています。

VE卓のマスターセットアップユニットMSU-1500(右)とリモートコントロールパネルRCP-3501(左端から3式)、既有のRCP-1501(左端から4式目)。マスターセットアップユニット左側には、さらに2台のリモートコントロールパネルをセッティングできるスペースが確保されている。

既有の大型レンズアダプターHDLA-1500を装着したマルチフォーマットポータブルカメラHDC-5500。

4K対応だから感じるHDの高画質

M41中継車の初運用となったスポーツ中継では、HDC-2000シリーズ2台を増設し、合計5カメで中継を行いましたが、シリーズ混在運用でも色合わせがしやすく、カメラを切り替えても違和感のない画づくりが行えました。
画質については、HD運用でも一目見てわかる画質の向上や解像感の高さを実感しました。SN比向上、感度が上がり例えば暗部の階調など、スペックでは見えない部分の画質の良さも感じています。

3式のマルチフォーマットポータブルカメラHDC-5500。ファインダーは0.7型有機ELビューファインダーHDVF-EL30。ファインダーに一体化されているフリップアップ式の3.5型LCDモニターは、アイカップ覗き込みと便利に使い分けでき、現場のカメラマンにも好評。

カメラ本体側面に搭載された電子ペーパーとタリーランプ。CCUから表示を更新できる電子ペーパーは、カメラ番号の表示だけでなくロゴやイメージキャラクターを表示させるなど、便利に活用。

将来的な拡張性を見越しIPオプションを実装

今回の中継車は12G-SDIベースで構築しましたが、今後もSDIベースであるとは限りません。カメラやアクセサリーの共用化による有効活用は実現できましたが、スタジオにおけるCCUは依然としてサブ(副調整室)に付随しており、将来的にはCCUの集中化・リソースシェアも念頭に置いています。RCPやMSUなどのフリーアサイン化にも取り組んでいきたいと考えています。

カメラコントロールユニットHDCU-5500背面左上にオプション装備されたST 2110インターフェースキットHKCU-SFP50のIPインターフェース接続部(赤丸内)。

当社は今後局内のIP化も視野に入れています。中継車を中継車庫に置いたまま、スタジオのシステムとリソースシェアを行って統合運用を行うなどを想定した場合には、SDIでも可能ではありますが、IPの方がより適しているのではと考えています。今回、カメラコントロールユニットHDCU-5500には、ST 2110対応のインターフェースキットHKCU-SPF50も追加し、「リモートプロダクションレディ」という位置づけにしました。すぐに本格的なIP運用を行うことを今は想定していませんが、実験的な取り組みからIPへの準備を進めていきます。
当社ではA、B、C3つのサブ・スタジオがあり「サブはA、スタジオはB」というクロス運用もできるシステム構成をとっています。IP化すれば局舎内マトリクス(回線センター)機能も集約するなど、一層柔軟で効率的なシステムを実現できるのではないかという期待感があります。
HDC-5500とソニーには、将来のIP化への拡張性も期待しています。

検討を進めている局内のIP化で実現を目論む“リソースシェア”の概念図。現状各サブに分散しているカメラコントロールユニットやリモートコントロールパネル、ルーティング(回線センター機能)も1箇所に集約することで、一層の設備投資効率や稼働率の向上を目指す。