実は、仕事を離れて、個人的にMDウォークマンを持ち歩いて曲を聴くことはしないんです。
電車に乗りながら音楽を聴くということはまずしないし、カーステレオにもMDはついていなかったので(笑)、プライベートでMDのお世話になることは、一般のユーザーに比べると少ない。
ただ、仕事ではずっとMDを使い続けています。
仕事現場でのMDの用途は、僕の場合、ひとつに限られています。
スタジオでレコーディングをして、その日の作業の最終段階をMDに録音します。
それを自宅に持って帰って、さらに何をダビングするかなど、その後の作業を考えます。
ただ、僕は音楽プロデューサーという仕事柄、CDの音質を中心に物事を考えてしまうので、MDに関しては簡易録音・簡易再生機材という印象が強かった。
仕事ではDATも使いますし、CDの音質を再現するという本来的な機能は、DATのほうに譲ってしまいますよね。
MDとDAT、両方使うのには意味があるんです。
CDをつくる上では、リスナーがどういう環境でその音楽を聴くかも考慮しなければならない。
ちゃんとした機材で聴くのか、簡易的な機材で聴くのか。
そのとき、ちゃんとしたリスニング環境をDATで、カジュアルな環境をMDで想定して、音がどう聴こえるかを確かめるんです。
ただ最近は、ある程度の段階まではMDに落として、ある段階からはDATではなくCD-Rに焼いて持って帰ることが多くなりましたね。
レコーディングスタッフの中にも、まったくMDを使わずいきなりCD-Rで持ち帰る人が最近多い。
つい先日も、みんなCD-Rで、僕ひとりだけMDに落としてた、なんてこともありましたが(笑)、僕はMDを手放せないですね。
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プロの現場では、ほんの数年前までは、マスターはやはりハーフインチのアナログテープが主流でした。
マルチトラッカー(マルチトラックレコーダー)も2インチのアナログテープを使っていたり。
ただ僕は、約10年くらい前からハードディスク・レコーディングが導入され、これからはデジタルが主流になるだろうと、早めにデジタルに移行したんですが、当時はデジタルレコーディングの音色にもいろいろ問題がありましたよ。
昔は僕らもよく“デジタルくさい音”がどうのこうの、なんて議論をしたものですし、僕自身、アナログとデジタルの音をさんざん聴き比べたり、録音の仕方を変えてみたりしたものです。
同じデジタルでも、例えばCDのマスタリングするときに、コンバーターを変えてみたり、ケーブルを変えてみたりね。
マスタリングで5〜6種類くらいフォーマットを変えてみて、ブラインドで聴き比べてみたり。
そういう作業が好きなんですよ。
そういう意味でいうと、昔はMDの音質というのを問題にしていませんでした。
あくまでもカセットテープに代わるもの、という認識でしたから。
ただ、ここ数年は「MDも悪くないな」と思ってきました。
レコーディング現場でも、ファイナルミックスの音をMDとCDの2種類でもらって聴き比べてみると、「MDのほうがいいじゃん」ってこともあって(笑)。
もちろん、それはそのスタジオがどういう環境かということによるんですが、環境によってはMDに軍配が上がることもある。それは面白い現象ですね。
音質のことを語ると、結局、どれがいちばんいいかという結論は出にくい。
CDだって出始めたときはいろいろ言われましたけど、44.1kHz/16bitそのものの音質も、今ではずいぶんよくなったと思います。
デジタル技術の発展に伴って。
それは、すべてに言えると思うんですよ。
技術が発展すれば、機材の音質もよくなって当然。
……と言いつつも、今回「MZ-RH1」を触ってみてつくづく、Hi-MDの音質の進化に驚かされました。
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実際にスタジオでMDに落とした曲を「MZ-RH1」で聴いてみたんですが、やはりすごくよかったですね。
今回は、ヘッドホンで試しましたけど、音の分離、ワイドレンジ感、一体感……とにかく、同じHi-MDでもそれまでとは圧倒的な情報量の差を感じました。
ワイドレンジ感があって、奥行きのある音と感じられたのは、低域がより再現されるというカップリングコンデンサの容量が増えたおかげなんでしょうね。
今までのプレイヤーとは、格段に違いが出ているのがはっきりわかります。
個人的には、ダイナミック・ノーマライザの仕組みも気になった要素のひとつですし、僕にとっては、今までのポータブルなMDプレイヤーに比べて格段に音がいいというのは、いちばんの魅力です。
操作も、最初は戸惑った部分もありますが、「ここを押せばいいんだ」と直感的にわかりましたし。
操作系に関して面白いと思ったのは、昔のウォークマンを踏襲している感じがあったんですよ。
初代からウォークマンを使ってきた僕は、開発者の方があえて意識したのかな? なんて思ったり。
パネルもRECレベルの表示なんかは僕らにはとても親しみやすいし、これがあると便利でしょう。
それに、再生のスペアナ表示もかわいらしい(笑)。
こういうこだわりは、アマチュアユーザーの方にもうれしい機能なんじゃないかと思いますよ。
全体のデザインがコンサバティブなのは、ちょっと意外でしたね。
電車の中で見かけるような、すごく若い人たちは目新しいデザインのプレイヤーを持ってたりしますから、そういう意味では、少し上の世代をターゲットにしてるのかな、と。
色もシンプルですから、僕のようなオジサンが持つにも、ちょうどいいかな(笑)。
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リニアPCM録音の魅力ということで考えると……最近は、生録音の需要が増えてるみたいですね?
サイトで自分の録った音源を配布する人も多いようですし。
昔、僕が若い頃は“デンスケ”というのがあって、高級な録音機材だった。
その時代を知る人間にとっては、生音を高音質で録音するというのは“オヤジの憧れ”という感覚がありますね(笑)。
じつは先日、同じソニーさんから発売されたリニアPCMレコーダーの「PCM-D1」を触る機会があったんですが、あれはまさに最新のデジタル版デンスケですよね。
それを触ってたら、僕も昔デンスケを抱えて生録してた時代を思い出し、たまにはそういうこともしてみたいな、なんて思ってしまいました(笑)。
さすがにあれは、値段も20万円近くする高級品なのでそう簡単には買えないですが、リニアPCMの高音質で生録したいなら、「MZ-RH1」という選択肢も十分あると思うんですよ。
まだ僕は「MZ-RH1」で生録を試せていないんですが、身近な環境音などを録音したい気持ちも高まりますね。
ぜひこれで、“オヤジの憧れ”を実現してみたくなりました。
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使い勝手を考えると、アマチュアミュージシャンの方が、安価で高品質の機材をそろえたいというときにも、「MZ-RH1」はいい選択肢だと思います。
実際、僕らが立ち会うボーカルトレーニングの現場などでは、カラオケを流すのにMDを使ってますし、それが高音質ならなおいい。
バンドの音を録音したり、自分で曲をつくるときも、できるだけいい音を録りたいなら、これを使ってみるといいんじゃないかな。
「MZ-RH1」はリニアPCM録音できる、というのは大きな魅力です。
例えば、絵の具やクレヨンが何色か並んでて、「何色が足りないでしょう?」と聞かれても、よくわからないですよね?
でも、そこにポンと色を置かれたら、「あぁ、これが足りなかったんだ」とわかる。音もそれと同じような考え方ができるんですよね。
それまで「こういう音だったんだ」と思っていた曲も、より高音質の機材で録音したり再生したりするほど、それまでとは違ったものが見えてくる。
デジタルのよさは、その器の大きさ。情報量がより多いことにあります。
もちろん、実感としてアナログにはアナログのよさがありますが、デジタル録音・再生はこれからますます進化するでしょう。
ですから、「MZ-RH1」のようにアマチュアでも手が出せる価格で、リニアPCMを実現する高音質な機材が出てくることは、非常に歓迎しますね。
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ずいぶん昔は、生演奏をその場で聴くことが当たり前だった時代がありましたが、僕らは生まれたときから、音楽を聴く環境は録音されたものをスピーカーで聴くのが当たり前。
アコースティックじゃないものは本物じゃない、という時代ではなくなりました。
ただし、音楽をつくっている立場から言えば、たとえアコースティックでなくても、音楽の本来的なよさを感じてもらえるソフトを、これからも残さなくちゃいけないと思うんです。
音質のいいもの、という意味も含めて。
……と同時に、ミニコンポにせよヘッドホンにせよ、しかるべきソフトを聴くときには、しかるべき機材で聴くという環境も提唱したい。
いい音はやはりいいもので聴きたいし、それによっていい音楽が残るということを続けないと、音楽振興にもかかわりますからね。
その意味でも、「MZ-RH1」はMDというメディアに対して、ソニーさんが満を持して出してきた商品なんだろうと思います。
僕自身、「MZ-RH1」の音質に驚いたように、これを聴けば、Hi-MDそのものを見直す人も増えるんじゃないでしょうか。
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笹路正徳 ( ささじまさのり )
音楽プロデューサー。大学在学中よりプロとしての活動をスタートさせ、1979年、清水靖晃(Sax・Key)、土方隆行(G)、山木秀夫(Dr)等と伝説の音楽集団「MARIAH」を結成し、5枚のアルバムを発表。「MARIAH」解散後 、ロックバンド「NAZCA」を結成し、3枚のアルバムを発表する傍らアレンジャー・プロデューサーとしての活動を始める。以後、マリーン、阿川泰子、ラウドネス、チューブ、杉山清貴、プリンセスプリンセス、ユニコーン、松田聖子、スピッツ、コブクロ、小沼ようすけ、上妻宏光、小林香織、平川地一丁目など、数多くのアーティストをプロデュース。また、自身も2000年にウエストコーストのミュージシャンとJAZZビッグバンド「M.Sasaji& L.A.Allstars」を発表。2006年に入り、T-スクェアの伊東たけし等とジャズ・ファンクバンド「CAST」をスタートさせた。
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